高速動画ストリーミング以外に5Gの活用が見込まれる3つの分野

Vincent Roche

2019年、ついに、待望の5G(第5世代)ワイヤレス・ネットワークの商用展開が始まります。

5Gは、あらゆるデバイスやモノがあらゆる場所でワイヤレスに接続される世界を身近なものにします。5Gが実現すると予測されている爆発的な帯域幅の拡大、低遅延、極めて信頼性の高い接続、高度に設定可能なネットワーク・ソリューションは、モバイル広帯域における改善だけでなく、既存の市場に劇的な変革を起こし、まったく新しい市場の登場につながるでしょう。特に、クラウド・コンピューティングや人工知能(AI)と組み合わせることで、単なるスマートフォンの高速化にとどまらない、ビジネス変革、社会変革を5Gが加速します。

アナログ・デバイセズは、現実世界とデジタルの世界をつなぎ、農業からジェット・エンジンまであらゆるものに関するデータをキャプチャし解釈する、高性能の半導体とソフトウェアをベースにした技術の開発に取り組んでいます。つながりを持たせるということは、そのモノの本質を根本的に変えることであり、新たな可能性の扉が開かれることを意味します。5Gネットワークでは、センサーはより効率的な接続が可能になり、データや情報をより効果的にAIやクラウドベースの解析エンジンに提供できるため、様々な業種の進歩が加速します。中でも、最も画期的な成果が期待されている市場が、産業オートメーション、ヘルスケア、オートモーティブです。

具体的には、5Gネットワークは未来の工場を可能にし、「インダストリー4.0」、すなわちつながる工場の完全な実現に向けて大きな役割を果たします。現在の製造工場が必要としている既存の有線/イーサネット接続に代わって5Gが使用されるようになり、データ転送において信頼性の向上と遅延時間の低減をもたらすと考えられています。ワイヤレス・ネットワークへの切替えにより、工場のフロア・スペースが解放されるだけでなく、高度な検知が可能な工場環境を実現して機械の事故や故障、その他の予期しないダウンタイムが極小化(または排除)されることで、生産性と効率を大幅に向上できます。

例えば、5Gのもたらす信頼性と速度の向上により機械間のコミュニケーションが改善し、更に、人間とロボットが共存する環境で安全性を確保するために欠かせない、人間と機械とのコミュニケーションも改善します。5Gにより、労働者は自分の場所や行動をより効果的にロボットに伝達できるようになり、作業現場での事故のリスクが大幅に減ります。また、ユビキタスな5Gネットワークにより機械の状態基準保全(Conditional Based Maintenance)が可能になり、運用管理者は保守が必要な装置や効率的に稼働できない可能性のある装置をより迅速・正確に識別することで、装置やその他のリソースを予測的に最適化できます。


「非常に信頼性の高いリアルタイムのストリーミングにより、カリフォルニアにいる外科医がカンボジアにいる患者を手術できるようになるかもしれません。医者が通いづらい場所に質の高い医療を届け、命を救えるようになるのです。」


ヘルスケアの分野では、5Gは質の高い医療ケアを身近なものにするのに役立ちます。特に、米国の農村地帯や中国などの小規模な都市のように医療へのアクセスに大きなギャップが存在する場合に、遠隔診療やオフサイト診療を実現することでその効果が期待されます。普遍的で信頼できる接続は、遠隔患者モニタリングに革命を起こす可能性を秘めています。信頼性の高い独立したウェアラブル・ワイヤレス・バイオセンサーが、血圧や酸素飽和度、心拍数などのバイタル・サインをモニタリングして情報を継続的に送信し、AIを活用したクラウドベースの診断エンジンが、受け取った情報を受信・解析し、異常なサインがあれば対処します。また病院では、正確なリモート・センシングとモニタリングにより、病気や手術の後の患者の入院期間を短縮させ、より回復効果が見込める自宅での療養に切り替えることができます。

5Gが実現する超低遅延により、遠隔ロボット手術も実現に一歩近づきます。非常に信頼性の高いリアルタイムのストリーミングにより、カリフォルニアにいる外科医がカンボジアにいる患者を手術できるようになるかもしれません。医者が通えない場所に質の高い医療を届け、命を救えるようになるのです。

輸送の分野では、5Gは、マルチモーダル型通信ネットワークの一部として、完全自動運転車の実現を加速させます。5Gが実現する速度のリアルタイム性により、交通パターンや、歩行者、自転車、車両、道路標識などの道路上の物体に関する車外の情報を効果的に取り込み、より適切な状況認識、優れた意思決定、安全性の向上を実現できます。また、5Gは、車両が他の車両やクラウドと効果的に対話し、重要な決定を下すために情報をリアルタイムに共有し処理することを可能にします。

ユビキタスな5G接続のAI対応センサーの利点は、ヘルスケアの充実や、工場、道路の安全性向上以外にも広がります。5Gによるリモート・モニタリングが環境保全や食糧不足の解消、清潔な水の確保に役立てられたり、洪水や地震、津波、土砂崩れなどについて迅速な警告を発して住民の安全を守るために活用されたりする、そんな未来をアナログ・デバイセズは考えています。ここに述べたソリューションのうちのいくつかは既に実用化されており、5Gはそれらを次のレベルに高めてくれます。

ただし、現状を打破するあらゆる技術と同様に、5Gが成果を上げるには、時間、リソース、一致団結した協力が欠かせません。それでも、5Gが完全に現実のものになれば、私たち一人ひとりの生活、ひいては私たちが住むこの世界を劇的に改善する可能性を持った世界がそこには広がっているでしょう。