TNJ-009:ハイスピード「め」なOPアンプで低入力容量アンプ回路を実現する

 2014年2月17日 公開

はじめに

AD8021という高速めなOPアンプを使って、入力容量の非常に小さい2チャンネルの低入力容量アンプ回路を作ってみました。AD8021はアンプ自体の入力容量がかなり小さく、一方で電源電圧範囲が最大±12Vととても広い「稀有(けう)」なアンプです。

おいおい特性は評価するとして、汚いですが、実験した基板や実験のようすをご紹介しておきます。図1~図3の写真は半田くずが飛び散っていますが、現場らしいなあとご賢察を…。


図1. AD8021を使った低入力容量アンプ(全景)

 


図2. AD8021を使った低入力容量アンプ(基板部拡大)

 


図3. AD8021を使った低入力容量アンプ(実験のようす)

 

最終的に出来上がった回路

図1の写真のように、出力はSMAコネクタ、プラス、セミリジッド(MKTタイセー、片側CON1563BG/片側カットΦ = 0.063inch / L = 150mm)なのですが、入力は図3の写真を見て頂くと判りますが、「なんと」5cm位のミノムシクリップで信号を与えています。

いわゆる「超アンバランス」な設定です。本来はこのような測定は行ってはいけませんが、今回は「どんなモンかな?」というところの測定なので、こうしています。大体10MHzを超えるあたりでこの5cm位の配線がインダクタンスとなり、この部分でインピーダンスが暴れることになります。そのため実際に正しく計測したい場合にはご注意ください。

 

使用するOPアンプはAD8021

実験に使うAD8021について、選定理由と特徴をご説明します。

まずは高速・超低入力容量(typ 1pF)にもかかわらず、電源電圧範囲が±2.5~±12Vまでと非常に広いことです。

今回の用途では、当初は、DC 0Vを基準として3~5Vの信号を入れようと思っていたものです。高速だと電源電圧が低いOPアンプが多いなか、AD8021では最大±12Vと大きく、同相入力電圧範囲も-11.1V~+11.6V @±12Vと非常に広いものになっています。静止状態電源電流max 7mA @±5Vで、電圧性ノイズtyp 2.1nV/√Hz、電流性ノイズtyp 2.1pA/√Hzというスペックも持っています。

「よいアンプだ」と思いウキウキしながら盲目的に採用してしまいましたが、これが実際は、バイアス電流量を確認しなかったという基本的ミスにより、DCまでの増幅が実現できませんでした。結果的には、高速回路ということで、交流信号のみでの対応としました。

 

アナログ・デバイセズの低入力容量OPアンプと入力容量の考え方

入力容量の低いOPアンプを「同相モード容量2pF未満」として、別表1にリストしてみましたので(72種類ありました)、是非ご参照ください。

なお、実際は同相モードでの容量と、差動モードでの容量がそれぞれ異なってきますので、注意が必要です。図4のように、同相モードは二つの入力端子をショートしたときの入力容量なので2CCが見え(CDは見かけ上キャンセルされます)、差動モードは端子間の容量(差動で駆動しているので、CCは直列接続になります)になるので、CD+CC/2が見えることになります。

AD8021は差動モード容量については規定されていませんが、同相モード容量が低いことから、推測で、ということで採用してみました。

 


図4. 差動入力端子の入力容量の考え方

 

当初の「うごくだろう」目論見の回路

当初「予定」の回路図を図5に示します。これで当初の目論見としては、DCから動作する1pFの低入力容量、かつハイインピーダンスの信号検出回路を作ろう、というものでしたが、あいにくバイアス電流により、思った通りに行かず…、というところでした。その様子は技術ノートの後半にて説明したいと思います…。高速OPアンプはバイアス電流が多くなっているところが実際です。

+側入力は(当初「予定」としては…)完全にオープンです。つまりバイアス電流をAD8021に与えるために、DCで入力する(コンデンサでカットできない)構成である必要があります(いや、ありました…)。

 



図5. 「当初の目論見」のアンプ回路図

AD8021は入力容量が低く、入力抵抗も大きい

このアンプは図6に示したデータシート抜粋のように、同相モード入力容量がtyp 1pFとかなり低いもの(ただし同相モードでの値)で、なおかつ入力抵抗も10MΩ(このスペックを見ていただけなのが失敗の原因ですが…)とかなり良好なものです。なお実際の用途では、先に説明したように差動モード入力容量を調べる必要があります。

「いいアンプだし、うまく行くだろう」と、ウキウキ甘く楽観的な考えをもって取り組み始めました。

 


図6. AD8021の入力容量(同相モードでの値。データシート  からの抜粋)

 

AD8021の実装のようす

図7の写真のように、半田がツララに…(…最初の写真は再度フラックスをつけて修正したものでした)なっていますが、入力端子側がスタンドで浮かされています。またパッケージも天地を逆にして配置してあります。アメリカではこの実装方法を「Dead Bug」(死んでひっくり返っている虫)というようです。

これはそれぞれ入力容量を低減させる(余計な浮遊容量がつかないように)ことが目的です。入力側の白いスタンドは手持ちのもので素性不明なのですが、テフロンでできているような「感じ」です。

いずれにしても電極から、スタンドがねじ込まれたプリント基板パターン間で、電極間距離を確保して、キャパシタンスを低減させるようにしてあります。またワイヤはポリウレタン電線ですが、短めなので(1mm = 1nH程度なので)数nHのインダクタンスしかありません。

 

 

図7. Dead Bugで実装されたAD8021

 

AD8021の入力容量を時定数として測定してみる

図8はこのテフロンらしい端子に10kΩを入力信号との間に接続して時定数を測定することにより、入力容量を推定してみたものです。63%で20nsですから、τ=CRで入力容量は浮遊容量こみこみで2pFと推測できます。これはスペック通りと言えるでしょう。


図8. AD8021入力の容量を10kΩを接続して時定数として測定。τ = 20nsで2pFと推測される

 

50Ω系に接続するためのアンプの出力回路

出力回路について説明しておきます。これはオシロスコープ(50Ω入力にして)に直結して10:1でプロービングできるようにするために、電圧ディバイダとして9:1の抵抗値になっています。また出力側から見た合成抵抗(回路の出力抵抗)は計測系のインピーダンスに適合した50Ωにかなり近くなっています。

 

無垢(むく)の基板と周辺部品のレイアウト

バラックの実装で、どれだけハイスピードの性能が出るか?というところですが、図7により周辺部品のレイアウトについてご紹介します。

グランドプレーンとして、無垢のプリント基板を使っています。こうすれば一番低いインピーダンスが実現できます。高周波回路でも同じイメージでパターンを形成できます。

AD8021のマイナス端子(pin 2)からグラウンドに接続される680Ω、マイナス電源(pin 4)のデカップリングコンデンサ223(0.022uF = 22nF)はICから直下に落とします。部品は1608のチップ部品です。

(pin 4)-(pin 5)を接続する補償用コンデンサCCOMPはICの底面(ここではDead Bugなので腹の上)から直接接続します。

出力(pin 6)も470Ωを端子から直接引き出し、56Ωをパターン上に立てたところに接続します。出力のセミリジッドがここに接続されます。

こうすれば余計な浮遊容量、インダクタンスを無くすことができます。

高周波的に影響を与えづらいところについては、ポリウレタンを長めにして、配線しています。これが茶色で見える10uFの電源コンデンサの部分です。

 

大振幅時の周波数応答特性

図9は、このアンプ回路への入力として0dBm(開放端なので0.45V rms)の信号を「例のミノムシクリップ」から与えたときの大振幅時の周波数特性です。入力信号レベルが大きいので大振幅応答になっています。マーカはデルタマーカにしてあるので、低域から-3dBの周波数になっています。

データシートのFig. 11がこれに相当しますが、ぼちぼち近いところがでています(実測での特性が暴れる原因はミノムシクリップによるところが大きい)。図10にAD8021のデータシートのFig. 11を示しておきます。

 


図9. 0.45V rmsの信号を入力したときのAD8021の大振幅応答のようす

 

 

図10. AD8021の大振幅応答特性(データシートのFig. 11   から抜粋)

 

実際の利得と小信号周波数特性

利得計算の説明をしておきます。アンプが+2(6dB)、出力がディバイダで1/10(-20dB)、ディバイダの出力抵抗分(50Ω)と計測器の入力抵抗(50Ω)で分圧され、1/2(-6dB)になります。またアンプの入力はインピーダンスが高いので、開放端入力になり、+6dB、合計で、-14dBが総合利得(ロス)になります。

 

小信号の周波数特性

次に入力レベルを-40dBmにしたときの測定結果とデータシートの比較をおこなってみます。

図11は、今までこの測定で使っているネットワーク・アナライザで測定したものです。最大周波数が(実は)150MHzまでで、これから上が測定できません。

そこで図12のように、(会社のラボでの実施したものでは無かったので、高い周波数のネットワーク・アナライザやトラッキング・ジェネレータが無いため)SSGでステップ周波数を発生させ、それをより高い周波数を計測できるスペアナのマックス・ホールドで観測してみたものを示します。

もし実験室にネットワーク・アナライザが無い場合には、このようなかたちで簡便な測定方法もあることを覚えておくと良いでしょう。

図13はデータシートの小信号応答のFig. 14です。図12の波形を見てみると、200MHz弱で大きく暴れていることがわかります。これは完全に「みのむし」の影響でしょう。逆にいうとAD8021は図13のFig. 14の周波数程度まで増幅できる能力がありそうだ、と見ることもできます。

 



図11. 4.5mV rmsの信号を入力したときのAD8021の小信号応答のようす(150MHzまで)「

 


図12. 簡易的に周波数特性を測定するため(ネットアナを使わずに)SSGとスペアナのマックス・ホールドで観測してみる

 

 

図13. AD8021の小信号応答特性(データシートのFig. 14   から抜粋)

 

周波数特性の暴れを再確認

「図12の波形が200MHz弱で大きく暴れていることがわかります」という、この上昇する原因をすこし推測してみます。

入力容量は2pFということが判りました(なお、これは入力信号電位で容量変化しないと想定して考えています)。最初の写真のように入力は「みのむしクリップ」です。長さは50mmくらいでしょう。

概略として、1mmは1nHのコイルになりますから、この長さは50nH程度になると考えられます。これと入力容量の共振周波数は、

1/√(2 πL C) = 500MHz

と計算できます。インダクタンスをもう少し大きく見積もると、さらに周波数も低くなりますね。共振したあたりでこの暴れが生じているのだろう、と推測もできるわけです。

図14のような資料がありました。ワイヤと平面パターンでのインダクタンスを計算する計算式です。ご参考になれば幸いです。





図14. ワイヤと平面パターンでのインダクタンスを計算する計算式




本来はきちんと入力を終端すべきだが

本来であれば、ここからのアプローチとしては、入力をきちんとインピーダンスをコントロールした形で信号を与えなおすべきですが、この回路は「高い入力インピーダンスを維持する」回路ということで、目的が異なっているため、それは行いません。それでも、大体数10MHzくらいまでは入力ハイインピーダンスで動作しそうだ、というところまでは来れたわけです。

と、ここまではよかったのですが…。

 

このアンプの目的は水晶発振回路の測定だった

図1の写真のように、このAD8021で作ったアンプは2チャンネルありました。理由は、この回路で図15のような10MHzの水晶発振回路の入力と出力のようすをオシロスコープで確認したかった、というところが目的でした。

発振回路は動作インピーダンスが高く(AD8021の入力抵抗10MΩ)、また容量変化の影響を受けやすいものです。そのため通常、オシロのプローブを当てるとプローブの入力容量が影響し、発振波形が変化してしまうものです。

 

 

図15. 低入力容量アンプで測定したかった10MHzの水晶発振回路


全く持って動かない!(汗)

このアンプが出来上がったところで、ウキウキしながら、10MHzの発振回路に接続してみました。どんな波形が出るだろか?と。出力は1/10の50Ωですから、オシロの入力を50Ωのモードに変更し、直接SMA-BNCケーブルでアンプとつないでみます…。

「?…」発振が停止してしまうではありませんか!これは入力容量が大きすぎて発振が停止してしまったのでしょうか?「そんな筈は無いのだが…」と思いつつ、またがっくりしつつ、動作確認をしてみました。

図15の回路図のU1の出力(pin 2)に接続しただけなら発振は停止しません。U1の入力(pin 1)に接続してみると発振が停止してしまいます。悔しいことにオシロのプローブをこの回路に接続しても(U1の入力 にプローブを接続した状態で出力の波形を見ると、発振波形は変っていますが)、ちゃんと発振は継続したままです。

「あ!」

そうなのです。OPアンプのバイアス電流が原因なのでした。図16のようにAD8021は高速OPアンプゆえ、バイアス電流が大きく7.5uA typもあります!(いや…ありました)。さきの図14の回路図を見てわかるように、発振のバイアス抵抗が470kΩですから、これではこの抵抗を電流が流れて、74HCU04の入力バイアスレベルが大きく崩れてしまっていたわけです。

「オレはサルか…」と目の前の試作回路を見ながら、この低レベルな体たらくにがっくりしました。考えてみれば「当然」な話です。さて、どう対策しましょうか!

 


図16. AD8021の入力バイアス電流(データシートからの抜粋)

バイアス電流の問題の対策をどうするか?

さて、そのAD8021ですが、バイアス電流が大きくて、まともに発振回路の動作をバッファリングできないと示しました。これはどうしたものでしょう。単純に大きめの容量のコンデンサでDCカットする方法も考えられますが、ここでは少しひねった方法で処理してみたので、それを示したいと思います。基本は、

①バイアス電流が7.5μA typもあること
②入力抵抗(微分抵抗)は十分高いこと
③入力容量は2pF程度であること

というところです。そこで…DCカットが必要であることから、図17のように「入力に3pFのトリマを写真のように直列に接続してみよう」というところです。この回路図を図18に示します。AD8021の入力端子のバイアスとして100kΩをグラウンドに対して接続してあります。

3pFのトリマを回転させて、入力容量の2pFと合わせて1/2の分圧としてみる、というものです。

なおバイアスとして100kΩの抵抗を入れてあります。

 

3pFのトリマを追加することの意義

さきに入力に直列に3pFのトリマ・コンデンサを接続する方法を考えたとしました。このトリマを調整して10MHzの(10MHzの発振信号を測定することが目的だったので)信号を測定しながら、振幅が規定の1/2になるレベルにします。

そうすると、(図11の周波数条件ですが)この2pF - 2pFで1/2(-6dB)に分圧され、また無事にDCカットが出来ることになります。

さらに!こうすることで、この回路自体の入力容量を1pFにまで低くさせることもできるわけです。

 



図17. 入力に3pFのトリマを直列に接続して約2pFの直列容量としてみる(100kΩのバイアス抵抗も接続している)

 

 
図18. 図17のように入力に3pFのトリマを直列に接続した  回路図(100kΩのバイアス抵抗も接続している)

 

3pFのトリマを追加したときの特性がどうなるか

この3pFのトリマを追加して調整し、直列に2pFが挿入されたものとして、入力回路がどのように見えるか、シミュレーションで確認してみたいと思います。

周波数特性をNI Multisimでシミュレーションしてみました。図19はシミュレーションの回路図、図20はAC simulationの結果です。測定対象の信号の源周波数10MHzあたりでは、振幅・位相ともども問題無い特性になっていることがわかります。

 


図19. 入力が2pFのときの周波数特性を考えるシミュレーション


 


図20. 図19の回路をNI Multisimでシミュレーション(上:振幅特性、下:位相特性)

 

 

図21. 2pFで分圧した回路の周波数特性(-40dBm in 小信号)

 


図22. 2pFで分圧した回路の周波数特性(0 dBm in 大振幅)

 


2pF(3pFのトリマ)で分圧した実際の回路の周波数特性

図21にネットワーク・アナライザを使用しログスイープ・モードに変更して、図18の回路の周波数特性を測定してみたもの、その小信号のときの特性を示します。

ここでの測定では、入力はミノムシクリップにせず、きちんと50Ωのケーブルをはんだ付けして行いました。

小振幅では、100MHz程度の帯域まで動作可能なことがわかります。高域は接続方法を変えてピーキングが減少したためか、若干落ちています。

図22は同じく大振幅(0dBm入力)での測定結果です。

 

最後にすこし補足

最後に2点ほど補足しておきます。

 

直列の2pFによる位相変動はどうなる?

入力に(トリマ・コンデンサの)2pFという容量が直列に付いているわけですが、「これで位相はどうなるの?」という疑問があろうかと思います。しかし、先の図20で示した位相特性のように、1MHzを超えたあたりから位相がゼロになってきています。

これは入力容量の2pFとこのトリマの2pFが、バランスがとれて、それで分圧回路となって、このような結果になっているわけです。面白いものですね。

 

バイアス抵抗は実験により100kΩとした

バイアス抵抗を100kΩとしましたが、7.5uA typのバイアス電流であれば、0.75V程度の電圧降下になって、もう少し抵抗値を大きくしておいても、それほど問題は生じないはずでした。

しかし270kΩをつけて入力を開放した状態で電源を投入すると、電源投入の過渡動作で出力が飽和して立ち上ってしまう場合、どうも出力飽和状態でバイアス電流が増加するようで、開放状態にしたままだと、出力が張り付いたままでした。

そのためここでは、少し低めの100kΩとしてみました。

 

まとめ

やはり高速回路で低いインピーダンスで動作させることを基本として考えられているアンプは、このような特殊な使い方ではいろいろ面白い「じゃじゃ馬的要素」が出てくるようで、たしなめる技術も重要というところでしょうか。特に高速OPアンプはバイアス電流が大きめということは頭に入れておくべきことと思います。

 

※ PDFの末尾に、別表1を掲載しております。ダウンロードしてご覧ください。

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著者

Satoru_Ishii

石井 聡

1963年千葉県生まれ。1985年第1級無線技術士合格。1986年東京農工大学電気工学科卒業、同年電子機器メーカ入社、長く電子回路設計業務に従事。1994年技術士(電気・電子部門)合格。2002年横浜国立大学大学院博士課程後期(電子情報工学専攻・社会人特別選抜)修了。博士(工学)。2009年アナログ・デバイセズ株式会社入社、現在に至る。2018年中小企業診断士登録。
デジタル回路(FPGAやASIC)からアナログ、高周波回路まで多岐の電子回路の設計開発を経験。また、外部団体主催セミナーの講師を多数務める。