65V入力/8A出力のモノリシック型降圧レギュレータ、高速な過渡応答と極めて高いEMI性能を実現

はじめに

アナログ・デバイセズの「LT8645S」と「LT8646S」は、同期整流方式の降圧レギュレータです。モノリシック型の製品であり、65Vの入力、8Aの出力に対応します。また、SilentSwitcher®(サイレント・スイッチャ) 2というアーキテクチャを採用しているため、プリント回路基板のレイアウトに左右されることなく、卓越したEMI(電磁妨害)性能を達成することができます。なお、LT8646Sでは、過渡応答を最適化するためにRCを使った外部補償を適用することも可能です。

広い入力電圧範囲、大きな出力電流

48Vの電源バスを使用するシステム向けに、降圧コンバータを設計するケースを考えます。その場合、電源回路の設計を担当する技術者は、サイズが小さいモノリシック型のレギュレータIC(パワーMOSFETも内蔵)ではなく、それよりはるかに大きいコントローラIC(パワーMOSFETは外付け)を選択しがちです。なぜなら、48Vといった高い入力電圧に対応できるモノリシック型のレギュレータICはあまり見当たらないからです。見つかったとしても、ほとんどの製品は5A以上の出力電流に対応できないことも理由の1つです。LT8645S/LT8646Sは、このような固定観念を打ち破るモノリシック型のレギュレータICです。

Silent Switcher 2を採用したLT8645S/LT8646Sは、65Vの入力、大電流の出力に対応可能です。具体的には3.4V~65Vという広い入力電圧範囲と、最大8Aの出力電流に対応します。図1に示したのは、LT8645Sを使用して構成した12V/8A出力のソリューションの全体像です。LT8645Sは内部補償機構を備えているので、外付け部品の点数を抑えて設計を簡素化することができます。バイパス・コンデンサも内蔵していることから、全体のサイズは非常にコンパクトに収まります。図2に示したように、この回路の効率は約97%に達します。

図1. LT8645Sを採用したソリューション。400kHzのスイッチング周波数により、12V/8Aの出力を得ることができます。

図1. LT8645Sを採用したソリューション。400kHzのスイッチング周波数により、12V/8Aの出力を得ることができます。

図2. 図1の回路の効率。LT8645Sによって12V/8Aを出力する場合の評価結果です。

図2. 図1の回路の効率。LT8645Sによって12V/8Aを出力する場合の評価結果です。

高速な過渡応答、極めて高いEMI性能

LT8646Sの過渡応答は、VCピンに外付けで接続する1個の抵抗と1個とコンデンサだけで、特定のアプリケーションに対して最適化することができます。図3は、LT8646Sを使用して構成した5V/8A出力のソリューションの回路図です。図4には、最適化を図るために補償を適用した場合に、負荷に対してどのような過渡応答が得られるのか示しました。

図3. LT8646Sを使用して構成した5V/8A出力の降圧コンバータ。スペクトラム拡散モードをイネーブルにすることで極めて高いEMI性能を実現できます。

図3. LT8646Sを使用して構成した5V/8A出力の降圧コンバータ。スペクトラム拡散モードをイネーブルにすることで極めて高いEMI性能を実現できます。

図4. 図3の回路の負荷応答。LT8646Sを使用し、12Vの入力、5V/2Aの出力、2MHzのスイッチング周波数という条件で評価を実施しました。ステップ負荷に対し、ご覧のような応答が得られています。

図4. 図3の回路の負荷応答。LT8646Sを使用し、12Vの入力、5V/2Aの出力、2MHzのスイッチング周波数という条件で評価を実施しました。ステップ負荷に対し、ご覧のような応答が得られています。

このソリューションでは、スイッチング周波数を2MHzに設定しています。そのため、1µHの小さなインダクタを使用できます。またLT8645S/LT8646Sは、高速ピーク電流モードというアーキテクチャを採用しています。このことから、過負荷や短絡といった状態においても、インダクタの飽和を安全に許容することが可能です。したがって、過電流によるトランジェントに備えて、過度に大きなインダクタを選択する必要はありません。ただし、過負荷や短絡の状態が長く続くことは避けなければなりません。

LT8645S/LT8646Sは、バイパス・コンデンサを内蔵すると共にホットループを分割するSilent Switcher 2アーキテクチャを採用しています。それによって、レイアウトに左右されずに高いEMI性能を達成できます。結果として、非常に優れたEMI性能が求められるアプリケーションの設計に伴う懸念が緩和されます。図5に示したのは、図3のソリューションについてCISPR25で定められた放射性EMIに関するテストを実施した結果です。フェライト・ビーズとコンデンサで構成したフィルタを使うことにより、最も厳しいCISPR25クラス5で定められた値をクリアすることができます。

図5. 図3の回路のEMI性能。CISPR25で定められた放射性EMIに関するテストの結果です。LT8646Sを使用し、14Vの入力、5V/4Aの出力、2MHzのスイッチング周波数という条件でテストを実施しました。

図5. 図3の回路のEMI性能。CISPR25で定められた放射性EMIに関するテストの結果です。LT8646Sを使用し、14Vの入力、5V/4Aの出力、2MHzのスイッチング周波数という条件でテストを実施しました。

短い最小オン時間、高い降圧比

LT8645S/LT8646Sの最小オン時間はわずか40ナノ秒です。そのため、2MHzという高いスイッチング周波数でも高い降圧比を実現できます。例えば、2MHzのスイッチング周波数で48Vの入力電圧を5Vの出力電圧に変換するには、52ナノ秒のオン時間が必要です。しかし、この仕様を達成できるコンバータ製品は、ほとんど存在しません。このような降圧比を達成するには、(いったん中間電圧を生成する)2段構成のDC/DCコンバータを使用するのが一般的です。それに対し、LT8645S/LT8646Sであれば、単体でこのような変換を実行することができます。結果として、電源回路のサイズを縮小し、複雑さを緩和することが可能になります。

図6に示したのは、LT8645Sを使用して構成した30V入力、1.8V/8A出力のソリューションです。この回路は、1MHzのスイッチング周波数で動作させます。スイッチングのサイクルをスキップしてもよいのであれば、入力電圧としては65Vの絶対最大定格まで対応できます。3.1Vよりも低い出力を得たい場合には、LT8645SのBIASピンに3.1Vよりも高い外部電源(3.3Vや5V)を接続することで、効率を高めることが可能です。

図6. 65Vの入力トランジェントに対応可能な回路。LT8645Sを使用し、1MHzのスイッチング周波数で、1.8V/8Aの出力を生成します。

図6. 65Vの入力トランジェントに対応可能な回路。LT8645Sを使用し、1MHzのスイッチング周波数で、1.8V/8Aの出力を生成します。

まとめ

LT8645S/LT8646Sは、8Aの出力電流に対応可能な同期整流方式のスイッチング・レギュレータICです。モノリシック型の製品であり、極めて高いEMI性能を実現することができます。パッケージは6mm × 4mmの小型LQFNです。特許を取得済みのSilent Switcher 2アーキテクチャを採用したことにより、極めて高いEMI性能、高い効率、コンパクトなサイズを特徴とするソリューションを構築できます。入力電圧については、最大65Vまで対応可能です。40ナノ秒という最小オン時間によって、高い降圧比で低電圧の出力を直接生成できるため、DC/DCコンバータを2段構成で使用する必要はありません。

著者

Ying Cheng

Ying Cheng

Ying Cheng graduated from Missouri University of Science and Technology (formerly University of Missouri-Rolla) with aPhD degree in electrical engineering. She has been with Linear Technology for 6 years as a senior applications engineer in the Power Products group, working on DC/DC switching regulators and LDOs.