筆者:セルギウ・ククイレアン(Sergiu Cucuirean)、組込みソフトウェア・エンジニア
2025年9月24日
エッジAIのためのよりスマートな更新
組込みエンジニアは、エッジ・デバイス上でAIモデルを更新するのが難しいことを認識しています。通常、ニューラル・ネットワークを直接ファームウェアのフラッシュに書き込んで、モデルが長期的に機能することを期待します。モデルの更新には、多くの場合、物理的なデバイスへのアクセスと完全な再設定が必要です。
さて、何百台、いや何千台ものデバイスに、既に導入されているモデルを更新する難しさを想像してみてください。それには時間と労力がかかるでしょう。しかし、アナログ・デバイセズ(ADI)による最近の技術革新によって、モデル更新はもはや克服すべき障壁ではなくなります。
ロボット・スワームの登場:OpenSwarm
スワーム規模のモデルの更新は、EUが資金提供したOpenSwarmイニシアチブ(openswarm.eu)への参加の一環としてアナログ・デバイセズが直面した課題の一つでした。OpenSwarmは、小型自律ロボットのスワームにおける協調型AIの実証と促進を目的としています。要求事項は厳しいものでした:
- ロボットの小型化は、バッテリ容量とスペースを制限しました。つまり、モデルのアップデートは非常に効率的でなければならず、消費電力、ネットワーク帯域幅、データ・サイズを最小限に抑える必要がありました。
- モデルの更新後にインストールに失敗した場合、ロボットはこれらのエラーから回復できなければいけません。
- ロボットは移動性も非常に高く、中央ネットワークからアクセスできない場合があります。
なぜMAX78000なのか
MAX78000は、このような制約のある状況向けに設計されたハードウェアを備えています:低消費電力のCortex®-M4プロセッサと、64個の並列処理要素を備えた専用のCNNアクセラレータです。MAX78000 SDKは、PyTorchモデルをファームウェアにパックおよび量子化します。
データとしてのモデル:モデル更新のロック解除
開発者は通常、量子化モデルを静的なC配列として埋め込みます。私たちは、ニューラル・ネットワークをロード可能なデータ構造として扱うファームウェア・ベースのアーキテクチャを構築することで、異なる道を選びました。アナログ・デバイセズは、この量子化モデル・データを構造化されたファームウェア形式にパッケージ化しました。このファームウェアには、CNNの実行に必要なすべての要素が含まれています:層構成、量子化された重み、バイアス値、およびアーキテクチャのメタ・データです。
このシステムの核心には、MAX78000のCNNアクセラレータの複雑性を抽象化するCNNエンジン・ドライバが存在しています。このCNNエンジン・ドライバは、メモリ管理、オペレータのディスパッチ、ハードウェア同期といった複雑なタスクを処理します。
アナログ・デバイセズのアプローチの結果は?1つのコード・セットで複数のモデルを実行します。このツールセットは開発時間を短縮し、簡単な更新を実現します。モデルは、コア・アプリケーションのロジックから独立した読込み、交換、更新が可能なデータとなります。同じCNNエンジン・ドライバは、変更することなく全く異なるモデルを実行できます。
メッシュと配信:OTAアップデートがすべてのボットに届く仕組み
このチームはアナログ・デバイセズのSmartMesh無線ネットワーク技術を用いて、OTAモデルの更新を提供しました。SmartMeshは、Wi-Fiや5Gインフラとは独立して動作します。SmartMeshは、大規模で動的なネットワーク向けに、信頼性の高い低電力通信を提供します。アナログ・デバイセズのスワームにおける各ノードは、センサーとルータの両方の役割を果たします。メッシュ・ネットワークは、複雑な環境や障害物の多い環境下においても更新情報を中継することができます。SmartMeshは、中央ゲートウェイの直接通信の範囲外にあるデバイスも含め、すべてのデバイスが最新のAIモデルを安全かつ効率的に受け取れることを保証します。
OTAモデルの導入作業の方法
モデルがデータとして扱われるようになったため、OTAアップデートは単純なファームウェアの更新手順に従います:
- ファームウェアはSmartMeshを介して無線で送信されます。
- 受信後、各ロボットが互換性、サイズ、対応レイヤを確認します。
- 有効な場合、モデルを単一の原子ステップでインストールします。
何か問題が発生した場合、システムは以前のモデルに復元され、システムの安全性を確保し、ダウンタイムのリスクを低減します。デバイスは、FatFS(ファイル・アロケーション・テーブル・ファイル・システム)を使用して、複数のモデルをSDカードに保存します。これにより、バージョンのテスト、切り替え、ロールバックが容易になります。
導入の簡素化:視覚モデル管理
大規模なスワームはモデル管理と提供を困難にします。その課題に対処するため、アナログ・デバイセズはシンプルなウェブベースの管理ツールを開発しました。ユーザーはモデル・ファームウェアをブラウザにドラッグ&ドロップします。このツールはファイルをチェックし、配布用のモデルを読み込み、スワームを介した更新の進捗をリアルタイムで表示します。
このツールではユーザーが以下の操作も行えます:
- CNNの構造の確認
- 旧モデルと新モデルを並べて比較
- メモリ使用量とパラメータを監視
この管理ツールは参入障壁を下げ、エンジニアやデータ・サイエンティストが組込みシステムの専門知識を必要とせずに更新作業で協業することを可能にします。
今後の展望
OTAによるモデルの導入は、エッジAIに対する考え方を変えます。インテリジェンスをファームウェアから分離することで、デバイス全体の再設定を必要とすることなくモデルを進化させることができます。企業はこの技術を活用して、エッジ・デバイスへ継続的にアップグレードを提供できます。MAX78000とSmartMeshを用いてこの技術を実証しましたが、これはAI搭載システムの未来を形作る可能性を秘めた、広範に適用可能なアプローチです。
さらに詳しく
エッジAIワークフローの最新化をお望みですか?OTA CNN導入により、組込みインテリジェンスに柔軟性と制御性が生まれます。アナログ・デバイセズのチームにご相談いただくか、アナログ・デバイセズの MAX78000およびSmartMeshネットワーク技術の詳細をご覧ください。
このプロジェクトは、EU Horizon Europe Framework Programme(助成契約番号:101093046)の資金提供を受けています。