100MHz~40GHzで動作するシンプルで安価なRMSパワー・メータ

はじめに

RMS単位での応答を計測できるRFパワー・メータは、クレスト・ファクタ(波高率)が変動するRF信号のパワーを正確かつ高い精度で計測するために、テスト/計測アプリケーションで広く使用されています。一般に、コネクタ付きの高価なデバイスとして実現されており、詳細な特性評価と校正(キャリブレーション)を必要とするものの、高いレベルの精度を得ることができます。しかし、そのような精度を得るために、サイズと費用を犠牲にしていることも事実です。この種の装置のコストを大幅に下げ、さらに小型化するための1つの方法は、アナログ・デバイセズのRMSパワー検出器「LTC5596」を採用することです。同ICを使用すれば、35dB以上の検出範囲、100MHz~40GHzの周波数範囲でRMS応答を得ることができます。これを採用すれば、広帯域に対応する携帯型のパワー・メータや、回路内に組み込めるパワー・メータを実現することが可能になります。

LTC5596は、Linear-in-dB(リニア‐dB)変換用の十分に制御された伝達関数と周波数に対する優れた平坦性を備えています。単一の中間周波数に対する2点校正と同じくらい基本的かつ簡単な方法で構成でき、150MHz~30GHzの周波数範囲で±1dBの計測精度を実現可能です。消費電力がわずか100mWの小型ICとして実現されていることから、携帯型または回路内への組み込み型のパワー・モニタリング・ソリューションを提供できます。

図1に、LTC5596を使用したソリューションの全体像を示しました。このようなシンプルな構成により、広帯域に対応するバッテリ駆動型のRFパワー・メータを実現しています。ここでは、LTC5596用のデモ・ボード「DC2158A」、I2Cに対応するLCD(液晶ディスプレイ)、ファームウェア(稿末の付録に示したコード行数の少ないプログラム)を実行するLinduino(アナログ・デバイセズのArduino互換システム) ボード「DC2026C」を使って構成しています。

 

図1. 広帯域に対応する完全なRFパワー・メータ
図1. 広帯域に対応する完全なRFパワー・メータ

 

表1. 部品表
項目 品番
LTC5596用のデモ・ボード DC2158A
Arduinoボード LinduinoボードのDC2026C(または互換ボード)
I2Cに対応するLCD Smraza 2004 LCD Display Module(20文字×4行)
9Vのバッテリとケーブル

回路のアセンブリ

図2に、図1のRFパワー・メータの接続図を示しました。Linduinoボードのアナログ入力部(ANALOG IN)には、複数のA/Dコンバータ(ADC)の入力部が接続されています。ここでは、図のようにA0を使って、LTC5596の出力をサンプルしています。LCDはI2Cのインターフェースを搭載しているので、Linduinoボードとの接続は容易です。LTC5596のボードとコネクタを含む回路全体には、Linduinoボードの補助ポートを介して電力が供給されます。

 

図2. RFパワー・メータの接続図
図2. RFパワー・メータの接続図

ファームウェア

必要なファームウェアはすべてLinduinoボードで実行されます。ファームウェアの主な機能は、測定したアナログ入力(単位はV)をRFパワー(単位はdBm)に変換し、LCDに表示することです。それにあたっては、2点校正によって、LTC5596が備える線形伝達関数の傾きと切片を求めることが推奨されます。VOUTとRFパワーは以下の1次式で表されます。

数式 01

ここで、xは入力電力で単位はdBm、yはLTC5596の出力電圧VOUT(ADCの変換結果であるデジタル値に正比例)、mは傾き、bはx切片(VOUTがX軸上で0に達する値)です。このファームウェアは、測定結果であるyに基づき、校正(詳細は後述)によって得られたbとmの値を使ってxを求めます。その際には、複数の測定値を平均することによって、ノイズの影響を最小限に抑えます。

Linduinoが備えるADCは、分解能が10ビットであり、1LSBは約4.9mVに相当します。LTC5596の伝達関数の標準的な傾きは28.5mV/dBで、計測分解能は約0.2dBになります。稿末の付録に示したサンプル・プログラムは、5.8GHzのときの入力電力をdBm単位で表示するためのものです。

校正

LTC5596は、Linear-in-dB変換に使用する伝達関数を1つの特徴とします。ただ、製造ばらつきにより、伝達関数の傾きと切片がデバイスごとに異なります。伝達関数は線形なので、校正はシンプルな方法で行えます。精度を保証するために必要なのは、基本的には2点校正のみです(場合によっては、それ以上の校正が必要になることもあります)。

図3に示したのは、LTC5596における標準的な2点校正の方法です。ここでは、5.8GHzの周波数を例にとっています。2点の値を使って、傾きとx切片を求めています。

 

図3. LTC5596の2点校正。VOUTと入力電力をプロットしています。2つのポイントはアプリケーションの動作範囲に対応しています。
図3. LTC5596の2点校正。VOUTと入力電力をプロットしています。2つのポイントはアプリケーションの動作範囲に対応しています。

この例では、傾きと切片は以下の式で求められます。

数式 02

付録に示したプログラムでは、傾きと切片として、これらの値を使用しています。

直線性誤差

LTC5596のデータシートでは、対数切片として、このプロットにおけるx切片を示してあります。直線性誤差は、理想的な直線とパワー検出器で測定された実際のパワーの差を表します。一般に、有効な検出範囲は、直線性誤差が1dB未満の範囲となります。傾きとx切片の値を使って計算した誤差を図4に示しました。2点校正によって得られる標準的なデバイスの直線性誤差を表しています。

 

数式 03
図4. LTC5596の誤差と入力電力の関係。校正を実施した後に測定しています。線形なダイナミック・レンジは、約-40dBm~+3dBmであることがわかります。
図4. LTC5596の誤差と入力電力の関係。校正を実施した後に測定しています。線形なダイナミック・レンジは、約-40dBm~+3dBmであることがわかります。

まとめ

LTC5596を使用すれば、100MHz~40GHzの範囲において、RFパワーを高い精度で測定できます。しかも、小型で、これまでになくシンプルで、消費電力が少ないというメリットを享受できます。同ICを使うことにより、小型かつ高効率な携帯型RFパワー・メータの要件を十分に満たすことができます。あるいは、回路内に組み込むRFパワー・メータとして使用し、完全なソリューションを実現することも可能です。LTC5596の適切かつ広帯域に対応するlinear-in-dBの伝達関数によって、ファームウェアのオーバーヘッドは最小限に抑えられます。2点校正は、単一の中間周波数を対象とする場合に、特に高い精度で実施できますが、広範な周波数範囲に対しても優れた精度が得られます。より重要なのは、LTC5596を使用することにより、変調方式に関係なく正確にパワーを計測できるということです。簡単な2点校正を行うだけで、変調波形に関係なく誤差が0.3dB未満という高い精度を実現できます。広範囲にわたる特性評価と校正を必要とする他の高価な市販のユニットとは対照的です。

著者

Andy-mo

Andy Mo

Andy Moはアナログ・デバイセズのアプリケーション・エンジニアです。以前は、リニアテクノロジー(現在はアナログ・デバイセズに統合)のアプリケーション・エンジニアとして、10年以上にわたりRF回路の設計を担当していました。カリフォルニア大学サンタバーバラ校で通信/電子工学の修士号を取得しています。