インダストリ4.0に求められる堅牢なワイヤレス通信

インダストリ4.0は、スマート・インダストリとも呼ばれ、多大な注目を集めているコンセプトです。このコンセプトに対しては、既存のシステムをネットワークに接続してサイバーフィジカル・システムを構築することにより、新たな産業革命がもたらされるという期待がかけられています。第1次産業革命では、様々な技術の融合が行われました。最も重要な成果は、蒸気を動力源にすることにより、手作業によるものづくりから大量生産へと移行できたことです。現在では、インダストリ4.0の構成要素とされるセンシング、通信、ビッグ・データに対する処理を含む、様々な技術の融合が進んでいます。製造フロアの装置からお客様が使用する製品まで、あらゆる組み込みシステムにコネクティビティを付加し、リアルタイムでデータを抽出することにより、効率を最大30%高められるということが理論的に示されています。この数値は、製造プロセスが最適化されるだけでなく、よりよい経営判断が可能になり、新規事業への道が開けるということを意味しています。

インダストリ4.0の基盤になるものは、信頼性の高い通信インフラです。そのようなインフラが存在するからこそ、意思決定者は、機械や工場、フィールド・デバイスからデータを抽出することができるのです。インダストリ4.0のワーキング・グループは、その最終報告書で、「現実世界と仮想世界(サイバースペース)をサイバーフィジカル・システムという形で融合させるのはネットワークである。信頼性が高く品質に優れる包括的な通信ネットワークが、インダストリ4.0の鍵になる」という旨の文章を記しています。

サブギガヘルツのワイヤレス・コネクティビティにより、既に電気/ガス/水道用の自律的なメーターや、構造物のモニタリング・システムなどで使われるリモート・センサー処理が可能になりました。バッテリで駆動されることの多いワイヤレス・デバイスは、センサーを使って現実世界の物理量を計測/定量化します。そして、得られたデータを収集用のノードやゲートウェイに送信します。あるいは、アグリゲーションや加工を実施するために、クラウドに送信することもあります。ワイヤレス・ソリューションは、FA(Factory Automation)の分野にも進出しつつあります。ワイヤレス・デバイスは、求められる要件を満たすことで、土木、農業、環境、エネルギーの生産/分配といった分野に広まり、出荷数が更に増加すると予想されます。

ワイヤレス・システムを設計する際には、多くの要素について考慮しなければなりません。設計に携わるほとんどの技術者は、レンジを広げるためにフリスの伝達公式を活用しようとするはずです。また、出力パワーや受信感度、あるいはその両方を高めるために、多くのパラメータを変更したりすることになるでしょう。しかし、実際には、規制によって最大出力パワーは制限されることになるはずです。また、大出力に対応するアンテナや外付けの低ノイズ・アンプなどのコンポーネントは、システムのコストを大幅に増大させる要因になり得ます。このような理由から、ワイヤレス・レシーバーを選択する際、技術者はまずは受信感度に注目します(もちろん、感度だけに注目すればよいということではありません)。

産業分野のエコシステムに含まれるコネクティビティについては、信頼性の高い無線接続を実現できることが不可欠です。信頼性の高い通信を維持できるようにすることは、より厳しさを増すRF環境、なかでも産業分野では重要な課題になります。免許が不要のISM(産業‐科学‐医療)バンドは、1985年に導入されました。それ以降、何億個もの能動デバイスが配備されており、ユーザの数は増え続けています。ISMバンドを使用する無線通信では、予期せぬRFエミッションや、同じ周波数帯で独自のプロトコルを使って動作するアクティブなRFデバイスなど、対処しなければならない潜在的な干渉源がいくつもあります。通信レンジは、そうした干渉の影響でかなり劣化してしまうかもしれません。また、大規模で高密度のネットワークでは、多くの近接するノードが通信を行っています。そのため、受信性能の高さに対する強いニーズがあります。干渉源に対する強靭な性能を備えているのは、非常に望ましいことです。必要なリピータ・ノードの数を削減でき、ゲートウェイ当たりのエンドポイント数を増やすことができます。それによって、通信が困難な場所を減らし、堅牢なネットワークのカバー範囲を広げることが可能になります。信頼性の高い無線接続を使えば、パケットの損失が減少します。その結果、パケットの再送を削減でき、システム全体の効率が向上します。

レシーバーの性能を理解するためには、データシートを参照して選択度とブロッキングの数値を確認する必要があります。無線レシーバーにおいて、RFの選択度とは、他のチャンネルで送信されている不要な信号から、所望の信号を分離する能力のことを表します。ある間隔で並んでいる複数のチャンネルのうち、1つに注目しているとします。その1つ上か下のチャンネルに干渉信号が存在している場合には、注目しているチャンネルで所望の信号をどれだけ受信できるのかということが問題になります。その受信能力のことを隣接チャンネル除去(ACR:Adjacent Channel Rejection)と呼びます。また、隣接チャンネルより更に1つ離れたチャンネルのことを代替チャンネルと呼びます。除去性能(ACR)が高いほど、干渉源が存在する状況下でのレシーバーの性能が優れているということを意味します。ブロッキングは、レシーバーの帯域からかなり離れた位置にある干渉源、または帯域外の干渉源に関するものです。数MHz離れていても、出力の大きい干渉源は通信を劣化させ、パケットの損失が生じる原因になります。

良好なブロッキングと選択度を実現するためには、RFシステムにおける位相ノイズを削減することがポイントになります。位相ノイズは、信号の位相が短時間の間に変動することによって引き起こされるノイズです。周波数領域で見ると、対象とする信号から広がった側波帯のような形で現れます。通常、位相ノイズは搬送波に対して評価され、dBc/Hzという単位で表されます。すなわち、搬送波から特定のオフセット分だけ離れた位置にある1Hzの帯域幅におけるノイズ・パワーのことを指します。このノイズは、図1に示すように、相互ミキシングを発生させると共にノイズ・フロアを引き上げて、受信性能を劣化させるように振る舞います。レシーバーにおいて、対象とする信号を、信号処理で使用する中間周波数までダウン・コンバートする際、干渉源の尾の部分も混合されるので、後で除去することはできません。

 

図1. 位相ノイズに関する基礎理論
図1. 位相ノイズに関する基礎理論

レシーバーのフロントエンドの直線性は、近隣にある大出力の干渉源に対する耐性に影響を及ぼします。サブギガヘルツの周波数を使う無線ネットワークの場合、LTEがそうした干渉源になる可能性があります。レシーバーの直線性の評価では、入力3次インターセプト・ポイント(IIP3)に注目します。これ(IIP3)は、受信側チェーンに2つのトーンを入力し、それらの3倍の周波数の位置に現れる3次相互変調積を測定することによって求められます。

アナログ・デバイセズの「ADF7030-1」は、サブギガヘルツに対応する無線トランシーバーICです。信頼性の高いコネクティビティの実現という課題に対応すべく、必要なあらゆる機能を集積しています。ISMバンド、SRD(Short Range Device)の他、169.4MHz~169.6MHz、426MHz~470MHz、863MHz~960MHzという免許を要する周波数帯で運用されるアプリケーションに対応しています。IEEE 802.15.4gのような標準規格をベースとするプロトコルに対応するだけでなく、広いレンジの独自プロトコルをサポートするだけの柔軟性も備えています。IFレシーバーは高度な構成が可能であり、2.6kHz~738kHzという広いレンジのレシーバー・チャンネル帯域幅をサポートしています。このことから、ADF7030-1は超狭帯域、狭帯域、広帯域のチャンネル間隔をサポートできます。また、このクラスで最高レベルのブロッキングを提供するよう設計されていることに加え、優れた感度も実現しています。

ADF7030-1を利用すれば、高性能で低消費電力のアナログ・フロント・エンド(AFE)を構成できます。このAFEでは、ダイナミック・レンジの広いA/Dコンバータ、誤り訂正機能(QEC)を備える複素アンチエイリアシング(折返し誤差防止)フィルタ、デジタル・チャンネル・フィルタを使って、受信側チェーン内の不要な信号を除去します。ADF7030-1は、これらの技術を利用して、±20MHzのオフセットで最大102dBのブロッキングと、最大66dBのACRを実現します。

サポートする全信号帯域幅と周波数帯で高い受信性能を維持するために、ADF7030-1はデュアルバンドのLO(局部発振器)のパスを備え、再構成が可能なVLIF(Very-Low Intermediate Frequency)対応レシーバーのアーキテクチャを採用しています。このことから、同ICは、広範な種類のアプリケーションをサポートすることができます。

 

図2. ADF7030-1と競合製品のACRの比較
図2. ADF7030-1と競合製品のACRの比較

ADF7030-1は、クラス最高レベルの除去性能を実現します。また、レシーバーのゲインが最大のとき、IIP3は-8.5dBmに達します。ユーザは、SAW(弾性表面波)フィルタのような高価な外付けコンポーネントを使うことなく、確実に規制に準拠できます。標準規格の一例としては、チャンネル間隔が25kHzのETSIClass 1があります。同規格では、60dBのACRと84dBの選択度を満たすことが求められています。ADF7030-1の性能は、これらの要件を大きく上回っています。

次世代のコネクテッド/スマート・デバイスを実現するには、革新的かつ魅力的なソリューションが必要です。インダストリ4.0は、そうしたソリューションの開発に対する技術者の意欲を掻き立てています。アナログ・デバイセズは、通信システムに対する現実の環境からの影響を管理する技術に関しては、業界を主導する立場にあると自負しています。50年以上にわたり、現実の世界とデジタルの世界をつなぐ信頼性の高いソリューションを設計してきました。ネットワークで接続された世界を更に拡張し、IoT(Internet of Things)やインダストリ4.0に関連して想定されるサービスを提供するためには、堅牢で信頼性の高い通信を確保することが重要な鍵になります。

著者

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Sean O'Connell

Sean O'Connell は、アナログ・デバイセズのIoTソリューション&セキュリティ・グループに所属するプロダクト・アプリケーション・エンジニアです。「ADF7030-1」をはじめとする低消費電力のRFトランシーバーや、すぐに配備が可能なメッシュ・ネットワーキング・ソリューション「SmartMesh®」のサポート業務を行っています。ユニバーシティ・カレッジ・コークの電気電子工学部を卒業しています。