昇圧コンバータの制限を克服する方法

概要

本稿では、昇圧トポロジに固有の制限と、この制限を克服する方法について説明します。昇圧コンバータの設計時や評価時に、意図した出力電圧が得られず、目標より低い数値になる場合があります。

はじめに

昇圧コンバータは、低入力電圧から高出力電圧を生成するために使用するものです。そのような電圧変換は、昇圧トポロジを使用したスイッチング・レギュレータを使えば、容易に可能です。ただし、その電圧ゲインには本質的な限界があります。電圧ゲインとは、入力電圧に対する出力電圧の比率のことです。つまり、12Vから24Vが生成された場合、電圧ゲインは2となります。

例として、24Vの電源電圧から、160mAの出力電流で300Vの電圧を生成する工業用アプリケーションについて説明します。

図1 昇圧コンバータ回路

図1 昇圧コンバータ回路

電圧ゲインは、デューティ・サイクルで表すこともできます。

数式 01

昇圧コンバータの主要なパラメータは、デューティ・サイクルと電圧ゲインです。デューティ・サイクルは、各サイクルでスイッチSがオンになっている時間の量を表します。電圧ゲインは、出力電圧が入力電圧を超える比率を表します。

高電圧を生成するには、デューティ・サイクルを1に近い値に増加させますが、1にすることはできません。

最大デューティ・サイクルが高い昇圧コンバータを選べば、低電源電圧から高出力電圧を生成することが可能であるように思われます。ただし、考慮すべき点はこれだけではありません。デューティ・サイクルの制限に加え、最大可能電圧ゲインについても考慮する必要があります。

電圧ゲインは、入力可能な電圧に対する昇圧コンバータの出力可能な最大電圧を表しています。昇圧コンバータの制限は、次のように考えられます。昇圧時、入力側から出力側へ転送されるエネルギーはすべて、まずは一時的に蓄積されます。オン時間、つまり図1のスイッチSがオンのときは、エネルギーは一時的にインダクタLに蓄積されます。このとき、図1のダイオードDが電流をブロックします。

オフ時間では、一時的に蓄積されていたエネルギーがインダクタLから放出されます。インダクタの充放電は、インダクタンスの法則に従う必要があります。どちらの場合も、電流はインダクタのインダクタンス値と、インダクタ両端の各電位差によって決まります。インダクタ両端の電圧は簡単に、充電時はVIN、オフ時間はVOUTからVINの減算として表せます。

電圧ゲインが高いと、一時的に蓄積されているエネルギーをインダクタから回収するには、オフ時間が不十分となる可能性があります。つまり、式1のデューティ・サイクルを算出する簡単な計算式には、この制限が考慮されていないことになります。最大電圧ゲインを求める式は、インダクタのDC抵抗(DCR)と負荷抵抗も考慮されている場合に限り、使用することができます。式2を参照してください。

数式 02

RLとRLOADの比率は、可能な入出力電圧の比率に影響し、結果として昇圧コンバータの電圧ゲインにも影響します。この電圧ゲインは図で表すことができます。図2は、負荷抵抗を1.8kΩ、インダクタのRL、つまりDCRを3Ωとした場合の、入力電圧が24V、出力が160mAで300Vの例を示しています。

図2 負荷抵抗がインダクタのDCR(RL)の600倍の場合に実現できる電圧ゲイン

図2 負荷抵抗がインダクタのDCR(RL)の600倍の場合に実現できる電圧ゲイン

この例の場合、図2により、およそ12.5の電圧ゲインを実現できることが示されています(式2を使用して算出)。ただし、負荷抵抗が低下、つまり出力電流が増加した場合、もしくはインダクタのDCR(RL)が増加、つまりインダクタのサイズを小型にした場合、必要な電圧ゲインが生成できなくなります。

図3は、負荷抵抗とインダクタ抵抗の比が300の場合における電圧ゲイン曲線を示しています。この図では、RLを6Ω、負荷抵抗を1.8kΩとしています。

図3 負荷抵抗がインダクタのDCRの300倍の場合に実現できる電圧ゲイン

図3 負荷抵抗がインダクタのDCRの300倍の場合に実現できる電圧ゲイン

図3は、この例での最大電圧ゲインはわずか9であることを示しています。したがって、入力電圧24Vを300Vに変換することはできません。選択したインダクタのDCR、すなわちRLが高すぎるということです。

結論として、昇圧トポロジを使用した回路設計では、必ず最大可能電圧ゲインを決める必要があるということです。興味深いことに、この最大可能電圧ゲインは負荷抵抗(つまり出力電流)とインダクタのDCRによって決まります。必要な電圧ゲインを実現できそうにないことがわかった場合は、より大型でDCRがより低いインダクタを選んでください。

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalはドイツのエアランゲン大学でマイクロエレクトロニクスを専攻しました。2001年にパワー・マネージメント分野の仕事に就き、アリゾナ州フェニックスでの4年間にわたるスイッチモード電源業務への従事を含め、様々なアプリケーション分野を担当しています。2009年にアナログ・デバイセズに入社し、現在はミュンヘンにあるアナログ・デバイセズのパワー・マネージメント担当フィールド・アプリケーション・エンジニアです。