太陽電池用バッテリ・チャージャの設計

はじめに

持ち運び可能なソーラー駆動電子デバイスの市場が拡大を続けています。コンスーマが消費エネルギーを減らし戸外でより長時間使用できる手段を求めているためです。太陽光パワーは不安定で信頼性に欠けるため、ほぼ全てのソーラー駆動デバイスが、再充電可能なバッテリを備えています。目的は、太陽光からできるだけ多くのパワーを引き出してバッテリを高速に充電し、その充電量を維持することです。

太陽電池は、本質的に非効率なデバイスですが、それでも最大電力を発揮するポイントがあります。したがって、そのポイントで動作させることが設計ゴールとなることは明白なように思われます。問題は、最大出力電力のIV特性が、日照に応じて変化することです。単結晶太陽電池の出力電流は、光の強度に正比例しますが、最大電力出力時の電圧は比較的一定です(図1参照)。与えられた光強度での最大電力出力は、電池が定電圧デバイスから定電流デバイスに遷移する、各曲線の折れ曲がり部で発生します。ソーラー・パネルから効率的に電力を引き出すチャージャの設計は、照度レベルがチャージャのフル・パワー条件に対応していない場合に、パネルの出力電圧を最大電力のポイントに向けることができなくてはなりません。

図1. 太陽電池はそこに照射される太陽光の量に比例した電流を発生するのに対し、電池の開回路電圧は比較的一定のままです。最大電力出力は、電力曲線に示すように、電池が定電圧デバイスから定電流デバイスに遷移する、各曲線の折れ曲がり部で発生します。

図1. 太陽電池はそこに照射される太陽光の量に比例した電流を発生するのに対し、電池の開回路電圧は比較的一定のままです。最大電力出力は、電力曲線に示すように、電池が定電圧デバイスから定電流デバイスに遷移する、各曲線の折れ曲がり部で発生します。

LT3652は、ソーラー・パワー・アプリケーション向けに設計された、2Aのマルチケミストリ・バッテリ・チャージャです。LT3652は、簡単な分圧器ネットワークによって設定されたレベルを入力電圧が下回った場合に充電電流を減少させる、入力電圧レギュレーション・ループを採用しています。ソーラー・パネルから電力の供給があると、入力電圧レギュレーション・ループを使用してパネルの電力出力をピーク付近に維持します。

LT3652の入力電圧レギュレーション・ループ

LT3652の入力電圧レギュレーション・ループは、特定の入力電圧範囲にわたって機能します。VIN_REGピンに設けた抵抗分圧器を介して測定されるVINの値が、特定の設定値を下回ると、充電電流は減少します。この充電電流は、降圧レギュレータの充電回路のインダクタと直列に接続された電流検出抵抗両端に発生する制御電圧によって調整されます。照度が減少したり、より多くの充電電流が必要になったりすると、入力電圧(パネル電圧)の低下の原因となり、パネルは最大電力出力ポイントから離れてしまいます。LT3652では、入力電圧がVINピンとVIN_REGピンの間に接続した抵抗分圧器で定義される特定の設定値を下回ると、電流制御電圧が減少し、その結果充電電流が低下します。この動作によって、ソーラー・パネルからの電圧は、新しいピーク電力動作点に達するまで、VI特性曲線に沿って増加します。

ソーラー・パネルに対する照度が十分で、LT3652の充電回路が必要とするよりも多くの電力を供給できる場合、ソーラー・パネルからの電圧は、電圧レギュレーション・ループの制御範囲を超えて増加し、充電電流はその最大値に設定されて、新しい動作点は充電サイクル内のそのバッテリ・ポイントに対する最大充電電流だけに基づいて求められます。

電子デバイスがソーラー・パワーによって直接動作し、入力電圧が入力電圧レギュレーション・ループの制御範囲の最小レベルより大きい値である場合、利用可能な余剰電力を使用してバッテリをより低い充電レートで充電します。ソーラー・パネルからの電力は、強度レベルに応じた最大動作電力点に調整されます。

図2. チャージャの電流制御電圧(VSENSE – VBAT)と比例する入力電圧(VIN_REGピンの分圧器によって測定)の関係。VIN(ソーラー・パネル電圧)は、VIN_REGが2.67V~2.74Vの場合にのみ、充電電流に影響します。この範囲では、チャージャは必要に応じて充電電流を減少し、パネルをピーク電力出力で動作させます。

図2. チャージャの電流制御電圧(VSENSE – VBAT)と比例する入力電圧(VIN_REGピンの分圧器によって測定)の関係。VIN(ソーラー・パネル電圧)は、VIN_REGが2.67V~2.74Vの場合にのみ、充電電流に影響します。この範囲では、チャージャは必要に応じて充電電流を減少し、パネルをピーク電力出力で動作させます。

図2に、VIN_REGの代表的な制御特性曲線を示します。VIN_REGピンの電圧が増加し2.67Vを超えると、電流検出抵抗両端の電圧差VSENSE – VBATは、100mVの最大値に達するまで増加し、このときVIN_REGは2.74Vを上回ります。更にVIN_REGが増加してもVSENSE – VBATは100mVを維持します。入力電圧制御範囲を表す式は次のとおりです。

 

数式 1

 

図2の曲線においてVIN_REGが2.67V~2.74Vの部分を線形化すると、電流検出電圧VSENSE – VBATは次式で表されます。

数式 2
数式 3

したがって、バッテリの充電電流は次のとおりとなります。

数式 4

LT3652の充電回路は電流制御降圧レギュレータであるため、入力電流と充電電流の関係は次式で表されます。

数式 5

ここで、ηはチャージャの効率です。

入力電力は、式4および式5を入力電圧に結び付けることで求めることができ、次のようになります。

数式 6

最大充電電流に対するRSENSEを選択し、RIN1およびRIN2を定めて入力電圧の電流制御範囲を選択すれば、式6をソーラー・パネルの電力曲線に対してプロットして、様々なバッテリ電圧に対するチャージャの動作点を決めることができます。一例を以下に示します。

設計例

図3に、LT3652を 使 用 し た2Aソ ーラー・パワー2セル・リチウムイオン・バッテリ・チャージャを示します。

図3. 2Aソーラー・パワー・バッテリ・チャージャ

図3. 2Aソーラー・パワー・バッテリ・チャージャ

最初のステップは、ソーラー・パネルの最低条件を決めることです。開回路電圧VOC、ピーク電力電圧VP(MAX)、ピーク電力電流IP(MAX)などが重要なパラメータです。ソーラー・パネルの閉回路電流ISCは、他の3つのパラメータに基づく計算からは外れます。

開回路電圧は、2セル・リチウムイオン・バッテリのフロート電圧に3.3VおよびD1の順方向電圧降下を加えた値、更にそれに低強度の起動や動作のための15%を追加したものであることが必要です。

数式 7

ピーク電力電圧は、フロート電圧に0.75VおよびD1の順方向電圧降下を加えた値、更にそれに低強度動作のための15%を追加したものであることが必要です。

数式 8

ピーク入力電力電流は、フロート電圧と最大充電電流の積をピーク電力入力電圧および充電回路の効率で割った値です。

数式 9

これら3つの式を解くと、ソーラー・パネルの最低条件が次のように求まります。

数式 10

ソーラー・パネルの特性を図4に示します。

図4. 図3のソーラー・バッテリ・チャージャ回路の動作。100W/m2~1000W/m2の範囲を100W/m2刻みで変化させた照度レベルに対する電力強度曲線を示しています。VINの制御範囲(VREG)も示してあります。VIN制御ループは、VINがVREGの範囲内にある場合に、パネルの電力強度曲線の最上部になるようVINを調整して、ソーラー・パネルから最大使用可能電力を引き出します。

図4. 図3のソーラー・バッテリ・チャージャ回路の動作。100W/m2~1000W/m2の範囲を100W/m2刻みで変化させた照度レベルに対する電力強度曲線を示しています。VINの制御範囲(VREG)も示してあります。VIN制御ループは、VINがVREGの範囲内にある場合に、パネルの電力強度曲線の最上部になるようVINを調整して、ソーラー・パネルから最大使用可能電力を引き出します。

電流検出抵抗RSENSEは、VSENSE – VBATの最大値100mVを最大充電電流2Aで割ることで定まります。

数式 11

出力帰還分圧器ネットワークのRFB1とRFB2は次のように定めます。分圧器ネットワークは、テブナンの等価抵抗250kΩを使用して入力バイアス電流誤差を補償する必要があります。VFBピンのリファレンス電圧は3.3Vです。

数式 12

次のステップは、VINピンとVIN_REGピンの間に接続されたRIN1とRIN2からなる分圧器を使用してピーク電力トラッキング電圧を設定することです。

数式 13

ピーク電力入力トラッキング電圧の最大値と最小値を確認します。

数式 14

抵抗値を選択する第5のステップは、RSHDN1とRSHDN2で構成されるVSHDN分圧器ネットワークを定めることです。VSHDNの立上がり閾値は1.2V ± 50mVで120mVのヒステリシスがあります。分圧器ネットワークは、VINピンの電圧がVREG(MIN)の場合にVSHDNが取りうる最大値となるよう設定する必要があります。

数式 15

これで、VSHDNの各制限値は以下のように定まります。

数式 16

LT3652は、検出したバッテリ電圧が非常に低い場合、自動的にバッテリ・プレコンディション・モードになります。このモードでは、充電電流は電流検出抵抗RSENSEで設定される最大値の15%に減少します。バッテリ電圧が完全充電時のフロート電圧(VFB = 2.3V)の70%に達すると、LT3652は自動的に最大充電電流を完全な設定値まで増加します。プレコンディション・モードと最大充電電流の間のバッテリ電圧閾値レベルは、次のようにして定めます。

数式 17

効率を0.85とし、電流制御されたVINの範囲についてPINをプロットします。これがレギュレーションされたVINつまりVREGの電力ラインです。VREG電力ラインとソーラー・パネル電力曲線との交点が動作点です。充電が進むにつれVREG電力ラインの傾きは増加しますが、これは、出力電力の増加に対応するためには入力電力が増加する必要があることを示すものです。VREG電力ラインの交点は、チャージャが定電流モードを終了するまで、ソーラー・パネルの電力曲線に沿って続きます。

プロットの結果を図4に示します。

動作中の回路

図4は、光強度レベルが100W/m2~1000W/m2の範囲を100W/m2刻みで変化した場合の、ソーラー・パネルの出力電力をプロットしたものです。光強度が最大(図4の最上位の曲線)で、バッテリ電圧がプレコンディショニング・レベル(2A時のVBAT(MIN))よりわずかに高い場合、ソーラー・パネルはチャージャが必要とする電力よりも高い電力を発生しています。ソーラー・パネルの電圧は、VREG制御電圧よりも増加し、定電力ラインがその光強度レベルの光・電力強度曲線と交差するまで増加を続けます(図4のポイントA)。バッテリ充電が進むにつれ、入力電力が増加し、ソーラー・パネルの動作点は、バッテリがフル充電になるまで光・電力強度曲線を上方に移動します(ポイントB)。LT3652は定電流モードから定電圧モードに遷移し、充電電流は減少します。ソーラー・パネルの動作点は光・電力強度曲線を開回路電圧(ポイントC)に向かって再度下方に移動し、バッテリは最終フロート電圧に達します。

バッテリの充電中に光強度が減少した場合、動作点はそのバッテリ電圧の定電力ラインを横切って新たな電力強度曲線に達するまで移動します。更に光強度レベルが減少し続けると、動作点はこの定電力ラインに沿って移動し、それはVREG電力ラインに達するまで続きます。この時点で、充電電流は動作点が光・電力強度曲線とVREG電力ラインの交点に達するまで減少しています(照度が800W/m2の場合のVBAT(FLOAT)での定電流充電のポイントD)。この光強度レベルでバッテリが充電を続けると、動作点はバッテリがフル充電になるまでこの新しい光・電力強度曲線に沿って移動します。

暗くなると、動作点は充電電流が停止するまでVREG電力ラインを下方に移動し(ポイントE)、ソーラー・パネルの出力電圧がSHDN立下がり閾値未満に低下して、その時点でLT3652はオフになります。

出力インダクタ、キャッチ整流器、タイマー・コンデンサの選択など、その他の設計要素の概要については、LT3652のデータシートの設計手順やPCBレイアウトに関する検討事項に記載されています。

単結晶太陽電池の場合、最大電力電圧の温度係数は–0.37%/Kであり、最大電力レベルの温度係数は–0.47%/Kです。これは、直列抵抗と直列NTCサーミスタを組み合わせてRIN1とすることで補償できます。RIN1を構成する2つの部品の比とRIN2の値は、VINが適切な負の温度係数を持ちながらもVINの制御範囲を維持できるよう、調整する必要があります。

数式 18

まとめ

LT3652の入力電圧レギュレーション・ループには、ソーラー・パネルの電力特性における最大電力動作点を追求する能力があるため、ソーラー・パネルの出力をフルに利用できます。フロート電圧レギュレーションと調整可能な充電電流により、LT3652は多くのバッテリ・ケミストリに使用でき、汎用性のあるバッテリ・チャージャが実現可能です。広い入力電圧範囲、フル充電バッテリを維持する自動再充電サイクル、バッテリ・プレコンディショニング・モード、NTC温度検出、選択可能なC/10または時間制御による充電終了、FAULTピンおよび充電ステータス・ピンなど、様々な機能がLT3652のフル機能セットを構成しています。LT3652は、露出パッド付きの3mm × 3mm 12ピン・プラスチックDFNパッケージに収められています。

Jim-Drew

Jim Drew

Jim Drew。2007年アナログ・デバイセズに入社。同社ボストン(マサチューセッツ州)の設計センターでシニア・アプリケーション・エンジニアとして勤務。アプリケーション固有パワーICのアプリケーション・サポートを担当ソーラー電力、エナジー・ハーベスティング、スーパーキャパシタ・チャージャ・アクティブ・バッテリ・バランシングなどを対象とするパワー・コンディショニング・アプリケーションに関心を持つ。これまで、EMC、Hewlett Packard、Compaq、Digital Equipment Corporationでコンサルティング・エンジニアとして勤務、パワー・システムの開発に従事。また、2017年に退職後、マサチューセッツ大学ローウェル校電子工学科の非常勤講師として教鞭をとる。ローウェル工科大学(Lowell Technical Institute、現在はマサチューセッツ大学ローウェル校)でBSEEおよびMSEEの学位を取得。