重要な意味を持つ短パルス

スイッチング方式のDC/DCコンバータで使用するスイッチング・パルスについては、デューティ・サイクルの最大値に関する制限があります。それについての解説は別の機会に譲ることとし、本稿ではパワー・マネージメントに関するヒントとして、デューティ・サイクルの最小値に注目することにします。

スイッチング方式の降圧レギュレータ(降圧コンバータ)の場合、連続導通モード(CCM:Continuous-conduction Mode)におけるデューティ・サイクルは、出力電圧を入力電圧で割った値に相当します。例えば、出力電圧が入力電圧の1/2であるとすると、デューティ・サイクルは50%になります。現実のコンポーネントやそれに付随する寄生損失が存在することから、実際のデューティ・サイクルはやや異なる値になります。とはいえ、この簡単なデューティ・サイクルの計算方法は、近似手法として十分に役に立ちます。

この計算方法に基づくと、5Vの電源電圧を基に1Vの出力電圧を得る場合、デューティ・サイクルは20%になります。図1は、アナログ・デバイセズの「ADP2389」を使用して構成した降圧コンバータのトポロジを示したものです。この降圧コンバータでは、最高2.2MHzのスイッチング周波数を使用できます。図2には、その動作を表す時間領域の波形を示しました。スイッチング周波数が2.2MHzの場合、周期Tは約450ナノ秒しかないことがわかります。

図1.典型的なスイッチング方式の降圧コンバータ。例として、最大出力電流が12AのADP2389を使用しています。

図1.典型的なスイッチング方式の降圧コンバータ。例として、最大出力電流が12AのADP2389を使用しています。

図2. スイッチング周波数が2.2MHzの場合の最小オン時間

図2. スイッチング周波数が2.2MHzの場合の最小オン時間

ADP2389の最小オン時間は100ナノ秒です。そのため、2.2MHzのスイッチング周波数を使用して5Vから1Vへの変換を行うことはできません。5Vから1Vへの変換を行う場合、デューティ・サイクルを20%に設定する必要があります。その場合、450ナノ秒の周期に対し、オン時間は90ナノ秒でなければなりません。この90ナノ秒という値は、ADP2389で規定された最小オン時間を下回っています。

それでも、5Vから1Vへの変換にADP2389を使用したい場合には、スイッチング周波数を遅くすることになります。そうすれば、周期Tは図2の例よりも長くなり、最小オン時間が100ナノ秒であっても、20%のデューティ・サイクルを実現できます。例えば、スイッチング周波数を2MHzに設定すると、周期は500ナノ秒になります。20%のデューティ・サイクルを実現したい場合、オン時間は100ナノ秒です。これであれば、ADP2389でも対応できます。

ところで、入力電圧と出力電圧の割合を制限してしまう最小オン時間は、なぜ存在するのでしょうか。多くの場合、スイッチング方式のレギュレータでは、オン時間の間にインダクタの電流を測定します。この電流値は、過電流保護のために使用されます。また、レギュレータを電流の閉ループ制御の原理(電流モード制御)に基づいて動作させるためにも使われます。更には、ループによるレギュレーションにも使用されます。スイッチングによる偏移の後、生成されたノイズは、高精度の電流測定が行われる前に減少していなければなりません。それには、一定の時間(ブランキング時間)が必要になります。特に、数MHzという高速のスイッチング周波数を使用する場合には、最小オン時間はより大きな役割を担います。そのため、非常に短い最小オン時間を実現できる回路が開発されています。

降圧コンバータで高い入力電圧から低い出力電圧を得る場合には、デューティ・サイクルを小さな値に設定する必要があります。その場合、どれだけ短い最小オン時間が許容されるのかということが非常に重要になります。最小オン時間は、スイッチング方式のレギュレータで使用可能な最高スイッチング周波数を決める要素になり得るからです。

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalは、ドイツのエアランゲン・ニュルンベルク大学でマイクロエレクトロニクスについて学びました。2001年にパワー・マネージメント事業の分野で働き始め、アリゾナ州フェニックスで4年間にわたってスイッチング電源を担当したほか、さまざまなアプリケーション分野の業務に携わってきました。2009年にADIに入社し、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでパワー・マネージメントのフィールド・アプリケーション・エンジニアとして従事しています。