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変化し続ける産業:信頼できる産業用オートメーションの実現を図る
技術は歩みを止めることなく進化していきます。一方で、製造プロセスやプラントに対してはさらなる効率化が求められています。結果として、産業分野の設備には、かつてないレベルの変化がもたらされようとしています。例えば、オートメーション設備の増加、精度の向上、利用可能なデータ量の増加といった変化が生じています。
そうした変化は、インダストリ4.0の実現につながるものです。生産性、安全性、信頼性を高めつつ、不利益につながる排出物の量を低減することにより、メーカーには世界市場において競争していくための多大な能力と機会がもたらされます。例えば、オートメーション装置のメーカーは、今後10年の間に約6兆5000億米ドル(約700兆円)以上のビジネス・チャンスを得ることになります。
眼の前に非常に魅力的なビジネス・チャンスがあるわけですが、実は乗り越えなければならない大きな障壁も存在します。例えば、古くから保守的な産業界では、新しい技術の導入が遅々として進まない可能性があります。オートメーションを適用した今日の工場では、新旧のシステムが混在し、システム間の通信が複雑になっているケースが少なくありません。以前からそうですが、既存のインフラでは、ネットワークのエッジで取得したデータを安全に伝送することがほぼ不可能です。要するに、工場やプラントにおいてシステムの移行を図るのは容易ではないということです。そのため、移行の実現には、ある程度の期間を要します。
求められる移行を実現/促進するために、オートメーション分野のベンダーは、アナログ・デバイセズのような技術パートナーやサプライヤに、システム関連の専門技術やソリューションの提供を求めています。
変化し続ける産業:信頼できる産業用オートメーションの実現を図る
産業用イーサネットは、制御アプリケーションで既に広く使われています。企業/市場がインダストリ4.0に向けた移行を進めるにつれ、望ましい通信媒体としてさらに普及していくでしょう。
それにあたっては、イーサネットを介した通信の確定性が1つの課題になります。この課題を解決するために、多くのプロトコルは、プロプラエタリなレイヤ2のソリューションを採用しています。しかし、その方法では、エンタープライズ向けネットワークの高位レベルで使用するために何らかのデータを抽出しようとする場合や、異なる製造ノード間の調整を図ろうとする場合に、相互運用性の面で重要な問題が生じる恐れがあります。IEEE 802.1 TSN(Time Sensitive Networking)という新たな規格は、産業分野の制御アプリケーションで遭遇するその種の問題を解決することを目的としたものです。同規格は、プロプライエタリなソリューションから、規格に基づくアプローチへの移行を可能にします。
従来のイーサネットは、ベストエフォート型のネットワーク規格です。そのため、ミッション・クリティカルなアプリケーションで利用できるようにするには、時間同期、トラフィックのスケジューリング、入力データ量の統制、シームレスな冗長性といった機能を追加する必要があります。TSNという新たな規格の目標は、あらゆる種類のトラフィックがシームレスに共存する真のコンバージド・ネットワーク(収束/集中/統合されたネットワーク)を実現することです。そうすれば、リアルタイム対応が必要でミッション・クリティカルなトラフィックを、ストリーミング型のトラフィックやベストエフォート型のトラフィックと同じネットワーク上で扱うことができます。また、トポロジ全体でいつでも時間どおりに特定の種類のトラフィックを扱えるようにネットワークを設計することが可能になります。TSNの各機能は、プロプライエタリなレイヤ2のソリューションとは異なり、1Gbps以上のライン・レートに拡張できるように設計されています。
TSNを推進するIIC(Industrial Internet Consortium)の主要メンバー兼コントリビュータであるInnovasicの買収
TSNを採用することにより、信頼性が高くインダストリ4.0に対応するエンタープライズ向けのコンバージド・ネットワークを実現することができます。ただし、そのネットワークにエッジ・デバイスを接続するにあたっては、解消すべき数多くの課題が存在します。現在、エッジ・デバイスで使われている通信技術(フィールドバスや、4mA~20mAの電流ループなど)は、高い信頼性で適切に動作します。しかし、それらのエッジ・デバイスからクラウド(ローカルまたはリモート)にデータを送信しようとすると、工場の製造フロアから事務所までの経路上にある多数の通信レイヤが処理の妨げになることが少なくありません。例えば、通常はプロトコルの形式を別の形式に変換するためのゲートウェイが必要になります。また、分析が実行される場所に到達するまでに、それらのデータは複数のサーバ上に格納される可能性があります。
シンプルなセンサーからクラウドにデータを伝送するためにかかる総所有コストは、データの伝送に必要な装置のコストだけで済むわけではありません。その伝送過程においてデータの完全性を確保するために必要なソフトウェアや処理にも、コストはかかります。もちろん、人件費も発生します。
温度トランスミッタのようなシンプルなデバイスにイーサネットを持ち込むのは、大仰であるようにも思えます。しかし、デバイスがシンプルであることや、生成/消費されるデータの量が少ないといったことは重要ではありません。問題は、コンバージド・ネットワーク上のデバイスから高いコスト効率でデータを抽出し、それらのデータを使って直ちに活用可能な結果を得ることができるのかということです。例えば、分散制御システムでは、温度トランスミッタからのデータを使用することにより、一部のプロセスが適切な制御に基づいて実行されているか否かをリアルタイムに確認することができます。ただ、その温度の情報はプロセス全体に影響を及ぼすものであるケースも存在します。そのような場合、温度トランスミッタがクラウドにシームレスに接続されていれば、リアルタイムに近い状態ですべてのプロセス・パラメータについて温度を考慮して分析を実施することができます。そうした調整を加えることにより、製造の最適化やエネルギー効率の向上を図ることが可能になります。
アナログ・デバイセズは、こうした課題を解決することが、顧客を成功に導くための鍵になると考えています。また、それは、イーサネットの適用場所をエッジまで拡大するために最先端の技術に投資することの動機づけになると捉えています。当社が「Low Complexity Ethernet」と呼んでいる1つの主要な技術が、温度トランスミッタなどのシンプルな産業用デバイスを、イーサネットをベースとするネットワークに直接接続する取り組みの推進力となっています。
先述したように、イーサネットをベースとするケースでは、レイヤ2の実装によって実用上の問題に対応していました。ただ、その方法は、サイズ、消費電力、コストの問題を抱えていました。Low Complexity Ethernetは、それらの問題を解決し、データをクラウドに送信するためにかかる総所有コストの低減に貢献します。
産業用イーサネットを採用したコンバージド・ネットワークに移行するには、物理層におけるイノベーションも必要になります。新たなシステムでは、既存のシステムが備える一部の本質的な機能に相当するソリューションを実現しなければなりません。ただ、広く採用されているイーサネットの物理層の規格では、ケーブル長が100mまでに制限されています。また、複数のツイストペア・ケーブルを使用することが求められています。一方、既存のオートメーション設備の場合、多くのネットワーク・インフラでは、データ・レートが31.25kbpsで1000m以上まで延長が可能な1本のツイストペア・ケーブルを基盤として実装が行われています。アナログ・デバイセズは、この問題に対処するために、IEEEの後援の下、主要なパートナー企業らと協力して新たなイーサネット規格の策定に取り組んでいます。そのIEEE 802.3cgi 10SPEという規格では、最長1000mの1本のツイストペア・ケーブルを使用し、10Mbpsのデータ・レートに対応する予定です。規格に基づく協調的なアプローチによって問題を解決することにより、当社は、プラント全体を網羅するコンバージド・ネットワークを導入する際のハードルを引き下げるべく尽力しています。加えて、短期間のうちにそうしたネットワークを導入できるよう支援しています。
現在は、イーサネットのコンバージェンスを実現する新たな機能が開発されている段階です。その一方で、既に100Mbpsの確定的なイーサネットを利用しているアプリケーションも存在します。それによって、帯域幅と性能の限界が押し上げられています。ロボット工学などのアプリケーションでは、従来以上に高い精度でより多くの軸を制御することが求められます。制御用のネットワークの速度がギガビットのレベルまで進化すれば、そうした要件が満たされることに加え、産業用イーサネットの市場に重要なトレンドが新たにもたらされます。
イーサネットがあまりにも急速なペースで成長したことから、イーサネット技術を利用する多くのユーザは困難に直面することになりました。アプリケーションで求められるセキュリティの問題を解決しなければならなくなったのです。産業用ネットワークのエッジにおけるデータとセンシングに対しては、需要が大いに増加すると予想されています。しかし、セキュリティに関する懸念が原因で、その需要が抑えられてしまうかもしれません。また、産業分野の制御アプリケーションで求められる遅延とジッタの要件は、セキュリティの要件と直接的に相反する可能性もあります。こうしたアプリケーションにおける性能とセキュリティの問題をできるだけ早期に解決することが、イーサネット技術を利用する企業の責務になっています。
Sypris Electronicsのセキュリティ部門(SCIOMetrics)の買収
産業界では、サイバー・セキュリティのリスクに対する懸念が日に日に高まっています。インダストリ4.0やIIoT(IndustrialInternet of Things)に注目が集まるに伴い、産業界では、広く分散配備されたデバイス、ダイナミックな情報の流れ、環境全体を網羅する接続性を使って新しい機能が定義されるようになりました。しかし、新しい機能と共に、新しいセキュリティ上の脅威が創出されるのは誰もが知るところです。その脅威は、それまで考えもしなかったものである一方で、かつてないほど現実的に目の前に迫ってきます。
ネットワークに安全に接続しなければならないデバイスの数を考えれば、それらのデバイスのアイデンティティをいかに確立するのかということが問題になるのは明らかです。暗号化共有鍵を物理的に配布していたのではすぐに対応できなくなり、証明書の交換について管理する作業は物流における悪夢になってしまいます。インダストリ4.0に基づく信頼性の高いエンタープライズ・システムというビジョンの実現には、鍵を使うことなくアイデンティティを確立するということが必須です。同様に、ネットワークのエッジに制約の大きいデバイスを安全に接続するためには、小さな固定値の遅延しか発生しない軽量な暗号化技術と、フットプリントの小さいハードウェア/ソフトウェアが必要になります。アナログ・デバイセズは、こうした重要な問題の解決に取り組んでいます。具体的には、リソースが限られるデバイスのアイデンティティ認証/セキュリティ向けのソリューションや、軽量なブロック暗号化などの技術開発に注力しています。
結論
アナログ・デバイセズの産業用オートメーション・グループは、ネットワークのエッジにおけるセンシング、制御、監視、堅牢なリアルタイム通信といった分野を対象として業界をリードするソリューションを提供しています。それに向けて、当社は、セキュリティ/認証、機能安全/本質安全、マルチプロトコルのサポートといった技術の開発と企業の買収を進めてきました。そのようにして築き上げた強力な協調体制により、センサーからクラウドまで一貫して高い信頼性が確保されたIIoT対応のコネクテッド・エンタープライズ・システムへの移行を実現/促進していきます。
参考資料
1 Thomas Brand「Fido5000: One Chip, Many Ethernet Proto -cols(Fido5000:1つのチップで多数のイーサネット・プロトコルに対応)」 Analog Devices、2017年11月
Tom Meany「functional-safety-and-industry-4.0」Analog Devices、2017年3月
Tom Meany「Functional Safety for Integrated Circuits(ICの機能安全)」Analog Devices、2017年2月