Thought Leadership
5GとDSRCの連携により、 自動運転車向けのV2Xを構築する
概要
より高度な自動運転車を実現するためには、車両に通信機能を持たせることが不可欠です。しかし、自動車業界では、現在でもワイヤレス・アクセスの実現手段に関する検討が続けられています。すなわち、セルラ・ベースのアクセス技術を使用するべきなのか、それともダイレクト・アクセス技術を使用すべきなのか、いまだに結論が出ていないということです。前者の技術は、C-V2X(Cellular Vehicle to Everything)と呼ばれています。一方、後者の技術はDSRC(Dedicated Short Range Communication:専用狭域通信)として知られています。本稿では、まず、自動運転の将来的なユース・ケースに対応するためには、それら両方の技術を協調/連携させる必要があるということを明らかにします。例えば、最先端かつ複数のワイヤレス規格に準拠する機器は、それぞれの規格に対応するための複数のモジュールを搭載しています。そのような協調型のシステムは、それぞれのワイヤレス機能(モジュール)の間でやり取りを行うための標準的なインターフェースが存在しなければ実現するのが難しいでしょう。本稿では、デュアルバンド、デュアルワイヤレス規格に対応する車載通信システムを実現するための1チップ・ソリューションを紹介します。そのICを使用すれば、複数の周波数帯を使用して同時に送受信を行うことができます。車載向けのデバイスとしての認定は得ていませんが、自動車メーカーは、そのICで使われている技術を活用することで、製品の差別化を図り、サービス品質を向上するための制御機能を強化することができます。
はじめに
本稿では、V2X(Vehicle to Everything)を実現する機器の開発に注目します。V2Xを利用するアプリケーションのシナリオを概観した上で、V2Xの通信を実現するために使用可能な2つのワイヤレス・アクセス技術を紹介することにします。最初にV2Xの概要を押さえておけば、C-V2Xについての理解が進むはずです。C-V2Xは、セルラ・ネットワークを利用してV2Xの通信を制御するというものです。この技術を利用すれば、免許不要/専用の周波数帯において、DSRCやIEEE 802.11pといった他のワイヤレス・アクセス技術を補完することができます。それに向けては、ユース・ケースに求められる要件と、複数のアクセス技術の利点を活用する必要性を関連づけなければなりません。現在、複数の標準技術に対応するV2X機器は、それぞれの技術に対応する個別のソフトウェア/ファームウェアを実装した複数のモジュールを使用することによって実現されています。しかし、その方法を採用すると、複数のアクセス技術の協調/連携について制約が生じてしまいます(詳細は後述)。アナログ・デバイセズは、RadioVerse®のポートフォリオに含まれる製品の1つとして「ADRV9026」を提供しています。同製品は、サブ6GHzの周波数帯に対応可能な無線トランシーバーICです。マルチチャンネル/マルチバンドに対応する同ICを使うことにより、マルチバンドの通信に対応するV2X機器を実現することができます。
車両とあらゆるモノをつなぐV2X通信
自動車業界は、あらゆる走行シナリオ、操作、状況に対応できる完全な自動化を実現すべく技術革新を急速に進めています。なかでも、ワイヤレス接続技術は急速な進化を遂げています。同技術は、完全な自動化はもちろん、より低レベルの自動化を実現する上でも基盤になるからです。このことについては、疑問の余地はありません。自動運転車向けの多くのアプリケーションの中でも安全性が非常に重視されるものは、ワイヤレス接続に特に強く依存しています。走行空間や交通システムを共有するエンティティ(実体、モノ)が存在する際には、究極(99.999%)の信頼性が保証された状態で安全な操作が行われるようにすることが不可欠です。そのようなエンティティの例としては、他の車両、人、道路上の輸送システム、交通管理用のネットワークなどが挙げられます。システム内に存在するエンティティとの情報交換、協調、連携を実現するためには、すべての車両にワイヤレス接続機器を配備することが不可欠です。
上記のようなことを目的として、ETSI(欧州電気通信標準化機構)をはじめとする欧州の運営組織は、高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport System)の基礎を築きました。同様のシステムは、米州やアジア太平洋地域など、世界各地で開発されています。ITSでは、多様なアプリケーションとユース・ケースに対応できるように、通信ノード、アーキテクチャ、プロトコル、メッセージなどについての定義が行われています。ただ、免許不要/専用の周波数帯を使用するDSRCベースのアプリケーションを強化するためには、新たなインフラが必要です。インフラを配備するプロセスは、スマート・ハイウェイやスマート・シティの構想の下、既に多くの地域で活発に進められています。一方、C-V2Xでは、既存のセルラ・システムのインフラを使用します。図1は、ITSに対応する車両が他の車両をはじめとするエンティティと通信するためのインターフェースについてまとめたものです。以下、各インターフェースの概要について説明します。
V2V(Vehicle to Vehicle:車車間)通信: 当初、V2V 通信はブロードキャスト・メッセージ専用のものとして使われていました。ただ、現在の車両はユニキャスト/マルチキャストのメッセージを送出することもできます。このインターフェースは、通信範囲内の車両から別の車両に対してあらゆる情報を直接伝達するために使用することができます。例えば、緊急ブレーキをかける場合などに使用されます。
V2P(Vehicle to Pedestrian:歩車間)通信: スマートフォンに V2X アプリケーションがインストールされている場合、このインターフェースを使用することで車両と歩行者の間で通信を行うことができます。例えば、車両が交通弱者に接近している場合に警告を発するといったことが可能になります。
V2N(Vehicle to Network:車ネットワーク間)/V2I(Vehicle to Infrastructure:路車間)通信:これらのインターフェースは、スマート輸送を促進するためのあらゆる情報の伝達に使用できます。
V2X向けのワイヤレス・アクセス技術
図2に示したのは、ITSの全体を構成する階層アーキテクチャです。最上位のアプリケーション層には、緊急ブレーキ時の警告、交差点における衝突の回避、交通信号の周期といったユース・ケースを定義するための要素が含まれています1。それ以外の層は、測位/位置情報、認識メッセージ、通知などに関する情報や通信サポート・サービスを提供します。それぞれのプロトコルに即したメッセージは、ワイヤレス技術を使って無線で送信する必要があります。
米国では、車両通信向けのDSRCが既に確立されています。欧州では、同じことを目的としてIEEE 802.11pに基づくワイヤレス・アクセス技術が確立されています。但し、それらの技術は、アドホックな通信向けのWi-Fi規格であるIEEE 802.11xに基づいて開発されました2。そのため、通信距離が限られています。加えて、他のWi-Fiベースのシステムと同様に、輻輳やサービス品質(QoS)の問題に直面します。更に、交通管理用のサーバのカバー範囲を確保するためには、インフラを路側に配備するために多額の投資を行わなければなりません。セルラ型の通信システム(公衆陸上移動体通信網)によるワイヤレス・アクセスは、そうしたカバー範囲やQoSの問題に対する解決策となります。セルラ・ネットワークは、既にほとんどの道路をカバーしています。また、ネットワークによるスケジューリング制御が適用されるワイヤレス・アクセスを利用できます。そのため、輻輳や通話の中断を回避しつつ、QoSを保証することが可能です。
V2Xのサービスは、既に4G LTEのセルラ・システム規格に基づいて提供されています3。ただ、4G LTEをベースとするサービスは、主に基本的な安全性に関するユース・ケースを対象にしています。一方、5Gをベースとする技術は、より安全性が重視され、高い信頼性が求められるユース・ケースを対象としています。C-V2Xという用語は、4G LTEであるか5Gであるかに関わらず、モバイル・ネットワークによって提供されるV2Xサービスに対して使用されます。車両通信システムの全体像については、様々な地域だけでなく、様々な周波数帯において複数の技術や規格が必要になる可能性があると考えられています。実際に様々な地域、様々な規格、様々な周波数帯について考慮すると、システムの全体像はより複雑になります。
C-V2Xの実現形態
モバイル・ネットワークの事業者にとって、セルラ・ネットワークのカバー範囲を100%にするのは容易なことではありません。一方で、カバー範囲に穴があるという事実は、コネクテッド運転/自動運転を実現するにあたり、道路の穴よりも大きな問題になる可能性があります。そのため、C-V2Xには、ネットワークのカバー範囲外でも働く強化機能が設けられます。図3(a)は、セルラ・ネットワークのカバー範囲内で車両が通信を行っている状況を表しています。車両の通信方法には、以下に示す2つの選択肢があります。
選択肢 1: 従来の Uu インターフェース(端末と無線基地局間の無線リンクにちなみ 3GPP が命名)を使用する方法です。セルラ・ネットワークは、V2X における 2 つの通信ノード間のやり取りに関与します。
選択肢 2: PC5 と呼ばれる新たなインターフェースを使用する方法であり、V2X のノード間で直接通信する機能を提供します。サイドリンク(SL:Sidelink)通信とも呼ばれます。
図3(b)は、セルラ・ネットワークのカバー範囲外で通信を行う様子を示したものです。この場合も、インターフェースとしてPC5を使用すれば、V2Xのノード間で通信を行うことが可能です。カバー範囲内にある場合、ネットワークは割り当てられた任意のセルラ帯域を使用することができます。次のセクションでは、ネットワークのカバー範囲外においては、どのような帯域が使用されるのかということについて説明します。
V2Xの同時運用に向けたバンド構成 | Exclusive Only for 5G NR |
LTE 4G/5G NRまたは V2Xの運用バンド | インターフェース | 運用バンド アップリンク(UL): BSが受信、UEが送信 ダウンリンク(DL): BSが送信、UEが受信 |
二重化モード | |
Flow | Fhigh | |||||
V2X_34-47 | 34 | Uu | 2010MHz | 2025MHz | TDD | |
47 | PC5 | 5855MHz | 5925MHz | HD | ||
V2X_39-47 | 39 | Uu | 1880MHz | 1920MHz | TDD | |
47 | PC5 | 5855MHz | 5925MHz | HD | ||
V2X_41-47 | 41 | Uu | 2496MHz | 2690MHz | TDD | |
47 | PC5 | 5855MHz | 5925MHz | HD | ||
V2X_38-47 | ✔ | 38 | Uu | 2570MHz | 2620MHz | TDD |
47 | PC5 | 5855MHz | 5925MHz | HD | ||
V2X_48-47 | ✔ | 48 | Uu | 3550MHz | 3700MHz | TDD |
47 | PC5 | 5855MHz | 5925MHz | HD | ||
V2X_79-47 | ✔ | 79 | Uu | 4400MHz | 5000MHz | TDD |
47 | PC5 | 5855MHz | 5925MHz | HD |
V2Xにおける周波数割り当て
欧州では、車両通信専用に5.9GHzの周波数帯、70MHzの帯域幅が割り当てられています4。世界的にも、この周波数を割り当てる取り組みが進んでいます。また、この周波数帯でITS-G5(Wi-FiベースのV2V通信規格)とC-V2Xを使用できるようにするための調和作業も進行中です。C-V2Xについて言えば、既にPC5とUuを組み合わせて複数の周波数帯が使用できるようになっています。また、セルラ規格について言えば、V2X向けにデュアルバンドの同時運用についての検討が行われています。3GPPの仕様5、6に基づき、V2Xのサービスを同時に運用する際には、2つの周波数帯(バンド)を組み合わせて使用することになります。表1に、その組み合わせの例を示しました。ここでは、4G LTEまたは5G NR(New Radio)をベースとするセルラ方式の無線アクセス技術を使用する例を取り上げています。濃い灰色で網掛けした行は、5G NRのみに対応しています。
デュアルバンド、デュアルRATのV2Xシステム
複数の無線アクセス技術(RAT:Radio Access Technology)が存在し、通信を実現できる複数の周波数帯が存在する可能性がある場合、自動車メーカーはそれらのうちどれを採用するのかを決定する必要があります。米国の場合、FCC(連邦通信委員会)はDSRCベースのワイヤレス・アクセスを使用する方向に傾いています(本稿執筆時点)7、8。一方、アジア太平洋地域では、C-V2Xの開発と導入を歓迎しています9。そして欧州は、RATについては中立的な立場を保つという考え方を示しています10。この件に関しては、ITS-G5/DSRCがC-V2Xにもたらすメリットについて説明する調査結果がいくつか発表されています。同様に、C-V2XがITS-G5にもたらすメリットについて説明している調査結果も存在します。実際、自動車業界も通信業界も、V2Xのサービスが、免許取得済みの周波数帯だけでなく、免許不要の周波数帯でも、RATによってもたらされるメリットを活用できるようにしたいと考えています。そして両業界は、そのためのソリューションの開発に取り組んでいます11。
図4は、図2のアクセス層に修正を加えたものです。無線アクセスとパケット・アクセスの間に新たなサブレイヤを導入することで、アクセス層についてより詳しく説明しています。このサブレイヤは、ワイヤレス・アクセス管理(WAM:Wireless Access Management)層と呼ばれています。その役割は、無線のレベルに対し、ネットワークから、最適化されたV2Xサービスを提供できるようにすることです。それにより、ユース・ケース(遅延の要件、QoSなど)、トラフィック(輻輳)、リンク(無線品質)の状況に応じ、様々なRATを選択して協調(ダイバーシティ)/連携(より高いスループット)を図ることが可能になります。例えば、メッセージを送信する際にITS-G5の無線インターフェースにおいて輻輳が検出された場合には、C-V2Xを使用し、そのメッセージをPC5で送信するといった具合です。それにより、ダイバーシティ・ゲインが得られ、信頼性を確保することが可能になります。例えば、車両が地図に関する高密度のデータを交換しなければならないというユース・ケースが存在したとします。その際に必要となる高いスループットを実現するために、UuのインターフェースをPC5やITS-G5と連携させて使用するといったことも行えます。
稿末の参考資料12、13に挙げたIEEEの投稿論文では、解析やシミュレーションといった技法を活用し、図4に示したのと同様の概念がもたらすメリットについて非常に詳しく説明しています。表1に示したように、セルラ・システムの標準化団体は、C-V2Xの枠組みにおいて、5.9GHz帯を使用するPC5/ITS-G5と4G LTE Uu/5G NR Uuの同時運用について既に検討しています。標準化団体や産業分野の研究団体は、先述した同時運用の概念や複数のバンドを使用する同時運用によって、デュアルバンド/デュアルRATのV2Xシステムの基盤を既に構築済みだと言えます。自動車業界には、デュアルバンド/デュアルRATのV2Xがもたらすメリットを活用可能な最適化されたハードウェア/実装を見いだすことが求められています。
ADRV9026――将来のV2Xシステムに向けた1チップのRF IC
ワイヤレス機器の多くは、既に複数のワイヤレス規格に対応できるように設計されています。それぞれの規格への対応は、独自のモジュールやハードウェアを使用して実装することで実現されています。通常、それらのモジュールは、RFのレベルからアプリケーション層までを網羅するソリューションとして提供されます。ただ、このようなアーキテクチャによって、デュアルバンドのV2Xシステムを実装し、協調と連携の仕組みを実現するのは容易ではありません。なぜなら、そうしたモジュールのメーカー/ベンダーは、複数の規格の間で協調や連携を実装するために必要な、中間層にアクセスするための自由度は提供していないからです。現在利用が可能なワイヤレス・モジュールを採用して必要な実装を行うには、標準的な外部インターフェースが提供されていなければなりません。
求められているシステムを実現するための設計としては、どのようなものが考えられるでしょうか。その答えの1つが、ソフトウェア無線(SDR:Software-defined Radio)の考え方を具現化する無線トランスミッタ/レシーバーを使用するというものです。そうすれば、あらゆるステージのデジタル・データにアクセスし、必要な処理を実行できるだけの完全な自由度が得られます。アナログ・デバイセズが提供するRadioVerseのポートフォリオには、広帯域に対応する多くの無線トランシーバー製品が含まれています。それらの製品を使用すれば、あらゆるRF信号をビット・データに、あらゆるビット・データをRF信号に変換することが可能です。RF帯域とベースバンドの間の信号変換は、ZIF(Zero Intermediate Frequency)アーキテクチャに基づいて行われます。この方式では、基本的にはすべての回路が非常に狭い帯域幅で動作します。そのため、ダイレクトRFサンプリングに基づく変換方法と比べて、はるかに少ない電力しか消費しません。また、ZIFアーキテクチャでは、トランスミッタとレシーバーの両方でフィルタ処理に関する要件が緩和されます。結果として、RFフロント・エンドを非常にシンプルに低コストで実現することが可能になります。
ADRV9026は、1つのチップ内にあらゆる機能を集積したRF ICです。この製品により、RadioVerseのポートフォリオはデュアルバンドのSDRを網羅するよう拡張されました。ADRV9026では、4つの送信チャンネルと4つの受信チャンネルを独立してプログラムしたり制御したりすることができます。また、75MHz~6GHzのキャリア周波数の送受信に対応可能です。受信帯域幅は最高200MHz、トランスミッタの合成帯域幅は最高450MHzです。オンチップのオブザベーション・パスは、それぞれ最高450MHzの帯域幅を備えており、大電力を出力する送信用パワー・アンプの線形化をサポートしています。ADRV9026の機能ブロック図を図5に示しました。
ADRV9026は、先進的なアーキテクチャを採用した局部発振器を備えています。そのため、6GHz未満の複数の周波数帯における同時送受信に対応できます。1個のADRV9026を使用するだけで、異なるバンド、異なるRATに対応した同時送受信を実現できるのです。例えば、図6に示したような組み合わせに対応できます。この図では、3とおりの組み合わせ方を例として示しました。ここで強調しておきたいのは、ADRV9026は、75MHz~6GHzのどの周波数帯でも優れた性能を発揮できるということです。同ICは、4つの独立したRFチャンネルを備えています。そのため、異なるバンドあるいはRATに対応して2×2のMIMOを実現するといったことも可能です。同ICを採用すれば、以下のような様々なメリットが得られます。
- C-V2X で対象とする任意のバンドを柔軟に選択することができます。この柔軟性に関して、認証のための追加のコストは生じません。
- 複数の RAT を連携させて使用するには、より高度な同期処理が必要になります。ADRV9026 を採用した場合、単一の RF IC によって 2 つのバンドを制御することになるので、そうした同期を実現するのは容易です。ADRV9026 を使用すれば、デュアルバンドの V2X システムをより容易に構築することができます。デュアルバンドに対応する V2X デバイスのアーキテクチャと設計については、別の記事で詳しく解説する予定です。
- ADRV9026 を使用する場合、RF 信号からビット・データへの変換をアンテナのすぐ近くで実施することができます。V2X で使用する 5.9GHz 帯では、同軸ケーブルにおける RF信号の損失が非常に大きくなります。アンテナの近くで変換を行えるということは、そのような損失を回避できるということを意味します。
- ADRV9026 は、ワイヤレス基地局で求められる RF 性能の要件を満たしています。一方、既存のワイヤレス・モジュールは、エンド・ユーザの端末向けに開発された ASIC をベースにしています。ADRV9026 を採用すれば、より高い RF 性能が得られ、小さな遅延、高い信頼性、高い QoS を実現することが可能です。より高いデータ・レートと無線スループットが得られることから、より高い安全性を実現でき、より優れた走行体験/乗車体験が得られるようになります。
- ADRV9026 を採用すれば、より高いデータ・レート、より小さな遅延を実現できます。そのため、ドライバや自動運転システムに対する反応が速くなり、安全に関連するユース・ケースにおけるより適切な対応が可能になります。大量のトラフィックが存在する状況では、免許不要/専用の無線リソースが輻輳の限界に達することがあります。先述したように、協調型/連携型のシステムは、スタンドアロンのシステムや単一アクセスのシステムと比べて、より高い信頼性を提供します。そのため、より厳しい安全基準を満たすことができます。
V2Xのユース・ケースに求められる要件を満たすには、コグニティブなインテリジェンスと、単一のRF ICのサポートによって実現される協調型/連携型の実装が必須です。アナログ・デバイセズは、ADRV9026などの単一デバイスによって必要な技術を提供します。
まとめ
本稿では、自動運転車の実現に不可欠なV2X通信技術の開発状況について説明しました。この分野には、V2Xのサービスの重要な要件を満たすために相互に補完し合うことが可能な2つのワイヤレス技術が存在します。すなわち、C-V2XとDSRC/ITS-G5の2つです。これらを連携させれば、免許取得済みの周波数帯にも、免許不要の周波数帯にも対応することができます。協調型/連携型のV2Xシステムの実現に向けては、様々な選択肢について検討する必要があります。アナログ・デバイセズは、デュアルバンド、デュアルワイヤレス規格をサポートする技術を保有しています。それらの技術は、ADRV9026によって提供しています。このRF IC製品は、より高いRF性能、より小さい遅延、より高いデータ・レート、より高い信頼性を実現します。本稿では、ADRV9026を採用した場合、V2X通信に対応する機器をどのように設計できるのかということも解説しました。それらの機器では、2つの異なる周波数帯を使用し、2つのV2X技術によって同時にワイヤレス・アクセスを実現することが可能になります。では、ADRV9026をベースとした設計を採用すると、マルチバンドのV2X通信をどのようにサポートすることができるのでしょうか。それについては、今後、別の記事で詳しく解説する予定です。
参考資料
1 ETSI TS 102 894-1 V1.1.1 (2013-08): Intelligent Transport Systems (ITS); Users and Applications Requirements; Part 1: Facility Layer Structure, Functional Requirements and Specifications(ETSI TS 102 894-1 V1.1.1 (2013-08): 高度道路情報システム(ITS);ユーザ/アプリケーションの要件;Part 1:ファシリティ層の構造、機能要件、仕様)、ETSI、2013年8月
2 Khadige Abboud、Hassan Aboubakr Omar、Weihua Zhuang「Interworking of DSRC and Cellular Network Technologies for V2X Communications: A Survey(調査結果:V2X通信のためのDSRCとセルラ・ネットワーク技術の連携)」IEEE Transactions on Vehicular Technology、Vol. 65、No. 12、2016年12月
3 3GPP TS 36.300 V15.7.0 (2019-09): 3rd Generation Partnership Project; Technical Specification Group Radio Access Network; Evolved Universal Terrestrial Radio Access (E-UTRA) and Evolved Universal Terrestrial Radio Access Network(E-UTRAN); Overall description; Stage 2 (Release 15)(3GPP TS 36.300 V15.7.0 (2019-09): 3GPP;無線アクセス・ネットワーク技術仕様グループ;進化型の全地球無線アクセス(E-UTRA)、そのネットワーク(E-UTRAN);概要説明;ステージ2(リリース15))
4 ETSI EN 302 571 V2.1.1 (2017-02) Intelligent Transport Systems (ITS); Radiocommunications Equipment Operating in the 5 855 MHz to 5 925 MHz Frequency Band; Harmonised Standard Covering the Essential Requirements of Article 3.2 of Directive 2014/53/EU(ETSI EN 302 571 V2.1.1 (2017-02) 高度道路情報システム(ITS);5855MHz~5925MHzの周波数帯に対応する無線通信設備;EU指令2014/53 3.2条の必須要件に関する整合規格)、ETSI、2017年2月.
5 3GPP TR 36.786 V14.0.0 (2017-03) Vehicle-to-Everything (V2X) Services Based on LTE; User Equipment (UE) Radio Transmission and Reception(3GPP TR 36.786 V14.0.0 (2017-03) LTEをベースとするV2X(Vehicle-to-Everything)サービス;ユーザ端末(UE)による無線送受信)
6 3GPP TR 38.886 V0.5.0 (2020-02) V2X Services Based on NR; User Equipment(UE) Radio Transmission and Reception(3GPP TR 38.886 V0.5.0 (2020-02) NRをベースとするV2Xサービス;ユーザ端末(UE)の無線送受信)
7 Fact Sheet-Use of the 5.850-5.925 GHz Band: Notice of Proposed Rulemaking-ET Docket No. 19-138(ファクトシート-5.850~5.925GHz帯の利用;規則制定告示-ET整理番号19-138) 、Federal Communications Commission、2019年11月
8 Dedicated Short Range Communications (DSRC) Service: Rule Part 47 C.F.R, Parts 90 and 95(専用狭域通信(DSRC)サービス:規則第47部C.F.R、第90部/第95部)、Federal Communications Commission、2019年4月
9 ITS Spectrum Utilization in the Asia Pacific Region(アジア太平洋地域におけるITSの周波数利用)、5G Automotive Association
10 Position Paper: Europe's Leadership in Connected and Automated Driving Depends on Technology-Neutral, Innovation-Oriented Policies(ポジション・ペーパー:コネクテッド運転/自動運転に対する欧州のリーダーシップは、技術的に中立でイノベーション指向の方針に依存)、5G Automotive Association、 2018年11月
11 5G Solutions for Future Connected Mobility(将来のコネクテッド・モビリティに向けた5Gのソリューション)、5G NetMobil
12 Richard Jacob、Norman Franchi、Gerhard Fettweis「Hybrid V2X Communications: Multi-RAT as Enabler for Connected Autonomous Driving(ハイブリッド型のV2X通信:コネクテッドな自動運転を実現する手段としてのマルチRAT)」2018 IEEE 29th Annual International Symposium on Personal, Indoor and Mobile Radio Communications (PIMRC)、2018年9月
13 Richard Jacob、Waqar Anwar、Gerhard Fettweis、Joshwa Pohlmann「Exploiting Multi-RAT Diversity in Vehicular Ad-Hoc Networks to Improve Reliability of Cooperative Automated Driving Applications(車載アドホック・ネットワークにおけるマルチRATダイバーシティの活用により、協調型自動運転アプリケーションの信頼性を向上)」2019 IEEE 90th Vehicular Technology Conference (VTC2019-Fall)、2019年9月
14 ADRV9026 Data Sheet(データシート)、Analog Devices、2021年1月