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Panoramic view of telecommunications tower overlooking rural landscape at sunset
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4G/5Gに対応するインド初の国産無線通信ネットワーク


インドでは、1990年代半ばに初めて携帯電話サービスが導入されました。それ以来、同国では、無線基地局に関する技術やノウハウについては海外のプロバイダに完全に依存している状態が続きました。しかし、その状況は大きく変わりつつあります。現在、世界最大の民主主義国家であるインドの政府は、1つのフラグシップ・プログラムを主導しています。そのプログラムの下、同国は国内の民間企業と提携し、「Made in India」の製品だけを使用して構築したモバイル・ネットワークを展開しつつあります。それはインド初の国産ネットワークであるだけでなく、世界に通用するレベルのものでもあります。

世界で最も野心的なこのネットワーク展開に向けて、ある政府系の大手 通信事業者はそれをサポート可能な信頼できる技術パートナーを探していました。このネットワーク展開については、非常に限られた期間内に10万基もの基地局を配備するという厳しい要件が課せられていました。Tejas Networks(以下、Tejas)は、コンソーシアムの一員としてこの課題の解決に挑みました。同社は、キャリア・グレードの通信/ネットワーク製品を25年近くにわたって開発してきた企業です。Tejasは、無線通信分野における豊富な経験と技術的な専門知識を有する世界的な半導体リーダー企業との提携を模索していました。その企業は、4G/5Gに対応する無線通信製品の設計/開発の実績も備えている必要がありました。これらの条件に正に合致する企業として選ばれたのが アナログ・デバイセズです。

本事例の概要

顧客企業の概要

Tejasは、高性能の有線/無線ネットワーク機器の設計/製造企業。通信サービス・プロバイダ、インターネット・サービス・プロバイダ、公共事業者、防衛関連企業、政府機関などに製品を提供している。顧客となる企業/組織の国籍は75ヵ国以上に達する。

アプリケーション

4Gに対応する基地局向けに、 パワー・アンプ(PA)の効率に関する目標と3GPP(Third Generation Partnership Project)の厳しい要件を満たす無線ユニット(RU:Radio Unit)を提供する。

課題

10万基にも上る無線基地局から成るネットワークを非常に限られたスケジュールで配備する。世界的な厳しい基準を満たしつつ、卓越した生産性と歩留まりを達成する必要がある。

目標

準都市部や農村部で暮らす何百万人もの人々に対し、手ごろな料金でアクセスできる4G対応の高速な無線通信サービスを提供する。それにより、デジタル・デバイドの解消というインド政府のミッションを支援する。

インドのデジタル・デバイド

31% vs.67%

インドの農村部人口と都市部人口に占めるインターネット利用者の割合 1

インドは世界最大の通信市場の一つです。携帯電話の契約者数は12億以上に達し、そのうちのおよそ7億5000万人がスマートフォンを使用しています2。また、通信ネットワークはほぼすべての村落にも配備されています。但し、準都市部や農村部のほとんどは、依然として通信容量の限られた2G/3Gのネットワークを使用しており、4Gで拡張された機能を利用できない状態にあります。遠隔医療やネット・バンキング、オンライン学習、リモート・ワーク、eコマースなどのサービスには、高速インターネットへのアクセスが不可欠です。また、今日のインドで屋台などを含む小さな店舗が生き残るためには、デジタル決済サービスに対応する必要があります。急速にデジタル化が進んだ国々では、人々は経済的、個人的、社会的な利益を享受しています。しかし、4Gの機能を利用できない人々には、そのような利益がもたらされていないのです。

先述した政府系の大手通信事業者は、4Gに対応する高速な無線通信ネットワークを特定の準都市部や農村部で展開することを目指していました。その背景には、そうした地域のデジタル・デバイドを解消し、デジタルの力を平等に提供して知識経済の変革を促進するという目標がありました。この課題を解決するには、10万基もの無線基地局から成るネットワークが必要でした。言い換えれば、基地局当たり250~300人の加入者に対応することで、約3000万人にサービスを提供できるようにしなければならなかったのです。

Picture of Dr. Kumar N. Sivarajan, CTO and Co-founder of Tejas Networks
「インド政府は、今後3年間で1兆米ドル(約145兆円)規模のデジタル経済を実現するというビジョンを掲げています。それに大きく貢献するのが、堅牢性の高いブロードバンド対応のインフラです。そのインフラを、基盤になるソフトウェアやユーザ中心のアプリケーションと組み合わせることにより、国内のあらゆる地域の人に対してインターネットの力を提供できるようになります。」

Kumar N. Sivarajan氏

Tejas Networks CTO/共同創業者

短期間で厳しい基準を満たすにはどうすればよいのか?

Close-up of cellular communication tower antennas against an orange sky at sunset

「Tejasは、キャリア・グレードの有線通信製品を25年近く開発してきました。現在では、ポートフォリオを拡張し、世界に通用するレベルの無線製品を提供することも目指しています。そして同社は、そのために協力してくれるパートナー企業を求めていました」とアナログ・デバイセズで無線通信マーケティング・ディレクタを務めるBill McKenneyは述べています。

無線基地局用のすべてのシステムは、複数のパラメータ、3GPPのグローバルな要件、厳格な伝送規格に準拠する必要があります。なおかつ、消費電力を削減し、発熱を抑え、RUを軽量化しなければなりません。そのためにはPAの効率を高めることが非常に重要です。更に、無線システムのトランスミッタは、隣接チャンネル漏れ率(ACLR:Adjacent Channel Leakage Ratio)の規定を満たさなければなりません。ACLRは、1つの送信チャンネルから、それと隣接するチャンネルに対して漏れ出す電力の量について定めた性能指標です。

「アナログ・デバイセズは、無線分野の豊富な 専門知識を有しています。ただ、Tejasが当社を選んだ理由はそれだけではありません。当社は、無線製品に関する技術力を示すと共に、強力なサポート体制に対するコミットメントも強調しました」とMcKenneyは述べています。また、このプロジェクトでは、通信事業者が求める厳しいスケジュールに対応する必要がありました。Tejasは生産能力を高め、毎月1万台近いRUを製造できる体制を整えなければならなかったのです。そのためには、卓越した生産性と高い歩留まりの実現が求められます。アナログ・デバイセズはTejasに専門知識を提供すると共に、4Gに対応するRUの開発をサポートしました。

一致団結した取り組み

アナログ・デバイセズのチームは、テストによって機能/性能を検証済みのリファレンス設計を出発点として活用することにしました。また、Tejasに対し、4G対応の無線技術に関する経験を伝えながら協力関係を維持し続けました。アナログ・デバイセズとTejasは、最大25名が参加する技術的な電話会議を毎日実施しました。それにより、情報を交換し、問題を特定し、その解消に努めました。McKenneyによれば、「Tejasと当社のインドのチームは、2ヵ月にわたってほぼ毎日、米国とカナダ(オタワ)のDPDチーム/トランシーバー・チームとの連携を図っていました」といいます。「この企業横断型のチームは、プロジェクトを成功に導くために様々な アイデアを試し、一致団結して問題を解決していったのです」とMcKenneyは語ります。

基地局向けの開発における重要な課題は、RUのSWaP(サイズ、重量、消費電力)を最小限に抑えることでした。実際、セル・タワーの効率的で信頼性の高い運用を実現するためには、SWaPの低減が不可欠です。アナログ・デバイセズの各種コンポーネントは、市場に提供されている製品のなかでも特に消費電力の少ないソリューションだと言えます。なかでも、無線コンポーネントは機器全体の消費電力に直接影響を及ぼす非常に重要な要素です。Tejasとアナログ・デバイセズは、競合他社よりも軽量なRUを開発すべく力を合わせました。最も重視したのはデジタル・ボードです。その結果、十分に満足できるレベルの RUを完成させることができました。

Tejasは生産プロセスの改善も図りました。その結果、月当たりの目標を大幅に上回る台数の製品を製造できるようになりました。2024年12月31日の時点では、8万6000台を超えるユニットが出荷されています。そして、提示されたスケジュールを満たすべく全体的な配備の作業も順調に進んでいます。最初のミーティングで両社が顔を合わせて以来、数年間にわたる道のりを共に歩んできたことになります。

将来に向けたビジョン

Young professional using laptop to explain technology to farmer in rural setting

Tejasは、アナログ・デバイセズの支援を得たことにより、4Gに対応する世界レベルの無線製品の設計/商品化を果たすことができました。その結果、インドの都市部、準都市部、農村部の間のデジタル・デバイドを軽減することが可能になりました。何百万人もの人々が診断/医療のサービスを利用したり、オンライン学習によってスキルの向上を図ったりすることができるようになったのです。また、零細なものも含む小規模なビジネスにも、経済的な利益を実現するための力が与えられました。ネット・バンキングやデジタル決済プログラムを利用することにより、商売が一層やりやすくなったのです。

Tejasとアナログ・デバイセズの共同開発は、将来的な展開も念頭に置いて進められました。ソフトウェアのアップグレードによって5Gへアップグレードする可能性を踏まえて、4G対応の無線機器を開発したのです。言うまでもなく、5Gは4Gに続くステップです。5Gでは、データの アップロード/ダウンロードが高速化し、レイテンシが極めて小さく抑えられ、キャリア・グレードの高い信頼性が得られ、高い拡張性が提供されます。スタンフォード大学の名誉教授であるArogyaswami Paulraj氏が委員長を務める運営委員会は、「インドの経済に5Gが及ぼす累積的な効果は、2035年までに1兆米ドル(約145兆円)の規模に達する可能性がある」と推定しています。


参考資料

1 Apoorva Mahendru、Mayurakshi Dutta、Pravas Ranjan Mishra「Digital Divide(デジタル・デバイド)」India Inequality Report、Oxfam India、2022年
2「TMT Predictions 2022(TMTに関する予測 2022年版)」Deloitte、2022年2月