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閉じるインテリジェント・ビル技術 - 温室効果ガスの排出量を削減するためのスマートな手段(サステナビリティ・シリーズ 第6回)
本稿は、「サステナビリティ・シリーズ」と題した連載の第6回です。この連載では、革新的な技術プラットフォームとソフトウェア・ソリューションを利用することで、クリーンテクノロジーの実現が可能になるということを明らかにします。また、エネルギーとサステナビリティの未来について他者と対話するのを促すことも目的の1つです。本シリーズの第5回の記事「デジタル・ファクトリーの効率改善に向けて、供給すべき燃料は『データ』」はこちらからご覧ください。
温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)の排出量を削減するために、個人のレベルで取り組みを行っている方は少なくないでしょう。例えば、自宅に太陽光発電パネルを設置しているといった具合です。そこまではいかなくても、キッチンで省エネ性能の高さをうたう家電製品を使用している方も多いのではないでしょうか。そのような取り組みには、間違いなく環境への悪影響を抑える効果があります。また、光熱費の節約にもつながるはずです。しかし、効果の規模について考えれば、別の取り組みが必要であることは明らかです。注目すべき代表的な例としては、大規模な商業ビルが挙げられます。それらが環境に及ぼす影響を軽減するには、インテリジェント・ビル技術の活用について検討しなければなりません。つまり、その種の技術によって、効率の改善、安全性の向上、温室効果ガス排出量の削減という面でどれくらいの効果が得られるのか検討すべきです。
2015年には、パリ協定1によって世界の気温上昇を平均1.5℃までに抑えるという目標が設定されました。これを達成するためには、ビジネスの分野にも変革が必要です。商業ビルについて言えば、エネルギーの利用効率を高め、電力グリッドに対する需要を管理できるようにすることが求められます。
商業ビルのエネルギー効率向上を実現するためには、具体的に何をすればよいのでしょうか。1つは、包括的かつ協調的な技術によってビル全体を管理できるようにすることです。その上で様々なデータを収集し、それに基づいた知見を取得して活用できるようにする必要があります。そのためには、「デジタル化」と「コネクティビティ」に関する技術が重要になります。
「現在、ビルの管理者/所有者は、安全性、運用効率、エネルギー効率を高めなければならないという大きな課題に直面しています。それらを解消するためには、ビルの管理を自動化するべきです。そうすれば、運用上の障壁を取り除きつつ、より細かく効率を制御できるようになります。最終的には、エネルギー管理に向けた目標の達成を推し進めながら、ビルの入居者にとっての環境を改善することが可能になります。」Steve Kenny氏
バイス・プレジデント/ジェネラル・マネージャ | Honeywell ビル管理システム担当
インテリジェント・ビルとは何か?
インテリジェント・ビルはスマート・ビルとも呼ばれています。その種のビルには、多様な技術とプロセスが統合されています。その目的は、入居者の安全性、快適性、生産性を高めることです。また、ビルの所有者に対しては運用効率の向上というメリットがもたらされます。インテリジェント・ビルには、相互接続されたセンサー、各種のデバイス、制御システムが配備されます。そして、HVAC(暖房、換気、空調)、照明、警報、セキュリティに関するシステムが1つのITネットワーク上に統合されます。これらの要素によって、リアルタイムのデータ分析と最適化を実現することが可能になります2。
エネルギー効率の向上を支援するBMS
商業ビルのエネルギー効率については、大いに改善の余地があります。なぜなら、HVAC、照明、冷蔵、温水暖房などの領域では、消費エネルギーのうち平均30%が非効率または不必要に使用されているからです3。つまり、商業ビルの業界には大きなチャンスがあるとも言えます。そうした無駄を削減し、エネルギー効率を高めるためには、優れたビル管理システム(BMS:Building Management System)を導入することが重要な方法となります。
BMSは、暖房、換気、空調、照明、防火、セキュリティなど、ビルの電気的/機械的システムの制御を自動化する役割を担います。米国の場合、面積が5万平方フィート(約4645m2)を超える大規模な商業ビルのうち60%近くはBMSを導入しています。それに対し、小規模なビルの場合、わずか13%しかBMSを導入していません4。このギャップは大きなチャンスの存在を示唆します。つまり、そうしたビルの管理者がスマート・システムを導入すれば、多くの消費エネルギーとコストを削減できる可能性があるということです。
では、高度なセンサーと通信モジュールを備えたBMSを導入すると(または既存のBMSをアップグレードすると)、どれくらいの効果が得られるのでしょうか。その場合、エネルギーの消費量を平均で10%~25%も削減できると考えられています5。BMSによる最適化は占有状態に基づいて実施されます。また、BMSは運用の合理化を支援し、障害のリモート検出を可能にします。そうした機能により、対象となるスペースの暖房/冷房、照明が必要なときだけ稼働する状態になります。このような形で自動化を図ることにより、エネルギーの消費量を最小限に抑えると共に、ピーク時の需要を減らすことができます。また、リアルタイムかつリモートで診断を行うことにより、エネルギー効率を高めることが可能になります。
生産性と効率の向上の鍵を握るのは、BMSのコネクティビティ
BMSの中核を成すものとしてはコネクティビティが挙げられます。なぜなら、制御パネル、センサー、アクチュエータなどをリンクするためにはコネクティビティが非常に重要な役割を果たすことになるからです。そうしたネットワークを実現することにより、HVAC、照明、セキュリティ、防火、給電に対応する各システムを効率的に管理することが可能になります。
商業環境/産業環境においてコネクティビティの強化に有効な技術としては、シングルペア・イーサネットが挙げられます。この技術を採用すれば、レガシー・システムと比べて広い帯域幅で長距離にわたる通信を実現できます。また、より多くのノード数を扱えるだけでなく、高度なセキュリティ機能も適用可能です。シングルペア・イーサネットでは、既存のビルで一般的な1本のペア線を使用できます。つまり、既存のペア線を再利用できるので、配線の再敷設の必要性が軽減されます。結果として、廃棄物の量と導入コストの削減が可能になります。加えて、シングルペア・イーサネット技術は産業用途向けに設計されています。そのため、多少の干渉が生じても信号の完全性が維持されます。しかも、同じ配線によって電力伝送も行えるので、設計/実装を簡素化できます。
BMSのエッジにIPベースの通信を適用することで下記のメリットがもたらされ、 より高いレベルの知見を得ることが可能に
全二重通信
ローカルでの意思決定
データ・サイロの解消
アップグレードに伴うダウンタイムの削減
シングルペア・イーサネットをBMSのエッジ・デバイスに適用するという一歩を踏み出せば、多くの機能を実現できます。例えば、BMSを使用することで、より高いレベルの知見が得られるようにすることが可能になります。また、ビル全体の最適な運用と管理に不可欠なステータス情報を双方向でやり取りすることもできます。従来、HVAC、照明、監視、消火などの機能を実現するシステム(およびデータ)はサイロ化していました。エッジ・デバイスにシングルペア・イーサネットで接続すれば、それらすべてのシステムからBMSに対して情報を伝送することが可能になります。そうすれば、ビル内のあらゆるデータを1つの画面に表示するといったことも行えるようになります。
BMSにAIと機械学習の機能を統合すると、予測分析のアルゴリズムやインテリジェントなアルゴリズムの実行が可能になります。それらはプロセスの自動化やエネルギー効率の向上に役立つので、エネルギーの消費量を更に最適化できる可能性が生まれます。データ・ポイントの全体像に隠れていた新たなパターンを検出し、効率を高めるための術を見出せるようになるということです。
革新的なBMSテクノロジーは、筋力を支える“頭脳”
最新のBMSは、先進的な技術を基盤として実現されています。そうした技術の例としては、構成が可能な入出力(I/O)デバイスが挙げられます。ここで言う入力元の例としては、温度センサー、煙センサー、モーション・センサーなどが挙げられます。出力先の例には、可変速ドライブ(VSD:Variable Speed Drive)や警報ベル、ストロボなどがあります。構成が可能なI/Oデバイスを利用することにより、オペレータや別のシステムとコンピュータとの間で情報をやり取りすることができます。また、BMSの導入が簡素化されます。更に、将来にわたる適応性が得られることから、投資が無駄になることを避けられます。
最新のBMSを利用して電源システムやモータ制御システムの改善を図れば、エネルギー効率が向上します。加えて、設備の保全のために診断を実施して障害のあるデバイスを特定すれば、メンテナンスの回数やダウンタイムを最小限に抑えることができます。一連の技術を連携させることにより、HVAC、照明、セキュリティの機能を実現するシステムなど、ビル内の設備の稼働に伴う消費エネルギーを削減することが可能になります。
ヒート・ポンプや可変冷媒フロー(VRF:Variable Refrigerant Flow)のような冷暖房技術を採用すれば、温室効果ガスの排出量を更に削減することができます。それらの技術をベースとするシステムは、ガス/石油を使用する従来のボイラーと比べてエネルギーから熱を生成する性能に優れています。したがって、その種のシステムを採用すれば冷暖房に必要なエネルギーの量を低減できます。また、それらのシステムは電気式であることから再生可能エネルギーも活用できることになります8。再生可能エネルギー源だけを使用してシステムを動作させられる点は大きな魅力になります。このような理由から、冷暖房技術についてはできるだけ早くヒート・ポンプなどに移行すべきです。特に、新築の物件については、それらを標準技術として採用するとよいでしょう。そうすれば、電力グリッドに、より多くの再生可能エネルギー源が統合されるにつれて、温室効果ガスの排出量が低減されることになります。
実際、EU(欧州連合)はヒート・ポンプを、クリーン・エネルギーへの移行を可能にする技術として位置づけています。また、カーボン・ニュートラルに関するEUの目標を2050年までに達成するためには同技術が鍵になると考えています。2022年だけで300万台のヒート・ポンプが設置されていますが、EUとしては2027年までに少なくとも更に1000万台のヒート・ポンプを導入することを目標として掲げています9。
インテリジェント・ビル技術は、温室効果ガスの排出量削減に向けた希望を育む
商業ビルの所有者の多くは、温室効果ガスの排出量を削減するなど、気候に関する目標に対処したいと考えています。そのために行うべきことは明らかです。つまり、デジタル化に向けた技術やコネクティビティ技術を活用した高度なBMSの導入を進めるべきです。また、政府も、法令、インセンティブ、LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)のようなビルの規格の施行によって重要な役割を果たすことができます。
こうした取り組みは、環境に対して多大な効果をもたらす可能性があります。ただ、ビルの所有者の中には、効果の面で疑問の余地があると感じる人もいるかもしれません。しかし、ビルの所有者は、公的機関やインテリジェント・ビル技術、BMSテクノロジーなどから成るエコシステムを活用することが可能です。それを通して、エネルギー効率を高めるためのソリューションが目標の達成に役立つことを理解すれば、安心して取り組みを進めることができるでしょう。
参考資料
1 国連(United Nations)、Paris Agreement(パリ協定)
2 Smart Buildings: Four considerations creating people-centered smart, digital workplaces(スマート・ビル:スマートでデジタルな人間中心の職場の構築、そのために考慮すべき4つの事柄)
3 米国エネルギー省(DOE :U.S. Department of Energy)「Commercial Buildings Integration Program(商業ビルの統合プログラム)」
4 (米)国立再生可能エネルギー研究所(NREL :The National Renewable Energy Laboratory)「Commercial Building Sensors and Controls Systems: Barriers, Drivers, and Costs(商業ビル用のセンサーと制御システム:障壁、推進する要因、コスト)」
5 米国エネルギー効率経済評議会(ACEEE:American Council for an Energy-Efficient Economy)「Smart Buildings: Using Smart Technology to Save Energy in Existing Buildings(スマート・ビル:スマート技術を利用して、既存のビルのエネルギー消費量を削減)」
6 国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)「Tracking Clean Energy Progress 2023(クリーン・エネルギーへの移行に向けた活動、2023年におけるその進捗状況)」
7 米国エネルギー省(DOE :U.S. Department of Energy)、Office of Energy Efficiency & Renewal Energy(エネルギー効率/再生可能エネルギー局)
8 国際エネルギー機関50周年(IEA 50)「Heat Pumps(ヒート・ポンプ)」
9 欧州委員会(European Commission)「Heat pumps are key to enabling the clean energy transition and achieving the EU’s carbon neutrality goal by 2050(クリーン・エネルギーへの移行を可能にするヒート・ポンプ、カーボン・ニュートラルに関するEUの目標を2050年までに達成するための鍵に)」