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閉じる屋内でのユビキタスな接続を実現する小型無線ユニット、Fiiがアナログ・デバイセズとの連携により推進
今や、ほとんどの人がインターネット接続を当たり前のことと捉えています。とはいえ、空港、ビル、工場などの屋内に足を踏み入れる際には、ある程度の覚悟をしなければなりません。建物全体が常に高速通信の範囲内にあるとは限らないからです。搭乗ゲートに向かうとき、会議室でプレゼンテーションを行うとき、あるいは製造フロアを歩いているときなどに、通話が途切れたり、データやアラートの読み込みが遅くなったり、電波が届かなかったりといったことを経験し得るということです。フラストレーションを感じるだけでなく、生産性への影響や金銭的な負担が生じる場合もあります。
Foxconn Industrial Internet(Fii)は、スマート製造や産業用インターネットの分野を牽引する企業です。同社は、スモール・セルを構築するための無線ユニットとして「RPQNシリーズ」を開発しました。これをビル、家庭、オフィス、産業用施設などに配備することで、屋内の接続カバレッジを改善することを目標としています。Fiiは、同ソリューションを迅速に市場に投入できるようにするために、高度な技術、関連領域の専門知識、テストに関するノウハウを有するパートナー企業を探し求めていました。具体的には、その新たな小型無線ユニットの設計と開発、そしてシステムが抱えるハイ・レベルの問題のデバッグに関する支援を求めたほか、厳しいRF性能と消費電力に関する要件を満たすためのサポートを期待していました。そのような観点から検討を行った結果、同社のパートナーとして選ばれたのがアナログ・デバイセズです。
本事例の概要
顧客企業の概要
Fiiは、12の国/地域に19万1000人の従業員を擁する大企業。5Gに対応するネットワーク通信機器、クラウド/エッジ・コンピューティング、産業用インターネット、スマート・ホーム・ソリューション、モバイル機器、ウェアラブル機器などを開発している。
アプリケーション
設計の柔軟性が高く、優れた伝送速度と小さなレイテンシを実現可能でプログラマブルな小型無線ユニットを開発する。それにより、シームレスな通信を可能にし、集中制御とモニタリングを容易化する。
課題
導入の容易さと信頼性の高い接続を実現しつつ、小さなフットプリントでも性能と電力効率面の要件を満たせるようにする。また、設計上の障害を低減し、市場に投入するまでの時間を短縮できるようにする。更に、O-RAN(Open Radio Access Network)規格への準拠を達成する。
目標
費用対効果が高い5G対応の商用ネットワークを展開し、屋内を対象としたユビキタスなサービスを提供できるようにする。それにより、ビル、コンスーマ、ヘルスケア、産業用IoT(Internet of Things)などを含む広範なアプリケーションの可用性を高める。
スモール・セルを構築する無線ユニットとは
スモール・セル向けの無線ユニットは、小型かつ軽量で、容易に配備できるようになっており、屋内向けのアプリケーションにおいて最適なカバレッジを確保することができます。大きさは宅配ピザの箱と同程度であるものの、レイテンシの低さと帯域幅の広さを備えており、高度な無線通信技術を利用することで、屋内の機器間で信頼性の高い短距離接続を確立します。
Fiiが抱えていた課題
Fiiの顧客は、工場、オフィス、ショッピング・モールといった密度の高い環境をサポートするために、よりカバレッジの高い屋内向けの無線ユニットを求めていました。同時に、通信容量の増大、信号品質の向上、エネルギー効率の改善なども必要としていました。加えて、データ通信速度の向上、レイテンシの低減、柔軟性に対するニーズも存在しました。IoT機器、スマート・ビル技術、高精細のビデオ・ストリーミングなどで登場するであろう、高度な無線サービスやアプリケーションの到来に対応する必要があったからです。
Fiiとしては、顧客のニーズに迅速に対応し、スモール・セルを構成するための無線ユニットを早急に市場投入する必要がありました。そのためには、設計の複雑さを軽減し、設計上の障害を排除し、製品の開発サイクルの数を低減しなければなりませんでした。
複雑さの軽減、市場投入までの時間の短縮
アナログ・デバイセズはFiiと連携して、小型無線ユニットの開発の簡素化に取り組みました。その実現に向けて、アナログ・デバイセズは柔軟性が高くプログラマブルなプラットフォームを提供しました。その目的は、プロトタイピング、テスト、カスタムの無線機能の実装を迅速に行えるようにすることです。アナログ・デバイセズのフィールド・アプリケーション・セールスSAPでスタッフ・エンジニアを務めるWilliam-X Chenは、「お客様はよく、真の問題を見誤り、その追跡に多くの時間を費やしてしまうものです」と指摘しています。その上で「ここで中核となるソリューションはアナログ・デバイセズの(小型無線)トランシーバーでした。これを活用することで、Fiiによるトラブルシューティングを支援し、問題を迅速に特定して解決することができました」(Chen)と語ります。
Fiiにはベースバンドと物理層(PHY)を担うチームがあり、そこが小型無線ユニットで使用するFPGAのIP(Intellectual Property)の設計を行います。アナログ・デバイセズは、Fiiがシステムに関する複雑な問題に直面した際に、その原因がどこにあるのかを明確にするための支援を提供しました。つまり、それがFPGAのIPの問題なのか、デジタル処理の問題なのか、ハードウェアの問題(RF/電源など)なのか、ソフトウェアの問題(ドライバの設定)なのかを特定するということです。それにより、Fiiは正しい方向に向かってデバッグを進めることができました。
アナログ・デバイセズでFPGAを担当する技術者は、FiiがFPGAの構成可能性(コンフィギュアビリティ)、柔軟性、リアルタイムの処理性能を活用し、マイナーな問題やシステム・レベルの高度な課題に対処できるよう支援しました。Fiiのインフラストラクチャ製品部門でシニア5G RDディレクタを務めるBenjamin Wang氏(博士)は、「アナログ・デバイセズとの連携により、最大限の柔軟性を備え、消費電力が少なく、性能に優れるスモール・セル向けのユニットを設計することができました」と語ります。「アナログ・デバイセズが有するシステム・レベルの専門知識と同社のフィールド・アプリケーション・エンジニアによる一貫したサポートのおかげで、開発プロセスにおける設計の最適化と問題の解決が容易になりました。その結果、プロジェクトの厳しい設計スケジュールを守ることができました」(同氏)。
アナログ・デバイセズのフィールド・セールスSAPでプリンシパル・アカウント・マネージャを務めるHung-Ming Changは、「当社は約20種類のコンポーネントを1つのシグナル・チェーンとして統合しました。それにより、Fiiは小型無線ユニットのSWaP(サイズ、消費電力、重量)を削減することができました」と述べています。その上でChangは「当社はFiiが無線設計を行う上で中核となる技術を提供しました。例えば、ソフトウェア定義型のRFトランシーバーIC、フィルタIC、パワー・ツリーを構成するICなどが挙げられます。これらのコンポーネントを活用することにより、システム全体の消費電力を抑えられます。それだけでなく、様々な機器や地域の間で互換性と相互運用性を確保できるようになります」と説明しています。
「アナログ・デバイセズとの連携により、最大限の柔軟性を備え、消費電力が少なく、性能に優れるスモール・セル向けのユニットを設計することができました。アナログ・デバイセズが有するシステム・レベルの専門知識と同社のフィールド・アプリケーション・エンジニアによる一貫したサポートのおかげで、開発プロセスにおける設計の最適化と問題の解決が容易になりました。その結果、プロジェクトの厳しい設計スケジュールを守ることができました。」Benjamin Wang氏(博士)
Fii インフラストラクチャ製品部門 シニア5G RDディレクタ
高い性能、リアルタイムのモニタリング
Fiiの小型無線ユニットを採用すれば、レイテンシを抑えつつ、屋内での5G無線データ送受信が可能になります。また、機器間では信頼性が高く高速な短距離通信が実現されます。この無線ユニットは、当然ながらケーブルや有線接続の必要なく、高いデータ転送速度を実現しつつ屋内での接続性を改善します。Fiiの小型無線ユニットと専用のセルラ・ネットワークによって、通話が途切れてしまう現象は過去のものになるのです。
アナログ・デバイセズのChenは、「従来、コンポーネントを統合する際には信号品質を維持するのが容易ではありませんでした」と指摘します。その上で、「当社のチームはFiiのチームと協力して、純粋でクリアでクリーンな信号と、非常に高い信号性能を維持することができました」と語ります。このプロジェクトでは、その初期の段階で、RFフロント・エンド(RFFE)の設計と、適切なトランシーバーの選択についての検討が行われました。そして複数の選択肢の検討を経て、Fiiは、スモール・セルを構築するためのRPQNシリーズの無線ユニットに最適なデバイスとして、アナログ・デバイセズのソフトウェア定義型トランシーバー「ADRV9029」を選択したのです。
Fiiの無線ユニットは容易に配備することができます。小型かつ軽量で、天井に簡単に取り付けられるため、機器の密度が向上し、シームレスな通信が可能になります。また、ユーザは単一のインターフェースやスマートフォンのアプリによってスマート・デバイスを管理できるようになり、集中制御とモニタリングを容易に実現できます。加えて、このユニットは、ワイヤレス・センサー・ネットワークとの間でも信頼性の高い接続を実現します。温度やホコリの面で極端な状況になり得る工場などでも、リアルタイムのモニタリングとデータの収集が可能になるということです。
将来を見据えた投資:O-RANへの対応
Fiiは、O-RANに準拠した小型無線ユニットのシリーズへの投資を行っています。O-RANの規格は、相互運用性を確保するための基準を定めたものです。それにより、従来の無線アクセス・ネットワーク(RAN)に固有で閉鎖的な性質が打ち破られます。O-RANによって、事業者は様々なサプライヤから提供されるハードウェアやソフトウェアを組み合わせられるようになります。その結果、競争が促されると共に、単一のベンダーへの依存度が低下します。
アナログ・デバイセズで通信ビジネス・ユニット担当バイス・プレジデントを務めるJoe Barryは、「Fiiによる投資は、O-RANのエコシステムにとって重要なステップです。それにより、5G無線に関連する市場の多様性が広がるからです。」と述べています。「Fiiの投資によって、O-RAN準拠の高性能な無線ユニットを設計/製造できる同社の能力が大いに証明されます。当社は、Fiiとの連携を通してO-RANに対応するRUのエコシステムを拡大できることをうれしく思っています」(Barry)。
ビジネス、人々、地球のニーズに応える
Fiiが開発した小型無線ユニットはレイテンシが小さく、1Gbpsのデータ転送速度を実現できます。このようなシステムは、現代のビジネス、製造、屋内での通信に不可欠な要素です。それにより、機器間でのやり取りが可能になり、短距離のリアルタイム通信や迅速なデータ交換を実現できるようになります。この種のシステムがもたらすメリットについてまとめると、以下のようになります。
- 帯域幅の拡大、速度の向上:高速伝送が容易になり、リアルタイムの分析、機械学習、AIなどの高度なアプリケーションに対応できます。
- 効率の向上:ネットワークの管理方法が改善されます。また、性能を低下させることなく、より多くの機器を同時に接続できるようになります。結果として、運用効率が向上します。
- レイテンシの短縮:レイテンシを小さく抑えられます。このことは、自動化されたロボット、リアルタイムのモニタリング・システムなど、リアルタイムのフィードバックや制御を必要とするアプリケーションに不可欠です。
- 消費電力の削減:小型化と性能の最適化によって消費電力が減少します。結果として、環境への影響が緩和されます。
- スケーラビリティ:スケーラブルなソリューションをサポートできます。つまり、接続される機器の数の増大に対応可能です。
Fiiの小型無線ユニットであるRPQNシリーズを利用すれば、非常に多くの人に5Gの革新的な技術的メリットを提供できます。また、この小型無線ユニットは広範なアプリケーションに適しており、例えば、スマート・サーモスタットを利用して家庭のエネルギー効率を高めるアプリケーションが想定できます。あるいは、患者監視システムを用いて医療を改善したり、ロボットの近くで働く工場労働者を守ったりする上でも役立つでしょう。更に、ウェアラブル型のフィットネス・トラッカーによって、私たちの暮らしはもう少し健康なものになるかもしれません。Fiiの小型無線ユニットが秘める可能性は無限です。今後、私たちの想像力と同じくらい多岐にわたるアプリケーションが実現されていくでしょう。