Signals+ ニュースレター登録
Signals+はコネクティビティ、デジタルヘルス、モビリティ、スマートインダストリーに関する最新情報をお届けします。
ありがとうございます。ご登録のメールアドレスにお送りしたメールを確認し、ニュースレター登録を完了させてください。
世界中の人々の生活に影響を与える、画期的なテクノロジーに関する最新情報をタイムリーにお届けします。
閉じるデータ・センターが抱える「冷却」の問題、それを解決するための方策とは?
主なポイント
|
現在は、データ・センターの急速な変革と拡張が続いている状況にあります。その背景には、データ、AI、複雑な演算を伴うワークロードに対する需要の急増があります。結果として、データ・センターは2つの重要な課題に直面することになりました。1つは、サーバ・ラック内にかつてないほど高い密度で配備されたハードウェアに対し、いかに効率的に電力を供給するかというものです。そして、それらのハードウェアを効果的に冷却する方法を確立することがもう1つの重要な課題になっています。
現代のAI、特にAIのためのAI(AI built for AI)や機械学習向けのAIは、膨大な演算能力が詰め込まれた小さな筐体上で稼働します。その筐体には、より多くのトランジスタ、高い密度のGPU(Graphics Processing Unit)クラスタ、高性能のアクセラレータなどが収められています。そのため、狭い空間内で消費される電力の量が増加し、発熱量も増大するという状況が生じています。
従来、データ・センターにおける主な制約要因は床面積と電力でした。しかし現在では、放熱が最も大きな制約要因になっています。そのため、システムの設計、管理、最適化の方法を、熱の観点から根本的に見直さなければならなくなりました。従来型の事業者やハイパースケーラを含む業界全体が転換期にあると言えます。
放熱に対する壁
必要な放熱を実現するには、いくつかの壁を超えなければなりません。以下、代表的な課題について説明します。
密度の急速な増大
ここまでの密度とは、サーバ・ラック内に配置されるコンピューティング・デバイスの配置密度のことです。また、ラック密度という言葉は、ラックとしてのハードの集積度合のことを指します。例えば、従来のラックは数十kWの消費電力で稼働していました。それに対し、大規模言語モデルに対応するAI(「ChatGPT」が代表的な例)などは、GPUを備えるラック内で40kW~60kWの電力を消費します。AIのトレーニングと推論のために構築されたハイパースケールのAIファクトリでは、既に消費電力が100kWを超えています。将来の設計では、ラック当たり500kW~1MWの電力が消費されることになるでしょう。
非スケーラブルな空冷
熱媒体として見た場合、空気は効率の良いものではありません。演算量が増大してラック密度が高くなると、空冷では熱を速やかに除去できなくなります。そして、必要なエアフロー、ファンの送風能力、ラック内の複雑さが、運用を継続できないレベルまで増大します。従来のCRAC/CRAH(Computer Room Air Conditioner/Computer Room Air Handler)システムは、ラック当たりの消費電力が約50kW~100kWになると、コストの面も含めて非実用的なものになります。
熱に関する多様なリスク
冷却が不十分である場合、様々な問題が生じる可能性があります。例えば、スロットリングが必要になる、故障が発生する、コンポーネントの寿命が短くなる、運用コストが増加するといった具合です。性能、稼働時間、容量を制限する主な要因は、床面積や電力から熱に移行しています。
熱の対策に費やされる1Wは、コンピュータ処理には利用できない1Wです。
電力と冷却についての再考
プロセッサの性能や集積度は高まり続けています。その結果、プロセッサの発熱量は従来の空冷システムによって管理できるレベルを超えるようになりました。空冷方式では、効率的な冷却や高い費用対効果を実現できなくなったのです。この制約は、液冷の採用を後押ししました。液冷システムは、熱管理に向けた設計を根本的に見直すことによって生み出されました。これを使用すれば、空冷システムと比べて桁違いのレベルで効率的に熱を除去することができます。冷却技術は、電力の供給、ラックのレイアウト、エアフローなども包含する形で進化を続けています。この統合的なアプローチにより、AIに対応するハイパースケールのデータ・センターは従来の電力密度の限界を超えられるようになります。
液冷のソリューション
液冷方式では、熱伝導性に優れる液体を利用します。それにより、熱は発生源から直接吸収されます。複雑さとコストは増大するのにもかかわらず、空冷から液冷への移行は着実に進んでいます。例えば、ハイパースケーラ各社は、冷却の手段として液冷方式しか使用しない施設を構築しています。一方、既存の施設ではハイブリッド方式が使われることがあります。つまり、高密度のラックには液冷方式を適用し、それ以外の部分では空冷方式を使用するということです。液冷は、今日の熱負荷だけでなく、あらゆる規模のデータ・センターで増加していくAI駆動型のワークロードを支える上で不可欠です。
発熱の抑制
事業者は、熱の除去と発熱の抑制のバランスをとる必要があります。これについては、熱管理だけでなく、電力供給チェーンの全体にわたって考慮しなければなりません。より重要なのは、発生源の熱量を最小限に抑え、電力変換効率を高め、抵抗による電力損失を低減し、電圧のレギュレーションを最適化することです。そうすれば、そもそも熱として無駄に消費されるエネルギーの量を減らせます。つまり、冷却に関する対処が必要になる前に問題を緩和することが可能になります。
未来を支える800V DCの配電
AIが稼働するラックによって、従来の電源システム(12V、48V、415V AC)が抱える課題が浮き彫りになりました。大量の銅配線、大型の電源ユニット、発熱量を増加させる効率の悪い電力変換回路に依存していることが問題だったのです。そこで、データ・センターの業界は800V DCの配電へ移行する方向に舵を切ることにしました。その目的は、導線を削減し、抵抗による電力損失を低減し、配線を簡素化することです。
アナログ・デバイセズは、800V DCに対応するアーキテクチャをサポートしています。具体的には、ホットスワップ用のコントローラIC、高効率のDC/DCコンバータIC、電力監視IC、高度な保護用ICなどを提供しています。それらを使用すれば、効率が高く安定した配電を実現できます。
ラックにおけるインテリジェンス
電圧、電流、温度をリアルタイムに追跡するためには高度な監視機能を使用します。その結果、リソースの適切な割り当てが可能になります。例えば、実際には冷却ポンプは不要なのに、それをフル稼働させているといった状況も起こり得るでしょう。それでは、エネルギーを無駄遣いしていることになります。そこで、優れた計測手法と低ノイズ・アンプなどの高精度のICを使用すれば、電流検出用のシャント信号を測定できます。効率的な電力供給と熱管理を実現するためには、このような信号を高い精度で計測することが不可欠です。
事業者は、信頼性を維持するために、容量の100%に相当する電力ではなく、約99.95%のレベルでシステムを運用します。アナログ・デバイセズの監視用ソリューションを使用すれば、そうした電力レベルをリアルタイムで追跡できます。その結果を受けて、事業者は負荷の内訳を動的に調整します。そうすれば、システムの性能と寿命のバランスをとることが可能になります。
AIが進化すると、より性能の高いデータ・センターに対する需要が高まります。これは電力需要も増大するということを意味します。AIは、そうした需要を効率的に管理するためのインテリジェンスも提供します。スマート・アシスタントとして機能するAIは、システムの精度の向上に貢献します。具体的には、センサーで取得したデータを処理することにより、パターンを特定し、障害を予測し、調整を自動化します。その結果、事業者はダウンタイムが生じる前に異常を検知することが可能になります。また、リアルタイムのワークロードに基づいて冷却のレベルを動的に調整することもできます。このようなシステムを構築すれば、従来の事後対応型のメンテナンスを、予防型の管理に変革することが可能になります。
ラックのレベルでは、専用ICなどを活用することによって様々なメリットを享受できます。以下、代表的な例を紹介します。
- 電源システムにホットスワップ・コントローラICと保護用ICを適用すれば、活線挿抜の管理、突入電流の制限、スパイクの防止、障害の検出を実現できます。それにより、安全な運用が保証されます。800Vの電源とMWクラスの負荷を使用する場合、これらのICは不可欠な要素になります。
- 電圧レギュレータICやDC/DCコンバータICも重要です。800V DCを使用する場合、高効率のレギュレータと多相対応のコントローラを使用して、GPU、CPU、メモリ、その他のICが必要とする電圧まで降圧することになります。アナログ・デバイセズのソリューションを採用すれば、損失と熱負荷を最小限に抑えるように降圧処理を最適化できます。
- デジタル・テレメトリ機能と温度の監視機能を使用すれば、密度の高い環境におけるリアルタイムの可視化と制御を実現できます。それにより、事業者は問題を検知し、熱的限界を管理することが可能になります。
- バッテリや電気二重層コンデンサを使用したバックアップ・システムは、ラックに電力を供給するバックプレーンの電圧を監視します。電源が変動した場合や遮断された場合、それらのシステムから必要な電力を供給します。また、それらのシステムは適宜、充電されることになります。アナログ・デバイセズのバッテリ管理(バッテリ・マネージメント)ソリューションは、もともと車載アプリケーション向けに開発されました。それらをラックで利用すれば、バックアップ動作に移行する際に中断が生じないことを保証できます。
上述したようなICを活用すれば、高電圧の安定した配電と電力/熱の厳密な制御が可能になります。また、液冷を採用した密度の高いラックの実用性、安全性、管理性が向上します。
データ・センター用のインテリジェントなインフラ、そのビジネス・ケース
|
新たなアーキテクチャと先進技術を採用することにより、データ・センターの性能を大幅に高められます。具体的には、以下のような効果が得られます。
- 高精度のセンシングとAIを活用したメンテナンスは、ダウンタイムの削減と設備の寿命の延長に貢献します。
- インテリジェントな制御システムは、需要に応じてリソースを最適化することでエネルギー効率を高めます。
- 液冷を採用すれば、既存のスペース内でコンピューティング・デバイスの密度をかつてないほど高められます。
これらのアプローチを採用すれば、多くの場合、運用コストの削減、障害の減少、サステナビリティ目標の達成に向けた進展を実感できるはずです。そのメリットは事業全体に波及します。
未来への道を切り開く
未来のデータ・センターは、先進的なコンポーネントがシームレスに連携することで高度に調整されたエコシステムとして実現されるはずです。連携の対象となるのは、パワー・マネージメント、センシング、光接続、バッテリ管理といった機能をそれぞれ提供する各種のシステムです。この統合的なアプローチは、今日の課題を解決するだけでなく、コンピューティングに関する未来の需要に対応することも可能にします。既存の施設を改修する場合にも、新規に施設を構築する場合にも、液冷システムはあらゆる規模のデータ・センターに導入されていくでしょう。その結果、データ・センターはデジタル・イノベーションに向けた重要な拠点であり続けるはずです。
データ・センターの変革がもたらす効果は、熱管理の改善や電力効率の向上にとどまりません。その変革は、未来の新たな可能性を切り開きます。
参考資料
1 Zachary Skidmore「Microsoft Study Finds Liquid Cooling Can Cut Data Center Emissions by up to 21%(液冷方式を使えばデータ・センターから排出される温室効果ガスの量を最大21%削減可能、Microsoftが調査)」Data Centre Dynamics、 2025年5月