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A semi-trailer truck riding through a bright future on a highway
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      商用車のCO2ガス排出にブレーキを、Yutong Busがアナログ・デバイセズのwBMSを採用


      商用貨物を運搬する自動車が存在しない世界を想像してみてください。その場合、農産物を農場から食料品店へ、あるいは医薬品を製造業者から病院へと運ぶにはどうすればよいのでしょう。重機を作業現場まで運ぶ役割を担うのは誰なのでしょうか。また、かさばる資材や有害物質を運ぶ際には、どのような手段を用いればよいのでしょうか。このように考えれば、商用貨物自動車が現代の経済を下支えしていることは明らかです。そうした自動車の例としては、大型トラック、トラクタ・トレーラ、18輪車などが挙げられます。

      その一方で、商用貨物自動車は温室効果ガスの発生源になるという負の側面も持ちます。バスをはじめとする他の大型車両も含めると、商用貨物自動車が排出するガスの量は、輸送に伴う全世界の排出量の1/3を占めると推定されています1。実際、1台のトラクタ・トレーラは、毎年200t以上の二酸化炭素(CO2)を排出します2。一方、一般的な乗用車が1年間に排出するCO2の量は4.6tほどです(米国環境保護庁による推定値)3。つまり、トラクタ・トレーラは、一般的な乗用車と比べて約40倍のCO2を排出することになります。

      Yutong Bus(以下、Yutong)は、大型商用車の製造/販売を担う大手企業です。同社は、大型商用車の脱炭素化を図るという目標を掲げています。この目標を達成するためのパートナーとして、Yutongはアナログ・デバイセズを選択しました。Yutongは、30年にわたる開発の成果を活かし、世界最大の電動バス・メーカーとなりました。ただ、現在ではバス以外の大型商用車にも目を向けています。そのターゲットの1つがトラクタ・トレーラです。同社は、アナログ・デバイセズのワイヤレス・バッテリ管理(バッテリ・マネージメント)システム(wBMS:Wireless Battery Management System)技術を採用し、新たな電動トラクタ・トレーラを開発しています。

      本事例の概要

      目標

      商用輸送の脱炭素化、製造ラインの効率向上、EVフリート(Electric Vehicle Fleet)の管理手法を次のレベルまで前進させる。それに向けて、電動パワートレインへの移行を進めると共に、大型商用車向けの初のスケーラブルなプラットフォームとしてアナログ・デバイセズのwBMSを導入する。その際、性能の面で妥協することのないようにする。

      顧客企業の概要

      Yutongは国際的な自動車OEM。路線バスや長距離バス、トラック、建設機械、その他の商用車を製造している。

      課題

      商用車は、一般的な乗用車よりもはるかに厳しい要件を満たす必要がある。より大きな規模への対応、過酷な環境への耐性が求められるだけでなく、バッテリ・パック間の接続にも様々な条件が加わる。そのため、ワイヤレスのBMSを導入する際の難易度もより高くなる。

      ソリューション

      アナログ・デバイセズのwBMSを採用する。それにより、過酷な動作条件の下でもYutongの電動大型商用車が目標性能を達成できるようにする。

      大型商用車の電動化に必要な要素

      貨物の輸送に使用されるトラックの台数は、世界の全車両台数のごく一部を占めるにすぎません。しかし、温室効果ガスについては、輸送分野の全排出量のうち39%をトラックが占めると推定されています4。一般的なセミトレーラ・トラックの平均燃費は、1ガロンあたり約6.5マイルです(1lあたり約2.76kmに相当)。その走行距離は、1年あたり約12万マイル(約19万3000km)に達します2

      4億1300万t
      2022年に米国の中型/大型トラックが排出した温室効果ガスの量5

      現在は、世界中がエネルギー効率の高い未来を目指している状況にあります。それに向けて、各国内での取り組みや国際的な取り組みが進められています。当然のことながら、商用輸送の分野にも進化が求められています。一般的な乗用車については、EVをベースとする戦略によって成果を得ることができました。残念ながら、単にそれと同じ戦略をスケール・アップすれば、大型商用車でも十分な効果が見込めるというわけではありません。

      大型の車両には、より大きなバッテリが必要です。それだけでなく、各バッテリは大型のバッテリ・パック・フレームに分散配備されます。そのため、バッテリ間の通信リンクはより長い間隔に対応する必要があります。加えて、商用車はより過酷な条件下でも信頼性の高い走行を実現できるように設計しなければなりません。有線のBMSは、商用車の分野でも電動化への道を拓きました。しかし、それらの配線には多くの制約が伴います。

      Yutongは、有線のBMSよりも優れた解が存在することを把握していました。そして同社は、アナログ・デバイセズと提携し、大型商用車にwBMS技術を適用することにしました。こうして、商用車電動化の発展への期待に満ちた新たなフェーズが始まったのです。

      BMSのワイヤレス化がもたらす代替ルート

      アナログ・デバイセズのwBMSを導入すれば、セミトレーラ・トラックに分散配備されるバッテリ・パック間のワイヤ・ハーネスが不要になります。つまり、wBMSを採用すれば、高いレベルのモジュール性が得られるということです。また、商用車の製造ラインでは、大きな変更が生じることがあります。有線のBMSを使用する場合、そのような変更に対応しつつ、ロボットを活用して生産能力を高めることはできません。Yutongは、wBMSを導入したことで、EVフリートの規模を拡大しつつ、製造ラインの効率を高められるようになりました。

      BMSのワイヤレス化を図れば、車両内の複数個所にバッテリ・パックを配備できるようになります。wBMSを導入したことから、YutongはEV用バッテリ・パックの設計における柔軟性を得ることができました。また、ワイヤ・ハーネスが不要になることから、その分の重量が削減されます。つまり、Yutongの大型EVフリートでは、長い航続距離を実現できるということです。

      アナログ・デバイセズは、Yutongとの緊密な連携を図りながら、分散配備されたバッテリ・パック間のワイヤレス接続に伴う課題に対処しました。アナログ・デバイセズが用意したのは、その基盤になるハードウェアとソフトウェアです。それだけでなく、Yutongが同社のユース・ケースにシステムを適応させるためのカスタムのリファレンス設計を提供しました。現場でのサポートは、アナログ・デバイセズのインドとフィリピンのチームが担当しました。


      このビデオでは、ワイヤ・ハーネスの有無により、バッテリ・パックのアセンブリにどのような差が出るのかを比較しています。アナログ・デバイセズのwBMS技術により、バッテリの製造と保守/点検の効率がどのように改善されるのかご覧ください。

      wBMSがもたらすメリット

      アナログ・デバイセズのwBMSはシステム・レベルのソリューションです。高い精度のセンシングを実現するハードウェアに加え、ソフトウェア・ドライバやツールも網羅しています。これにより、アナログ・デバイセズは大型商用車への対応を進めるYutongを支援しました。BMSのワイヤレス化を図ることにより、Yutongは以下に示すメリットを享受することができました。

      運用上のレジリエンス

      自動車で使用するワイヤは、機械的なストレス、極端な熱、ホコリ、振動による摩耗/損傷に直面しやすいものです。特に大型商用車では、そうした事象に日常的に遭遇する可能性があります。wBMSを採用したことで、Yutongは、多くのエネルギーを扱うバッテリを、最も過酷な環境においても確実に接続/監視できるようになりました。

      製造上の柔軟性

      商用EVの製造ラインでは、設備に関する要件に大きな変更が加わることがあります。wBMSを採用することで、その課題に対処するための負担が軽減されます。具体的には、モジュール性と柔軟性が向上するため、新たなレベルの製造効率を実現することが可能です。また、製品を市場に投入するまでの時間を短縮できます。更に、ロボットを活用した製造を実現可能になると共に、EVフリートをより迅速にスケーリングするための自由度が得られます。

      保守/点検の簡素化

      Yutongは、wBMSを採用したことで、モジュール性が高い革新的なバッテリ・パックを設計することができました。それにより、自動車のライフ・サイクル全体を通して、より迅速かつ容易にバッテリ・パックの保守や再配備を実施できるようになりました。結果として、フリートの所有者は自動車のダウンタイムを削減することが可能になります。

      インテリジェントなインサイト

      wBMSが備える高精度のセンサーは、セルのレベルとシステムのレベルでインサイト(洞察)を取得することを可能にします。フリートの所有者は、それらのインサイトを活用することで、アセットのダウンタイムや運用コストをより適切に管理できるようになります。例えば、適切なタイミングで予知保全を実施可能になるといった具合です。

      他の自動車OEMやエンド・カスタマ(フリートの所有者)も、wBMSを活用すれば同様のメリットを享受することができます。また、上記4つのメリットから、新たな一連のベスト・プラクティスが導き出されます。その結果、フリートの所有者は、セカンドライフとしてリサイクルする直前まで、大型バッテリを最大限に活用することが可能になります。

      Illustration depicting EV battery life cycle
      EV用バッテリのライフ・サイクルの一例。製造からセカンドライフまでの流れを表しています。

      サステナブルな輸送の実現を目指す

      A semi-trailer truck riding on a highway

      商用の自動車排出ガスを削減するのは、非常に重要な課題です。この課題を解決するためには、大きなイノベーションが必要になります。一般に、商用車の一例である路線バスは長い時間にわたって運行されることになるでしょう。また、各種の商用車は建設現場の激しい振動や粉塵などに曝される可能性があります。アナログ・デバイセズとYutongは、密な連携を図ることで、そうした過酷な環境においても目標性能を達成可能な電動大型商用車の実現に取り組みました。その連携を通じ、アナログ・デバイセズは大型商用車の電動化という新たな領域にwBMS技術を導入することができました。

      米国の貨物の約3/4は大型貨物車によって輸送されています4。このことから、あらゆる場所でセミトレーラ・トラックが運用されていることは明らかです。アナログ・デバイセズとYutongの連携により、大型車の電動化には従来とは異なるスマートな方法があるということが明確になりました。輸送業界は現在、地球の気候変動の緩和に向けた基準を満たすことに取り組んでいます。アナログ・デバイセズとYutongは、電動化手法の適用を更に多くの種類の車両にわたって拡大することで、輸送業界がそうした取り組みの達成に向けて前進できるよう後押ししています。

      参考資料

      1 「Distribution of Carbon Dioxide Emissions Produced by the Transportation Sector Worldwide in 2022, by Sub Sector(2022年に世界の輸送業界で発生したCO2の排出量、サブ・セクタ別の分布)」Statista、2023年9月
      2 「What is the Carbon Footprint of a Truck?(トラックのカーボン・フットプリントとは何か?)」FreightWaves、2021年4月
      3 「Greenhouse Gas Emissions from a Typical Passenger Vehicle(一般的な乗用車から排出される温室効果ガスの量)」米国環境保護庁(United States Environmental Protection Agency)、2023年8月
      4 Laura Michelle Davis「Trucking in America: Hidden Truths About the Industry Transporting Our Stuff(米国におけるトラック輸送 -- 物資の輸送を担う業界の隠された真実)」CNET、2021年12月
      5 「Fast Facts: U.S. Transportation Sector Greenhouse Gas Emissions 1990-2022(速報:1990年~2022年に米国の輸送業界から排出された温室効果ガスの量)」米国環境保護庁(U.S. Environmental Protection Agency)、2024年5月