コンデンサの実効リップル電流を測定する方法、「LTspice®」のFFT解析機能を活用する

Figure 1

   

主なポイント

  • LTspiceが備える解析ツールを利用すれば、オシロスコープで取得した未処理のデータにFFTを適用し、実用的な結果を得ることができます。本稿では、その手法を利用し、アルミ電解コンデンサの寿命を推定するために、スイッチング電源のリップル電流を正確に算出する方法を紹介します。
  • コンデンサ内部の上昇温度は、FFTによって取得した周波数成分のデータとデータシートに記載された周波数補正係数を組み合わせることにより計算できます。その手法を利用すれば、スイッチング電源を設計する際に実効リップル電流の正確な値を算出することが可能になります。

概要

本稿では、スイッチング電源(SMPS:Switch-Mode Power Supply)で使用するアルミ電解コンデンサ(Al-Ecap)の実効リップル電流を測定するための実用的な手法を紹介します。実効リップル電流は、コンデンサの寿命を推定する上で重要な意味を持ちます。したがって、その値を正確に測定しなければなりません。本稿で示す方法では、SPICEベースのシミュレータ「LTspice」を利用してデータを処理します。それにより、コンデンサ内部の発熱やコンデンサの劣化の主要な要因となる実効リップル電流を正確に算出できます。その手法では、オシロスコープで取得したデータを、LTspice上で動作するPWL(PieceWise Linear)電圧源に変換して使用します。そうすれば、周波数に依存する加速係数を考慮しつつ、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)による解析を自動的に実行できます。この方法を使う場合、高価な機器を使用したり、過度に単純化された近似に頼ったりする必要はありません。実効リップル電流を正確に算出し、同電流によるコンデンサ内部の温度上昇について検証することが可能になります。

はじめに

堅牢性の高いスイッチング電源を設計するためには、様々な事柄に注意を払う必要があります。その1つが電源全体としての耐用年数です。ほとんどのスイッチング電源では、アルミ電解コンデンサの特性によって信頼性が決まります1。他の種類のコンデンサとは異なり2、3、アルミ電解コンデンサでは、拡散や蒸発の影響を受ける電解液を使用します。これが、同コンデンサの寿命を制限する主たる要因になります。電源全体としての寿命も、使用するアルミ電解コンデンサに大きく左右されます1、4。

アルミ電解コンデンサの推定寿命LXは、メーカーが提示する定格寿命と一連の加速係数の積としてモデル化できます。ここで、加速係数の値は用途に固有の電気的/熱的な特性を考慮して規定されています。以下に示すのは、寿命を推定するための一般化された式です。

数式 1.

ここで、L0はコンデンサの定格寿命(または設計寿命)、KTは温度加速係数、KVは電圧加速係数、KRはリップル電流加速係数です4、5。但し、コンデンサのメーカーによっては、式(1)とは異なる式を採用していることがあります。以下に示す式(2)はその一例です6。

数式 2.

ここで、LXとLOの単位は時間です。そして、KTは周囲温度における加速係数、TOはカテゴリ温度範囲の上限(℃)、TXは実際の周囲温度(℃)、ΔTOは定格リップル電流によるコンデンサ内部の上昇温度(℃)、ΔTは実際のリップル電流によるコンデンサ内部の上昇温度(℃)、Aはリップル電流による温度上昇の加速係数です。

リップル電流とは何か?

そもそも、リップル電流(IR)とはどのようなものなのでしょうか。ここで言うリップル電流は、スイッチング電源のコンデンサに流れます。具体的には、フィルタ用のコンデンサの充放電によって発生します。この電流が原因となって、コンデンサの内部では発熱が生じます。この発熱は、以下の式で決まる電力損失に起因するものです。

数式 3.

ご覧のように、この電力損失はコンデンサの等価直列抵抗(ESR)とリップル電流によって決まります。その結果、コンデンサが発熱します。コンデンサ内部の上昇温度がΔTです6。スイッチング電源の応答を周波数軸で見ると、商用電源の周波数成分とスイッチング周波数の成分が支配的な要素になることが多いでしょう。そのため、式(3)で表される電力損失は、式(4)、式(5)のように書き換えることができます。

数式 4.

数式 5.

ここで、If1、If2、・・・、Ifnは周波数f1~fnにおけるリップル電流(Arms)です。また、Ffnは周波数補正係数(周波数乗数)、f0はリップル電流の基準周波数です6。式(4)、式(5)によって求めた任意の周波数におけるリップル電流は、以下の式(6)を使用することで基準周波数における実効値If0に変換できます6。

数式 6.

また、リップル電流に起因する上昇温度ΔTについては、以下の式(7)を用いることで近似値を求めることが可能です。

数式 7.

ここで、IXはコンデンサに流れる動作リップル電流(Arms)、IOはカテゴリ温度範囲の上限における周波数補正済みの定格リップル電流(Arms)です。この式によって得られた結果を式(2)の入力として使用することで、コンデンサの推定寿命(単位は時間)を算出できます6。

LTspiceを利用し、コンデンサのリップル電流を測定する

本稿では、力率改善(PFC:Power Factor Correction)コンバータを例にとることにします。同コンバータの出力側でアルミ電解コンデンサを使用するケースを考えましょう。その場合、同コンデンサには整流に伴う100Hz/120Hz程度の低周波のリップル電流と同コンバータのスイッチング動作によって生じる高周波のリップル電流が流れます。ここでFFT解析を実施すると、各周波数に対応するリップル電流の実効値が得られます。周波数補正係数を適用し、それらの実効値を合計すれば、式(6)によって実効リップル電流を算出できます。

ここからは、LTspiceを利用してコンデンサのリップル電流を測定する方法を説明していきます。具体的な回路の例としては、昇圧コントローラ「LT8312」の評価用ボード「DC2104A」を使用することにしました。このボードは、LT8312をベースとするオフラインの臨界導通モード(BCM:Boundary Conduction Mode)で動作し、昇圧型のPFCコンバータとして機能します。400V/150Wの定電圧を単一出力として供給できるので、レギュレートされた入力バスを必要とするアプリケーションに適しています。

測定に向けて、まずは電流プローブを接続できるよう、コンデンサのリードに短い延長線を追加します(図1)。その上で、リップル電流が最大になると予想される入出力条件で回路を動作させます。オシロスコープの表示は、時間ウィンドウをなるべく波形の周期の整数倍に近づけるように調整します(図2)。コンデンサ内部の発熱に大きく寄与するのは、リップル電流の高周波成分ではなく低周波成分です。そのため、FFTを実行する際には、最低周波数成分の周期を基準として、その整数倍に相当する時間ウィンドウを使用します。この例では、120Hz(100Hz)を基準として使用しています。

図1. DC2104Aの外観。電流プローブでリップル電流を測定できるように、コンデンサのリードに短い延長線を追加しています。
図1. DC2104Aの外観。電流プローブでリップル電流を測定できるように、コンデンサのリードに短い延長線を追加しています。
図2. オシロスコープの表示。時間範囲が波形周期(120Hz)の整数倍になるようにしています。
図2. オシロスコープの表示。時間範囲が波形周期(120Hz)の整数倍になるようにしています。

次に、オシロスコープで取得したリップル電流のデータをCSV形式のファイルとしてエクスポートします。このファイルに含まれるデータは、図3(右)に示したフォーマットでなければなりません。それにより、LTspiceはオシロスコープからエクスポートされたCSVデータを正しく認識することが可能になります。図3(左)の例の場合、テキスト・エディタでCSVファイルを開き、ヘッダ行を削除した上で、すべてのカンマをスペースに変換します。

図3. CSVファイルの編集。LTspiceが認識できるフォーマットに変更します。
図3. CSVファイルの編集。LTspiceが認識できるフォーマットに変更します。

ファイルの編集が完了したら、LTspice上で新しい回路図を作成します。具体的には、図4(左)に示した回路を作成してください。ご覧のように、PWL電圧源に1Ωの抵抗負荷を接続しています。また、PWL電圧源に対しては、図4(右)に示すようにCSVファイルを対応づけます。この状態で、オシロスコープによって取得したデータの時間範囲に相当する期間にわたりトランジェント・シミュレーションを実行します。なお、シミュレーションを実行する前に、LTspiceが最新のバージョンであることを確認してください。抵抗の電流をプロービングすれば、図5に示すようにリップル電流が表示されるはずです。

図4. PWL電圧源と抵抗から成る回路(左)。LTspice上で作成しました。(右)の画面では、PWL電圧源に関する設定を行っています。
図4. PWL電圧源と抵抗から成る回路(左)。LTspice上で作成しました。(右)の画面では、PWL電圧源に関する設定を行っています。
図5. LTspiceによるシミュレーション結果。評価用ボード(DC2104A)に実装されたバルク・コンデンサのリップル電流に相当する波形が表示されています。
図5. LTspiceによるシミュレーション結果。評価用ボード(DC2104A)に実装されたバルク・コンデンサのリップル電流に相当する波形が表示されています。

FFT解析を適切に実行するためには、入力信号は連続した繰り返し波形でなければなりません。仮に、オシロスコープやLTspiceの画面に表示される波形の端に不連続性が存在したとします。そのようなデータに対してFFTを実行すると、真の値に比べて大きな誤差が生じる可能性があります。これに対処するには、窓関数を適用します。それにより、不連続性の生じている部分を滑らかにし、波形が連続している状態に近づけることができます7。ただ、LTspiceの場合、波形をズームすることで低周波の不連続性を除去することが可能です。時間軸を調整し、波形周期(この場合は120Hzまたは100Hz)の整数倍が表示されるようにすればよいということです。そのためには、時間軸を右クリックし、左端、目盛、右端の値を適宜変更します。図5の例では、左端の値を1.2ミリ秒、右端の値を76ミリ秒に設定しています。

図6(左)に示すように、波形ウィンドウをアクティブにした状態でメニュー・バーから「View」→「FFT」を順に選択します。図6(右)のように設定することで、現在選択されているズーム範囲のデータに対してFFTが実行されます。グラフについては、Y軸を右クリックして電流の大きさが線形表示されるようにします。一方、周波数についてはX軸を右クリックして10Hz~1MHzの範囲に設定します。それにより、周波数領域でリップル電流の大きさを表示することができます(図7)。

図6. LTspiceにおけるFFT機能の設定(左)。(右)の画面では「Use current zoom Extent」を選択しています。
図6. LTspiceにおけるFFT機能の設定(左)。(右)の画面では「Use current zoom Extent」を選択しています。
図7. リップル電流のFFT結果。評価用ボード(DC2104A)上のバルク・コンデンサに流れるリップル電流を表しています。
図7. リップル電流のFFT結果。評価用ボード(DC2104A)上のバルク・コンデンサに流れるリップル電流を表しています。

メニュー・バーから「File」→「Export Data as Text」を順に選択し、FFT結果を含むCSVファイルを生成します。FFT結果のデータは、直交座標または極座標の形式でエクスポートすることが可能です。次に、以下の式(8)を用いて各周波数における大きさ(図8の列D)を求めます。

数式 8.

ここで、Iripple(Re)は直交座標形式でエクスポートされた電流リップル・データの実数成分、Iripple(Im)は虚数成分です。続いて、図8に示すように値の大きい順に並べ替えを行います(F列)。

図8. 実効リップル電流を算出するための準備。各周波数成分の大きさを計算し、並べ替えを行っています。
図8. 実効リップル電流を算出するための準備。各周波数成分の大きさを計算し、並べ替えを行っています。

基準周波数におけるリップル電流の値を計算するには、コンデンサのデータシートに記載されている周波数補正係数(図8のE列)が必要です。測定データから得られたリップル電流の周波数(図8のA列)に基づき、使用するコンデンサの周波数補正係数を決定します。その上で、式(6)を用いてコンデンサの実効リップル電流を算出します。

臨界導通モードのPFCコンバータでは、スイッチング周波数が変動します。そのため、本稿で検討した例と同様にリップル電流の近似値を得るには、可能な限り多くの周波数成分を合計することが重要です。ただ、スイッチング周波数が固定されている連続導通モードのPFCコンバータでは、この手順を簡略化できます。その場合、スイッチング周波数とその高調波の周波数におけるリップル電流のピーク値をいくつか選択します。上位1000個のピーク値を対象として計算した実効リップル電流は0.76Armsとなりました。ここで式(7)を使用すれば、コンデンサ内部の上昇温度(ΔT)を推定できます。この計算に必要な定格リップル電流(IO)やそれに対応する内部の上昇温度(ΔTO)など、コンデンサの定格仕様の値はメーカーから入手します。

まとめ

電源を設計する際には、アルミ電解コンデンサの実効リップル電流を正確に推定する必要があります。そのための効率的かつ信頼性の高い方法として、LTspiceによるシミュレーションを利用できます。その方法によって測定結果をFFTで処理すれば、各周波数に対応する値を算出することが可能になります。その結果とデータシートから得られる周波数補正係数を組み合わせれば、コンデンサ内部の上昇温度、更にはそのコンデンサの寿命を高い精度で推定できます。

参考資料

  1. Martin「MTBF - Is It A Prediction of a Power Supply's Operating Life?(MTBFを使えば、電源の動作寿命を予測できるのか?)」 TDK Lambda、2020年2月
  2. Bryan A. Borres、Ino L. Ardiente、Jahres R. Satur、Flordeliza Valiente、Jesus Martinez「Design Optimization of a Two-Phase Interleaved Transition Mode Boost Converter for Power Factor Correction(2相インターリーブ/遷移モード/昇圧型のPFCコンバータ、その設計の最適化を図る)」2019 IEEE 11th International Conference on Humanoid, Nanotechnology, Information Technology, Communication and Control, Environment, and Management (HNICEM)、2020年4月
  3. Tianyu Chen、Sen Li、Babak Fahimi「Analysis of DC-Link Voltage Ripple in Voltage Source Inverters Without Electrolytic Capacitor(電解コンデンサを使用しない電圧型インバータにおけるDCリンク電圧のリップルの解析)」IECON 2018. 44th Annual Conference of the IEEE Industrial Electronics Society、2018年12月
  4. Marcantonio Catelani、Lorenzo Ciani、Roberto Singuaroli、 Andrea Mannucci「Electrolytic Capacitor Lifetime Prediction In Ground Mobile Applications(地上移動体アプリケーションにおける電解コンデンサの寿命の予測)」13th IMEKO TC10 Workshop on Technical Diagnostics、2014年6月
  5. 「Lifetime Estimation of Capacitors(コンデンサの寿命の推定)」AIC tech Inc.
  6. 「Lifetime of Aluminum Electrolytic Capacitors(アルミ電解コンデンサの寿命)」Nippon Chemi-Con Corporation
  7. 「How to Measure Ripple Current Using the FFT Analysis Function(FFT解析機能を利用したリップル電流の測定方法)」Nippon Chemi-Con Corporation
  8. Snap-in Aluminum Electrolytic Capacitors(基板自立形アルミ電解コンデンサ)、Rubycon

著者について

Ino Ardiente
Ino Lorenz
Bryan Angelo Borres
Bryan Angelo Borresは、アナログ・デバイセズのプロダクト・アプリケーション担当シニア・エンジニアです。産業用の機能安全が専門であり、TÜV認定の機能安全エンジニアでもあります。コンポーネント設計者やシステム・インテグレータがIEC
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