実際のところ、「仮想接地」とは何なのか?
要約
本稿では、まず仮想接地(Virtual Ground)とはどのようなものなのかを明らかにします。続いて、それを利用できるケースを紹介します。更に、仮想電位(Virtual Potential)と仮想短絡(Virtual Short)についても解説を加えます。
はじめに
一般に、仮想接地(仮想グラウンド)はオペアンプ回路の解析を実施する際に用いられます。ただ、実際には、仮想接地を利用する回路は他にも存在します。その一例としては、差動フィルタが挙げられます。本稿では、同フィルタの解析方法を実例として取り上げ、仮想接地はオペアンプ回路に固有の概念ではないことを明らかにします。
図1に示すのは、仮想接地のモデルを使用する回路の例です。これは、コモン・モード/ディファレンシャル(差動)モード(CM-DM)の電磁干渉(EMI:Electromagnetic Interference)を防止するためのフィルタ回路として使用されます。このモデルは、「EMIフィルタのチューニング方法」という記事で、差動帯域幅の解析を簡略化するために使われました。図1の回路はディファレンシャル・モードのコンデンサを使用して構成されています。そのコンデンサは直列に接続した2つのコンデンサから成ります。それらを接続したポイントを仮想接地として扱うことができます。このように考えれば、よりシンプルなシングルエンドの回路を対象として解析を実施することが可能になります。
仮想接地に関する誤解
通常、仮想接地の概念は初めてオペアンプ回路を扱う際に学ぶことになるでしょう。仮想接地は、オペアンプ回路を実装する際に頻繁に使用され、議論にも用いられます。結果として、その真の意味が見失われてしまうケースが少なくありません。
仮想接地を含む仮想電位のモデルには、様々な応用例が存在します。それらを目にする機会がなければ、「仮想電位というのは、負帰還型のオペアンプ回路の入力ノードのうちいずれか一方にだけ存在するものだ(他には存在しない)」と思い込んでしまうかもしれません。しかし、それは誤りです。これについては、後ほどEMI対策用のCM-DMフィルタに対する半回路解析(half-circuit analysis)で仮想接地を利用する例を示すことにします。
図2は、仮想接地の概念が一般的にどのような形で紹介されるのかを示す例です。残念ながら、この図では負帰還を使用する理想的なオペアンプ回路の反転入力ノードが仮想接地だと解釈されています。実際には、その反転入力ノードは、仮想的に一定の電位を保っている状態にあります(負帰還によって一定の電位になるよう制御されている)。図2の回路では、その電位がたまたまグラウンド電位になっているだけです。つまり、この点が仮想接地そのものだということではありません。そうではなく、仮想的にグラウンド電位に保たれているノードだということなります。
ここでは、理想的なオペアンプのモデルについて考えます。そのオープンループ・ゲインは無限大です。したがって、図2のように負帰還回路を構成すると、オペアンプの入力ノードについてはV+ = V-が成り立ちます。ここで、図2の回路では非反転入力ノードがグラウンドに接続されています。そのため、反転入力ノードの電位は仮想短絡によって0V(グラウンドのレベル)になります。
続いて、図3をご覧ください。これは、理想的なオペアンプを使用して構成したレベルシフト回路です。この場合、負帰還を用いたオペアンプ回路の反転入力ノードの電圧はVDCという値になります。つまり、図2の例と同様に反転入力ノードは仮想電位に固定されるということです。この種の回路は、バイポーラの信号範囲(例えば±2.5V)を必要とする単電源のシステムでよく使用されます。あるいは、バッファを備える電圧源としても一般的に用いられます。
仮想電位と仮想短絡のモデル
図4に示したのは仮想電位のモデルです。インピーダンスはほぼ無限大なので、このモデルの抵抗R1にはほとんど電流は流れません。そのため、R1の両端で生じる電圧降下は事実上、ゼロになります。つまり、R1の両端は仮想短絡の状態にあります。結果として、出力に相当する仮想電位はVVPに等しくなります。
インピーダンスが無限大なら、つながっていないのと同じなのか?
通常、技術者は実用上の観点から、無限大のインピーダンスを実質的にオープン・サーキットとして扱います。このことは、図4に示した仮想電位のモデルとは矛盾するように感じられるかもしれません。よりわかりやすくするためには、無限大のインピーダンスを非常に値が大きい抵抗に置き換えるとよいでしょう。
私たちは、回路に関する理論に長けている人や教師たちにミスリードされていたと言えるのかもしれません。一般に、理想的なオペアンプの入力側には、無限大のインピーダンスが存在するとされます。未熟な学生にとって、その意味を正しく理解するのは容易ではなかったはずです。なかには、「オペアンプの入力部にはオープン・サーキットが存在するのか?」と思った方もいるでしょう。多くの学生は、負帰還の構成を採用したオペアンプ回路の場合、入力に仮想的な短絡が生じるという概念に納得していました。これについては、より良い理解の仕方が存在します。それは、「負帰還回路では、オペアンプの入力の1つが(現実の世界では多少のオフセットが生じるものの)もう一方の入力をミラーリングする」というものです。
図4に示した理想的な仮想電位のモデルは、仮想短絡と仮想電位とはどのようなものなのかを理解することに役立ちます。ただ、回路シミュレーションでは、これに修正を加えたモデルを使用するとよいでしょう。仮想電位は、値の大きい抵抗を使用することで近似的に実装できます。そのモデルを使用する場合、シミュレーションが収束しないという問題が発生することがあります。これについては抵抗値やシミュレーション用のノードの許容誤差(例えば、RELTOLなど)を調整することにより対処できます。図5に示したのは、仮想電位が存在する回路の例です。これは、「LTspice®」でDC解析を実行する際に使用できます。
なお、回路シミュレータを使用する際には、フローティング・ノードが存在することによる収束の問題を解消しなければならないケースがよくあります。多くの設計者は値がMΩのレベルの抵抗を用いて接地(またはその他の電位に接続)することで問題を解決します。これは、まさに仮想電位のモデルを実装していることに相当します。
続いて図6をご覧ください。これは、オペアンプのモデルが理想的なものであるか否かにかかわらず、その中に仮想電位のモデルが組み込まれていることを表しています。但し、このような表現は一般的なものではないかもしれません。この例では、オペアンプの非反転入力ノードに電圧(電位)が印加されています。また、そのノードは理想的なオペアンプの無限大の入力インピーダンスに接続されています。そして、無限大の入力インピーダンスと負帰還の構成により、仮想短絡が成立しています。その結果、反転入力ノードの電圧はVDCという仮想電位の値に維持されます。
通常、非理想的なオペアンプのモデルにおいて、オープン・サーキットの入力インピーダンスの値は非常に大きくなります。そのインピーダンスは、負帰還回路を構成することで増大し、オペアンプのオープンループ・ゲインを乗じた値にほぼ等しくなります(Rin≒AOL×R12)。この入力インピーダンスの値は無限大には達していませんが、類似する仮想電位のモデルの場合と一致します。
半回路解析、仮想接地、CM-DMフィルタ
図7に示したのは、本稿で半回路解析の対象として使用するCM-DMフィルタ(EMI対策用)の回路です。ここで、本稿の冒頭に示した図1をもう一度ご覧ください。図1の回路は、図7の回路の半回路解析を行う際の途中経過に相当します。このような解析を実施する場合に、仮想接地がどこに適用されるのかを明確にするために用意しました。以下では、半回路解析の方法について詳しく説明します。この方法を使用すれば、必要な計算を簡略化することが可能になります。また、回路のAC特性をより迅速に導出できるようになります。
半回路解析では、基本的に1つの回路を2つの鏡像回路(mirror-image circuit)に分割します。その鏡像回路は、2つの全く同じシングルエンド回路に相当します。両シングルエンド回路は、差動信号に対して等価な伝達関数で応答します。半回路に分割したら、一方の回路は無視し、残りの(よりシンプルな)シングルエンド回路を解析します。両方の差動ラインに並列に接続されているコンポーネントは仮想接地を基準にするように修正します。
半回路解析では、平衡回路の対称的な構造、非対称な入力信号、重ね合わせの原理を利用します。よりシンプルな半回路を対象とし、コモン・モード/ディファレンシャル・モードの動作について解析できます。
図7の入力信号の構成は、計装アンプ回路や差動アンプ回路の解析でよく用いられます。その目的は、コモン・モードの信号に対する伝達関数とディファレンシャル・モードの信号に対する伝達関数を個別に導き出すことです。詳細については、チュートリアル「MT-076」を参照してください1。
図8(a)は、対称軸を明確にするためにCM-DMフィルタの一部を描き直したものです。更に、図8(b)ではコンデンサCDiffを2つの鏡像デバイスに分割しています。2つの直列コンデンサの総容量は、元のCDiffの容量と等価であることに注意してください。
続いて図9をご覧ください。これは、コモン・モードとディファレンシャル・モードの等価な半回路を表しています。コモン・モードの半回路は、半回路のすべての相互接続を切断する(オープン・サーキット)ことによって得られます。ディファレンシャル・モードの半回路は、半回路のすべての相互接続を仮想接地に接続することで実現されます。
最後のステップでは、仮想接地をシグナル・グラウンドに置き換えます。仮想接地のインピーダンスは無限大です。それに対し、ディファレンシャル・モードの回路の片側は、図10(a)に示すように電流のシンク/ソースに対応できます。これはシグナル・グラウンドと等価です。シグナル・グラウンドとは、電流のシンク/ソースが可能なグラウンド電位のノードのことです。
回路の伝達関数を導出する際やシミュレーションを実施する際には、仮想接地をシグナル・グラウンドに置き換えます。そうすると、並列に接続された2つのコンデンサの値を単純に加算することができます。結果として、図10(b)に示すようなシンプルなRC回路が得られます。
よりシンプルになったコモン・モードの半回路とディファレンシャル・モードの半回路を用いれば、コモン・モードとディファレンシャル・モードの各伝達関数とそれぞれの帯域幅を求めるための式を導出できます。図11に示したのは、コモン・モード/ディファレンシャル・モードの等価回路です。図中には、それぞれの平衡帯域幅も示してあります。
なお、部品の許容誤差を用いた式の導出については、チュートリアル「MT-070」を参照してください2。
レール・スプリッタ回路と仮想接地
レール・スプリッタ回路は、バッテリなどの単電源からバイポーラ電源を生成する方法としてよく使用されます。その場合、一般的には抵抗分圧器などのレール分圧回路を使用することで、電源電圧の中央値に相当する電圧を生成します(図12)。その電圧はリファレンス・レベルとして使用されます。図12の回路は電流出力を供給します。出力電圧は負帰還を用いたバッファを介して仮想接地のレベル(BATT/2)に保持されます。
図中のV+の電位は仮想接地に対してBATT/2となり、V-の電位は仮想接地に対して-BATT/2になります。
残念なことに、レール・スプリッタ回路は仮想接地回路と呼ばれることがあります。実際には、レール・スプリッタ回路は電流のシンク/ソースを実現できるように設計されています。つまり、出力となるグラウンドのノードは、仮想的なものではなく、リターン電流の経路となる実際のグラウンド・ポイントです。仮想接地回路という誤った呼称は、仮想電位(仮想接地を含む)に関する混乱を招く可能性があります。これについては、「Difference Between Real Ground and Virtual Ground(実際のグラウンドと仮想接地の違い)」3という記事が参考になります。この記事では、「仮想接地とは、直接接続されているわけではないのに、グラウンドの電位に維持される回路内の概念的なポイントのことです」と説明しています。
図12の回路では、バッテリを基にその1/2の電圧を生成し、それをバッファ・アンプに供給しています。バッファ・アンプの仮想短絡によって、仮想電位の概念が適用されています。但し、回路全体として仮想接地を提供するわけではありません。
まとめ
負帰還型のオペアンプ回路の解析は、仮想接地の概念を利用することで簡略化できます。ただ、それ以外の回路についても、仮想電位と仮想短絡の概念を応用することで解析を簡素化できるケースは少なくありません。両モデルを適用すれば、必要な計算を大幅に簡略化することができます。また、回路の動作をより深く理解することが可能になります。
謝辞
本稿のレビューにご協力いただき、建設的なご意見をお寄せくださったDaniel Burton氏、Tim Green氏、Blaise Parker氏に深く感謝します。
参考資料
1 「MT-076 Tutorial: Differential Driver Analysis(差動ドライバの分析)」Analog Devices、2009年
2 「Analog Devices MT-070: In-Amp Input RFI Protection(計装アンプの入力部におけるRFI対策)」Analog Devices、2009年」Analog Devices、2009年
3 「Difference Between Real Ground and Virtual Ground(実際のグラウンドと仮想接地の違い)」Electrical Technology、2019年10月
