オペアンプの直列接続:出力電力の増大と高精度を同時に実現する方法

オペアンプの直列接続:出力電力の増大と高精度を同時に実現する方法

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Thomas Brand

Thomas Brand

技術者は、幅広い条件を満たすことのできるアプリケーションを開発するという課題にしばしば直面します。様々な条件を同時に満たすことは通常、困難です。例えば、高速、高電圧で動作し、高出力で、DC精度やノイズ、歪みの面でも良好な特性を有するオペアンプを見つけ出したい場合、これらの特性をすべて備えたオペアンプが市場で見つかることは極めて稀です。しかし、このようなアンプを、自分で2個の別々のアンプを使って、複合アンプとして作り出すことは可能です。2個のオペアンプを組み合わせると、各アンプの好ましい特性を取り入れることができます。このようにして、同じゲインの単一アンプよりも広い帯域幅を実現することができます。

複合アンプ

複合アンプは2個のアンプを組み合わせて構成しますが、多くの場合、それぞれのアンプは異なる特性を持っています。このような組み合わせの例を図1に示します。アンプ1は低ノイズの高精度アンプ、ADA4091-2です。アンプ2はAD8397で、高出力を特長とし、追加モジュールを駆動する役目を担います。

図1 2個のオペアンプを直列接続して構成した複合アンプの回路図。

図1 2個のオペアンプを直列接続して構成した複合アンプの回路図。

図1に示した複合アンプの構成は、2個の抵抗R1とR2を外付けした非反転アンプの構成に似ています。ここでは、直列に接続された2個のオペアンプを1つのアンプと見なします。合計ゲイン(G)は抵抗比によって設定され、G = 1 + R1/R2となります。R3とR4の比の変化、つまりアンプ2のゲイン(G2)は、アンプ1のゲイン(G1)あるいは出力レベルにも影響します。有効合計ゲインがR3とR4によって変化することはありません。G2が減少するとG1は増加します。

帯域幅の拡大

複合アンプのもう1つの特性は、帯域幅が広いことです。この組み合わせでは、個々のアンプより帯域幅が広くなります。したがって、ゲイン帯域幅積(GBWP)100MHz、ゲインG = 1の同じアンプを2個使った場合は、約27%広い–3dBの帯域幅が得られます。ゲインが大きくなるに伴いこの効果は更に顕著になりますが、一定の限界があります。この限界を超えると安定性が失われます。これは、2つのゲインの配分が均等でない場合にも当てはまります。一般に、最大帯域幅は2個のアンプのゲイン配分が等しい場合に得られます。上に述べた値の場合(GBWP = 100MHz、G2 = 3.16、G = 10)、ゲイン10で、単一アンプの場合より約300%広い–3dBの帯域幅を実現することができます。

説明は比較的単純です。ゲイン配分が等しい場合は、G2もアンプ1と同じ有効ゲインになります。しかし、個々のアンプのオープンループ・ゲインは、はるかに大きい値です。ゲインを例えば40dBから20dBに減らすと、どちらのアンプもオープンループ曲線の下側の領域で動作するようになります(図2参照)。このようにして、複合アンプでは同じゲインの単一アンプより帯域幅が広くなります。

図2 複合アンプによる帯域幅の拡大

図2 複合アンプによる帯域幅の拡大

DC精度とノイズ

代表的なオペアンプ回路では、出力の一部が反転入力に帰還されます。このようにして帰還パスを介して出力誤差を補正し、精度を向上させています。図1に示す組み合わせには、アンプ2のための独立した帰還パスも示していますが、アンプ2はアンプ1の帰還パス内にあります。組合せ全体での出力にはアンプ2による大きな誤差が含まれますが、これらの誤差はアンプ1にフィードバックされて補正されます。したがって、アンプ1の精度は保持されます。出力オフセットは1個めのアンプの誤差のみに比例し、2個めのアンプのオフセットには依存しません。

ノイズ成分についても同様のことが当てはまります。ノイズ成分も帰還を介して補正され、この場合はAC信号も2つのアンプ段の予備帯域幅に依存します。最初のアンプ段が十分な帯域幅を有している限り、このアンプ段がアンプ2のノイズ成分を補正します。この時点までは、その出力電圧ノイズ密度が支配的です。しかし、アンプ1の帯域幅を超えると、2個めのアンプのノイズ成分が支配的になっていきます。アンプ1の帯域幅が広すぎる場合や、アンプ2の帯域幅より著しく広い場合は、いろいろと問題が生じます。このために新たなノイズ・ピークが生じ、それが複合アンプの出力に現れる可能性があります。 

まとめ

2個のアンプを直列に接続することで、両方のアンプの最良の特性を組み合わせて、個々のオペアンプでは得ることのできない結果を得ることができます。例えば、高い出力と広い帯域幅を備えた高精度のアンプを構成することができます。図1は、レールtoレール・アンプであるAD8397(–3dB帯域幅 = 69MHz)と、高精度アンプであるADA4091-2(–3dB帯域幅 = 1.2MHz)を使用した回路の例で、2個のアンプを組み合わせることで、個々のアンプの帯域幅より2倍以上広い帯域幅が得られます(G=10の場合)。更に、AD8397と様々な高精度アンプを組み合わせることによって、ノイズを低減したりTHDを改善することができます。ただし、設計時にはアンプ構成を正しく行うことで、システムの安定性を確保する必要があります。あらゆる条件を考慮すれば、複合アンプは、幅広い面で厳しい要求をもつアプリケーションに対して様々な可能性を提供します。