要約
このアプリケーションノートは全体の電力消費を低減する省電力回路を内蔵したリレードライバのMAX4822/MAX4824について論じます。標準的なアプリケーションでは、使用するリレーのタイプによりますが、5.5%~68.5%の範囲で省電力します。省電力モードはリレーのコイルに給電する電源の大きさを小さくしコストを低減するのにも役立ちます。この結果、全体的に小さくかつ安価なシステムを得る事が可能です。
はじめに
テレコミュニケーションまたは自動試験装置(ATE)などある特定の装置では、多くの場合、ほとんどあらゆる種類の信号の無損失スイッチングを達成するために複数のリレーバンクを使用します。これらの製品では、多数のリレーコイルは単一電源から給電することができ、電源はすべてのコイルを同時に駆動するために十分に大容量でなければなりません。それに加えて、各リレーは非常に小さいスペースに高密度に閉じ込めることができるため、コイルの電力消費が設計問題となります。
リレーは通電状態よりも通電開始状態の方が、コイル両端間に非常に高い電圧が必要になります。このことを知っていれば、コイルを流れる駆動電流を減少させると、省電力した回路設計が可能となります。このアプリケーションノートは全体の電力消費を低減する省電力回路を内蔵したリレードライバデバイスについて論じます。
省電力設計法
MAX4822/MAX4824リレードライバには、FETが最初にオンになった後の短時間ドライバ両端間の電圧を小さくする省電力機能が備わっています。最初、出力ドライバは完全にオンとなる完全に飽和したFETです。調整可能なタイムアウト期間の後、FET両端間の電圧はレジスタで設定した値にレギュレートされます。タイムアウト期間は外付けコンデンサで調整可能です(図1)。
図1. MAX4822の機能図。
省電力機能はリレーコイルの全体消費電力と電源が消費する電力の両方を低減します。デバイスの出力ドライバはONとOFFの2つの状態を備えています。
ON状態は2つの異なった状態、いわゆる「初期状態」と「省電力状態」からなります。初期状態では、出力FETは完全に飽和し、完全にオンとなります。PSAVE端子のコンデンサによって設定されるタイムアウト期間の後、デバイスは省電力状態に移行し、その場合はFET両端間の電圧は制御ループを使用してレギュレートされます。
省電力モードにおける省電力を図示するために、2つのON状態のおのおので消費される電力を比較することができます。例として、100ΩのDC抵抗を備えたコイルと5V電源を使用するシステムを考えます。図2は抵抗RCOILが接続された理想的なインダクタとしてモデル化されたリレーコイルが示されています。
図2. リレーコイルを駆動するFETのモデル。コイルは直列抵抗RCOILを接続した理想的なインダクタとしてモデル化されています。
初期状態では、MAX4822/MAX4824の出力抵抗は5Ω (max)であり、したがって、電力消費は次のようになります:
ICOIL = 5V/105Ω = 47.6mA
PCOIL = ICOIL² × RCOIL = 47.6mA² × 100Ω = 0.227W
PDRIVER = ICOIL² × RDRIVER = 47.6mA² × 5Ω = 0.011W
PTOTAL_INIT = 0.238W
省電力状態での電力消費の解析は幾分異なります。コイルで消費される電力を最初に定量化し、その後でドライバの電力消費を定量化します。その後は各値を加算するだけです。
省電力状態では、FET出力の電圧は内部レジスタによって設定される電源電圧のある割合にレギュレートされます。このことは図2でVDRIVERと呼ばれる電圧は内部制御ループによってレギュレートされることを意味します。例に戻ってVDRIVERが50% (MAX4822/MAX4824は10%~70%に設定可能です)であるとします。すると、コイルの電力消費は次のようになります:
VCOIL = 5V- (50% × 5V) = 2.5V
ICOIL_PS = VCOIL/RCOIL = 2.5V/100Ω = 0.025A
PCOIL = 2.5V × 25mA = 0.0625W
ドライバの電力消費を求めるために、その電流はコイルの電流と同じであることに注目します:
IDRIVER_PS = 0.025A
VDRIVER = 50% × 5V = 2.5V
PDRIVER = 0.0625W
PTOTAL_PS = 0.125W
SAVINGS = 1 - PTOTAL_PS/PTOTAL_INIT
したがって、この例は省電力モードで初期状態と比較して47.5%を省電力する事が可能です。
省電力を計算する別の方法があります。電流を知ることができれば、省電力を計算するのに必要な情報として利用できます:
PTOTAL_PS = VCC × ICOIL_PS
PTOTAL_INIT = VCC × IDRIVER_INIT
SAVINGS = 1 - ICOIL_PS/IDRIVER_INIT
省電力のための別の方法の式が、省電力モードで実際に省電力される理由を示しています。電源から流れる電流が減って、電源そのものが同じ値であるためです。
MAX4822/MAX4824のさまざまな設定に対して可能な省電力を示す表を作ることができます。この表ではVCC = 5V、RDRIVER = 5Ω、RCOIL = 100Ωであり、上の例と同じです。
Driver Setting (n) | VDRIVER | VCOIL | Savings (%) |
10% | 0.50 | 4.50 | 5.5 |
20% | 1.00 | 4.00 | 16.0 |
30% | 1.50 | 3.50 | 26.5 |
40% | 2.00 | 3.00 | 37.0 |
50% | 2.50 | 2.50 | 47.5 |
60% | 3.00 | 2.00 | 58.0 |
70% | 3.50 | 1.50 | 68.5 |
ドライバの設定によって省電力効果が大きくなることに注目してください。しかし、設定値を大きくすると、リレーコイル両端間の電圧がわずか1.5Vとなり、これはリレーをON状態に「保持」するには十分ではありません。
要約
MAX4822/MAX4824リレードライバの省電力機能ではON状態でのモノステーブルリレーに消費される電力が大きく削減されることが可能です。ここに示した例では全体の電力消費は47.5%低減しました。試験の結果は使用するリレーのタイプに依存して、5.5%~68.5%の範囲で省電力することができます。この省電力機能はリレーに給電する電源の大きさとコストも低減することに役立ち、より小さく、安価なシステムを作る1つのステップとなります。