高効率、低コストのISM帯域トランスミッタのためのパワーアンプ理論

2007年09月11日
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要約

ASKやFSKのトランスミッタおよびトランシーバの低コストICは、免許不要の工業/科学/医療用(ISM)帯域(300MHz~450MHz)で機能するよう設計された、短距離無線システムの主要部品です。このような短距離デバイス(SRD)のアプリケーションとして、リモートキーレスエントリ(RKE)、タイヤ空気圧監視(TPM)、リモートコントロール、およびセキュリティなどのシステムがあります。

システム設計では、RFリンクバジェット、アンテナ設計、バッテリ寿命、規制問題など、多くの課題に取り組むことになるため、ほとんどの場合、トランスミッタの出力電力と消費電流の間でのトレードオフが必要となります。 マキシムの低コストのトランスミッタおよびトランシーバ(MAX1472、MAX7044、MAX1479、およびMAX7030/MAX7031/MAX7032など)のパワーアンプ(PA)には独自の機能が備わり、高効率性を維持しながらも、RF電力/消費電流のトレードオフをユーザが制御することができます。 トレードオフをうまく行なうことは、バッテリ寿命を最大限にし革新的な省エネルギー製品に対する最近の高い需要に応えるために重要です。マキシムのICは、何の変更を加えなくても、このトレードオフを取り扱うことができResourceSmart™ソリューションを比較的容易に設計できるようにします。単にPAに供給される負荷インピーダンスを変更するだけで、PAの出力電力と消費電流を変更することができます。

このアプリケーションノートでは、パワーアンプ理論の概要を説明し、またシミュレーション結果を示すことによって、マキシムのすべてのLFRFトランスミッタとトランシーバに搭載されたPAの動作を考察しています。

このアプリケーションノートに類似した内容が「Microwaves and RF」誌の2006年1月号に掲載されました。

パワーアンプの概要

A級、B級、およびC級アンプ

A級アンプは、バイアス点と信号レベルが結合されているという特徴があり、デバイスの平均消費電流は入力信号の大きさとともに変化しません。図1で、M1は振幅IDCの電流源と考えることができます。

図1. A級アンプの回路図
図1. A級アンプの回路図

最大出力電力のインピーダンスが次のようになることはよく知られています。

RLOPT = VDD/IDC (Eq. 1)

最大出力電力は、次式で定義されます。

POUTMAX = ½ × VDD × IDC (Eq. 2)

したがって、ピーク効率は50%です。¹この分析では、M1のドレイン電圧はIDCのバイアス電流を維持しながらもグランドにスイングする可能性があるものと想定しています。三極管領域での動作では、A級CMOS PAの実質的な効率は40%未満に制限されます。この分析でわかるように、特定の供給電圧に対して異なる出力電力レベルを得るためには、かなり大きな効率を維持することができるようA級アンプのバイアス電流を変更する必要があります。A級アンプは、バイアス点が入力信号の大きさとともに変化することがないため、入力信号のリニア増幅が重要な場合の変調方式に最も適しています。

ただし、B級アンプとC級アンプは、A級アンプもより高い効率を示しますが、通常、出力電力レベルが低減され、また歪みも大きくなります。

A級、B級、およびC級のすべてのCMOSアンプに共通の特性は、アクティブデバイスは電圧制御の電流源と見なされ、三極管領域での動作は望ましくないということです。

D級、E級、およびF級アンプ

三極管領域での動作を回避すべきA級、B級、およびC級アンプとは対照的に、D級、E級、およびF級のCMOSアンプは、三極管領域の動作に依存して最適な効率と出力電力を実現しています。これらのアンプは、しばしば「スイッチモード」アンプと呼ばれ、低電圧において本質的に高効率の動作を示すため、一般にISM帯域のトランスミッタとトランシーバに使用されます。スイッチモードアンプでは、出力デバイスは、図2に示すように、大信号の方形波によって駆動されます。

図2. スイッチモードアンプの回路図
図2. スイッチモードアンプの回路図

出力トランジスタを、一定のデューティサイクルを備えた動作周波数でスイッチがオン/オフされる抵抗器と見なします。図2に示すように、出力デバイスの電流には非常に多くの高調波が含まれる可能性があります。この高調波成分は、駆動波形のデューティサイクルと大きさ、FETの「オン」抵抗、およびPAに与えられたインピーダンスに依存します。D級アンプでは、入力信号のデューティサイクルを変化させることにより出力電力を制御します。このプロセスは、パルス幅変調(PWM)として知られています。D級アンプは、オーディオアプリケーションに最も多く利用されています。このアプリケーションでは、アンプによって出力される電力は常に変化します。

E級アンプでは、入力信号のデューティサイクルは固定されています。マッチングネットワークは、スイッチがオンの間、スイッチングのドレイン端子における電圧を最小限に抑えるように設計されています。出力デバイスが電流を消費する間、出力デバイスの両端の電圧を最小限に抑えることによって、スイッチングデバイスが消費する電力を最小化することができるため、PA効率を最大限に大きくすることができます。

E級アンプと同様、F級アンプは効率を高めるため、マッチングネットワークの設計で高調波インピーダンスに対する特別な配慮が必要です。一般に、F級アンプのマッチング回路は、高調波インピーダンスに対する設計上の制約があるため、より複雑になります。

スイッチモードアンプ

マキシムのすべてのCMOS ISMトランスミッタとトランシーバは、オープンドレインのPA出力を備えています。駆動信号のデューティサイクルは、300MHz~450MHzの全範囲に対して一定の25%です。ユーザは、所望の出力電力レベル、消費電流、および高調波性能を備えたマッチングネットワークを設計することになります。これによってユーザは、特定ワイヤレスアプリケーションに必要な量だけの出力電力を供給しながら最小限の消費電力を実現可能です。

スイッチモードPA出力の簡単なモデルを図3に示します。

図3. スイッチモードアンプの簡略モデル
図3. スイッチモードアンプの簡略モデル

この図で、RSWはFETのオン抵抗、CPAはデバイスの有効な寄生容量の合計、CPKGはパッケージの容量、およびCBOARDは基板の容量です。表1は、マキシムのISMトランスミッタとトランシーバの標準のスイッチ抵抗と容量を一覧にしたものです。

表1. スイッチの抵抗と容量の一覧

Part Description RSW (Ω, typ) CPA + CPKG + CBOARD (pF)
MAX1472 ASK transmitter 22 2.2
MAX7044 ASK transmitter 11 2.6
MAX1479 ASK/FSK transmitter 22 2.3
MAX7030 ASK transceiver 22 2.4
MAX7031 FSK transceiver 22 2.4
MAX7032 ASK/FSK transceiver 22 2.4

標準スイッチ抵抗はVDD = 2.7Vの場合であること、また基板の寄生容量はレイアウトによって大きく変動する可能性があることに留意してください。E級およびF級アンプの理論とマッチングネットワーク設計の式については、文献2、3、4で詳しく述べられています。読者は、これらの出版物を予備知識として参照することができます。このアプリケーションノートの範囲を考えると、以下を述べるだけで十分でしょう。すなわち、最初にマッチングネットワーク、したがってPA出力ノードにおける波形は、PAの効率を最大限に高めるように設計する必要があるということです。次に、スイッチを閉じたときのデバイス両端の電圧が低くなったときに最大効率が得られるということです。

スイッチモードアンプのシミュレーション

システム設計者は、多くの低コストISMアプリケーションにおいて、設計の時間、コスト、または複雑さという点であまり融通性を持たないため、PAマッチングネットワークを最適化して十分な最大効率を得ることができない場合があります。小型(高Q)の安価なアンテナは通常、より高い周波数の送信においてより優れた効率を示しますが、規制事項によって、送信信号の高調波成分が制限されます。このため、マッチングネットワークによる高調波の減衰がきわめて重要となります。これらの事実を考慮し、ドレインでの電圧を完全にフィルタリングし、結果として正弦波が得られるように出力マッチングネットワークを設計することを想定して、スイッチングPAを分析しました。図4を参照してください。

図4. スイッチモードアンプの波形
図4. スイッチモードアンプの波形

PAにRLの抵抗負荷が加えられ、また0.1Vという低い値で出力電圧がスイングする可能性があるものと想定した場合、PAの効率は次式で表されます。

Efficiency = ½ × (VDD - 0.1)2/RL/VDD2/(4RSW) × (1 - (VDD - 0.1)/VDD × 23/2/π)) (Eq. 3)

VDD = 3V、RSW = 22Ω、およびRL = 400Ωの場合、PA効率は10.2dBmの出力電力にて80%です。これは理想のA級アンプに比べ効率において約60%の増加です。当然、電圧波形、スイッチ抵抗、および負荷インピーダンスは互いに依存しています。このため、上式は、これら変数のすべての組み合わせについて、正確な効率の予測手段として使用することはできません。この理由のため、SPICEを使用して理想的なスイッチモードPAの性能をモデル化しています。11Ωまたは22Ωの理想的なスイッチ抵抗を、Qが10の並列タンク回路の両端に配置します。シミュレーションの回路図を図5に、シミュレーションの結果を図6に示します。

図5. 理想的なスイッチモードアンプのシミュレーション回路図
図5. 理想的なスイッチモードアンプのシミュレーション回路図

図6. 理想的なスイッチモードアンプの負荷抵抗に対する出力電力・効率特性
図6. 理想的なスイッチモードアンプの負荷抵抗に対する出力電力・効率特性

図6に示すように、スイッチモードPAの最大の長所の1つは、優れたDC-RF効率を維持したままPAに加わる負荷を変更することによって、広範囲にわたって出力電力を変動させることができるという点です。さらに、スイッチ抵抗がより低いスイッチングアンプは、より高いスイッチ抵抗と比較したときに、高効率でより大きな電力を出力することができます。低いスイッチ抵抗の短所は、スイッチングデバイスの寄生容量を充電および放電するために、より大きなドライバ電流を必要とするという点です。

前述したように、スイッチングモードアンプの効率を最大化するためには、電圧波形の最小値付近でのみスイッチをオンにする必要があります。単純な並列共振回路を搭載したスイッチ抵抗器の例の場合、PAに加わるインピーダンスの虚数成分(デバイス、パッケージ、および基板の寄生容量を含む)を動作周波数において最小限に抑えることによってこの要件を満たすことができます。ネットワークが共振から外れて、離調した場合、効率は大幅に低下する可能性があります。図7に、Q = 10およびQ = 5について、マッチングネットワークが共振から外れた場合の理想的なスイッチングモードアンプの性能を示します。

図7. 理想的なスイッチングモードアンプの離調に対する効率・消費電力特性
図7. 理想的なスイッチングモードアンプの離調に対する効率・消費電力特性

図7に示したように、消費電流の最小値は共振時に得られます。この事実を使用すれば、所定のネットワークが特定の動作周波数について最適化されていることを確認することができます。 また、SPICEシミュレーションは以下を想定していることに留意する必要があります。すなわち、スイッチ抵抗は即時にオン/オフすることが可能であること、スイッチ式デバイスの寄生容量はデバイスのオン/オフで変化しないこと、およびタンクのインダクタやコンデンサには損失や寄生容量が存在しないということです。これらの要因は、理想のシミュレーションと比較したとき、実際のスイッチモードアンプの性能が低下して見える要因となります。特定のアプリケーションについてPAマッチングネットワークを最適化するには、ほとんどの場合、反復手法が必要となります。

まとめ

以上のことをまとめて、マキシムのISM帯域スイッチモードアンプの重要な特長と特性のいくつかを以下に示します。

  • スイッチモードアンプは、三極管領域の動作に依存して低供給電圧における最適な効率と出力電力を実現しています。これは、三極管領域での動作を回避すべきA級、B級、およびC級アンプとは対照的なものになります。
  • マキシムのすべてのCMOS ISMスイッチングモードアンプは、オープンドレインのPA出力を備えています。ユーザは、所望の出力電力レベル、消費電流、および高調波性能を備えたマッチングネットワークを設計します。この柔軟性によって、ユーザは高効率を維持しながらRF電力/消費電流のトレードオフを調整することができます。このことは、ResourceSmartソリューションを設計する際にバッテリ寿命を最大化するため重要です。
  • スイッチングモードアンプの効率を最大化するためには、電圧波形の最小値付近でのみスイッチをオンにする必要があります。PAに加わるインピーダンスの虚数成分(デバイス、パッケージ、および基板の寄生容量を含む)を動作周波数において最小限に抑えることによってこの要件を満たします。
  • 特定のPA負荷インピーダンスに応じて、消費電流の最小値は共振時に得られます。この知識は、所定のネットワークが特定の動作周波数と負荷に対して最適化されていることを確認する場合に役立ちます。

参考文献

  1. Behzad Razavi著「RF Microelectronics」Prentice Hall、ニュージャージー州イングルウッドクリフ、1997年発行
  2. N.O. SokalおよびA.D. Sokal著「Class E: A New Class of High Efficiency Tuned Single-Ended Switching Power Amplifiers」IEEE J. Solid-State Circuits、vol. SC-10、p. 168~176、1975年6月発行
  3. Scott Kee、Ichiro Aoki、Ali Hajimiri、およびDavid Rutledge著「The Class E/E Family of ZVS Switching Amplifiers」IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques、MTT-Vol.51、No.6、2003年5月発行
  4. Eileen Lau、Kai-Wai Chiu、Jeff Qin、John Davis、Kent Potter、およびDavid B. Rutledge著「High-Efficiency Class-E Power Amplifiers, Part I & II」、QST、Journal of the American Radio Relay League、1997年5月および6月発行

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