オーディオアンプのRF耐性を実現するPCBレイアウト手法

オーディオアンプのRF耐性を実現するPCBレイアウト手法

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要約

オーディオアンプICのRF耐性の性能を最適化する方法として、PCBレイアウトの手法について説明します。ケーススタディとして、マキシムのMAX9750 ICを重点的に取り上げています。

はじめに

携帯電話、MP3プレーヤ、およびノートブックコンピュータのオーディオ分野において、RF耐性(すなわちRF感受性)は、急速に、PSRR、THD+N、およびSNRと同じくらい重要な設計事項となっています。Bluetoothは、モバイルアプリケーションにおいて、ヘッドセットとマイクロフォンに代わるワイヤレスのシリアルケーブル代替品として普及しつつあります。IEEE 802.11b/gプロトコルを使用する無線LAN (WLAN)は、PCおよびラップトップコンピュータの事実上の標準です。GSM、PCS、およびDECTの各技術に採用されているTDMA多重方式では、依然として、RFはかなり厄介な問題です。現在の高密度RF環境では、「RFに対する電子回路の感受性」および「システム全体の完全性に及ぼすRFの影響」に関する問題が生じます。オーディオアンプは、RFの影響を受けやすいシステムブロックです。

オーディオアンプは、RFキャリアを復調し、その出力端で変調信号と高調波成分を再現する可能性があります。周波数の一部はオーディオベースバンドに入り込み、システムのスピーカ出力端において、不要な可聴「騒音」を生成します。この問題を防ぐには、システム設計者が、選択したアンプICとその対応するPCBレイアウトの制限事項を十分に理解しておく必要があります。この記事は、設計者がボードレベルでオーディオアンプのRF耐性の性能を最適化することができるように設計者を指導するものです。

RFノイズ源の発見

レイアウトを成功(すなわち、RFに対する高い耐性)に導く鍵は、最初にRFノイズの結合源を突き止めることです。選択したオーディオアンプ用の評価キットを利用可能な場合は、そのキットを使用してRFの影響を受けやすいピンを突き止めます。たとえば、WLANアプリケーションでは、システムで対象となる周波数の2.4GHzを選択します。アンテナ理論によれば、約1.2インチ(2.4GHzのRF信号の波長の1/4)のトレース長は、2.4GHzにおいて高効率のアンテナとなります。

l = c/(4*f)
ここで、l = 長さ、c = 3X108、f = 周波数

1.2インチのワイヤを切り取り、ICのピンにじかに半田付けします。対象周波数(2.4GHz ±10%)でICのRF耐性の性能を測定します(以下の付録を参照)。1.2インチのワイヤを取り外し、アンプの別のピンに半田付けします。RFの測定を繰り返します。テストの構成が、実施される各テストで同一になるようにすることが重要です。1.2インチのワイヤをアンプのすべてのピンに接続して対象の周波数でRFの測定を記録するまでこの方法を続けます。最後に、アンテナを各ピンに接続せずにICのRF耐性の性能を測定します。

最後に実施するテストは、アンプの性能の基準となります。この結果とその前に実施した一連のテストを比較します。比較の結果、RF復調の影響を最も受けやすいアンプのピンが明らかになります。このデータによって、PCBを最適化して、アンプのピンに結合されるRFノイズの量を低減することができます。

MAX9750のケーススタディ:技術評価によって、RFの影響を受けやすいMAX9750 ICの9つのピン(INL、INR、BIAS、VOL、BEEP、OUTL_、およびOUTR_)が特定されました。

コンデンサの役割

たとえば、選択したICのBIASピンを考えてみます。BIASピンが対象の周波数においてRF耐性が低いものと想定します。最初の、かつ最も明らかなPCBの検討事項は、BIASピンからデカップリングコンデンサへのトレース長を制限することです。トレース長を最適化したにもかかわらず、依然としてRF復調が問題となる場合、アンプのそのピンとGND間に小容量のバイパスコンデンサ(10pF~100pF程度)を追加することを検討します。コンデンサのインピーダンス特性によって、システムの最高感度周波数(このケースでは2.4GHz)でノッチフィルタを形成することができます。下の図1Aのコンデンサモデル(C1)のインピーダンス特性を参照してください。

図1A. 理想的でないコンデンサモデル
図1A. 理想的でないコンデンサモデル

図1B. 理想的でないコンデンサモデルのインピーダンス特性
図1B. 理想的でないコンデンサモデルのインピーダンス特性

C1が理想的なコンデンサであれば、周波数が上昇するにつれて、インピーダンス特性は減少します(XC = 1/[2π x f x C])。しかし、現実環境では、理想的なコンデンサは存在しません。理想的でないコンデンサモデルのインピーダンス(図1B)は、自己共振周波数*で落ち込んだ後、周波数とともに増大し始めます。foより高い周波数では、誘導成分の方が大きくなります(XL = 2π x f x L)。この挙動のため、自己共振周波数の近辺またはそれを上回る周波数で自己共振動作するフィルタとしてコンデンサを選択した場合、期待外れの結果となるおそれがあります。ただし、コンデンサを選択して、高周波成分をGNDにシャントさせると、コンデンサの自己共振は直ちにその機能を果たすようになります。

MAX9750のケーススタディ:BIASピンに追加した33pFコンデンサによって、RF耐性の性能が平均で3.6dBだけ向上しました。

入力ピンでのノイズの制御

オーディオアンプの入力ピンは、常にRFノイズの結合源となります。入力トレース長がシステムのRF信号の波長の1/4より短くなるようにします。ノイズのないグランドプレーンを実装することによっても、入力ピンに結合されるRFノイズ量を低減することができます。ICの各入力トレースの周囲にそのシステムのノイズのないグランドプレーンをできるだけ広く配置します。このグランドプレーンは、選択したオーディオアンプの入力ピンから高RF信号を隔離するのに役立ちます。

MAX9750のケーススタディ:入力トレース長を1/3に削減し、また左入力、右入力、およびPCのビープ入力ピンの周囲にグランドプレーンをできるだけ広く配置することによって、MAX9750 ICのRF耐性性能がさらに向上しました(図2)。

図2. MAX9750CスピーカアンプのRF耐性のテスト結果(ノイズフロア = -94.4dBV)
図2. MAX9750CスピーカアンプのRF耐性のテスト結果(ノイズフロア = -94.4dBV)
注:図2は、MAX9750 ICの標準的なRF耐性の性能を示しています。アンテナ強度、ケーブル長、スピーカのタイプなどの外部要因もRF耐性の性能に影響します。

ボードレベルでは、RFの影響を受けやすいアンプのピンにLCフィルタを加える、あるいは回路図に低ESRのコンデンサを追加する、などの高価な方法も実施することができます。これらの方法は非常に効果的ですが、コストがかかります。RFノイズ源を突き止めて原因を把握することができれば、高価なソリューションを回避することができます。

まとめ

オーディオアンプのRF耐性の性能が貧弱であると、全体のシステム設計の完全性に影響を及ぼします。問題を突き止めて原因を把握することができれば、是正措置を講じることで、可聴「RF復調」を回避することができます。一般に、入力、出力、バイアス、および電源のトレースがシステムのRF信号の波長の1/4より短くなるようにします。さらに高度なRF耐性が必要な場合は、ICのピンとグランド間に小容量のコンデンサをじかに接続します(より大容量のコンデンサがすでにピンに接続されている場合でもこれを実行します)。極めて影響を受けやすいアンプのピン付近にグランドプレーンをできるだけ広く配置します。最後に、影響を受けやすいオーディオアンプのピンから物理的に離して高RFエネルギーのシステムブロックを配置します。この内容を全体的に理解しておけば、不要な可聴復調「騒音」を解消することができます。

* 自己共振周波数では、容量インピーダンスと誘導性インピーダンスが互いに相殺し、抵抗成分のみが残ります。自己共振周波数は、以下の式によって求められます。

付録

正確で再現性のあるテスト結果を得るには、被試験デバイス(DUT)を既知のRF電界強度に晒す必要があります。マキシムは、電波無響試験室、信号発生器、RFアンプ、および電界強度センサを使用することによって、再現性のあるRF感受性の結果を定量化するテスト方法を開発しました。

図A. RF耐性のテスト回路
図A. RF耐性のテスト回路

上記の図Aは、オペアンプの標準的なテスト構成を示しています。アンプの非反転入力はPCBのトレース長をシミュレートする1.5インチのワイヤループを使用してGNDに短絡されています。マキシムの複数のアンプについてRF耐性の性能を比較することができるように、標準的な1.5インチの入力トレース長が選択されています(DUTから入力信号源への入力トレースは、システムの高感度周波数帯域において、実効的にアンテナとして機能する場合があることに留意してください)。アンプの出力に想定される負荷を接続します。次に、アンプを無響試験室に設置します。マキシムの電波無響試験室がRFで満たされた環境をシミュレートすると、復調信号がアンプの出力端でモニタされます。

図B. マキシムのRF耐性のテスト方法
図B. マキシムのRF耐性のテスト方法

図Bは、マキシムの電波無響試験システムを示します。このシステムは、RF耐性テストに必要なRF電界環境をシミュレートします。試験室はファラデーケージに似ており、外部の電界からDUTを隔離します。

テスト設備の全体は、以下の機器で構成されています。

  • 信号発生器:SML-03、9KHz~3.3GHz (Rhode & Schwarz)
  • RFパワーアンプ:20MHz~1000MHz、20W (OPHIR 5124)
  • RFパワーアンプ:1GHz~3GHz、50W (OPHIR 5173)
  • パワーメータ:25MHz~1GHz (Rhode & Schwarz)
  • PW (Parallel Wired)セル(無響室)
  • 電界強度センサ
  • コンピュータ(PC)
  • Fluke DMM (dBVメータ)
PCによって、周波数範囲、変調率、信号発生器が供給する変調のタイプ、およびRFパワーアンプが供給する電力を設定します。該当するパワーアンプ(OPHIR 5124 (20MHz~1000MHz、20Wの場合)、またはOPHIR 5173 (1GHz~3GHz、50Wの場合))に変調信号が供給されます。アンプの出力は、方向性カプラとパワーメータでモニタされます。規定のRF電界がテストチャンバー内部に一様に放射されます。

マキシムでは、シールドされた無響室の中央にDUTを設置します。電界強度センサは、連続して、50V/mの一様な電界強度をDUTの場所で測定します。周波数が100MHz~3GHzに変化するRF正弦波が1kHzの可聴周波数で100%振幅変調されます。無響室側面のアクセスポートからDUTに電源を供給し、また出力モニタを接続する手段を提供します。Flukeマルチメータ(dBV単位で報告されるように設定)は、1kHzの復調信号の振幅をリアルタイムでモニタします。RF正弦波周波数が100MHz~3GHzの範囲で、規定のステップで変化されて、Flukeマルチメータの報告が記録されます。100MHz~3GHzでの掃引例を以下の図Cに示します。

図C. MAX9750のRF耐性のテスト結果
図C. MAX9750のRF耐性のテスト結果