電圧の変換を実現するスイッチング・レギュレータからは、例外なく干渉波が発生します。電圧コンバータの入力側と出力側においてある程度抑制されますが、一部の干渉波は外部に放出されてしまいます。そうした干渉波は、急峻なエッジを伴うスイッチング動作が主原因となって発生します。最近のスイッチング・レギュレータの場合、スイッチング・エッジは、わずか数ナノ秒の長さしかありません。SiCやGaNといった新たな技術で実現されたスイッチでは、特に遷移時間が短くなっています。図1に、スイッチが約1ナノ秒の遷移で動作する場合の電圧波形を示しました。遷移に伴う主要な周波数成分は、降圧レギュレータのスイッチング周波数とは異なります。スイッチング損失を最小化するためには、このようにスイッチング・エッジをできるだけ急峻にすべきです。しかし、干渉波の問題も放置しておくわけにはいきません。
干渉波の放出をできるだけ低く抑えるには、プリント回路基板のレイアウトを最適化する必要があります。具体的には、スイッチング・レギュレータのホット・ループをできるだけ小さくすると共に、寄生インダクタンスをできるだけ小さく抑えなければなりません。急峻なスイッチング電流の影響について説明するために、1つの例を挙げてみます。1Aの電流を1ナノ秒以内でスイッチのオン/オフによって制御するケースを考えます。その電流パスには、20nHの寄生インダクタンスが存在するとします。その場合、次式から、20Vの電圧オフセットが生じることがわかります。
この例で言えば、ホット・ループに存在する20nHの寄生インダクタンスが原因で20Vの電圧シフトが生じ、それに伴って干渉波(EMI:電磁干渉)が発生するということです。これを最小化するために、寄生インダクタンスをできるだけ小さく抑えなければならないということです。
スイッチング方式の降圧レギュレータでは、ロー・サイドのスイッチをグラウンドに最短で接続することに加え、ハイ・サイドのスイッチのできるだけ近くに入力コンデンサを配置することが重要になります。同期整流方式のモノリシック型降圧スイッチング・レギュレータであれば、入力コンデンサと入力電圧ピンの接続や、降圧レギュレータICのグラウンドへの接続を最短距離で行わなければならないということです。これらの接続を、できるだけ寄生インダクタンスを抑える形で実現することができれば、生成される電圧オフセットを最小化できます。その結果、EMIを低減することが可能になります。
では、SEPIC(Single Ended Primary Inductor Converter)のトポロジを適用したスイッチング・レギュレータでは、干渉波を抑えるためにどのような点に留意すればよいのでしょうか。SEPICでは、正の電圧から正の電圧を生成することができ、入力電圧よりも高い電圧も低い電圧も生成可能です。つまり、SEPICでは、昇降圧のトポロジを実現できます。そのため、SEPICを適用したスイッチング・レギュレータは広く使われるようになってきています。図2に示したのは、このトポロジの概念図です。降圧のトポロジに対し、第2のインダクタとカップリング・コンデンサを追加する必要があります。
SEPICコンバータもスイッチング・レギュレータなので、(降圧コンバータと同様に)スイッチングに伴って急峻な電流が発生します。この電流パス(ホット・ループ)は、干渉波の発生を最小限に抑えるために、できるだけ短くする必要があります。干渉波を抑えるために、レギュレータの各パスについては十分な考慮が必要になります。コンダクタは常に電力を供給するのでしょうか。それともスイッチがオンまたはオフしている間だけ供給するのでしょうか。図2では、ほとんどの配線が水色で示されています。これらの配線では、スイッチングに伴う高速の遷移によって電流の流れが変化します。すなわち、これらのパスは、クリティカルなホット・ループです。したがって、寄生インダクタンスをできるだけ小さく抑えなければなりません。言い換えれば、このパスには、無駄なビアや無駄に長い配線が存在してはならないということです。
繰り返しになりますが、SEPIC型のスイッチング・レギュレータにも、クリティカルなホット・ループが存在します。これは、EMIの低減という観点からは、非常に重要な要素です。ホット・ループの設計が適切に行われ、寄生インダクタンスが低く抑えられていれば、生成される電圧オフセットはわずかで済みます。つまり、干渉波の放出量が少なく抑えられます。スイッチング方式の降圧レギュレータでは、入力コンデンサの部分が非常に重要です。それに対し、SEPIC型のスイッチング・レギュレータで非常にクリティカルなのは、図2において水色で示した電流パスなのです。