CDMAレシーバのシングルトーン感度劣化の測定

CDMAレシーバのシングルトーン感度劣化の測定

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要約

このアプリケーションノートでは、セルラバンドのCDMA電話機の設計と性能に影響を及ぼす主要なメカニズムについて考察します。具体的な考察のテーマは、相互ミキシングと混変調です。ベンチ結果は、マキシムのV3.5 CDMAリファレンスデザインのシステム性能を実証しています。

はじめに

CDMAセルラ無線システムは、米国セルラバンドでCDMAよりも先行した高度携帯電話システム(AMPS)と同じ無線周波数帯域内で動作するよう設計されました。AMPSのRF方式では、密接した、相対的に狭帯域の多数のFMチャネルが採用されています。一方、CDMAのRF方式では、チャネル数は少ないが広帯域のRFチャネルが採用されています。この結果、CDMAチャネルの設計には、既存のAMPSチャネルを含める必要がありますが、このチャネルは干渉源となるため、CDMAリンクの性能を低下させるおそれがあります。

このアプリケーションノートでは、セルラバンドのCDMA端末機の設計と性能に影響を及ぼす、以下の2つの主要なメカニズムについて考察します。

  • 相互ミキシング - LO位相雑音が所望の受信信号を妨害します。
  • 混変調 - 端末機送信側からの漏れがLNAをオーバドライブします。

実際のシステムでの測定結果を提示することによって、CDMAの優れたシステム性能も実証します。

セルラバンドの周波数配列の背景

AMPSサービスは、850MHzの米国セルラバンドの帯域に割り当てられています。

  • 824MHz~849MHzのアップリンク(端末機の送信のための上りチャネル帯域)
  • 869MHz~894MHzのダウンリンク(端末機の受信のための下りチャネル帯域)

AMPSチャネルの間隔は30kHzで、ピーク偏差時には、それぞれが約24kHzを占有します。

CDMAサービスはAMPSと同じ米国セルラバンドを占有し、CDMAチャネルは30kHzのAMPSラスタ上に並んでいます(すなわち、隣接チャネルは30kHzの倍数です)。ただし、それぞれのCDMAチャネルは1.23MHzの帯域幅を占有します。この帯域の広がりを考慮して、携帯電話会社には12.5MHzの帯域区分を割り当てています。最も近いAMPSチャネルは、最も近いCDMAチャネルのエッジから285kHz離れた帯域区分の境界となります(すなわち、9つの30kHz AMPSチャネル + チャネル中央までの15kHz)。図1を参照してください。

Figure 1. Relationship between a CDMA channel and the nearest AMPS carrier, which acts as an interferer to the CDMA channel.
図1. CDMAチャネルと、最も近いAMPSキャリアとの関係。AMPSキャリアは、CDMAチャネルへの干渉源となります。

最も近いAMPSチャネルがCDMA信号のレベルよりはるかに強力なとき、AMPSチャネルはCDMAチャネルへのシングルトーン干渉源となります。干渉源の周波数オフセットを式(Eq.) 1に示します。

したがって、285kHz + 615kHz = 900kHzとなり、これが、最も近い干渉源となるAMPSチャネルから所望のCDMAチャネルの中央までのオフセットです。この干渉源の電力レベルは、所望のCDMAチャネルの感度レベル(-101dBm)を基準とし、3GPP2エアインタフェース規格で-30dBmというワーストケースでのテストトーンとして規定されています。

CDMA端末機のシングルトーン感度劣化の仕様

シングルトーン感度劣化は、割当てられたチャネルの中心周波数から一定の周波数間隔離れた、近接の狭帯域妨害波が存在する下で、端末機が、割り当てられたチャネル周波数でCDMA信号を受信する能力を測定します。受信機の感度劣化は、フレームエラーレート(FER)1で測定します。

25以上の端末機が重なり合って、つまり同一チャネルで動作可能であることは、CDMAシステムの主要な特徴です。符号分割多重方式(チャネル区分)の場合、各端末機のアップリンクとダウンリンクのキャリアは異なる直交拡散コードに割り当てられます。

この後者の課題を達成するには、CDMA基地局は各端末機の送信電力を正確に制御し、すべてのユーザからの信号をほぼ同じ電力レベルで受信するようにしなければなりません。この要件を満たすため、端末機の受信部は非常に広い利得制御範囲で動作する必要があります。CDMA端末機の受信機が基地局から最も遠いとき、ダウンリンクの標準的な信号はわずか-110dBmです。

隣接のAMPSシステムは同じ方法でセルラ電話のアップリンクの電力を管理しないため、問題が生じることになります。CDMAの端末機が感度の限界付近で、特にセルサイトの境界で受信中に、近接のAMPS基地局が強力な妨害波を送信する可能性があります。

幸いにも、ダウンリンクの拡散コードの特性によって、CDMA 端末機の受信部は近接チャネルの干渉源に対してある程度の耐性を備えています。狭帯域のAMPS干渉源は端末機の相関器の中で「拡散」されるため、その影響は処理利得(約25dB)によって低減されます。干渉は明確なため、CDMA受信部が近接チャネルの妨害を十分に抑えることができるように、テストが規定されています。3GPP2 CDMA2000規格では、シングルトーン感度劣化テストとして、以下のテスト条件が規定されています。

米国のCDMAシステムの場合、セルラバンドのテスト要件は、+23dBmの最小実効等方放射電力を規定しています。PCSバンドのテスト要件は、+15dBm (テスト1と2)、および+20dBm (テスト3と4)の最小実効等方放射電力を規定しています。妨害波のレベルは-30dBm (テスト1と2)または-40dBm (テスト3と4)と規定されています2
シングルトーン感度劣化を確認するため、CDMAフロントエンドICまたはゼロIF受信機をテストするときには、シングルトーン妨害波が生成する干渉に注目し、テストのセットアップでこれらの影響を再現することが重要です。相互ミキシングと混変調という、2つの主な要因がシングルトーン感度劣化に影響を及ぼします。

相互ミキシング

シングルトーン妨害波が受信機の局部発振器信号(Rx LO)と混在すると、相互ミキシングが発生します。Rx LOには有限位相雑音があり、このノイズがシングルトーン妨害波と混在し、中間周波数(IF)またはベースバンド(ゼロIFシステムの場合)で干渉成分を生成します(図2)。

Figure 2. Reciprocal mixing in the presence of a jammer.
図2. 妨害波が存在するときの相互ミキシング

受信機のシングルトーン感度劣化の仕様は、LO位相雑音の要件を設定するための重要な性能パラメータです。正確なシングルトーン感度劣化の測定を行う場合には、シングルトーン妨害波自身の位相雑音も全体的な干渉レベルに寄与することに留意してください。したがって、ラボテストを行う場合には、低位相雑音のRF信号源を選択する必要があります。こうすれば、シングルトーン感度劣化の主な要因がRF信号発生器ではなく、Rx LOの位相雑音に起因するようになります。

例として、マキシムのスーパーヘテロダインCDMAリファレンスデザイン(バージョン3.5)を考えてみましょう。このデザインでは、MAX2538フロントエンドICとMAX2308 IF復調器ICを使用しています。受信機のカスケード雑音指数(LNA入力を基準)は、セルラバンドで3dB未満です。モバイル電話機でのデュプレクサ/ディプレクサの損失を約3dBと想定すると、式(Eq.) 2が得られます。

RF信号発生器の位相雑音が受信機のノイズフロアより10dB低い場合、以下の式が得られます。

ここで、-30dBmは、テスト1とテスト2について規定されたシングルトーンのレベルです(表1)。したがって、新しい受信機のノイズフロアは、以下の式(Eq.) 4で表わされます。

したがって、RF信号発生器の-148dBc/Hz位相雑音の影響による受信感度の上昇は比較的小さく、わずか0.4dBだけ劣化します。

CDMA端末機の規格では、900kHzのオフセット周波数で-144dBc/Hzの最小位相雑音が要求されます。遠端の位相雑音に対する応答が平坦であると想定すると(対象の帯域に対して-144dBc/Hz)、上述の計算から受信機のノイズフロアが-167dBm/Hzとなります。このレベルは、干渉源のないノイズフロア(-168dBm/Hz)よりも1dB悪い値です。つまり、CDMAの規格では、受信感度に対しRF干渉信号発生器による感度劣化が1dBまで許容されています。

表1. CDMA端末機におけるシングルトーン感度劣化の最小要件3

Parameter Units Tests 1 and 3 Tests 2 and 4
Tone offset from carrier SR1 kHz +900 (BC 0, 2, 3, 5, 7 and 9)
+1250 (BC 1, 4 and 8)
-900 (BC 0, 2, 3, 5, 7 and 9)
-1250 (BC 1, 4 and 8)
SR3 kHz +2500 -2500
Tone power dBm -30 (Tests 1 and 2)
-40 (Tests 3 and 4)
dBm/1.23MHz -101
dB -7
dB -15.6 (SR1)
-20.6 (SR3)

混変調による干渉

強力な送信機の漏れ信号が受信機のLNAに入力されると、混変調が発生します。この変調された干渉源は、LNAの3次歪によって、900kHzのAMPSトーンと混変調されます。これによって生ずる混変調は、受信機内の所望のRFチャネルにおけるノイズ電力の増加につながります。受信機のIP3はミキサのIP3によってほとんど決定されますが、混変調の大部分はLNAで生じます。これは、LNAとミキサの間にバンドパスフィルタがあるため、ミキサ入力端でのTXの漏れが極めて小さいからです4。受信機のテストのセットアップにこの影響を含めるには、CDMAの上りチャネル変調信号を受信機に挿入する必要があります。セルラバンドの場合、LNA入力に挿入されるTx電力は式(Eq.) 5のように表されます。

この式は、デュプレクサのRxポートでのTx抑圧を52dB、アンテナからデュプレクサのTxポートまでの損失を2dBと想定しています。

CNR法を使用したテストの例

図3は、セルラバンドでCDMA受信機をテストするためのシングルトーン感度劣化のセットアップ全体を示しています。同じセットアップをPCSバンドのテストに使用することができますが、上記の表1に示すテスト仕様にしたがって、「妨害波のオフセット」と「妨害波とTx信号のレベル」を設定する必要があります。このテストのセットアップでは、CNR(キャリア対ノイズ比)法を使用してシングルトーン感度劣化を測定しています。

Figure 3. Cellular single-tone desensitization setup.
図3. セルラのシングルトーン感度劣化のセットアップ

感度は、時間の95%に対してフレームエラーレート(FER)が0.5%以下である最小受信電力と定義されます。CNRの測定では、3GPP2規格の無線構成1の場合、9600bpsのデータレート時、トラフィックのEc/Iorは-15.6dBであり、そのトラフィックのEb/Nt は 4.5dBであることに留意してください。処理利得は、10log (1.2288Mcps/9600bps) = 21.072dBになります。これによって、次の式(Eq.) 6が得られます。

したがって、1.23MHzのチャネル帯域幅で測定した場合、CDMA信号の復調に対する所要CNRは-1dBです。テストのセットアップに3kHのRBW設定を使用し、ビート音のテストトーン電力(250kHzで)と、615kHzのIチャネル帯域幅上の統合チャネルの全ノイズ電力とを比較します。希望波受信電力は-101dBm、全許容ノイズ電力は-100dBmであるため、システムの感度要件を満たすには-1dBのCNRが必要であることがわかります。

この方法を実証するため、オンチップのVCOを搭載したゼロIFモノリシックレシーバIC(MAX2585)を使用し、マキシムのN-CDMA V4.1リファレンスデザインでの測定を考えてみましょう(図4)。緑色のトレースは、妨害波やTx信号がない場合の希望波を示します(希望波には、CDMAの下りチャネル変調信号ではなく、-101dBmでのチャネル周波数から250kHzオフセットしたシングルトーンを使用します)。青色のトレースは、妨害波およびCDMAのTx信号がともに入力されたときのノイズの増大を示しています。以下の手順は、テストのセットアップの概要を示しています。

Figure 4. Noise rise due to single-tone jammer and CDMA TX signal.
図4. シングルトーン妨害波とCDMAのTX信号に起因するノイズの増大

  • システム利得を調整し、3dBパッドの入力を基準として-101dBmの入力が受信されるようにします。これは、デュプレクサの損失を考慮しています。MAX2585レシーバICの場合、8.5mVRMSの公称出力信号レベル(50Ωで-28.5dBm)の利得を設定します。
  • CDMAのTx信号(3dBパッドの入力を基準として、Rxチャネル周波数より45MHz低い値)を-24dBmで入力します。
  • CW妨害波トーンを3dBパッドの入力を基準として-30dBmで入力します。ノイズフロアの増大が観察されます。
  • ベースバンド~615kHzの、統合した全ノイズ電力が所希望波レベルを1dB上回るよう、CW妨害波のレベルを調整します。この例では、25kH~615kHzを統合し、アナライザからのDC漏れを防止しています。
  • -1dBのCNRでの妨害電波レベルを記録し、シングルトーン感度低下のマージンを計算します。

この例では、統合された25kHz~615kHzの全ノイズ電力は-27.5dBmです。出力端での受信トーンは-28.5dBmで、これは-1dBというCNRの要件を満たしています。シングルトーン妨害波のレベルは、-1dBのCNRポイントで-27dBmであり、これは、MAX2585 ICがシングルトーン感度劣化の要件を満たし、テストした周波数で3dBのマージンがあることを示します。

まとめ

このアプリケーションノートでは、3GPP2の規格に準拠したシングルトーン感度劣化およびシングルトーン感度劣化の重要な要因について考察しました。また、CDMA受信機でシングルトーン感度劣化を測定する実用的な方法を提示しました。マキシムのスーパーヘテロダインレシーバとダイレクトコンバージョンレシーバのICの詳細については、マキシムのウェブサイト「ワイヤレス、RF、およびケーブルIC」をご覧ください。

類似の記事が2005年5月版の「RF Design」誌に掲載されています。

参考資料

  1. 「Recommended Minimum-Performance Standards for cdma2000 Spread Spectrum Mobile Stations」 3GPP2 C.S0011-A、2001年、3~21ページ(PDF版では85ページ)
  2. 「Recommended Minimum-Performance Standards for cdma2000 Spread Spectrum Mobile Stations」 3~23ページ(PDF版では87ページ)
  3. 「Recommended Minimum-Performance Standards for cdma2000 Spread Spectrum Mobile Stations」 3~23ページ(PDF版では87ページ)
  4. Walid Y. Ali-Ahmad 「RF system issues related to CDMA receiver specifications」 RF Design、1999年9月、22~32ページ