LTspice:SOAthermがサポートする基板とヒート・シンクの熱モデル

LTspice:SOAthermがサポートする基板とヒート・シンクの熱モデル

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Dan-Eddleman

Dan Eddleman

LTspiceに付属するSOAthermのモデルを利用すれば、ホット・スワップ回路やサージ・ストッパ回路の設計を加速することができます。SOAthermを利用して回路シミュレーションを実施することにより、各種MOSFET製品が安全動作領域(SOA:Safe Operating Area)を超えていないことを直接確認できるからです。本稿は、SOAthermのモデルについてある程度の知識を有していることを前提とします。SOAthermの基本については、「LTspice: Modeling Safe Operating Area Behavior of N-channel MOSFETs(LTspice:NチャンネルMOSFETの安全動作領域の挙動をモデル化する)」をご覧ください。

一般に、LTspice上でSOAthermを利用する際には、SOAtherm-NMOSのシンボルだけを使用します。それにより、特定のアプリケーションにおいて、使用を検討しているMOSFET製品のSOAが適切であるか否かを確認します。その際、SOAtherm-NMOS以外に、ヒート・シンクやプリント回路基板(PCB:Printed Circuit Board。以下、基板)の熱モデルを追加する必要はないということです。但し、特に要件が厳しい一部のアプリケーションについてはその限りではありません。例えば、特に電力の大きいトランジェントが10ミリ秒以上にわたって継続するようなアプリケーションがあったとします。その場合、基板やヒート・シンクの熱容量と放熱効果を利用することが望ましいはずです。従来、基板やヒート・シンクについては、SOAtherm-NMOSのシンボルのTcピンに抵抗とコンデンサから成る回路を接続することによってモデル化していました。その手法をはるかに簡素化したものが、SOAtherm-PCBとSOA-HeatSinkです。それらのシンボルでは、いくつかの物理的なパラメータの値を指定します。それにより、公式に基づいて一連のコンポーネントの値を計算することなく、基板とヒート・シンクの熱挙動をモデル化できるようになっています。

SOAtherm-PCBの使用方法

では、SOAtherm-PCBのシンボルはどのように使用すればよいのでしょうか。以下に示す図を見れば、その使い方を把握できるでしょう。

SOAtherm-PCBの使い方

SOAtherm-PCBの使い方

ご覧のように、SOAtherm-NMOSのシンボルのTcピンにSOAtherm-PCBのシンボルを接続しています。ほとんどの場合、この構成を対象として以下の表に示す情報を指定すればシミュレーションを実施することができます。

パラメータ 説明
Area_Contact_mm2 基板に接触する露出パッド/タブの面積〔mm2
Power-SO8では15、D2PAKでは70
Area_PCB_mm2 基板上でMOSFETの放熱用に使われる銅の面積〔mm2 50mm×50mmの場合は2500
Copper_Thickness_oz 基板で使われる銅の厚さ〔オンス〕 1オンスの銅プレーンの場合は1
Tambient 周囲温度〔°C 85°Cの場合は85
LFM 空気流〔LFM〕 100LFMの場合は100
PCB_FR4_Thickness_mm 基板の厚さ〔mm〕 厚さが2mmのFR4の場合は2

通常、SOAtherm-PCBのシンボルを使用する場合には、SOAtherm-NMOSのパラメータであるRthetaJAの値を1kといった大きな値に変更します。それにより、MOSFETのデフォルトの消費電力の値をシミュレーションから排除します。この手法は、保守的な慣例として広く使われています。

コンポーネント属性の編集

コンポーネント属性の編集

熱挙動については、特に空気流がある場合、多くの変数の間の複雑な相互作用が伴うことに留意してください。SOAtherm-PCBは、回路設計者にとって便利なツールです。しかし、基板レイアウトの有限要素解析を実施可能な洗練されたソフトウェアに代わるものではありません。そうしたソフトウェアでは、空気流の3次元の挙動や隣接するコンポーネントへの放射なども考慮して解析が行われます。

SOAtherm-HeatSinkの使用方法

SOAtherm-HeatSinkの使用方法は、以下の図のようなものになります。

SOAtherm-HeatSinkの使い方

SOAtherm-HeatSinkの使い方

ご覧のように、SOAtherm-NMOSのシンボルのTcピンにSOAtherm-HeatSinkのシンボルを接続しています。ここで、ヒート・シンクの材料が銅なのかアルミニウムなのかを指定します。そのためには、SOAtherm-HeatSinkのシンボルを右クリックし、「SpiceModel」フィールドをダブルクリックします。すると、ドロップダウン・メニューが表示されるので、copperまたはaluminumを選択してください。

SOAtherm-HeatSinkのシンボルのコンポーネント属性

SOAtherm-HeatSinkのシンボルのコンポーネント属性

ほとんどの場合、以下の表に示すパラメータを設定すれば、適切にシミュレーションを実行することができます。

パラメータ 説明
Area_Contact_mm2
ヒート・シンクに接触するMOSFETのタブの面積〔mm2 TO-220では100、TO-3Pでは200
Volume_mm3 ヒート・シンクで使われる銅/アルミニウムの総体積〔mm3 TO-220用ヒート・シンクのML26AAGでは1800
Rtheta 空気流を含むヒート・シンクの熱抵抗〔°C/W〕。界面材料の抵抗は除くこと ヒート・シンクがML26AAG、空気流が200LFMの場合は10
Rinterface (オプション) 界面材料の熱抵抗〔°C/W〕。デフォルトの値は100〔°C/W〕/Area_Contact_mm2 100mm2のSIL PAD 400の場合は7
Tambient 周囲温度〔°C 85°Cの場合は85

Rthetaは、ヒート・シンク製品のデータシートに記載されている熱抵抗です。その値には、空気流の影響が及ぶことに注意してください。例えば、Boyd製のヒート・シンク「ML26AAG」のデータシートには、以下のグラフが掲載されています。

ML26AAGの熱抵抗

ML26AAGの熱抵抗

この図から、空気流が200LFMの場合、ML26AAGの熱抵抗は10°C/Wになることがわかります。

このような情報に基づいて、SOAtherm-HeatSinkのモデルはヒート・シンクの過渡的な熱挙動の1次近似を提供します。但し、このモデルは、より洗練された有限要素解析用ソフトウェアの代替になるものではありません。

より高度なトピック

ここまでに示した情報を活用すれば、SOAtherm-PCB/SOAtherm-HeatSinkを使用したシミュレーションを実施できます。ただ、なかには、何がモデル化されているのか、どのように簡素化されているのかという疑問を抱く方もいらっしゃるでしょう。そこで、以下では両モデルについてより詳しく説明することにします。

SOAtherm-HeatSinkのモデル

SOAtherm-HeatSinkのモデルは単純明快なものです。通常、ヒート・シンクの材料としては銅またはアルミニウムが使用されます。SOAtherm-HeatSinkでは、MOSFETのタブの接触面積(Area_Contact_mm2)に断面積が一致する「棒」としてヒート・シンクをモデル化しています。棒の長さは、別途指定される金属の体積(Volume_mm3)を接触面積で割ることによって求められます。また、熱界面材料(サーマル・グリースや、Henkelの「SIL PAD」など)は、1個の抵抗によってモデル化できます。その抵抗の値は、パラメータRinterfaceによって指定します。このパラメータの値が指定されていない場合、(100°C/W)/Area_Contact_mm2という式で計算したデフォルトの値が適用されます。棒の他端は、値がRthetaの1個の抵抗を介して周囲環境に接続されます。それにより、周囲環境への放熱がモデル化されます。

この棒は、Cauer型の熱モデルにおける抵抗/コンデンサ・ベースのタップの列としてモデル化されます。それにより、このシンプルなモデルに過渡的な状態と定常的な状態の挙動が反映されます。

SOAtherm-PCBのモデル

SOAtherm-PCBのモデルは、基板の片面に銅層が1層しかないという仮定に基づいたものです。銅の中央にMOSFETが配置された円としてモデル化されており、その総面積はパラメータArea_PCB_mm2によって定義されます。その円は、更に10個の同心円に分割され、最も小さい円の内径がパラメータArea_Contact_mm2によって決まります。SOAtherm-PCBの熱モデルでは、各円の熱抵抗と熱容量が抵抗/コンデンサの1つのペアとしてまとめられます。それが、Cauer型の熱モデルにおける10個のタップのうちの1つになります。

基板においては、その上面と背面から対流と放射の両方によって熱が放出されると仮定できます。対流と放射は、Cauer型の熱モデルにおける10個の各タップにおいて、それぞれ個別にモデル化することが可能です。その結果、基板全体の対流と放射を表すことを試みる閉形式の式を使う場合と比べてより正確な結果が得られるようになります。

自然対流(空気流なし)の熱伝達係数は、デフォルトの対流モデルにおいて1.1625e-5W/°C・mm2という値になると仮定されています。この値は、構造物の形状、基板の向き、あるいは空気流が層流か乱流かといった要素に応じて変化する可能性があります。必要があれば、その値はパラメータhconv0によってオーバーライドすることができます。

空気流をモデル化する際には、対流モデルの熱伝達係数を以下の式に基づいて調整します。

hconv = hconv0 (1 + 0.013 • LFM0.8)

最後に、SOAtherm-PCBのモデルで使用できるパラメータの一覧を表にまとめておきます。ただ、実際に必要になるのは、ほとんどの場合、前掲の表に示した一部のパラメータのみです。

パラメータ 説明
Area_Contact_mm2 基板に接触する露出パッド/タブの面積〔mm2
Power-SO8では15、D2PAKでは70
Area_PCB_mm2 基板上でMOSFETの放熱用に使われる銅の面積〔mm2 50mm×50mmの場合は2500
Copper_Thickness_oz 基板で使われる銅の厚さ〔オンス〕 1オンスの銅プレーンの場合は1
Tambient 周囲温度〔°C 85°Cの場合は85
LFM 空気流〔LFM〕 100LFMの場合は100
PCB_FR4_Thickness_mm 基板の厚さ〔mm〕 厚さが2mmのFR4の場合は2
 Enable_Radiation 熱放射のモデル化を有効にするか無効にするかの設定。値が0よりも大きい場合、放射が有効化される。デフォルトは1(有効) 放射を無効にする場合は0

放射を有効にする場合は1 
 TambientRadiation 熱放射のモデルの目標温度〔°C〕。デフォルトの値はTambient 目標温度が85°Cの場合は85
 TambientConvection 対流のモデルで使用される周囲温度〔°C〕。デフォルトの値はTambient 周囲温度が85°Cの場合は85 
 emissivity 熱放射のモデルで使用される基板の放射率。デフォルトの値は0.8 ハンダマスクは0.8、

酸化銅は0.8、

研磨銅は0.05 
 hconv0 対流の式で使用される自然対流(空気流なし)の熱伝達係数。デフォルトの値は1.1625e-5 〔W/°C・mm2 1.1625E-5 

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