低電圧/大電流を供給可能な電源の設計、最先端のSoC/FPGA/マイクロプロセッサへの対応を図る

2025年11月23日

Figure 1

   

要約

様々な先端技術を採用したアプリケーションでは、それらに対して最適化された高性能の電源を使用する必要があります。そうしたアプリケーションには、DDR(Double-Data-Rate)メモリ、プロセッサ・コア、I/Oデバイスといったコンポーネント向けの低い電圧を供給する複数の電源が必要です。しかも、集積度が高まったことに伴い増大したマイクロプロセッサの消費電力にも対応しなければなりません。このような要件を満たすために、電圧、電流、温度などのパラメータの値を監視するテレメトリ機能の必要性が高まっています。本稿では、必要とされるデジタル方式の管理機能を備える2相式降圧コンバータの設計について解説します。その設計であれば、実装サイズ、効率、ループの安定性、過渡応答などに関する重要な目標を達成することが可能です。

はじめに

産業、車載、サーバ、通信、データ通信といった分野の先進的なアプリケーションでは、高機能/高性能のSoC(System on Chip)やFPGA、マイクロプロセッサが使用されます。そうした最先端のICには、複数種の低い電源電圧が必要です。例えば、DDRメモリ用には1.1V、コア用には0.8V、I/Oデバイス用には3.3V/1.8Vが必要になるといった具合です。一方で、半導体の集積度は向上し続けています。つまり、ICに実装される回路の密度も高まり続けています。その結果、最先端のICの消費電力が増大し、多くの電流を供給可能な電源が求められるようになりました。

また、テレメトリの機能に対するニーズも高まっています。つまり、FPGAやマイクロプロセッサを使用して、電圧、電流、温度といったデバイスのパラメータを監視する機能が強く求められているということです。このようなニーズに対応しつつ簡素な設計を実現するには、I2C/PMBus®の機能を備える電源IC(アナログ領域のコントローラICやコンバータIC)を採用するとよいでしょう。そうすれば、主要なパラメータを監視すると共にテレメトリの制御を実現できます。

求められる電源ソリューションを実現するには、I2C/PMBusの機能を統合すると共に、テレメトリのリードバックとDC/DCコンバータのプログラマビリティを実現する必要があります。それと同時に、電流供給能力、効率、電磁干渉(EMI:Electromagnetic Interference)性能を高めなければなりません。最近では、これらの要件を満たす高性能の多相電源ICが普及しつつあります。そこで、本稿では2相動作に対応する降圧コンバータの設計例をいくつか紹介することにします。それらの設計では、2つのチャンネルから合計で最大40Aの連続電流を供給するか、各チャンネルから最大30Aの負荷電流を供給することが可能です。また、その降圧コンバータICはデジタル制御方式の管理機能を備えており、I2C/PMBusに対応するシリアル・インターフェースによってプログラマビリティとテレメトリの機能を実現できます。ただ、そのICを採用する場合でも、実装サイズ、効率、ループの安定性、過渡応答に関する設計上の目標を達成するためには細心の注意を払わなければなりません。

なぜ効率が重要なのか?

ここでは低電圧/大電流に対応可能な電源を使用して、12Vの入力を基に1V/30Aを出力するケースを考えます。その電源の効率が80%である場合、発生する損失はトータルで7.5Wに達します。その損失は熱エネルギーとなり、ICやインダクタの温度が上昇することになります。通常、データ・センターなどの稼働環境では周囲温度が室温よりも高くなります。そのため、電源で生じる余分な損失によってICの温度が大きく上昇します。その結果、ICがサーマル・シャットダウンする限界値(通常は150℃)に近づく可能性があります。これについては、PoL(Point of Load)アプリケーションにおいてより懸念が高まります。通常、PoLアプリケーションでは、高温に達するマイクロプロセッサのすぐ近くにDC/DCコンバータが配置されるからです。

以下では、低電圧で動作し、大電流を消費する最先端のICに対応可能な2相式降圧コンバータを例にとります。そして、その効率を向上させることが可能な設計例をいくつか紹介します。

スイッチング・ノードの配線パターン

図1に示した基板レイアウトをご覧ください。ここでは2相式降圧コンバータのデモ用ボードを例にとっています。以下、これを「リビジョン1のレイアウト」と呼びます。このレイアウトでは、チャンネル1とチャンネル2に対応する各インダクタが互いに向かい合った状態になるように配置しています。なぜなら、このような向きにインダクタを配置するとEMI性能が向上するからです。しかし、この配置には欠点もあります。それは、スイッチング・ノードの配線パターンが比較的長くなるというものです。その結果、配線による損失が増大します。導通損失は電流値の2乗に比例する(P = I2R)ので、特に負荷電流が多いときに損失が大きくなります。

図1. リビジョン1のレイアウト。チャンネル1とチャンネル2に対応する各インダクタが互いに向かい合っています。EMI性能は向上しますが、損失が増大します。
図1. リビジョン1のレイアウト。チャンネル1とチャンネル2に対応する各インダクタが互いに向かい合っています。EMI性能は向上しますが、損失が増大します。

図2に示したのは、リビジョン1のレイアウトを採用したボードの熱画像です。ここでは負荷電流が20Aの場合の例を示しています。これを見ると、スイッチング・ノード(SW)の温度が非常に高くなっていることがわかります。実際、降圧コンバータICとほぼ同じ温度に達しています。配線パターンに依存する損失は、より適切にレイアウト設計を実施することで改善できます。

図2. リビジョン1のレイアウトを採用したボードの熱画像。入力電圧が12V、出力電圧が0.6V、負荷電流が20A、室温という条件で取得しました。
図2. リビジョン1のレイアウトを採用したボードの熱画像。入力電圧が12V、出力電圧が0.6V、負荷電流が20A、室温という条件で取得しました。

図3に示したのはテスト用に用意したボードの外観です。このボードでは、チャンネル1のインダクタを降圧コンバータICに近づけるよう改造を図っています。それにより、スイッチング・ノードの配線パターンを短縮しています。

図3. インダクタを降圧コンバータICに近づけた例
図3. インダクタを降圧コンバータICに近づけた例

配線パターンの銅箔の厚さと長さに基づくと、スイッチング・ノードのDC抵抗は次の式で表されます。

数式 1

ここで、各変数/定数の値は以下のようになるとします。

数式 02

また、トータルの損失は以下の式で決まります。

数式 03

ここで、ΔILは以下の値になるとします。

数式 04

負荷電流が20Aの場合、このスイッチング・ノードで発生する損失の値は以下のように予測できます。

数式 05

スイッチング・ノードのパターンLを0.3cmに短縮した場合、損失は以下の値に改善されます。

数式 06

つまり、損失の改善量は以下に示す値になると予測されます。

数式 07

このテスト結果に基づくと、図4に示すような効率の改善効果が得られるはずです。この図から、負荷電流が20Aの場合には0.22W、30Aの場合には0.53Wも損失が減ることがわかります。

図4. 効率の改善効果。入力電圧が12V、出力電圧が0.6V、スイッチング周波数が1MHzの場合の結果です。チャンネル1は強制連続モード(FCM)で動作させました。VBIASの値は5Vです。
図4. 効率の改善効果。入力電圧が12V、出力電圧が0.6V、スイッチング周波数が1MHzの場合の結果です。チャンネル1は強制連続モード(FCM)で動作させました。VBIASの値は5Vです。

図4を見ると、負荷電流が増加するにつれて効率の改善量が大きくなっています。つまり、配線パターンにおける導通損失(P =I2R)が効率を決める支配的な要因になっているということです。全負荷の条件では、効率が1.5%改善されていることもわかります。実際のボードでは、降圧コンバータICとインダクタをここまで近づけることはできません。そこでリビジョン2のボードでは、図5に示すようなレイアウトを採用することにしました。このボードでは、インダクタを90° 回転させて降圧コンバータICの方に向け、スイッチング・ノードのパターンを短縮しています。

図5. リビジョン2のレイアウト。チャンネル1とチャンネル2のインダクタはICの方に向いています。効率は向上しますが、EMI性能は低下します。
図5. リビジョン2のレイアウト。チャンネル1とチャンネル2のインダクタはICの方に向いています。効率は向上しますが、EMI性能は低下します。

入力コンデンサを増やして入力電圧のリンギングを抑える

低電圧/大電流のアプリケーションでは、電源の効率と安定性に大きな影響を与える要因がもう1つあります。それは入力コンデンサです。技術者の中には、入力コンデンサ(CIN)の設計の重要性を軽視している人が少なくありません。多くの場合、入力コンデンサは過去の設計を踏襲した値になっています。しかも、プリント基板全体のサイズに制約があることから、入力コンデンサの数が減らされてしまうこともあるでしょう。その結果、動作が不安定になったり損失が増加したりすることがあります。

図6. 入力コンデンサの構成
図6. 入力コンデンサの構成

図6は、入力コンデンサの一般的な構成を示したものです。いちばん左には電解コンデンサを配置しています。これは、ホット・プラグへの対応とサージ電流の抑制を目的としたものです。中央に配置しているのは、大きなセラミック・コンデンサです(通常は1210サイズか1206サイズ)。これは、入力電流のリップルを低減する役割を果たします。いちばん右に配置しているのは、小さなセラミック・コンデンサです(0402サイズまたは0201サイズ)。これにより高周波リップルを低減します。これらに加え、Silent Switcher®(サイレント・スイッチャ) 2技術を適用した降圧コンバータICの場合、そのパッケージ内部に一対のコンデンサが実装されています。そのため、スイッチングに起因する高周波ノイズやオーバーシュートが更に低減されます。ここで図6(右)に示した写真をご覧ください。黄色の線で囲んでいるのは、1206サイズのセラミック・コンデンサ(2個)です。青色の線で囲んでいるのは、0402サイズのセラミック・コンデンサ(4個)です。これらは、ICのパッケージの外部に実装されています。一方、赤色の線の部分を見ると、ICのパッケージ内に実装された0402サイズのコンデンサ(4個)が確認できます。パッケージにおいてダイの上部に当たる部分をエッチングして内部を露出させることで、これらのコンデンサを目視できるようにしています。

本稿の執筆に当たり、入力コンデンサの組み合わせを変更して降圧コンバータの挙動を観察することにしました(表1)。以下では、これらの入力コンデンサとスイッチング・ノードをプロービングした結果を示します。

表1. CINの組み合わせ
  パッケージ外のコンデンサ パッケージ内のコンデンサ
小さな CIN 1× 22μF (1206),2× 0.22μF (0402)  2× 0.1μF(0402, X8L)
 大きな CIN 2× 22μF (1210),2× 1μF (0402)  2× 0.22μF(0402, X7R)

図7(上)に示したのは、入力容量が小さい場合の信号波形です。負荷が大きい条件の下ではスイッチング・ノードに大きなリンギングが現れています。なぜなら、上側のパワー・スイッチが導通したときに、ほとんどの電流は入力コンデンサから引き出されるからです。電荷の総量は容量と電圧の積(Q = CV)によって決まります。そのため、容量が小さい場合、CINにおいて電圧が大きく低下することになります。CINは、入力部の配線パターンとICパッケージの寄生インダクタンスと共にLCタンクを形成します。それにより、スイッチング・ノードにリンギングが生じます。また、電圧が大きく低下した場合、小さなパルスの後に大きなパルスが続くと、スイッチングに伴う歪みが生じたり、スイッチング動作の安定性が低下したりすることがあります。

図7. 入力リップルとスイッチング・ノードの電圧波形。(上)は表1に示した小さなCINを使用した場合、(下)は大きなCINを使用した場合の波形です。
図7. 入力リップルとスイッチング・ノードの電圧波形。(上)は表1に示した小さなCINを使用した場合、(下)は大きなCINを使用した場合の波形です。

スイッチング動作の安定性については、入力容量を増やしてリンギングを抑制することで改善できます。前掲の表1には、小さなCINと大きなCINの値が示されていました。後者のトータルの容量値は前者と比べて2倍になっています。CINの配置については、上側のパワー・スイッチに近づけるほど大きな改善効果が得られます。つまり、パッケージ内により値の大きいコンデンサを実装するのが望ましいということになります。表1に示したように、0.1μF(0402、X8L)のコンデンサ(2個)ではなく、より大きな0.22μF(0402、X7R)のコンデンサ(2個)を使用すれば、スイッチングの動作は図7(下)に示したように安定します。

確かに、入力コンデンサを大きくすれば動作は安定します。それと引き換えに、降圧コンバータICの最高動作温度は低下します。具体的には、入力コンデンサが小さい(X8L)場合は150℃、大きい場合(X7R)には125℃になります(コンデンサの温度特性の制約を受けます)。ICの最高動作温度は考慮すべき重要な要素になることがあります。例えば、データ・センターをはじめとする多くのアプリケーションでは周囲温度が70℃を超えることが少なくありません。パッケージ内のコンデンサとしてX7Rのコンデンサを選択した場合、最高温度が許容範囲を超える可能性があります。その点には注意が必要です。

CINを大きくすると、スイッチング動作の安定性が向上します。それだけでなく、効率の面でも改善効果が得られます。図8は、入力コンデンサの大きさを変化させた場合の効率/損失を示したものです。これを見ると、表1の大きなCINを使用した場合、小さなCINを使用した場合と比べて損失が0.3W低減され、効率が約1.4%向上することがわかります。言い換えれば、入力部で生じるリンギングと電圧の低下は、スイッチング損失を増大させるということです。ただ、1206サイズのコンデンサを8個使用した場合と、1210サイズのコンデンサを2個使用した場合を比較すると、効率は同等であることがわかります。そのため、この例における大きなセラミック・コンデンサとしては、1210サイズ/22μFのコンデンサを2個使用するのが最適だということになります。

入力コンデンサを選択する際には、DCディレーティングにも注意を払わなければなりません。セラミック・コンデンサのDC定格範囲は広いからです。表2に、2種類のコンデンサ(村田製作所製)の例を示しました。この表では、1206サイズのコンデンサと1210サイズのコンデンサの12VにおけるDCディレーティングを比較しています。ご覧のように、1206サイズの方が大きく値が低下していることがわかります。結論として、低電圧/大電流に対応する電源を構成したい場合、大きなセラミック・コンデンサとしては1210サイズのものを使用することが推奨されます。

図8. 大きなセラミック・コンデンサと効率/電力損失/負荷電流の関係
図8. 大きなセラミック・コンデンサと効率/電力損失/負荷電流の関係
表2. DCディレーティングの比較。2種類のコンデンサ(村田製作所製)の例を示しました。
 品番 仕様 12VINにおけるディレーティング
 GCM32EC71E226KE36L 22μF, 25V, 1210 16.6 μF
GRM31CR61E226KE15L  22 μF, 25 V, 1206 5.1 μF

SIMPLIS(Simulation for Piecewise Linear System)は、スイッチング・レギュレータに対して最適化された回路シミュレータです。CINの値をより適切に設計する上で、同シミュレータが役に立つ場合があります。図9に示したのは、SIMPLISによるシミュレーションに使用する降圧レギュレータの回路の例です。この回路図には、電源の配線パターンに沿った寄生インダクタンスの推定値も含まれています。入力容量は、12Vの入力電圧におけるセラミック・コンデンサのDCディレーティングに即して調整されています。シミュレーションを実施した結果、パッケージ内のコンデンサを2倍にすると(2個の70nFから2個の140nFに変更)、リンギングが改善されることがわかります(図10)。

図9. SIMPLISによるシミュレーションに使用する回路図
図9. SIMPLISによるシミュレーションに使用する回路図
図10. 図9の回路のシミュレーション結果。(上)はパッケージ内のコンデンサが70nF×2の場合、(下)は140nF×2の場合の結果です。
図10. 図9の回路のシミュレーション結果。(上)はパッケージ内のコンデンサが70nF×2の場合、(下)は140nF×2の場合の結果です。

まとめ

本稿では、低電圧/大電流に対応可能な電源の設計について解説しました。特に負荷が高い場合の効率に注目し、その値を改善するための方法を2つ紹介しました。プリント基板上のスイッチング・ノードにおけるヒート・スポットは、ICとほぼ同じような温度上昇を示します。温度上昇の原因となる損失を低減するためには、インダクタの向きを変更することによってスイッチング・ノードの配線パターンを短縮することが推奨されます。また、入力コンデンサの設計は非常に重要です。しかし、その設計は軽視される傾向があります。入力コンデンサの値が不十分な場合、電源の動作が不安定になったり、効率が低下したりすることがあります。したがって、低電圧/大電流に対応する電源を設計する際には、入力コンデンサのバランスについて細心の注意を払わなければなりません。

著者について

Haisong Deng
Haisong Dengは、アナログ・デバイセズ(カリフォルニア)のシニア・アプリケーション・エンジニアです。2021年に入社しました。主にパワー製品を担当しています。バージニア工科大学でパワー・エレクトロニクスを専攻。2019年、2021年にそれぞれ電気工学の学士号と修士号を取得しました。
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