要約
DS2786Kは、スタンドアロン、開放電圧(OCV)ベースの残量ゲージDS2786Kの評価を容易にするために作成されました。DS2786Kのデータシートは、ハードウェアの接続とPCへのソフトウェアのインストールに関する情報を提供します。このアプリケーションノートでは、DS2786Kで使用される用語の詳細説明と、DS2786をスタンドアロンのOCVベースの残量ゲージとして使用して開始するためのステップバイステップの手順を提供します。
DS2786の概要
スタンドアロン、OCVベースの残量ゲージのDS2786は、緩和期間後の開放状態におけるセル電圧に基づき、充電式Li+ (リチウムイオン)バッテリの残容量を推定します。この開放電圧を使って、ICに保存されたルックアップテーブルに基づいて相対セル容量を判定します。この機能を通じて、バッテリパックの挿入直後に高精度の容量情報が得られます。相対容量の計算用に使用されるセル特性およびアプリケーションパラメータは、内蔵EEPROMに保存されています。
残量ゲージパラメータの設定
DS2786KのソフトウェアがDS2786Kのデータシートに示されるようにインストールされてDS2786と通信すると、スタンドアロン残量ゲージを開始する最初のステップは、アプリケーション固有のデータをDS2786にロードすることです。
DS2786には、「最良近似」OCV/残容量曲線と標準デフォルトパラメータがプリロードされています。「最良近似」曲線は、各製造メーカ製の各種サイズのセルの特性を規定して作成されました。この曲線は、大部分のアプリケーションに適合する卓越した開放電圧プロファイルを提供します。このアプリケーションノートでは、デフォルトパラメータを使用する標準アプリケーションを仮定します。
必要なデータはアドレス60h~7Fhに保存され、Li+セルのOCVプロファイル、セル容量に関連する値、開放電圧の検出用のスレッショルド、およびConfiguration (設定)およびCurrent-Offset Bias (電流オフセットバイアス)レジスタから構成されます。このデータをPARAMETERSタブにおいてDS2786Kに入力することができ(図1)、DS2786Kはこの入力値をメモリに実際に保存される適正値に自動的に変換します。図1の矢印は、以下の項で説明される各ラベルを示しています。
図1. DS2786KのPARAMETERSタブを図示しています。矢印は、このアプリケーションノートで説明される各パラメータを示しています。
- Cell Data (セルデータ)
- Configuration Register (設定レジスタ)
- Current-Offset Bias Register (電流オフセットバイアスレジスタ)
- Initial Cell Capacity (初期セル容量)
- Blanking/OCV Threshold (ブランキング/OCVスレッショルド)
- OCV dV/dt Threshold (OCV dV/dtスレッショルド)
- I2C Address (I2Cアドレス)
- Learn Threshold (学習スレッショルド)
- User EEPROM (ユーザEEPROM)
DS2786には、標準Li+セルの「最良近似」曲線がプリロードされています(図2)。この曲線は、セルの開放電圧に対する残存相対容量の8セグメント、区分線形近似曲線です。Cell Dataは、残存セル容量(Capacity)とOCV (Voltage)のペアで構成されるブレークポイントとしてPARAMETERSタブに表示されます。Capacityポイントは0.5%のステップで保存され、Voltageポイントは1.22mVのステップで保存されます。Capacityコラムの先頭と最後のデータポイントは、0%と100%に固定されています。
ユーザが使用する当該セルのOCVプロファイルを使用したい場合は、新しいCapacityおよびVoltageのブレークポイントをテキストボックスに入力して、以下の「DS2786へのアクセス」の項に示されるように新規の値をDS2786に書き込んでください。
使用するセル固有のOCVプロファイルが不明の場合は、ダラスセミコンダクタはアプリケーションで使用されるセルの特性を規定する無料サービスを提供します。ただし、「最良近似」曲線は、ほとんどのアプリケーションにとっては十分に高精度です。
図2. 標準Li+セルの「最良近似」曲線を図示しています。DS2786には、各製造メーカ製の各種サイズのセルの「最良近似」曲線がプリロードされ、大部分のアプリケーションに適した高精度のOCVプロファイルを備えています。これらのプリロードされた「最良近似」曲線のほかに、ダラスセミコンダクタはアプリケーションで使用されるセルの無料のセル特性規定サービスを提供しています。
Configuration Register (SMOD、DNL、VODIS、およびITEMP)の4ビットのデフォルト値は、アドレス0x7Chの上位4ビットに保存されています。チェックされたボックスは、このレジスタの該当ビットが1の値であることを示しています。チェックされていないボックスは、0の値であることを示しています。各ビットの説明については、DS2786のデータシートを参照してください。
Current-Offset Biasレジスタを使って、静オフセット誤差の補正、検出抵抗に流れないバッテリ電流の推定、またはバッテリ自己放電の推定を行うことができます。ユーザは、mA単位で正または負バイアスを入力して、電流積算プロセスに組み込むことができます。この値は電流レジスタに影響を与え、各OCVイベント間で積算されます。Current-Offset Biasレジスタは、25µV/検出抵抗のLSBによってデバイスに保存されます。ユーザは、値をmA単位で入力する必要があります。
Current-Offset Biasレジスタを自動的にキャリブレートする評価キットのソフトウェアを使用するには、METERSタブのUpdate Offsetボタンを左クリックしてください。このキャリブレーション方法の詳細については、DS2786Kのデータシートを参照してください。
Initial Cell Capacityによって、最後のOCV測定から積算された電流に基づいて、Relative Capacity (相対容量)の変動を推定することができます。たとえば、Initial Cell Capacityが1000mAhであり、100mAhが最後のOCV測定から積算されている場合は、Relative Capacityは10%だけ変動しています。ただし、Initial Cell Capacityが2000mAhである場合は、積算電流の同じ100mAhはRelative Capacityを5%だけ変動しています。
Initial Cell Capacityは、78.125%/VHの単位でデバイスに保存されます。ユーザはDS2786Kを使って、Initial Cell Capacityの値をmAh単位で入力する必要があります。
デバイスがセルの容量を学習する機会を得るまで、Initial Cell Capacityはデバイスによって使用されます。デバイスが新たなセル容量を学習すると、その値を使って、Relative Capacityで積算された電流の影響を推定します。
このレジスタは、以下の2つの目的を持っています。このレジスタによって電流ブランキングおよびOCVの検出の両方に使用されるスレッショルドを設定します。Blanking/OCV Thresholdを下回る電流読取り値は積算されず、残容量に影響を与えません。また、デバイスがBlanking/OCV Thresholdを下回る電流読取り値を検出すると、DS2786はOCVの状態を探し始めます。電流がこのスレッショルドを上回る場合は、デバイスはOCVの状態を検出しません。
アプリケーションがスタンバイモードのときにOCVイベントを検出することができるように、スレッショルドを選択する必要があります。たとえば、アプリケーションがスタンバイモードで5mAを消費している場合は、スタンバイモード時にOCVイベントを検出可能にするようにBlanking/OCV Thresholdを7.5mAに設定する必要があります。
Blanking/OCV Thresholdレジスタは、25µV/検出抵抗の単位で保存されます。ユーザは、この値をmA単位で入力する必要があります。
アドレス0x7Chの下位4ビットを使って、OCV dV/dt Thresholdを設定します。この値を使って、OCVの状態が発生したかどうかを判定します。OCVの測定を行うために、電流はBlanking/OCV Thresholdを下回り、電圧変動は15分間にわたってOCV dV/dt Threshold未満である必要があります。
OCV dV/dt Thresholdを1.22mV~18.30mVに設定可能で、1.22mVのLSBによって保存されます。
デバイスのI2Cアドレスを0x60h~0x6Ehのいずれのアドレスからでも変更可能です。メモリアドレス0x7Dhの上位4ビットを使って、I2Cアドレスを指定します。
表1は、I2Cアドレスが、「011」として固定されたアドレスの上位3ビットでフォーマットされていることを示しています。メモリ領域0x7Dhのビット7~4は、I2Cアドレスのビット4~1を占めています。ビット0は、I2Cアドレスの読取り/書込みビットです。レジスタの0x00hという値は0x60hというI2Cアドレスを備え、0xF0hという値は0x6EhというI2Cアドレスを備えています。
表1. I2Cアドレス形式
希望するアドレスをI2C Addressテキストボックスに入力すると、ソフトウェアによってそのアドレスは正しいフォーマットに変換されます。
I2C Addressが変更されると、評価キットのソフトウェアとの通信が瞬間的に遮断される場合があります。ただし、ソフトウェアは新規のアドレスを探そうとするため、ユーザは何も行う必要がありません。
Learn Thresholdを設定して、DS2786がセルの容量を学習すべき時を設定することができます。OCVイベントが発生するごとに、(METERSタブ上の) Relative Capacityレジスタは、Capacity/Voltageブレークポイントで更新されます。新しいRelative Capacity値は、OCVイベントで計算された最後のRelative Capacity値と照合されます。最後のOCV Relative Capacity値は、メモリアドレス0x18hに保存されます。Relative Capacityが、最後のOCV相対容量の測定からLearn Thresholdを上回る分変動した場合は、DS2786は、OCVイベント間に積算された電流量に基づいてセルの容量を学習します。
これは、ユーザがどんな目的にも使用可能な1バイトのEEPROMです。
ユーザは番号1~9で説明された値を変更した後に、その値をDS2786に保存する必要があります。Write & Copyボタンはテキストボックスに入力された値を取り出し、それをDS2786に保存されている正しい単位に変換します。次に、これらの値をシャドーRAMに書き込み、EEPROMにコピーします。これらの値をEEPROMに保存するために、15Vのプログラミング電圧をDS2786KボードのVPROG端子に接続する必要があります。DS2786Kのソフトウェアは適時、ユーザにプログラミング電圧を接続および切断するようにプロンプト表示します。
ユーザはRecall & Readボタンを左クリックして、適正値がデバイスに書き込まれたか検証する必要があります。このボタンによって、データがEEPROMから呼び出されて読み取られ、上記のアプリケーション単位で結果が表示されます。
デバイスに保存される実際の値をMEMORYタブに16進値で表示することができます。
パラメータ設定値の保存およびロード
パラメータ設定値の保存とロードを実現する3個のボタンは、PARAMETERSタブの下部にあります。Load Default Set Upボタンによって、デフォルトデータがタブ上のすべてのテキストボックスにロードされます。このデータを特定アプリケーションに適合するように変更したり、または迅速な評価のために「現状」のままにすることができます。Load Default Set Upボタンは、画面上の値を変更するだけです。DS2786のメモリを変更するには、Write & Copyボタンを左クリックして、15Vのプログラミング電圧をDS2786Kの評価ボードのVPROG端子に接続してください。
ユーザが設定値を変更した場合は、それらの値をSave Set Upボタンを使ってファイルに保存することができます。Load Set Upボタンを使って、希望するファイルを選択することによって、これらの値をテキストボックスに後でロードすることができます。もう1度、DS2786のメモリを変更するには、Write & Copyボタンを左クリックする必要があります。
残容量の推定
パラメータが適切に設定され、DS2786のEEPROMに書き込まれると、ユーザはDS2786に開放電圧を測定させ、Remaining Capacityを自動的に推定させる必要があります。DS2786は、デバイスがバッテリに最初に接続されていると、開放電圧を測定します。電流がBlanking/OCV Thresholdを下回り、電圧がOCV dV/dt Threshold内に15分間とどまると、OCVがさらに測定されます。
アプリケーションの開始と容量の学習
DS2786は、セルに流れる電流の測定と積算を行い、それに応じてRelative Capacityを更新します。デバイスはInitial Cell Capacityを使って、積算された電流に基づいてRelative Capacityの変動を判定します。デバイスの使用時に、Relative CapacityがOCVの読取りの間にLearn Thresholdを上回る分変動すると、デバイスはセルの実際の容量を学習する機会を得ます。
たとえば、OCVイベントが発生し、DS2786がRelative Capacityは20%であると判定すると仮定します。次に、セルは80%まで充電され、その時に別のOCVイベントが発生します。Learn Thresholdが50%に設定されていた場合は、Relative Capacityの変動(60%)はLearn Threshold (50%)を上回るため、DS2786はセルの容量を学習します。DS2786はOCVイベント間の電流を積算し、その積算電流を使ってセルの全容量を推定します。
この場合は、DS2786はOCVの測定間に1000mAhを積算します。次に、1000mAhは総バッテリ容量の60%であると判定し、セル容量の100%は1667mAhであると判定します。続いて、DS2786は学習したセル容量を使って、OCVイベント間の相対容量の変動を推定します。
ソフトウェアは、図3に示すように、DS2786のデータでMETERSタブのRemaining Capacityを常時更新します。セルの充電および放電を続けると、DS2786は残りの作業を行い、DS2786Kはその情報を表示します。
図3. 評価キットのソフトウェアは、DS2786KのMETERSタブのRelative Capacityフィールドを常時更新します。
まとめ
DS2786Kで作業を開始するのはごく容易です。残量ゲージパラメータをデフォルトデータまたはカスタマイズデータで設定し、Li+セルの充電と放電を行ってください。DS2786が残りの作業を実行します。