補償用の設定を変更しながら、スイッチング電源の評価を迅速に実施する方法

2026年07月17日

Figure 1

   

主なポイント

  • 本稿では、スイッチング電源の補償用の回路(抵抗やコンデンサの値の設定)を変更しながら、ボーデ線図を取得したり、負荷過渡応答のテストを行ったりする方法を紹介します。その方法を用いれば、半田ごてを使用して評価の対象となる実際の回路に変更を加える必要はありません。「EVAL-LTPA-COMPRB」というボードを利用することで、電源の制御ループの最適化手法を大きく改善することができます。
  • 本稿で紹介する方法を用いれば、回路の修正作業を行うことなく、抵抗値(最大100kΩ)や容量値(最大39nF)を即座に調整できます。ソフトウェア制御による精密なチューニングによって、制御帯域幅を最大化しつつ、ループの安定性を確保することが可能になります。

概要

スイッチング電源では、求められる機能/性能を実現するために制御ループが用いられます。最大限の性能を達成するためには、制御ループを慎重に設計しなければなりません。その回路を適切に設計できたのか否かを確認するためには、実際に回路を構成して性能を評価する必要があります。その結果、補償用の回路の最適化を図らなければならなくなるかもしれません。問題は、その作業にはかなりの時間を要することです。特に、補償用の回路で使用する部品の値を微調整するには、半田ごてを使用して様々な値の抵抗やコンデンサを実装し直さなければなりません。本稿では、その作業を不要にする方法を紹介します。その方法では、補償用の設定(抵抗やコンデンサの値の設定)をソフトウェアで制御することが可能な補償プローブ(Compensation Probe)と呼ばれるボードを使用します。それにより、半田付けの作業をマウスによるクリック操作に置き換えられます。その結果、必要な労力を削減し、評価時間を短縮することが可能になります。

はじめに

通常、電源回路は一定の出力電圧を生成するために使用されます。つまり、入力電圧や負荷電流が変化しても、出力電圧が一定のレベルに保持されるようにしなければなりません。当然のことながら、その出力電圧が発振してしまうような事態は絶対に避ける必要があります。スイッチング電源を構成するコントローラICやコンバータICには、多くの場合、補償用のピンが用意されています。図1に、補償用のピン(VCピン)を備える降圧コンバータICの例を示しました。このピンを用意する目的は、制御ループの最適化を図れるようにすることです。実際の設計では、図1に示したように、抵抗やコンデンサを補償用のピンに接続します。その値を調整することにより、制御ループを最適化することができます。具体的には、ループの安定性を確保しつつ、最大限の制御帯域幅を達成することが可能になります。制御ループの特性は、動作条件や電力経路で使用する外付け部品の選択に応じて変化します。そのため、補償用のピンを利用して制御ループを微調整できるようにしているのです。

図1. 補償用のピンを備えるコンバータICの例。青色の線で示した補償用の部品の値を変更することにより、制御ループの応答速度と安定性を調整できます。
図1. 補償用のピンを備えるコンバータICの例。青色の線で示した補償用の部品の値を変更することにより、制御ループの応答速度と安定性を調整できます。

従来の設計/最適化手法

補償用の部品については、電源設計ツール「LTpowerCAD®」やSPICEベースのシミュレータ「LTspice®」などを使用することにより適切な値を選択できます。但し、プリント回路基板のレイアウトに依存して形成される寄生素子も、制御ループの特性にある程度の影響を及ぼします。したがって、回路の性能が要件を満たすかどうかを確認するためには、実際に回路(ボード)を構成して評価を実施しなければなりません。基板を含む回路全体の検証を実施した結果、必要な性能が得られていれば、補償用の部品の値も確定できることになります。それに対し、得られた結果が設計上の目標を満たしていない場合には、最適化を実施しなければなりません。

その作業は、電源の設計時間の中でも多くの割合を占める煩雑なものになります。その過程では、例えば電源設計用の評価キット「LTpowerAnalyzer」などを使用して実測を行い、ボーデ線図や負荷過渡応答を確認しなければなりません。最適化を図るためには、半田付けされた補償用の部品を取り外し、値の異なる部品を半田付けし直す作業を繰り返すことになります。この作業には、多くの労力と時間を要します。

補償プローブを利用する新たな手法

上述した課題を解決するのが、LTpowerAnalyzerのコンパニオン・ボード「EVAL-LTPA-COMPRB」です (図2)。 こ の ボ ー ドは補償プローブと呼ばれており、図1の赤い点線で囲まれた補償用の回路を置き換える形で使用します。補償プローブは、右側にある半田接点を介して、あらゆるコントローラIC/コンバータICの補償用のピンとグラウンド・ピンに接続できます。また、補償プローブの左側はUSBケーブルを介してPCに接続できるようになっています。補償プローブを接続したら、LTpowerAnalyzerのソフトウェア(無償)を起動します。このソフトウェアを使用すれば、GUIの操作によって補償用の部品の値を迅速に変更できます。LTpowerAnalyzerと組み合わせることにより、補償用の設定を変更しながら、ボーデ線図を取得したり、負荷過渡応答のテストを実行したりすることが可能になります。

図2. EVAL-LTPA-COMPRBの外観。この補償プローブを使用すれば、GUIによって補償用の回路の設定を最小限の時間で変更できます。
図2. EVAL-LTPA-COMPRBの外観。この補償プローブを使用すれば、GUIによって補償用の回路の設定を最小限の時間で変更できます。

図3に示したのは、補償プローブ用のGUIです。これを使用すれば、抵抗の値(511Ω~100kΩ)とコンデンサの値(5pF~39nF)を迅速に変更できます。その際には、コンデンサの等価直列抵抗(ESR)の値も反映できるようになっています。先述したように、補償プローブは、短いリード線によって評価の対象となるコンバータICのグラウンド・ピンと補償用のピンに接続します。それだけで、補償用の部品の値を精密かつ迅速に、しかも簡単に選択/設定できます。

図3. 補償プローブ用のGUI。補償用の部品の値を簡単に変更できます。
図3. 補償プローブ用のGUI。補償用の部品の値を簡単に変更できます。

まとめ 

本稿で紹介した補償プローブ(EVAL-LTPA-COMPRB)を使用すれば、スイッチング電源の制御ループの安定性を検証したり、最適化を図ったりすることができます。しかも、GUIベースの簡単な操作により、短時間で非常に効率的に作業を進められます。補償プローブを活用して補償用の回路の最適な値を決定すれば、より優れた電源回路を構築できます。それだけでなく、設計時間を短縮することも可能になります。

著者について

Frederik Dostal
Frederik Dostalは、アナログ・デバイセズ(ドイツ ミュンヘン
myAnalogに追加

myAnalog のリソース セクション、既存のプロジェクト、または新しいプロジェクトに記事を追加します。

新規プロジェクトを作成

この記事に関して

製品カテゴリ
最新メディア 25
Title
Subtitle
さらに詳しく
myAnalogに追加

myAnalog のリソース セクション、既存のプロジェクト、または新しいプロジェクトに記事を追加します。

新規プロジェクトを作成