スマートメーターがもたらす環境上の利点

スマートメーターがもたらす環境上の利点

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David Andeen

David Andeen

要約

今日、消費者や電力会社にとって、季節別時間帯別料金制度、正確な計測、検針員による月次訪問の廃止といったスマートメーターの利点は明らかです。しかし、スマートメーターは環境に対して具体的な利点をもたらすでしょうか。これにはさまざまな意見があります。このチュートリアルでは、電力会社によるエネルギー使用量の監視に役立つスマートメーターの仕組みについて説明します。その監視データを活用すれば、電力会社は消費者と協力してエネルギー使用量を削減し、さまざまな再生可能エネルギー源を取り入れることができます。これが実現すると、環境にとって大きなプラスになります。

同様の記事が2011年11月15日に「Electronic Products」に掲載されました。

発端

「スマートグリッドが環境にいいなんて、考えられないね」と、従兄弟のクリスが言いました。私がマキシムのスマートグリッド事業に関わっていることを話したときです。彼はこうも言いました。「電力会社が料金を引き上げるための方便にすぎないと思うな」。

普通なら、エネルギーや資源のインテリジェントな管理について話して相手の言葉をさえぎるところですが、私の従兄弟は北カリフォルニア電力で15年間勤務していました。根拠のない話ではなかったので、私はもう少し話を聞くことにしました。「電気は水のように流れるんだよ」と彼は続けました。「電源からすべての消費ポイントまでね。スマートメーターを取り付けても、エネルギーの節約になるわけじゃない。消費するとカウントされるんだから」。これらはすべてもっともな話です。

私は、スマートメーターはいいものだ、経済や環境のためになるものだ、昔からある問題を進んだテクノロジーで解決するものだと信じていました。しかし実際には、スマートグリッドがエネルギー消費量の削減につながる仕組みを知りませんでした。そこで、詳しく調べてみることにしました。

その結果、スマートメーターには途方もない環境上の利点が秘められていることがわかりました。ピーク負荷の抑制と分散型発電は、優れた制御と正しく設計されたスマートグリッドの通信、それに消費者の協力によって可能となる2つの極めて重要な機能です。これらの機能は、特に重要な時期にエネルギー消費量の削減に役立ちます。また、太陽電池パネルや風車など各種の再生可能エネルギー源を効果的に組み込む上でも有効です。さらに、早期に導入した顧客からの初期データは、スマートメーターの成功を実証しています。こうした利点は、消費量の削減と再生可能エネルギーの導入に向かう道として、スマートメーターへの多大な投資を促しています。ただし、なお明らかなことが1つあります。それは、スマートグリッドの設計がいかに優れていても、もう一方の重要な当事者、つまりスマートな消費者の皆さんなくしては、効果的に環境に寄与することはできないということです。

スマートグリッドとは

ある人にとっては、スマートグリッドは、自分の建物に取り付けられた新しい電気、ガス、水道メーターを指すにすぎません。別の人にとっては、それは屋外のメーターに取り付けられた怪しげな無線周波数送信機です。また他の人にとっては、スマートグリッドは、電気を消費するすべてのものを接続する新しいネットワークです。

トーマス・エジソンが今の世界に生きていたら、すぐさま老朽化した送配電網に目をとめるに違いないと多くの人が言います。過去75年間、利ざやの比較的少ない業務を行ってきた電力会社には、従来のインフラを改良する動機がほとんどありませんでした。そのうえ、消費者はやみくもに使って月末などに料金を支払う制度に慣れています。

実際、スマートグリッドは新しいネットワークです。新しいネットワークとして、従来の電力インフラの上に重ねて導入されます。エネルギーは発電、送配電、消費の各ポイントで計測されます。それらの計測値はネットワーク内で伝達されます。電力会社や消費者に対するこうした情報伝達の結果、グリッドの状態について迅速でスマートな判断を下すことが可能になります。スマートフォンによって情報へのアクセスが迅速化したのと同様に、スマートグリッドでは、消費者や電力会社がエネルギーの情報にすばやくアクセスできるようになります。想像してみてください。主要な機器すべてのエネルギー消費量が計測され、最新鋭のコンピュータに伝達され、電力会社によって管理されたうえ、確認のために消費者に提供されるとしたら、どうなるでしょうか。そうした情報が手に入れば、誰がエネルギーを浪費しているかを突き止め、節約を促すための可能性が開かれるに違いありません。

スマート電気メーターは家庭や企業のエネルギー消費量を追跡(計測)して、そのデータを通常15分間隔で電力会社に送り返します。この処理は「エネルギーメータリング」と呼ばれ、メーター自体の内部で行われます。電力会社が正確な消費量を確認し、消費者が過大請求されないように、エネルギーメータリングには高い精度と信頼性が要求されます。最新のメータリングのほとんどは半導体によって実行されます。そうしたデバイスの1つがマキシムの71M6541Dです。このICは標準的な家庭用メーター内で電気を正確に計測します。

消費量データを電力会社に伝達するプロセスも半導体によって行われます。これらのデバイスは電力線を通信ケーブルとして使用するか、またはワイヤレスで通信します。電力線通信(PLC)にはRF放射が少ないという利点があり、RFが透過しにくい地下室などのメーターに有効です。MAX2991MAX2992は、メーターから電力会社への安定したPLCを実現するための包括的なチップセットです。

スマートグリッドはメーターにとどまらず、企業や住宅にも入り込みます。データセンター、工場、機器のすべてが計測機能や、場合によっては通信装置を装備してスマート化されます。エネルギー消費量を計測し、その情報を電力会社やホームネットワークに中継することは、エネルギー測定と呼ばれています。再生可能エネルギーの生成もエネルギー測定に依存しています。その一例は、構造物上に設置された太陽電池パネルで生み出されたエネルギーの計測です。効果的なエネルギー測定には、精度と信頼性も要求されます。単相、デュアルコンセント電力およびエネルギー測定ICである78M6612は、さまざまなアプリケーションで高精度なエネルギー測定を実現します。

ピーク負荷の抑制と分散型発電

電力会社の立場から見ると、スマートメーター(スマートグリッドの一部)はピーク負荷の抑制を実現する可能性を開きます。エネルギー需要のピーク時におけるエネルギー消費量の管理は、電力会社にとって最も難しい課題の1つです。

図1は、米国中部における夏の暖かい日のエネルギー消費量を示しています。暑い夏の平日を想像してみてください。午前7時に起床するまでは、エネルギー消費量はごくわずかです。起き上がると、テレビ、コーヒーポット、室内灯の電源を入れます。誰もが同じことをするため、送配電網の負荷が増大します。間もなく業務用コンピュータの電源を入れ、職場のエアコンも動き始めます。製造施設では、モータが回り始めます。余分な熱が生み出されるため、日中に動作する機器には常に空調が必要です。勤務時間が終わっても、人びとが帰宅してエアコンや器具の電源を入れるため、エネルギー需要は増え続けます。消費量は通常、夕方にピークを迎えた後、気温の低下と人の活動の減少とともに下がっていきます。

図1. 米国中北部における2011年7月14日の実際のエネルギー需要データ。データの提供元はテキサス電気信頼性評議会(ERCOT®、www.ercot.com/gridinfo/)。多くの暖房機で天然ガスを使用しているため、冬場のピーク電力需要はこれほど上昇しない。
図1. 米国中北部における2011年7月14日の実際のエネルギー需要データ。データの提供元はテキサス電気信頼性評議会(ERCOT®、www.ercot.com/gridinfo/)。多くの暖房機で天然ガスを使用しているため、冬場のピーク電力需要はこれほど上昇しない。

電力会社はいかにしてこうしたエネルギー需要の変動に対処しているのでしょうか。銘記すべき重要なことは、電力会社には電力貯蔵手段がほとんどないということです。都市や電力会社の広範なサービスエリアで必要とされるエネルギー量を蓄えるような大規模バッテリはありません。電力会社は十分な余裕のあるエネルギー生産設備を持つことで、ピーク需要にすばやく対応し、使用制限を回避する必要があります。標準的な電力会社では、水力発電所と石炭火力発電所を組み合わせてエネルギーのベース負荷を供給しています。これらは両方とも安定した優秀な電力源ですが、水力発電所での発電は機敏さに欠けるため、需要の変化にリアルタイムで対処することはできません。石油と天然ガスのタービンは対応がすばやいため、エネルギー供給を増やして1日のうちのピーク需要や需要の変化に対処することができます。太陽光発電設備も晴れた日に昼間のエネルギーを供給します。

電力会社はこうして何十年もの間、エネルギーを管理して供給してきました。次に、スマートグリッドについて検討しましょう。

同じ暑い日に、高精度なスマートメーターと安定した通信機能が完備された状況を想像してみてください。午前中に需要が増大するとともに、スマートメーターはリアルタイムの使用量データを15分間隔で親電力会社に転送します。消費量が大きい場所があれば、ただちに特定されます。

このエネルギー使用量のデータに基づいて、電力会社は季節別時間帯別料金制度を導入します。この料金制度の下では、需要のピーク時に、はるかに高い電気料金が利用者に課されます。節約やコスト削減を意識した消費者、企業、データセンターでは、電力会社や関連業者に対して、自分の電気設備の制御を部分的に任せることができます。温度が上昇するとともに、電力会社は空調装置のサーモスタットをリモート調整します。これによって省エネルギーが実現しますが、住宅やオフィスの温度はわずかに上昇します。末端の利用者の側で、自動管理された軽微な供給中断が生じます。

真昼になると、電力会社は生成されている再生可能エネルギー(風力や太陽光発電設備で生み出される電力)の量と位置に関するフィードバックをただちに受け取ります。分散型の発電設備であるこれらのエネルギー源は送配電網に相当な電力を供給し、最も近い場所にある消費ポイントに送電することができます。分散型発電を利用することによって、電力会社は再生可能エネルギーに比べて環境負荷の高い燃料を使用する予備発電機の稼働を抑えることができます。洗練されたデータや制御メカニズムは、電力会社が実際の負荷に上乗せしなければならない余剰電力を削減する上でも有効です。将来、負荷がさらに増大した場合は、充電スタンドに接続した電気自動車を自動的に電力会社のエネルギー源に切り替えることもできます。

1日の終わりまでに、このスマートグリッドは最大需要時のピーク負荷を抑制しました。エネルギーを節約し、必要なエネルギー生産能力の規模を縮小しました。固有の柔軟性によって、このスマートグリッドはピーク以外の時間帯に出力を引き上げ、昼間にエネルギー源として使用した電気自動車に充電したり、消費者のエアコンの稼働時間を延長したりすることも可能です。理想的には、この夜間電力は水力発電ダムやその他の再生可能エネルギーなど、よりクリーンなベース電源から供給されます。

最後には、消費者と電力会社はピーク負荷の抑制や再生可能資源による分散型発電の利用によって環境負荷の高いエネルギー源への依存度を減らすことで合意すると考えられます。

現実の成果

この時点で、話としてはよさそうだが、実際に問題なく機能するかどうかは見てみないとわからない、という人もいるかもしれません。消費者と電力会社が協力して省エネルギーに取り組むなら、スマートグリッドの利点がすばらしいものに思えるのは確かです。しかし、こうした利点は現実の世界で実証されているのでしょうか。

スマートメーターが初めて本格的に導入されたのはイタリアで、2001~2006年のことです。イタリアの電力会社Enelが主導してコストを引き下げました。今ではイタリアの顧客の85%近くがスマートメーターを持っています。メーター数にして約4000万台です。Enelでは、顧客がこの設備によって年間7億5000万ドルを節約していると見積もっています。季節別時間帯別料金制度と顧客の意識が、省コストの極めて重要な仕組みです。請求額の下げ幅が50%に達するという顧客もいます。検針や保守のための出張サービスが減少したこともコスト節約に寄与しています¹。

社会的圧力も顧客の行動を積極的な方向に変えることがわかっています。2009年、ミネソタ州の協同組合事業者Connexus Energyは、年間1.5%の消費量削減を要求する議会の命令に直面しました。再生可能型の発電や送配電の効率化といった需要削減努力では、必要な削減量の一部しか満たすことができません。状況は明らかでした。Connexus Energyは顧客に消費を抑制してもらう必要がありました。Connexus Energy®協同組合はコンサルティング会社と提携して、独創的な新しい料金制度と教育プログラムを導入しました。まず4万世帯の住宅用顧客にレポートを郵送しました。そのレポートでは、各世帯の消費量を近所にある同規模の住宅に住む100世帯の消費量と比較し、また近所の全世帯の中で最もエネルギーを節約している上位20%の世帯の消費量とも比較しました。比較の信頼性を高めるため、Connexus Energyは月次使用量の情報を受け取っていない4万世帯の対照群も選定しました。2009年を通じて、この社会的圧力が功を奏しました。消費者はエネルギー消費量を2%削減し、年間20~30ドルを節約しました。累積節約額は100万ドルを超えました。その後、プログラムに参加した顧客の98.7%がプログラムの継続を選択しました²。

米国政府は現在、2009年の米国再生再投資法の一環として、スマートグリッド計画に45億ドルもの予算を積極的に投じています。その目標は、エネルギー効率の向上、ピーク需要の抑制、分散型再生可能エネルギーの組み込みなどです³。

ほかにも、スマートメーターの導入に資金提供するプログラムが全世界のさまざまな国で進められています。

結論

データによると、スマートグリッドは需要の抑制、再生可能エネルギーの組み込み、および節約を通じて、実際に環境上の利点をもたらすことができます。ただし、明らかなことが1つあります。これらの利点を実現するには、正しく設計されたグリッドと、消費者の教育と参加が不可欠です。いかに機械制御を駆使しても、意識を高め、習慣を変えることはできません。スマートメーター、太陽電池パネル、電気自動車も取引の道具にすぎません。スマートグリッドが成功するか否かは、皆さんや私自身、つまりスマートな消費者にかかっているのです。

参考文献
¹Scott, Mark, "How Italy Beat the World to a Smarter Grid," Bloomberg Businessweek, ENERGY November 16, 2009 (www.businessweek.com/globalbiz/content/nov2009/gb20091116_319929.htm).
²Sayler, Bruce, "Tap into Peer Pressure to Reduce Energy Use," Transmission and Distribution World, January 1, 2011
³"A Policy Framework for the 21st Century Grid: Enabling Our Secure Energy Future" (https://www.energy.gov/oe/downloads/policy-framework-21st-century-grid-enabling-our-secure-energy-future)