フェムトセル基地局アプリケーションにおけるシングルチップトランシーバの採用

フェムトセル基地局アプリケーションにおけるシングルチップトランシーバの採用

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Jerry Wei

要約

このアプリケーションノートは、3G携帯電話フェムトセル基地局の開発と配備について検討します。住宅へのラスト1マイルの接続性および密集した都市環境におけるシステム容量の追加という技術的難問について検討し、3Gフェムトセル基地局がコスト効率に優れたソリューションであることを示します。マキシムの3GPP TS25.104準拠トランシーバソリューションおよびRD2550などの完全な無線リファレンスデザインについて紹介します。RD2550の詳細については、リファレンスデザイン5364 「Femtocell Radio Reference Designs Using the MAX2550–MAX2553 Transceivers」(英文)を参照してください。

なぜフェムトセル基地局か

3GPPの下での 第3世代携帯電話システムは、完全なモバイルマルチメディア体験を提供するように設計されました。多くの場合、特に住宅および僻地においては、利用可能な受信範囲が原因で普及が制限されてきました。密集した都市部、および特に高層ビル内では、システム容量の追加と、これらの環境で発生する劣悪なサービス品質(QoS)の克服が大きな課題となります。
このどちらの配備シナリオでも、「フェムトセル」携帯電話基地局が合理的な答になります。基地局の一般的な分類は、以下のとおりです。
  • +45dBm:マクロ基地局が5kmの範囲で屋外セルサイトをカバー
  • +30dBm:ピコ基地局が0.5kmの範囲で構内をカバー
  • +15dBm:フェムトセル基地局が50mの範囲で住宅またはビルの屋内をカバー
住宅への配備の場合、フェムトセルは(通常は住宅用DSLラインを介して利用可能な)公衆交換電話網を介してネットワークにアクセスします。端末は家庭内ではフェムトセルとのみ通信し、そのユーザーの負荷をマクロセルから完全に解放します。高層ビル内では、フェムトセルをビルの有線イーサネットシステムに接続することができます。これも、マクロセル基地局への負荷を軽減することになります。以下では、フェムトセル配備に関する基礎について概説し、マキシムの無線ソリューションがこの技術に重要な優位性を提供することを示します。

携帯電話のカバレッジ向上

携帯電話システムは、端末のバッテリ寿命、端末の計算パワー、およびセルサイトのユーザー負荷の間のトレードオフを入念に考慮して設計されています。さらに、絶えず増大を続けるモバイルDSPの性能を利用するために、携帯電話の規格は常に進化しています。携帯キャリア各社はこの傾向を活用して、収益の増大と新規顧客の獲得を目的に、より多くの、より良いマルチメディアコンテンツを提供しています。ユーザーは、究極的に「どこでも使える」モビリティの恩恵を受けることになります。たとえば、携帯電話の普及率は年間1億台規模であるため、非常に合理的で明確に把握された競争力のあるサプライチェーンが存在して低価格と高性能を維持しています。

ブロードバンド無線と携帯電話RFサービスの比較

この携帯電話の開発作業と平行して、市場/利用モデルにしたがった広域ブロードバンド無線システムの開発と配備が行われました。当初は、いわゆる「コーヒーハウス」Wi-Fi®が、特定の対応レストランの近くに駐車したり店内で食事をするユーザーに802.11のインターネットアクセスを提供しました。その後、一部の都市で繁華街の中心部にサービスを提供する実験的な都市型Wi-Fiアクセスポイントが構築されました。これらのモデルが非常に大きな成功を収めたため、2004年には「都市型ブロードバンド無線アクセス」サービスの提供を目標として、より良い無線システムである802.16 WiMAX® (および韓国のWiBro®)がスタートしました。
シングルキャリア変調の代わりに直交周波数分割多重(OFDM)を使用することで、これらのブロードバンド無線システムは都市部のマルチパス効果を克服することができますが、それには4倍の送信出力を必要とします。そのため、WCDMA 3GPPのピーク-アベレージ比(pk-avg)が5dBであるのに比べて、OFDM 802.16dのpk-avgは約11dBとなっています。Intel®はウルトラモバイルPC (UMPC)用のRF接続の標準としてWiMAXを支持しましたが、UMPCのフォームファクタは通常の携帯電話の約6倍の大きさに定義されています。したがって、UMPCの場合にはWiMAXサービスの採用が妥当ですが、WiMAXははるかに大きいバッテリを必要とするため、小型のバッテリを使用する薄型/折畳み式の携帯電話に搭載するのは容易ではありません。

アンテナ塔の増設

携帯電話とWiMAXの両方の配備に共通する障害の1つは、アンテナ塔の増設と用地の利用権です。用地の借地コストと「見苦しい」鉄塔を制限する地方自治体の規制によって、特定の地域における基地局の増設ペースはどちらのシステムもほぼ同じになります。しかし、携帯キャリア各社はWiMAXよりも約20年早く導入を開始しているため、基地局塔のカバレッジと新規建設の面で明らかに有利です。

有線の固定住宅向けサービスが適する場合

有線の住宅向けアクセスシステムは、固定の住宅向けWiMAXと直接競合します。住宅向けサービスには、一般にファイバートゥザホーム(PON)、電話回線DSL、およびケーブルTVインターネットアクセスシステムが含まれます。先進国では、これらのサービスは長年にわたって確立された高度なネットワーク終端機器を使用した設備の恩恵を受けることができます。PONはそれらより新しく登場したシステムですが、ネットワークのローカル交換キャリア(LEC)各社はすでに用地を所有しており、古くなった銅線を交換する必要があるため、新しいファイバープラントの増設が計画されることはほとんどありません。
フェムトセル基地局の配備にとって、これらのサービスは補完的なものとなるため、次項で概説します。

基本的なフェムトセル基地局の実装

図1は、ノードBマクロセル基地局を介する従来の携帯電話の接続と、フェムトセル基地局の設備の比較です。
図1. 従来のノードBマクロセル携帯電話接続とフェムトセル基地局接続の比較
図1. 従来のノードBマクロセル携帯電話接続とフェムトセル基地局接続の比較
図1の左側のシナリオは、従来の携帯電話からアンテナ塔への直接接続です。ここでは、壁越しの損失が比較的低い木造住宅で、マクロ基地局に近い状態を示しています。
右側のシナリオはコンクリート造の高層ビルで、住居または共用オフィスエリアにフェムトセル基地局を設置した状態を示しています。フェムトセル基地局へのネットワークの供給は、住居用DSLラインまたは商用の有線イーサネットを通して行われます。このシナリオでは、集合住宅ビルへの信号が弱い状況を示しています。フェムトセルステーションは「個人の、専用の基地局」として機能し、マクロセルとは通信しません。
付け加えると、マクロセルおよび他のフェムトセルのセル伝送を無視するフェムトセルステーションの機能が設計上の重要な問題となり、複数のベースバンドDSPプロバイダによって克服されました。

フェムトセル基地局が解決する携帯電話システムの問題

容量の主な限定要因

従来のマクロセル基地局は、通常はピーク負荷の時間帯に発信者の容量の制限が発生します。システムは、平均的な時間にわたって持続する特定量の通話を処理するように、トラフィックキュー理論を使用して静的に設計されています。そのため、ピーク負荷の時間帯には長時間の通話によって容量が制限されます
また、境界付近で動作している端末に対応する必要がある場合、セルサイトはマクロセルのトランスミッタに出力の増大を強制し、それによって全発信者が利用可能なダイナミックレンジのより大きな部分を占めることになります。その結果、携帯電話の境界上での通話がダイナミックレンジを「独占する」ため、それらによって容量が制限されます(図2を参照)。
図2. マクロセルトランスミッタの発信者による出力占有の概念図
図2. マクロセルトランスミッタの発信者による出力占有の概念図
これらの2つの要素によってマクロセルサイトの容量が制限され、そのために携帯電話キャリアの収益が制限され、究極的には新規ユーザーの採用ペースが低下します。

マキシムのフェムトセル基地局RFシングルチップトランシーバ

マキシムのRD2550フェムトセル基地局リファレンスデザインは、WCDMAバンド1に関するTS25.104の要件に適合するように設計されました。WCDMAバンド2、4、および5のリファレンスデザインも利用可能です。このリファレンスデザインの中心は、ベースバンドDSP/モデムへのデルタシグマビットストリームデジタルインタフェースを備えたシングルチップトランシーバです。このトランシーバは低減されたレベルのLVDSインタフェースを使用し、チャネルのフィルタ処理はベースバンドDSP/モデムで行われるため、ソフトウェアで再構成可能な無線が実現します。
RFトランシーバ部の完全なリファレンスデザインが設計されました。この設計は、トランシーバの内蔵LNAを使用するマクロセルのモニタモードをサポートしています。リファレンスボードの写真を図3に示します。詳細については、リファレンスデザイン5364 「Femtocell Radio Reference Designs Using the MAX2550–MAX2553 Transceivers」 (英文)を参照してください。
図3. マキシムのフェムトセル基地局リファレンスデザイン
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図3. マキシムのフェムトセル基地局リファレンスデザイン

UTRAバンド1フェムトセル基地局規格(3GPP TS25.104)への適合

フェムトセル基地局規格の主な要件を表1に示します。WCDMAフェムトセル基地局の場合、レシーバとトランスミッタの両方のTS25.104ダイナミックレンジ要件への適合は、TS25.101準拠の端末に関する要件への適合より少なくとも10dB厳しくなっています。しかし、予想される生産量から端末のような回路統合およびBOMコストが要求されます。そのため、低コストで高集積度の端末用チップセットを中心として、しかも(基地局の要件である)逆転されたTx-Rx帯域で非常に優れた性能を発揮することができるようにシステムを設計するのが理想的です。
表1. TS25.104の主な要件
Uplink Requirements
Description Specification Condition
Frequency band 1920MHz to 1980MHz Band 1
Rx sensitivity -107dBm 12.2kbps data rate, BER shall not exceed 0.1%
Adjacent channel selectivity (ACS) -101dBm -38dBm, 5MHz offset WCDMA modulated interfering signal
Blocking (1900MHz to 2000MHz) -101dBm -30dBm (min), 10MHz offset WCDMA modulated interfering signal
Blocking (1MHz to 12,750MHz, except 1900MHz to 2000MHz) -101dBm -15dBm CW carrier
Intermodulation -101dBm -38dBm, 10MHz offset CW signal and -38dBm, 20MHz offset WCDMA signal
Downlink Requirements
Description Specification Condition
Frequency band 2110MHz to 2170MHz Band 1
Maximum output power Less than +24dBm
Adjacent channel leakage ratio (ACLR) -45dB/-50dB Offset frequency 5MHz/10MHz
Error vector magnitude 17.5%/12.5% QPSK/16QAM, RMS
たとえば、レシーバではACSを測定するための5MHzオフセットのインバンドブロッカが-38dBmと規定されており、端末に要求される-52dBmのブロッカよりはるかに厳しくなっています。同様に、チャネル選択度を測定するための10MHzオフセットのインバンドブロッカは、端末が-56dBmであるのに対して-30dBmと規定されています。そのため、レシーバははるかに高いIIP2およびIIP3性能を実現する必要があります。
同様に、トランスミッタのリニアリティについても、フェムトセル基地局の方が端末よりはるかに適合が難しくなります。WCDMA端末の場合、ACPRは-33dBmと規定されているのに対して、TS25.104のフェムトセル基地局の場合は約-45dBmとなっています。

システム性能の測定条件および分析

レシーバ感度は、RFチャネルの信号品質およびDSPモデム部分でのベースバンド処理に非常に大きく影響されるシステム仕様です。最小の入力信号レベルの条件下では、RFチャネルの品質は純粋にレシーバのノイズ寄与によって制限され、ノイズ寄与はそのNFによって決まります。
レシーバ感度の測定値は、システムNFの測定値から計算します。感度の計算では、Eb/Noが(ベースバンド復調器で処理された) QPSK信号の0.1% BERに適合するために7.5dBが要求されます。感度は次のように計算することができます。
リファレンス感度= KTB + NF + (Eb/No) - PG
ここで、
BW = 3.84MHzのチップ速度
KTB = -174dBm/Hz + 10 log (3.84MHz) = -108.13dBm
PG = 12.2kbpsのビットレートと拡散BWの相対比= 10log (3.84MHz/12.2kbps) = 25dB
NFが10.5dBの場合、感度は次のように計算することができます。
-108.13dBm + 10.5dB + 7.5dB - 25dB = -115.13dBm
ACSおよびブロッキング性能も同様に計算します。所定の妨害条件でシステムのNFを測定します。この場合、妨害効果によってさらに生成されるノイズが原因で、NFは感度の測定値より悪くなります。
Tx性能は、TS25.141で規定されているテストモデル1 (TM1)信号を使用して測定します。TM1信号は、高いpk-avgを示す可能性のある現実的なトラフィックのシナリオをシミュレートしたものです。
最大パワーレベルは3.84MHzのWCDMA帯域で測定します。ACLRは5MHzオフセット位置で測定します。この場合、送信ACLR性能は主として外部PAの性能が大部分を占めます。

RD2550 UMTSバンド1フェムトセル基地局リファレンスデザインの性能測定結果

表2. RD2550リファレンスデザインの性能測定結果
Uplink Requirements
Description Specification Maxim's Radio Performance
Frequency band 1920MHz to 1980MHz Band 1
Rx sensitivity -107dBm Exceeds
ACS -101dBm Exceeds
Blocking (1900MHz to 2000MHz) -101dBm Exceeds
Blocking (1MHz to 12,750MHz, except 1900MHz to 2000MHz) -101dBm Exceeds
Intermodulation -101dBm Exceeds
Downlink Requirements
Description Specification Measured Performance
Frequency band 2110MHz to 2170MHz Band 1
Maximum output power Less than +24dBm With external PA
ACLR -45dB/-50dB Exceeds
Error vector magnitude 17.5%/12.5% Exceeds
図4. TM1 16DPCH信号のACLR (出力パワーレベル:+20dBm時)
図4. TM1 16DPCH信号のACLR (出力パワーレベル:+20dBm時)
図5. TM1 16DPCH信号のEVM (出力パワーレベル:+20dBm時)
図5. TM1 16DPCH信号のEVM (出力パワーレベル:+20dBm時)

結論

フェムトセル基地局は、大幅に改善されたデータネットワーク体験を住宅内の携帯電話利用者に提供します。厳しい基地局の性能仕様に適合する一方で、携帯電話機のように低コストにする必要があるため、フェムトセル基地局の回路を設計するのは難しい作業になります。マキシムのフェムトセル基地局トランシーバは、3GPP TS25.104仕様の主な要件を十分に満たすとともに、最少のBOM部品数を提供します。MAX2550フェムトセルRFトランシーバに基づくマキシムのRD2550 UMTSバンド1無線リファレンスデザインは、この市場向けに最高レベルの性能とコストを実現します。