電力メータの測定精度を監視、アナログ・デバイセズのmSure技術で実現

電力メータの測定精度を監視、アナログ・デバイセズのmSure技術で実現

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Mika Nousiainen

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Juha Lohvansuu

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David Lath

電力会社にもたらされた革新的な技術の例としては、グリッド上の電力消費量を監視するためのハードウェアが挙げられます。現在では、それを超えるイノベーションとして、現場でもトラッキングできなかった電力メータの測定精度を把握するための分析処理が行えるようになってきています。Helen Electricity NetworkとAidonは、その機能を実現するための取り組みを行っています。Helen Electricity Networkは、フィンランドのヘルシンキに拠点を置く配電系統運用会社です。一方のAidonは、北欧でスマート・グリッド/スマート・メータに関する技術とサービスの提供を行っています。両社は共同で、上記の機能を実現する装置のフィールド試験を実施しました。その装置に使用されたのが、アナログ・デバイセズが提供するエッジtoクラウド対応のメータ分析ソリューション「Energy Analytics Studio」です。このソリューションは、アナログ・デバイセズのmSure®技術を採用したものです。これを利用すれば、運用期間(設置寿命)を通して電力メータの測定精度を監視したり、様々な改ざんを検知したりすることができます。メータの測定精度の監視は、特にフィンランドの市場で関心を集めている事柄であり、フィールド試験でもその機能に焦点を絞りました。

図1. 現場に配備された評価用のメータ機器

図1. 現場に配備された評価用のメータ機器

測定精度を監視する意味

電力メータは、産業施設、自治体の施設、一般の住宅などに数多く配備されています。それらのメータは、過酷な天候、落雷、予測不能な負荷など、時間と共に変化する多様な条件下におかれます。そのため、メータの測定精度が変化し、結果として過剰/過少な料金が請求されるといった事態が起こり得ます。このような問題は、発生後速やかに是正しなければなりません。そのためには、相応の時間とコストがかかります。また、電力メータの問題が原因で誤った請求が行われた場合、電力会社に対する消費者の信頼が損なわれることになります。したがって、何らかの問題に発展する前に、測定精度の変化を的確に把握する方法を考える必要があります。

現在、ほとんどの電力会社は、定期的にサンプリング試験を実施すると共に、標準的な期間が経過したらメータを交換するようにしています。しかし、どちらの作業にも相応のコストがかかります。また、それらは消費者に対しても煩わしさをもたらします。

本稿で紹介するソリューションは、主に2つの要素から成ります。1つは、現場に配備された個々のメータに組み込まれるmSure技術です。もう1つは、各メータの測定精度を継続的に監視してレポートするクラウド・ベースの分析サービスです。この分析サービスを利用することで、電力会社は一連のメータの測定精度を可視化することが可能になります。メータの問題を事前に把握できるので、測定精度が許容範囲を超えたメータを迅速に交換することができます。また、公的な規制で許容されているならば、サンプリング試験を削減あるいは廃止することも可能です。結果として、電力会社は、既存の強力なAMI(Advanced Metering Infrastructure)ネットワークをより一層活用できるようになります。

図2. クラウド・ベースの分析サービスによるメータの測定精度の表示

図2. クラウド・ベースの分析サービスによるメータの測定精度の表示

再生可能エネルギーを利用している場合や、電気自動車の充電を行っている場合などには、電力の消費量が変動しやすくなります。それが電気料金に反映された結果、消費者から問い合わせや苦情が寄せられるといったことが起こり得ます。本稿で示すソリューションを利用すれば、電力会社は特定のメータの測定精度を離れた場所で迅速に評価することができます。コストのかかる現地への訪問は必要ありません。そうすると、消費者にとっても煩わしさが軽減されるので、顧客満足度が高まります。

フィールド試験用の配備作業

Helen Electricity Networkは、フィールド試験に向けて次のようなことを行いました。最初に行ったのは、高精度の装置を使用して、すべての評価用機器の初期精度を把握することです。続いて、mSure技術を採用した40台の評価用機器を2018年8月に配備しました(図1)。更に、クラウド・ベースの分析サービスを利用して、各メータの測定精度の情報を可視化しました(図2)。得られた結果の検証は、フィンランドの独立試験機関であるVTT MIKESによって実施されました。つまり、分析サービスの精度を、VTT MIKESの試験によって検証するということです。フェーズ1では、精度の検証に向けて19台の機器が現場から取り外されました。このフェーズは2018年10月に完了しました。続くフェーズ2では、VTT MIKESにより、同じ19台の機器について加速寿命試験が行われました。こちらは2019年11月に完了しました。それぞれの精度を初期精度と比較することで、ドリフトの計測を実施しました。図3に示したのは、フェーズ2の後に取得されたドリフトの計測結果です。分析サービスによって得られた結果と、VTT MIKESによる試験結果を比較できるようにしています。

図3. フェーズ2の後に計測したドリフト量

図3. フェーズ2の後に計測したドリフト量

クラウド・ベースの分析サービスは、構内に設置された評価用機器(図1)と共に使用します。評価用機器は、メータ機器と直列に接続されています。その中核にあるのは、アナログ・デバイスの電力計測IC「ADE9153B」です。このICには、高度な診断が可能なmSure技術が適用されています。分析サービスがメータから得た未処理のデータを受け取ることで分析が実行されます。その結果として、傾向を観察するための情報を抽出したり、アラートを発生したり、メータの健全性に関するレポートを提供したりすることが可能になります。ADE9153Bをベースとするメータを実際に配備すれば、電力会社は、分析サービスを利用することによってmSureのメリットをシームレスに享受することができます。

フィールド試験の結果

フェーズ1では、クラウド・ベースの分析サービスで得た結果と、VTT MIKESによって実施された試験の結果を比較しました。その結果、分析サービスにより、19台の評価用機器のドリフトを0.1%以内の精度で遠隔監視できるということがわかりました。また、19台の機器の分析結果はいずれも0%の近傍に集まっており、ドリフト量が極めて小さいことが確認されました。

フェーズ2では、19台のメータに対し、加速環境下で8ヵ月間のエージングを施しました。これは、平均周囲温度が30°Cの現場で約10年、メータが稼働し続けた場合を模したものです。分析サービスの性能を正確に評価することと、エージングの工程を迅速に進めることを目的とし、フェーズ2は現場ではなく制御が行き届いた実験室で実施しました。フェーズ1の結果と同様に、19台の機器の測定精度についてはドリフトが0.1%以下の値に収まっています(図4)。ただ、この試験の結果でも、分析サービスによって得られた結果でも、平均-0.05%程度の負のドリフトが認められます。 

図4. ドリフトの評価結果。対象としているのは、フェーズ2において加速寿命試験を実施した評価用機器です。分析サービスによる計測結果とVTTによる計測結果を比較しています。機器ごとのドリフト量の計測結果にどれだけの差が現れるのかを示しました。

図4. ドリフトの評価結果。対象としているのは、フェーズ2において加速寿命試験を実施した評価用機器です。分析サービスによる計測結果とVTTによる計測結果を比較しています。機器ごとのドリフト量の計測結果にどれだけの差が現れるのかを示しました。

実験室での試験の一環として、分析サービスは、より大きなドリフトも正確に追跡できることを示したいと考えました。そこで、1台のメータに意図的な経時劣化を生じさせることにしました。そのためのエージング処理として、シャント抵抗と並列にもう1つの抵抗を接続しました。つまり、シャント抵抗の値を変化させたということです。このエージングにより、VTT MIKESによる試験では、ドリフトが-1.91%シフトしているという結果が得られました。一方、分析サービスでは、その値は-1.96%となりました。つまり、両者の差はわずか0.05%に抑えられています。

本稿で紹介した内容をまとめます。フィールド試験のフェーズ1では、次のようなことが確認できました。すなわち、分析サービスを使えば、現場に配備されたmSure対応機器の測定精度を0.1%以内という非常に近い値で追跡できるということです。また、フェーズ1の期間では、メータのドリフトはほとんど観測されないということもわかりました。フェーズ2では、現場で10年間使用した状態を模した状態で試験を行いました。この場合も、測定精度の変動は0.1%以内に抑えられることが確認できました。また、実験室での試験結果でも、分析サービスの結果でも、メータによる測定結果には負のドリフトが現れるということがわかりました。このフィールド試験により、mSure技術を分析サービスと併用すれば、メータのサンプリング試験を行う代わりに、十分な精度でメータのドリフトを遠隔監視することができるということを実証できました。