2020年ごろから半導体業界における競争領域の一つとなっている「エッジ・デバイス」。その中でもアナログ・デバイセズが着目してきたのが「インテリジェント・エッジ」だ(アナログ・デバイセズの戦略)。では、アナログ・デバイセズがインテリジェント・エッジに着目し、ソフトウェアを含むデジタル分野を強化していることを紹介した。
インテリジェント・エッジを実現するには、電子機器やセンサーモジュールなどにマイクロコントローラ(マイコン)を組み込む必要がある。つまり、マイコンチップやアナログIC、センサーなどのハードウェアを実装するとともに、ソフトウェアを搭載しなければならない。もちろんハードウェアの設計や実装には多くの労力を払う必要があるが、ソフトウェアの開発や実装も同様である。しかもソフトウェアには、それ特有の課題がつきまとう。例えば、開発現場では「プロジェクトの立ち上げに時間がかかる」「担当者が変わると開発を引き継げない」「開発ツールが分断されている」などの課題である。
アナログ・デバイセズでは、こうした課題を解決し、お客様のソフトウェア開発の作業をスムーズに進められるようにする統合開発環境「CodeFusion Studio™」を用意している。
アナログ・デバイセズが提供する統合開発環境(IDE)。2026年5月にバージョンアップし、最新版はCodeFusion Studio 2.2。
Visual Studio Codeベースの統合開発環境(IDE)で、同社の製品ユーザーに対して無償で提供している。CodeFusion Studioを使えば、初期設定やデバッグにかかる工数を大幅に削減し、プロジェクトの立ち上げから成果物の評価までにかかる期間を短縮できる。
なお対応するプロセッサ製品は、2021年に統合したマキシム・インテグレーテッド・プロダクツが由来のArmコア・マイコン「MAXシリーズ」のほか、DSPチップ「ADSP-2183x」「ADSP-SC83x」などである。
バージョンアップで機能を大幅に強化/拡張
2024年10月にリリースされたCodeFusion Studioは、2025年11月にバージョンアップされた。そのCodeFusion Studio 2.0では、機能が大幅に強化/拡張され、使い勝手が大きく向上した。このため電子機器やセンサーモジュールなどの開発者は、インテリジェント・エッジの市場での競争力を大きく左右するアプリケーション・ソフトウェアの開発に専念できるようになる。さらに2026年5月にはVer.2.2にアップデートされ、後述する「AI Debug Assistant」「Package Manager」といった新機能が搭載されている。
CodeFusion Studioには、大きく7つの特徴がある。以下で、それぞれの特徴について詳しく説明して行こう。
1. 組み込みソフトウェア開発の効率を高められる
CodeFusion Studioでは、プログラムコードの編集やコンパイル、ビルド、デバッグ、プロジェクト管理などの機能を単一のツール内に統合した。このためソフトウェア開発者は複数のツールを切り替えることなく、シームレスに作業を進められ、開発の作業効率を大幅に高められる。さらに、操作が簡単というメリットもある。GUIベースの操作環境を採用しているため、プロジェクトの作成や設定を視覚的に実行できる。特に、組み込みソフトウェア開発では設定項目が多くなるのが一般的だが、ツール内で一括管理できるため、開発作業の負担を軽減できる。
2. デバイス設定の自動化機能を備える
マイコンへの搭載に向けた組み込みソフトウェアでは、クロック、汎用入出力(GPIO:General Purpose Input Output)、通信インターフェース(SPI、I²C、UARTなど)の初期化、多くのハードウェア設定が必要になる。CodeFusion Studioでは、これらの作業をGUIベースの環境でコンフィギュレーションできるツールを組み込んだ。このため、こうした作業に戸惑うことなく、簡単に進められる。
IDEやツールチェーン、デバッガーなどを使い分けることなく、ヘテロジニアスなマルチコア・マイコンのソフトウェアを開発できる。
3. 高度なデバッグ機能を備える
CodeFusion Studioは、OpenOCD(Open On-Chip Debugger)やJ-Linkなどのデバッガーに対応する。これらを使えばブレークポイントの設定やメモリー内容の確認、レジスタの監視、ステップ実行などを行える。
ヘテロジニアスなマルチコア・マイコンにおいて、すべてのコアに対応する自動原因解析が可能で、クラッシュの原因を確認できる。
さらに、リアルタイムでのシステム状態の管理も実行できる。このため組み込みソフトウェアに特有のリアルタイム動作やハードウェア制御に関する課題を効率的に解決できる。
4. マルチコア搭載のマイコンに対応する
インテリジェント・エッジに搭載するマイコンには、高い演算性能や高度な機能が求められるケースが少なくない。こうしたケースは、シングルコアのマイコンでは要求される性能や機能を満足できないことが多い。そこで必要となるのが、Armコアに加えてAIコア(AIアクセラレーター)やDSPコアといった複数個のコアを搭載したヘテロジニアスなマルチコア・マイコンである。CodeFusion Studioを使えば、複数個のコアを一括で管理でき、デバッグなどの作業を実行できる。
5. ソフトウェア・コンポーネントの再利用を容易にする仕組みを備える
CodeFusion Studioは、ドライバーやミドルウェア、ライブラリなどをソフトウェア・モジュールとして管理することが可能である。このため開発者は、必要なソフトウェア・コンポーネントを選択して、プロジェクトに追加するだけで、開発中のプログラムコードにプラスすることが可能だ。簡単な操作で、過去のソフトウェア資産を再利用できる。
6. リアルタイムOS「Zephyr OS」に対応する
アナログ・デバイセズは、The Linux Foundationの「Zephyr Project」に2023年6月から参画しており、プラチナ会員に名を連ねている。アナログ・デバイセズのソフトウェア戦略に合致した、オープンソースの強力なエコシステムを持つZephyr Projectを活用することで提供する組み込みソフトウェアの価値を高めることができる。まずは戦略的に「Zephyr OS」を同社のマイコンに対応させている。さらに2025年11月に行われた「CodeFusion Studio 2.0」へのバージョンアップにおいて、AI(人工知能)モデルの実装に対応できるように機能を拡張した。具体的には、組み込み機器にAIモデルを実装するプロセスであるAIワークフローに対応した。このため開発者がAIモデルを準備しておけば、同社のマイコンに簡単に実装できる。
7. クラウドなどの進化する開発手法に対応する
最近の組み込みソフトウェア開発では、GitHubなどで入手したプログラムコードのバージョン管理や、CI/CD(Continuous Integration and Continuous Delivery/Deployment)といった開発プロセスの自動化に対応することが必要不可欠になっている。CodeFusion Studioでは、こうした進化する開発手法に対応する機能を用意しており、常に新しい開発手法をキャッチアップできる。
「AI Debug Assistant」機能などを搭載
それでは最後に、最新版であるCodeFusion Studio 2.1以降で新たに搭載された二つの新機能について紹介しよう。
一つは、「AI Debug Assistant」の導入である。組み込み開発の現場では、マルチコア環境のデバッグは熟練者でも数日〜数週間を要するケースがある。AI Debug Assistantは、こうしたデバッグ作業をAIエージェントが半自動化し、原因特定までの時間を大幅に短縮する。これは、AI時代の組み込み開発を見据えた、CodeFusion Studioの差別化機能である。具体的には、「GitHub Copilot」や「Claude Code」といったAIクライアントに対応したエージェント型デバッガーが搭載された。これを使えば、AIと外部データをつなぐプロトコル「Model Context Protocol (MCP)」を介して、AIモデルが自動的に障害の調査や、ハードウェアの状態検査、複数コアを使う処理の最適化などをリアルタイムに実行できる。
もう一つは「Package Manager」の導入である。これは、すべてのマイコンに対応するソフトウェア開発キット(SDK)やプラグインを最初に一括してダウンロードするのではなく、ターゲットとなるマイコンに必要な分だけインストールする機能である。さらにインストールしたプラグインやツールチェーンなどを、自動的に常に最新状態に保つことが可能になる。
アナログ・デバイセズは、お客様のシステム開発をハードウェアとソフトウェアの両面から一体で支えることを目指している。マイコンやアナログIC、センサー、電源といったデバイスの供給にとどまらず、CodeFusion Studioのような統合開発環境、Zephyr OSへの貢献、AIを活用した開発支援機能の整備までをアナログ・デバイセズが担うことで、開発現場が直面する課題の解決を後押していく。



