要約
このアプリケーションノートでは、アンプのノイズの一因となる主要なパラメータについて考察します。アンプの設計、特にバイポーラの選択、JFET入力、またはCMOS入力の設計がノイズにどのように影響するかについて説明します。また、データコンバータのバッファリング、歪みゲージ信号の増幅、マイクロフォン出力のプリアンプなどの、低周波アナログアプリケーションの低ノイズアンプの選択方法についても説明します。CMOS入力をベースにしたアンプであるMAX4475によって、より低周波の多くのアナログアプリケーションにこの新しいアンプ設計を使用することの利点を示しています。
低ノイズアンプの検討は通常、RF/ワイヤレスアプリケーションを暗に対象としています。しかし、ノイズは、データコンバータのバッファリング、歪みゲージ信号の増幅、マイクロフォン出力のプリアンプなど、低周波アナログアプリケーションにとっても最重要な検討事項です。適切なアンプを選択するためには、エンジニアは最初に特定のアプリケーションのノイズパラメータを把握し、その後アンプが本当に低ノイズかどうかを判断する必要があります。また、設計者は、ICの種類(すなわちバイポーラ、JFET入力、またはCMOS入力)がノイズパラメータにどのように影響するかを理解しておくことが不可欠です。
ノイズパラメータ
アンプのノイズ性能は多くのパラメータによって規定されていますが、2つの最も重要な要因は、電圧ノイズと電流ノイズです。電圧ノイズは、それ以外のノイズのないアンプの入力端で、入力を短絡した状態における電圧変動です。電流ノイズは、それ以外にノイズのないアンプの入力端で、入力を開放した状態における電流変動です。
アンプのノイズの標準的な性能指数として、スポットノイズとも呼ばれるノイズ密度があります。電圧ノイズ密度は、nV/
図1は、電圧ノイズ密度対周波数の標準的な曲線を示しています。ノイズ曲線は、2つの主なノイズ成分に依存しています。すなわちフリッカノイズとショットノイズです。フリッカノイズは、すべてのリニアデバイスに固有のランダムノイズで、1/fノイズとして知られています。その振幅は周波数に反比例します。フリッカノイズは通常、図1に示すように、200Hz未満の周波数における主なノイズ源です。1/fコーナー周波数とは、この周波数を超えるとノイズの振幅がほぼ平坦となり周波数に左右されなくなるような周波数です。ショットノイズは、順方向バイアスをかけたpnジャンクション間の電流変動によって生ずるホワイトノイズであり、この周波数範囲に存在します。電圧ノイズの1/fコーナー周波数が、電流ノイズの1/fコーナー周波数とは異なる場合があることに留意してください。
図1. 電圧ノイズ密度対周波数の標準的な曲線は、2つの主なノイズ成分に依存しています。フリッカノイズとショットノイズです。フリッカノイズすなわち1/fノイズは周波数に反比例し、通常、200Hz未満の周波数における主なノイズ源です。
アンプ回路の総ノイズは、アンプそのもの、外付け回路のインピーダンス、利得、回路の帯域幅、および周囲温度に依存します。回路の外付け抵抗器からの熱雑音も総ノイズ計算の一部になります。図2は、アンプとそれに付随するノイズ成分の例を示しています。
図2. アンプ回路のソースインピーダンスが1次ノイズの項を決定します。ソースインピーダンスが増大するにつれて、電流ノイズが優勢となります。
総ノイズの計算
所定の周波数における、入力換算したオペアンプの総ノイズを求める標準的な数式を以下に示します。
ここで、
Rn = 反転入力の有効直列抵抗
Rp = 非反転入力の有効直列抵抗
en = 対象の周波数における入力電圧ノイズ密度
in = 対象の周波数における入力電流ノイズ密度
T = 周囲温度(ケルビン:°K)
k = 1.38 x 10-23 J/°K(ボルツマン定数)
式1は、所定の周波数における、帯域幅の関数として表したノイズです。総ノイズを計算するには、et(nV/
上の例では、電圧ノイズと電流ノイズが帯域幅にわたって変動しない場合の総ノイズの計算方法を示しています(これは通常、電圧と電流ノイズの両方について、アンプ回路の帯域幅の下限がオペアンプの1/f周波数を超える場合に生じます)。電圧ノイズと電流ノイズが帯域幅上で変動する場合、総ノイズの計算はより複雑になります。
式1と図2を利用すれば、ノイズ寄与に対する回路のソースインピーダンスの影響を簡単に確認することができます。電圧ノイズは、低ソースインピーダンスシステムでのノイズの主要因となります。等価のソースインピーダンスが増大するにつれて、抵抗ノイズが主要な項となり、最終的には、アンプの電圧ノイズ寄与分は無視されます。ソースインピーダンスがさらに増大すると、電流ノイズが優勢となります。
ノイズ性能に対するアンプ設計の影響
ノイズ性能はアンプ設計の1つの目的です。低ノイズアンプの3つの一般的な設計は、バイポーラ、JFET入力、およびCMOS入力です。各設計によって低ノイズ性能が得られますが、その性能は同等ではありません。
バイポーラアンプ
バイポーラアンプは、昔からの最も一般的な低ノイズアンプです。MAX410などの低ノイズのバイポーラアンプは、比較的高入力の電流ノイズ密度(1.2pA/
バイポーラオペアンプによる低電圧ノイズを確保するため、IC設計者は入力段で大きなコレクタ電流を設定します。これは、電圧ノイズが入力段のコレクタ電流の平方根に反比例するためです。ただし、オペアンプの電流ノイズは、入力段のコレクタ電流の平方根に比例します。このため、良好なノイズ性能を達成するためには、外部のフィードバック抵抗とソース抵抗を最小限に抑える必要があります。入力バイアス電流は、入力段のコレクタ電流に比例することに留意してください。したがって、バイアス電流からのオフセット電圧を最小限にするためソース抵抗を最小限に抑えることが必要な場合があります。
等価ソース抵抗が200Ω未満のときには通常、バイポーラアンプの電圧ノイズが優勢になります。大きな入力バイアス電流は、比較的大きな電流ノイズと結合するため、バイポーラアンプは、低ソースインピーダンスのアプリケーションについてのみ最適になります。
JFET入力アンプ
最良のJFET入力低ノイズアンプは、超低入力電流ノイズ密度(0.5fA/
CMOS入力アンプ
CMOS入力段を備えた最新の低ノイズアンプ設計は、バイポーラ設計に匹敵する電圧ノイズ性能を実現します。CMOS入力アンプは、最良のJFET入力設計の電流ノイズ性能と同等以上の性能も実現しています。たとえばMAX4475は、単一電源で動作する場合、低入力電圧ノイズ密度(4.5nV/
図3. CMOS入力段を備えた低ノイズアンプは、入力バイアス電流が極めて低く、またオフセット電圧は極めて大きな入力インピーダンスと結合されています。このようなデバイスは、フォトダイオードのプリアンプなど、信号コンディショニングの高インピーダンスソースに最適です。
図4. 低ノイズ性能と低入力バイアス電流によって、CMOS入力アンプは、16ビットDAC出力のバッファに最適な選択肢となります。
結論
1つのアンプが常にすべてのアプリケーションに最適であるとは限りません。表1は、3つの一般的なアンプ設計の標準ノイズパラメータを一覧にしたものです。
INPUT STAGE | VOLTAGE NOISE | CURRENT NOISE | INPUT BIAS CURRENT | OVERALL PERFORMANCE | ||
Bipolar1 | 1.8nV/Hz | 1.2pA/Hz | 80nA | Good | ||
JFET | 10nV/Hz. | 0.5fA/Hz | >1pA | Better | ||
CMOS2 | 4.5nV/Hz | 0.5fA/Hz | 1pA | Best | ||
|
すべてのノイズソースを考慮した場合、MAX4475などのCMOS入力段を備えた最新アンプは、低周波アナログアプリケーションのノイズ性能と、ほぼすべてのフロントエンドアプリケーション(特にソースインピーダンスが大きくて帯域幅の広い回路)のノイズ性能に関して最適な妥協案となります。
この記事に類似した内容が、2004年8月号の『Electronic Products』に掲載されています。