ケーブル損失ソリューション

2009年05月01日
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要約

このアプリケーションノートはケーブル損失の補償方法を説明し、テスト装置メーカーにシステムの最大性能を損なうことなく、コストを節約しつつ大きな損失のケーブルの使用を可能にします。

はじめに

アプリケーションノート4303 「ケーブル損失の影響」は大きい損失のケーブルによる信号の悪化につながるメカニズムを論じています。存在する2つの主な損失成分は表皮効果と誘電体損失です。自動試験装置(ATE)を製造するメーカーなどは、全体のコストを抑えるために、システムに損失が大きいケーブルを多用します。これらのシステムが高速になるにつれて、ケーブルによる性能の低下が競争上の不利を生じます。幸いにも、これらのケーブル損失を電子回路を用いて補償する補償設計が可能です。

ケーブル損失に対する可能なソリューション

ケーブル損失の問題に対する1つのソリューションは、性能に対する悪影響が最小な、最良のケーブルを使用することです。可能な限り最良のケーブルの使用は軍用アプリケーションで使用されるような特別に高いコストのシステムに適しています。しかし、このソリューションには高いコストが付いてきます。また、ケーブルの大きさもシステムのケーブル数を制限し、優れたケーブルでも大きな損失を持つ可能性があります。

ケーブル損失に対する別のソリューションはケーブルを単に駆動するだけでなく、ケーブル損失の等化も行う電子回路を設計することです。これはケーブルを駆動する小型のピンエレクトロニクス(PE)ソリューションになっており、小型、低コスト、高損失のケーブルの使用を可能にしています。電子回路補償は、PCボードの配線、リレー、およびコネクタの補償も行います。さらに、電子回路補償はケーブルの損失に関わらず、PEの最大性能の近くまで、システムの動作を可能にします。

最終的なソリューションは前述のソリューションを組み合わせることによって得られます。しかし、PEのソリューションはもっとも実用的で、このアプリケーションノートの中で論じられています。

望ましくないケーブル損失に対する電子回路ソリューション

図1と図2はケーブル損失効果の説明を示しています。これらの損失は最終信号の波形のエッジを鈍らせるか、またはいわゆる「ドリブルアップ」を生成します。システムの有効な帯域幅を減少させるエッジのこの丸みがそうです。この帯域幅の減少はケーブルに起因し、PEに起因しません。システム性能を最大化するためには、この帯域幅の減少を回復する必要があります。

図1. ドライバのケーブル損失補正の概念的な説明。

図1. ドライバのケーブル損失補正の概念的な説明。

図2. コンパレータ経路のケーブル損失の補正。

図2. コンパレータ経路のケーブル損失の補正。

この「ドリブルアップ」効果を補正して、帯域幅を回復するためには、波形のエッジをドライバからじかに来る鋭くきれいな波形に戻す方法を見出さなければなりません。この補正はケーブルを駆動するPEの中で行う必要があります。図1は「波形整形」と呼ばれる特別な回路ブロックを示し、制御された量のオーバーシュートを追加してエッジを効果的に回復します。このエッジの回復は単純なオーバーシュート回路ではありません。単純な回路では望ましくないエッジ効果、振幅リップル、および印加されたオーバーシュート量に起因した新たなオーバーシュートが生じてしまいます。これらの望ましくない効果が周波数と振幅によって変わり、タイミングおよびスキュー誤差を生成します。

図2はさらに詳細にマキシムの製品が採用しているケーブル損失補正の方法を示しています。この方法は2つの時定数に基づいています。図1はケーブルを通し、被試験デバイス(DUT)を通るPE ICのドライバ経路における補正を示しています。図2はケーブルを通りPEのコンパレータに戻るDUTからの同様な補正を示しています。ドライバとコンパレータの両方の経路を補正する必要があります。

ケーブルドループ補正回路では信号に2つのピークの単一時定数の減衰信号を加えます。DOVSxの入力電圧が短期間のオーバーシュート電圧補正のピークレベルを制御し、DOVLxの入力電圧が長期間のオーバーシュート電圧補正のピークレベルを制御します。長期および短期の補償制御は、ともに10%のオーバーシュート補正量に制限されています。この2つのレベルはそれぞれ、独立した固定の減衰時定数を備えています。DOVSxの補償は公称減衰時定数が77ps、DOVLxの補償は1.5nsの公称減衰時定数を備えています。COVSxとCOVLxは図2に示すように、コンパレータ経路に対して同様な機能を果たします。

MAX9957デュアル2000MbpsドライバとMAX9955デュアル2000Mbpsコンパレータ/ターミネータは図1と図2に示すデュアルの時定数法を使用します。2つそれぞれの時定数は個別に調整されます。

MAX9979デュアル1100Mbpsドライバおよびレベル設定用較正DAC付きのPMUは1つの制御法を使用します(表1と図3を参照)。この方法はデュアル時定数法を使用しますが、2つの時定数を1つの3ビットDACで同時に制御します。

表1. MAX9979ケーブルドループ補償制御
Serial Interface Bits Droop Compensation (%)
CDRP2_ CDRP1_ CDRP0_
0 0 0 0.0
0 0 1 1.5
0 1 0 3.0
0 1 1 4.5
1 0 0 6.0
1 0 1 7.5
1 1 0 9.0
1 1 1 10.5

図3. MAX9979ケーブル補償。

図3. MAX9979ケーブル補償。

さまざまなケーブルに対するMAX9979の性能

MAX9979はドライバ/コンパレータ/負荷(DCL)、PMU、および全レベル設定能力を備えたデュアルチャネルPEです。このデバイスはチャネル当たりおよそ1.1Wを消費し、50Ω負荷で終端した3V波形に対して1Gbpsトグル速度の仕様になっています。

図4~図9は図3に似た性能比較試験の一部分として作られました。これらの図ではVDH = 3VおよびVDL = 0Vと設定したMAX9979を使用して、記載したケーブルを50Ωで終端して3Vの波形を駆動しました。

図4~図9は補償なしのケーブルに対するケーブル補償の優位性を非常に明確に示しています。図8と図9は高速テスタの実際の性能に近い結果になっており、トグル速度、またはシステムの帯域幅がほとんど50%小さくなることを明確に示しています。このような損失はすべてケーブルによって起こります。結果は図示したよりもさらに悪化する場合もあります。ATEではこのアプリケーションノートに記載したものよりも大きい損失のケーブルを使用するからです。さらに、ATEでは同じ信号経路にPCB配線、リレー、およびコネクタを備え、これらすべての損失が加算されます。マキシムのATE製品ラインのPEケーブル補償は信号経路のこれらのすべてを補償します。

図4. 補償の前と後のソリッドおよびセミリジッドSMAケーブルのトグル速度。

図4. 補償の前と後のソリッドおよびセミリジッドSMAケーブルのトグル速度。

図5. 補償の前と後のソリッドおよびセミリジッドSMAケーブルの立上り速度。

図5. 補償の前と後のソリッドおよびセミリジッドSMAケーブルの立上り速度。

図6. 補償の前と後のRG58Cケーブルのトグル速度。

図6. 補償の前と後のRG58Cケーブルのトグル速度。

図7. 補償の前と後のRG58Cケーブルの立上り速度。

図7. 補償の前と後のRG58Cケーブルの立上り速度。

図8. 補償の前と後のRG174ケーブルのトグル速度。

図8. 補償の前と後のRG174ケーブルのトグル速度。

図9. 補償の前と後のRG174ケーブルの立上り速度。

図9. 補償の前と後のRG174ケーブルの立上り速度。

さらに詳細に解析すると、図4~図9は特に無補償経路でのトグル速度の低下および増大した立上り時間の実際の問題を示しています。選択したケーブルの長さと品質に応じて、実際のアプリケーションではケーブルのみで50%以上のトグル速度の損失になる可能性があります。

注:

  1. ソリッドSMAケーブルの価格は、これらのベンチ試験を行った時点では$130/フィートでした。セミリジッドケーブルの価格は$30/フィートで、RG58およびRG174ケーブルでは$5/フィートでした。
  2. 高価なケーブルの性能は非常に優れており、36インチの長さまでも同様です。しかし、これらの高価なケーブルでも最高のトグル速度と小さい立上り時間を得るために補償を必要とします。
  3. 12インチ、および特に36インチのRG58ケーブルは補償された場合でも、トグル速度の低下および立上り時間の増加を示します。無補償のRG58ケーブルにはさらに大きな損失があります。
  4. 図8と図9には補償がない、長く、損失の大きいケーブルがテスタの性能を大きく低下させていることが示されています。これらのケーブルを補償すると、ドライバによって最大限可能な90%まで、帯域幅とトグル速度の損失を回復することができます。
  5. 1000Mbps以上の速度が可能なPEドライバを備えたシステムにケーブル補償がなければ、ケーブル、リレー、コネクタ、およびPCB配線によってその性能の最大50%が失われる恐れがあります。逆にケーブル補償を行ったPEを備えたシステムでは、PEの90%を超える性能を達成可能です。
  6. PEの補償は調整可能でなければなりません。単純なオーバーシュートを追加したPEはケーブル距離に対する補償が不可能で、周波数と振幅によって変化する可能性があるエッジおよび振幅リップル効果によるタイミングエラーを生成してしまいます。

図10と図11は6フィートと3フィートのRG174ケーブルの両方に対する実際の出力波形を示しています。図8と図9のデータはこれらの出力からじかに得られたものです。無補償の波形と共に、部分/完全補償、および1ビットの過補償波形の各出力が示されています。

図10. 6フィートのRG174ケーブルの出力波形。4つの図は無補償、部分補償、完全補償、および過補償の各波形です。(データは図8と図9を参照してください。)

図10. 6フィートのRG174ケーブルの出力波形。4つの図は無補償、部分補償、完全補償、および過補償の各波形です。(データは図8と図9を参照してください。)

図11. 3フィートのRG174ケーブルの出力波形。3つの図は無補償、完全補償、過補償の波形を示しています。(データは図8と図9を参照してください。)

図11. 3フィートのRG174ケーブルの出力波形。3つの図は無補償、完全補償、過補償の波形を示しています。(データは図8と図9を参照してください。)

上の各波形はPEケーブル補償の注意深い設計よって、波形エッジの完全な再生の維持、および振幅リップルの最小化も可能であることを示しています。この再現性によってトランジェントスキューがあらゆる周波数と振幅に対して正しく、最適に維持されることが保証されます。

ベンチ試験結果の要約

図4~図11は理論、議論/解析、およびラボラトリで行われた実証作業を補足しています。捕捉されたデータはATEシステムで通常使用されるよりも高品質のケーブルを示しています。明らかに、ケーブル補償が適切な場所になければ、システムはPEと同じレベルの性能で動作することができません。PEにケーブル補償を設計すると、ほとんど100%の最適な性能を回復し、かつPEで利用可能な最高速度近くを達成することができます。

ドライバにケーブル補償を備えると、低コスト、高損失ケーブルの使用が可能で、PEの全スループットを維持することができます。電子回路へのこの補償の組込みはピン当たりのコストを増加しますが、性能の優位性と低コストのケーブルが使えることから、全体として低コストになります。



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