ボーデ線図によってスイッチング電源の制御ループを評価する
主なポイント
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概要
スイッチング電源の回路を設計する際には、その制御ループの伝達関数を明確にする必要があります。そのために利用されるのがボーデ線図です。一般に、時間領域における回路の性能を確認するためには、負荷過渡応答のテストを実施します。しかし、その結果にはボーデ線図を利用することで得られる重要な情報が含まれていません。本稿では、まずその点について詳しく説明します。その上で、スイッチング電源を設計する際にボーデ線図を活用する方法について解説します。
はじめに
スイッチング電源を設計する際には、レギュレートされた出力電圧が安定して生成されるようにしなければなりません。その基本的な機能を評価するためには、様々な入力電圧や様々な負荷電流に対する出力電圧の値を測定します。それにより、出力電圧が許容範囲内にあるか否かを確認できます。言うまでもなく、そのような基本的な評価は重要です。しかし、それだけでは回路の性能の一部しか確認したことにはなりません。スイッチング電源を実際に使用する際には、入力電圧や負荷電流が変化するはずです。その場合にも、出力電圧は一定のレベルに維持されていなければなりません。図1は、降圧レギュレータ「LT8642S」の入力電圧と負荷に変化がある場合の様子を表したものです。
電源回路の動的な特性を評価するためには、入力電圧や負荷が様々に変化する場合の出力電圧を確認する必要があります。一般的には、負荷過渡応答のテストによって図2に示すような出力電圧の波形を取得します。赤色で示しているのが負荷電流、青色で示しているのが出力電圧です。この例では、時間が0マイクロ秒のタイミングで電源回路の負荷電流を1Aから7Aへと変化させています。1Aから7Aまでの遷移にかかる時間は500ナノ秒です。それを受けて、出力電圧は33.2mV低下しています。電源回路の制御ループの働きにより、出力電圧は約10マイクロ秒後に再び安定した状態に戻ります。また、図2に示したとおり、100マイクロ秒の時点で負荷電流を7Aから1Aへ変化させています。それに伴い、出力電圧には短時間にわたってオーバーシュートが現れます。具体的には、公称値よりも約31.4mV高い値まで出力電圧が上昇しています。
電源回路の制御ループについてこのような評価を実施すれば、同ループの挙動に関する多くの情報が得られます。しかし、通常はこの負荷過渡応答の評価だけでは不十分です。例えば、出力電圧の波形に影響を及ぼす主な要因は何なのでしょうか。負荷過渡応答を評価しただけでは、出力コンデンサの大きさが問題なのか、制御ループの伝達関数/応答速度が問題なのかを明確に示す情報は得られません(ちなみに、制御ループの応答速度が不十分な場合、出力コンデンサを追加することによってある程度補償できます)。
また、負荷過渡応答のテストでは、制御ループの安定性に関する明確な情報を得ることもできません。制御ループが極めて不安定だったとしても、図2に示したような測定結果が得られる可能性はあります。但し、そのような場合にはパラメータのわずかな変化によって回路が不安定な状態に陥ります。例えば、コンポーネントの値、温度、動作条件などが少し変化するだけで大きな影響を受ける可能性があります。回路が不安定な状態に陥ると、出力電圧はもはや一定の値には維持されません。恐らく、大きな振幅を伴う発振が生じることになるでしょう。
一方で、図2の電圧波形は、安定性の面で大きなマージンを持つ電源回路で得られたものである可能性もあります。その場合、上記のようなわずかな変化が生じても、回路が発振することはありません。
図3は、図1に示した電源回路の実測によって取得したボーデ線図です。これを利用すれば、ゲインを表す赤色の曲線が0dBのラインと交差する点に基づいて制御ループの応答速度を確認できます。このクロスオーバー周波数が高いほど、制御ループは高速に応答するということになります。通常は、スイッチング周波数の1/10~1/5の範囲内にクロスオーバー周波数が収まるようにすることを目標にします。図3の例の場合、クロスオーバー周波数の値は約100kHzです。この周波数だけでなく、DCゲイン(低い周波数におけるゲイン)も制御ループの応答速度に影響を与えます。DCゲインが高いほど、制御ループはより速く応答します。
また、ボーデ線図からは安定性の面でどの程度のマージンが確保されているのかを表す情報も得られます。クロスオーバー周波数における位相(青色の曲線)に注目すると、位相余裕(位相のオフセット)の値を読み取ることができます。図3の例における位相余裕は約59° です。一般に、位相余裕が45° よりも大きければ、その電源回路は安定していると見なされます。
まとめ
ボーデ線図は、制御ループに関する重要な情報を提供します。まず、制御ループの応答速度を確認し、他の電源回路と比較したりすることができます。また、位相余裕の値を読み取れば、電源回路の安定性を確認することが可能です。負荷過渡応答のテストでは、これらの貴重な情報を直接得ることはできません。