デザイン・ノートDN558:はじめに
双方向昇降圧DC/DCレギュレータLTC3110は、バス電圧(例えば3.3V)が供給されているときはスーパーキャパシタを充電してバランスを調整し、バスに障害が発生した場合はスーパーキャパシタに蓄えられたエネルギーを負荷に放電します。LTC3110は、スーパーキャパシタの電圧がバスの公称電圧(図1の場合は3.3V)よりも高い場合でも低い場合でも、バスの公称レベルを維持します。このように負荷を支えることにより、停電時にデータのバックアップや保持が可能になります。このことは、幅広い産業用アプリケーションおよび車載用アプリケーションにとって重要なことです。
薄型のデータ・バックアップ電源
産業用および車載用アプリケーションには、安定した高品質の電圧源がないという特徴があります。車載環境では、低温始動時や負荷遮断時に、12Vの公称電圧レールが4Vから40Vを超えるまで変化することがあります。また工場で使用される24V機器のバスは、電動機やソレノイドの電源を入れ直すだけで、電圧スパイクやAC電源電圧低下に見舞われます。
ところが、産業用アプリケーションは、民生電子機器と同様に、携帯性と移動性が高まる傾向にあります。最新の産業用機器において、内部の電子機器用スペースは制限される一方です。産業用の組み立て品やモジュールでは、データ記憶装置の容積、特に厚さが限られています。このような点を考慮して、ここに示すソリューションは、選択された部品の高さを最小限に抑えることを目的としています。表1では、2種類の受動部品群オプションを厚さ(1mmおよび2.5mm)別に示しています。コントローラ、MOSFET、抵抗といった必要な半導体部品は、厚さが1mmを超えないため、表には記載されていません。
図2に示すのは、薄型のエネルギー蓄積ソリューションです。4V~40Vという極めて広い範囲で入力電圧が変化し、しかも入力電圧が遮断される可能性がある状況で、データ・バックアップやワイヤレス・データ伝送を行うことを目的としています。
このソリューションでは、2つのコンバータを使用して1つの完全な産業用/車載用アプリケーションを構成しています。このコンバータは、LTC3110スーパーキャパシタ・チャージャ(SCCH)をベースとしており、入力電圧の供給時は蓄積キャパシタを充電し、停電時には安定したシステム出力を供給します。通常の動作状態、つまり4V~40Vの入力電源が供給されている場合、敏感な電子機器負荷とLTC3110は、LT8608をベースとする降圧コンバータ(SDC)によって支えられます。
LT8608は、低静止電流、高効率、高集積の同期整流式降圧コンバータで、3V
~42Vの広い入力電圧範囲を特長としています。上限が42Vなので、システム保護回路に必要な容積が最小限に抑えられ、従来のトランジェント電圧サプレッサ(TVS)は実質的に不要になります。SDCは、システムの電圧を3.3Vバス・レールの制限範囲内に維持します。
入力電圧が遮断されると、SCCHが取って代わり、安定した3.3Vレールに電力を供給します。LT8608は、通常の動作環境では3.5Vをシステム・バスに供給します。一方LTC3110は、電源障害を検出すると3.2Vを供給して、負荷を支えます。これらの電源電圧は、3.3Vロジック電源の推奨制限範囲内に十分入っています。CHRGフラグを使用してデジタル・システムにアラートを送信し、重要でない負荷を切断して、データ・バックアップまたはワイヤレス・データ伝送を開始することができます。
切り替えの過程を図3に示します。入力電圧が遮断されると、SDCはオフしますが、SCCHはオンします。
まとめ
LTC3110は、高集積の高性能スーパーキャパシタ・チャージャおよびバランサであり、車載用および産業用アプリケーションでのデータの保持とバックアップを目的とする薄型ソリューションに実装することができます。
高さ | L1 | L2 | CS1 | CIN1 |
メーカー | Wurth Elektronik | Wurth Elektronik | CAP | TDK |
1mm | 74437321022 | 74437321056 | 2 = HS103F | 2 = C3216JB1H475K085AB |
2.5mm | 74437334022 | 74437334056 | HS206F | C3225X7R2A225K230AB |