要約
このアプリケーションノートでは、MAX11046などの同時サンプリングADCが高度な電力線監視にどのように使用されるかを説明しています。また、サンプリングによるAC電力測定の基礎について説明しています。標準的なパワーグリッド監視アプリケーションを示し、国際規格が監視システムの要求にどのように影響するかも説明しています。このアプリケーションノートでは電力線監視用のMAX11046の優れた特長とアプリケーション例を要約しています。
はじめに
電力品質システムはリアルタイムで監視し、電力設備からの多相電力供給において各3相の電圧と電流を記録します。このような監視制御とデータ収集(SCADA)システムは、また中性線の電圧と電流も同様に監視し、不均衡な負荷または高調波を検出します。さらに電力メーターシステムは、電力効率を求めるために各3相の実効値(RMS)電圧と電流を測定します。
高度な電力線監視システムは、電力品質、監視保護、およびメーター機能を一つのシステムに一体化しています。これらのシステムは、電力会社と顧客に対して、予知保全、電力効率とコストの管理、制御品質、および設備の保護を提供します。今では、これら全てが効率的に実施されています。
測定システムの構成
図1は、瞬間電力と平均電力使用量のためのサンプリング計算による、基本的なAC電力測定を示しています。図2は一般的なパワーグリッド監視アプリケーションを示しています。図2に示された3相電源設計は、位相が各相で互いに120° (サイクルの1/3)ずれた3つの電圧を示しています。中性線と呼ばれる4つめの線は、不均衡な負荷に適用するために使用されます。3相の各相での負荷が同じであればシステムは均衡しており、中性線への電流の流れはありません。
このタイプの3相電力システムは、全世界で標準となっています。これは、Y接続と呼ばれており、位相ベクトル図での形が似ているからです。各電力位相ベクトルの測定は、電流トランス(CT)と電圧トランス(PT)によって示されています。完全なシステムは、このような4つのペア(3相の各相に一つのペアと中性線)から構成されます。
図2に示したようにMAX11044/MAX11045/MAX11046は3相と中性の電圧・電流を同時に測定します。サンプリングされディジタル変換されたデータをディジタル処理によって計算することで、有効、無効、皮相電力、および力率のパラメータが算出されます。周波数と高調波歪みの計測は、サンプルデータを高速フーリエ変換(FFT)することで得られます。
供給電力の測定特性は、国際規格またはローカル規格に適合する必要があります。国際規格の例としては、欧州連合(EU)規格のEN 50160があります。表1はEN 50160規格のまとめになります。
供給電圧の現象 | 許容範囲 | 測定間隔 | 監視間隔(週) | 許容範囲の比率(%) |
系統周波数 | 49.5Hz~50.5Hz、47Hz~52Hz | 10s | 1 | 95, 100 |
低速電圧変化 | 230V ±10% | 10min | 1 | 95 |
電圧サグまたは低下(1分以下) | 10~1000回/年(公称の85%以下 | 10ms | 1年 | 100 |
瞬断(3分以下) | 10~100回/年(公称の1%以下) | 10ms | 1年 | 100 |
障害、長期遮断(3分以上) | 10~50回/年(公称の1%以下) | 10ms | 1年 | 100 |
一時的な過電圧(ラインとグランド間) | 主に1.5kV以下 | 10ms | – | 100 |
過渡的な過電圧(ラインとグランド間) | 主に6kV以下 | – | – | 100 |
電圧不均衡 | 主に2%、または3% | 10min | 1 | 95 |
高調波電圧 | 8%全高調波歪み(THD) | 10min | 1 | 95 |
別のEU規格のIEC 62053は、電力メーター装置の精度を義務付けています。メーターで4つのclass (class 2、class 1、class 0.5、およびclass 0.2)を定めています。(例として、class 0.2ではメーター精度を公称電圧と電流の0.2%としています)。力率精度測定では、位相マッチングは0.1%以下になります。
高調波電圧では、EN 50160は50Hz/60Hzの25次高調波まで義務付けしています。しかしながら、蛍光灯やスイッチング電源などの様々な「非線形」の負荷の伝播測定では、50Hz/60Hzの電圧の127次高調波までとしています。
IEC 61850のような新しい基準では、ACサイクル当たり256回以上のサンプリングでパワーシステムの過渡的現象を保存することを推奨しています。
ADCへの基本的なシステム要求
EN 50160、IEC 62053、およびIEC 61850などの規格では、電力システム監視とメーターで使われている最新式の多チャネルADCシステムの最低精度とサンプルレートの両方を規定しています。
電力監視装置は、瞬間的な電流と電圧値を、60Hz x 256回または15360sps以上のサンプルレートで測定しなければなりません。それ以上に電力監視は、IEC 62053規格要件に充分に適合するために電力を精度良く測定する能力を備える必要があります。
電圧測定でのADCのダイナミックレンジは、監視する最大電圧と公称電圧から、および電力測定での要求精度から計算されます(表1とIEC 62053のコメント参照)。例えば、設計が公称220Vの測定でclass 0.2 (0.2%)精度の要求を満たす条件下で、1.5kV (1500V)の一時的な過電圧(障害条件として)を測定する場合には、電圧測定のサブシステムが必要とする全ダイナミックレンジは以下のようになります。
20log ((1500/220) × 2000)) = 83dB
注:全ての計算では、要求規格精度の0.2%を大幅に下回っていますが、所望の精度を0.05%と仮定しています。
また、電流検出要求もADC要件に影響します。電力監視の設計要求が公称10A、最大100Aで、class 0.2 (0.2%)の場合には、電流測定サブシステムが必要とする全ダイナミックレンジは以下のようになります。
20log ((100/10) × 2000)) = 86dB
上に示した例では、明らかにADCでの特性要求が高められたことを示しています。サンプリングレート16kspsで分解能が16ビット、またはそれ以上の特性が必須条件になります。3相と中性Yシステムでの電流と電圧の測定を高精度で確実に行うためには、ADCは8チャネル(電圧4ch、電流4ch)を同時にサンプリングする能力を持ち、そして86dB以上の優れたSNR特性を持つ必要があります。
MAX11046 ADCでの電力線監視能力
MAX11046は8つの同時サンプリング、低電力、16ビット、250kspsの逐次比較ADCで、シングルパッケージで提供されています。この製品は、電力システムの監視と測定アプリケーションに最も適しています。
- +5Vの単一電源で±5V入力電圧範囲
- MAX11046ファミリは高入力インピーダンス、そして入力クランプによる内部保護を備えることで、低出力インピーダンスのセンサ、例えばCTやPTの計測トランスに直接接続することが可能です。外部バッファは不要です。
- 同時サンプリングにより、各相での電圧と電流間での高精度な位相測定を可能にします。
図3はMAX11046の優れた特長を示しています。
図4はMAX11046の評価(EV)キットに電力監視用トランスを接続して作成したアプリケーション例を示しています。回路図では、電力線用トランスとMAX11046間での簡略なスペースおよびコスト効率の良いインタフェースを示しています。
左側のオシロスコープのプロットは、小型蛍光灯でCT (電流)とPT (電圧)トランスを介して測定した電流と電圧になります。この構成は、負荷と実験例として使用されました。右側に示したソフトウエアのプロットは、CTとPTで収集されディジタル化された後の再生信号になります。
結論
世界的に電力需要が高まることで電力供給インフラへの投資が加速しています。これらの新しい電力供給システムでの重要な要素は、多チャネルの監視制御とデータ収集(SCADA)システムになり、その中には自動電力供給監視のためのディジタルリレーと、障害検出と保護が含まれています。SCADAシステムでは多チャネルの高分解能のADC、例えばMAX11046が必要になります。
MAX11046は最も効率的な16ビット、8チャネルの同時サンプリングを提供し、実装面積が8mm x 8mmになります。この製品はハイインピーダンス入力構成のため、外部バッファを削除することでできます。このデバイスは、3相電力監視および測定システムに最適化されており、コストと基板面積を削減して性能の向上が必要となる高密度設計に最適な選択になります。