低電圧のアプリケーションに大電力を供給可能なモノリシック型の2相昇圧コンバータ

2025年11月14日

Figure 1

   

概要

本稿では、低電圧/大電力のアプリケーション向けに設計された昇圧コンバータ製品を紹介します。その製品はモノリシック型のICであり、2相動作によって単一の出力を供給します。本稿では、同ICが備える様々な機能について詳しく説明します。それらを使用すれば、性能と汎用性を高められます。

はじめに

モノリシック型の昇圧コンバータを使用すれば、コンパクトなサイズで低い入力電圧を高い出力電圧に変換することができます。しかし、より多くの出力電力が求められる場合には、電流量が増加し、発熱の問題も生じやすくなります。昇圧コンバータが内蔵するスイッチの性能が制約となり、出力電力の要件を達成するのが困難になるケースも少なくないでしょう。そのようなアプリケーションに対しては、2相昇圧コンバータがより適しています。

その種のコンバータは、2相インターリーブのスイッチング動作を実行します。そのため、スイッチングに伴う電流リップルが実質的に1/2になります。これは、より小さいコンデンサとインダクタを使用できるということを意味します。更に熱性能も向上します。

本稿では、モノリシック型の2相昇圧コンバータとして「LT8349」を紹介します。この製品は同期整流方式を採用しており、逆位相でスイッチングする2つのパワー・スイッチ段(NチャンネルのMOSFET)を内蔵しています。両MOSFETの定格は8V/6Aです。300kHz~4MHzの範囲で設定した固定スイッチング周波数で動作しますが、外部クロックに同期させることもできます。また、同期整流方式を採用していることから、広範な負荷に対して効率を高められます。つまり、電力損失と放熱を抑えられます。更に、Stage Shedding動作とオプションのBurstMode®動作により、軽負荷時の効率も向上します。

多くのアプリケーションでは、電磁干渉(EMI:Eectromagnetic Interference)の原因になるエミッションを低く抑えることが求められるはずです。その場合、ノイズを最小限に抑えるためのオプションの機能として、スペクトラム拡散周波数変調(SSFM:Spread Spectrum Frequency Modulation)を利用できます。

LT8349の入力電圧範囲は2.5V~5.5Vです。そのため、バッテリ駆動のアプリケーションに適しています。出力電圧は最大8Vまでの値に設定可能です。パッケージとしては1.9mm×2.6mmの小型WLCSPを採用しています。このことから、あらゆる設計においてフットプリントを最小限に抑えられます。

2相動作の概要

LT8349は、固定周波数の電流モード制御方式を採用しています。そのため、優れたライン・レギュレーションと負荷レギュレーションを実現できます。また、同ICが採用している2相のアーキテクチャでは2つのインダクタを使用します。同ICは、互いに180°位相がずれたスイッチング動作を実行し、2つの相で出力電流を均等に負担します。それにより、インダクタのピーク電流が大幅に低減され、出力リップルも小さく抑えられます。インダクタのピーク電流は以下の式で決まります。

数式 1

ここで、IOUTは平均負荷電流、DはPWM動作のデューティ・サイクル、ΔILはインダクタのリップル電流です。

6V/5Aの出力に対応する高性能の電源

図1に示すのは、LT8349を使用して2.5V~4.5Vの入力電圧を6Vに昇圧するアプリケーション回路の例です。入力電圧が4.5Vで、RTピンに54.9kΩの抵抗を接続してスイッチング周波数を2MHzに設定した場合、最大5Aの負荷電流を供給することができます。

図1. 入力電圧が2.5V~4.5V、出力電圧が6Vの昇圧コンバータ回路
図1. 入力電圧が2.5V~4.5V、出力電圧が6Vの昇圧コンバータ回路

Stage Shedding動作

LT8349は、負荷が重い場合には2相昇圧コンバータとして動作します。ただ、負荷電流が減ると、各相のインダクタのピーク電流も減少します。そして、ピーク電流がシェディング閾値ISHED,DUAL(約1.7A)まで減少したら、LT8349はStage Shedding動作に移行します。その結果、LT8349は2相ではなく単相昇圧コンバータとして動作します。この動作モードでは第2相がオフになります。そして、第1相のインダクタでは、ピーク電流の制限値が以下の式で与えられるISHED, SINGLEまで増大します。

数式 2

負荷が更に軽くなる場合、自己消費電流IQが少なく出力リップルが小さいBurst Modeまたは固定周波数の強制連続モード(FCM:Forced Continuous Mode)でLT8349が動作するように設定できます。その設定には同ICのSYNC/MODEピンを使用します。ここで図2をご覧ください。これは、Burst Mode動作、FCM動作のそれぞれを選択した場合のStage Shedding動作の詳細(各相のインダクタ電流の挙動)を表したものです。

SYNC/MODEピンをシグナル・グラウンド(SGND)に接続した場合、LT8349はBurst Modeで動作します。このモードでは、スイッチング周波数を低下させつつ出力電圧のレギュレーションを維持します。このとき、同ICは、ピーク電流の値IBURSTをISETピンによって設定した状態で単一のパルスを出力します。そして、その直後にスリープ期間に移行するという動作を繰り返します。出力に負荷がない場合の自己消費電流はわずか15μAに抑えられます。

SYNC/MODEピンを開放の状態にすると、LT8349は負荷が軽い場合にFCMで動作するようになります。このモードでは、インダクタの電流が負の値をとることができます。そのため、同ICは負荷の全範囲にわたって設定された周波数でスイッチングすることが可能になります。結果として、スイッチングに伴う高調波とEMIが安定します。つまり、それらが発生する周波数を予測できる状態になるということです。但し、このモードには軽負荷時の効率が低下するという欠点があります。図3は、Burst Mode動作、FCM動作における効率/電力損失を比較したものです。

図2. Burst Mode動作、FCM動作のそれぞれを選択した場合のStage Shedding動作。負荷電流の量が多い状態から、非常に少ない状態に移行する場合の動作を示しています。
図2. Burst Mode動作、FCM動作のそれぞれを選択した場合のStage Shedding動作。負荷電流の量が多い状態から、非常に少ない状態に移行する場合の動作を示しています。

図3. Burst Mode動作、FCM動作における効率と電力損失
図3. Burst Mode動作、FCM動作における効率と電力損失

SSFMの効果

アプリケーションによっては、エミッション(EMI)の抑制が重要な要件になるはずです。この要件に対応できるよう、LT8349はノイズを更に低減するための追加機能を備えています。それが先ほど触れたSSFMです。SSFMの設定にもSYNC/MODEピンを使用しますが、SSFMはBurst Mode動作、FCM動作と併用することが可能です。LT8349の内部発振器の周波数は、RTピンに接続した外付け抵抗の値で設定できます。SYNC/MODEピンによってSSFMを使用するように設定すると、RTピンで設定した周波数の値と、それより約25%高い値の間で内部発振器の周波数が変化します。図4、図5は、SSFMの効果を示す伝導EMIと放射EMIの測定結果です。ご覧のように、CISPR 32のクラスBで定められた値を満たしていることがわかります。

図4. 伝導EMIの測定結果。CISPR 32のクラスBで定められた規格値を満たしています。
図4. 伝導EMIの測定結果。CISPR 32のクラスBで定められた規格値を満たしています。

図5. 放射EMIの測定結果。CISPR 32のクラスBで定められた規格値を満たしています。
図5. 放射EMIの測定結果。CISPR 32のクラスBで定められた規格値を満たしています。

まとめ

LT8349は、従来の単相昇圧コンバータにはないいくつもの長所を備えています。2相のアーキテクチャと同期整流方式を採用しているので、より多くの出力電力を供給しつつ、効率の向上、電力損失の削減、熱性能の向上を実現可能です。しかも、2つのインダクタが必要になるにもかかわらず、フットプリントを小さく抑えられます。また、Stage Shedding動作とBurst Mode動作を利用すれば軽負荷時の効率が更に向上します。加えて、オプションのSSFMを使用すれば、EMI性能の向上も図れます。更に、LT8349は出力のソフト・スタート機能や過電圧ロックアウト機能なども備えています。そのため、同ICの下流の部品を過度に高い電圧から保護することが可能です。このように、LT8349は多くの便利な機能を備えています。そのため、ハンドヘルド電源や産業用電源などのアプリケーションにとって最適な選択肢となります。

著者について

Michael Wu
Michael Wuは、アナログ・デバイセズのプロダクト・アプリケーション担当スタッフ・エンジニアです。高性能電源(HPP)グループで、降圧/昇圧/昇降圧トポロジに対応するモノリシック型製品を担当しています。カリフォルニア州立工科大学(サン・ルイス・オビスポ)で電気工学の学士号と修士号を取得しました。
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