光アイソレータ不要の100Vマイクロパワー絶縁型 フライバック・コンバータ(5ピンTSOT-23)

光アイソレータ不要の100Vマイクロパワー絶縁型 フライバック・コンバータ(5ピンTSOT-23)

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Min Chen

非同期のフライバック方式は、絶縁型電源では1W未満から数十Wまでの電力レベルにわたって広く使用されています。リニアテクノロジーの光アイソレータ不要の絶縁型フライバック・ファミリは、出力のレギュレーションのためにオプトカプラーおよびトランスの3次巻線を必要としない独自の1次側検出により、絶縁型電源の設計を大幅に簡素化します。このファミリの最初のマイクロパワー・デバイスである新しいLT8300は、軽負荷での効率が大幅に向上し、無負荷時の入力スタンバイ電流が約200µAまで減少しています。

LT8300は6V~100Vの入力電圧範囲で動作し、最大2Wの絶縁された出力電力を供給します。150Vの内蔵DMOSパワー・スイッチにより、ほとんどのアプリケーションではスナバ回路が必要ありません。絶縁された出力電圧を1次側フライバック波形から直接サンプリングすることにより、LT8300では、レギュレーションのためにオプトカプラーとトランスの3次巻線を必要としません。出力電圧は1本の外付け抵抗で設定します。

内部のループ補償回路とソフトスタート回路により、外付けの部品点数がさらに削減されます。 重負荷でのバウンダリーモード動作により、小型の磁気部品を使用できるので、優れた負荷レギュレーション特性を実現できます。リップルの小さいBurst Mode動作により、軽負荷時に高い効率を維持できると同時に、出力電圧リップルを最小限に抑えることができます。これらすべての機能は、IPC-2221の要件に適合する高電圧対応のピン間隔を備えた5ピンTSOT-23パッケージ(図1)に収められます。

図1.LT8300は、4ピンと5ピンの間が高電圧対応のピン間隔になっている5ピンTSOT-23パッケージで供給されます。

図1.LT8300は、4ピンと5ピンの間が高電圧対応のピン間隔になっている5ピンTSOT-23パッケージで供給されます。

性能と簡素性

図2に示すように、完全な絶縁型フライバック・ソリューションが1×½インチより小さい領域に収まっています。36V~72Vの入力から絶縁された5Vの出力を発生するLT8300の標準的なアプリケーションを図3に示します。このソリューションが必要とするのは、5つの外付け部品(入力コンデンサ、出力コンデンサ、トランス、帰還抵抗、出力ダイオード)と2つの低電圧ロックアウト用抵抗(オプション)だけです。

図2.LT8300絶縁型フライバック・ コンバータのソリューション・サイズは、 標準のデモ基板DC1825A内で1インチ ×½ インチを下回ります。

図2.LT8300絶縁型フライバック・コンバータのソリューション・サイズは、標準のデモ基板DC1825A内で1インチ×½インチを下回ります。

図3.入力が36V~72Vで出力が 5V/300mAのマイクロパワー絶縁型 フライバック・コンバータ

図3.入力が36V~72Vで出力が5V/300mAのマイクロパワー絶縁型フライバック・コンバータ

LT8300を使用すると、絶縁型のフライバック・コンバータの設計が簡単になりますが、同時に優れた性能を発揮する回路を実現できます。図3の5Vアプリケーションでの電力効率(ピーク値:85%)を図4に示します。図3の5Vアプリケーションでの負荷レギュレーションおよび入力レギュレーション(±0.5%)を図5に示します。50mAから250mAまでの負荷ステップが生じた場合のトランジェント波形と、1mAの抵抗性負荷がある場合の起動波形をそれぞれ図6および図7に示します。

図4.図3の5Vアプリケーションの電力効率

図4.図3の5Vアプリケーションの電力効率

図5.図3の5Vアプリケーションでの出力負荷レギュレーション および入力レギュレーション

図5.図3の5Vアプリケーションでの出力負荷レギュレーションおよび入力レギュレーション

図6.図3の5Vアプリケーションで50mAから250mAまでの 負荷ステップが生じた場合のトランジェント波形

図6.図3の5Vアプリケーションで50mAから250mAまでの負荷ステップが生じた場合のトランジェント波形

図7.図3の5Vアプリケーションで1mAの抵抗性負荷がある 場合の起動波形

図7.図3の5Vアプリケーションで1mAの抵抗性負荷がある場合の起動波形

ポスト・レギュレータによる出力電圧の温度による ばらつきの解消

LT8300の標準的なアプリケーションでの出力電圧は、次式で表すことができます。

数式1

VOUTの式の最初の項には温度依存性はありませんが、出力ダイオードの順方向電圧VFには大きな負の温度係数(–1mV/°C~–2mV/°C)があります。こうした負の温度係数により、温度範囲全体では出力電圧のばらつきが約200mV~300mV発生します。

比較的高い出力電圧(たとえば12Vや24V)の場合は、出力電圧レギュレーションに対する出力ダイオードの温度係数の影響を無視できます。 しかし、3.3Vや5Vなど低めの電圧出力では、 出力ダイオードの温度係数により、出力電圧レギュレーションに対して2%~5%の変動が加わります。

温度範囲全体にわたって厳しい出力電圧レギュレーションが要求される設計では、マイクロパワーの低ドロップアウト・リニア・レギュレータを追加してLT8300出力の後段を安定化することができます。LT8300は、レギュレーション電圧とLDOのドロップアウト電圧の合計よりもわずかに高い値に設定する必要があります。 

LT3009-3.3ポスト・レギュレータと組み合わせて、18V~32Vの入力から3.3V/20mAの絶縁型出力を発生するLT8300を図8に示します。無負荷時の入力スタンバイ電流は、図9に示すように250µA未満ですが、これはDEF-STAN61-5に準拠しています。

図8.入力が18V~32Vで出力が3.3V/20mAのDEF-STAN61-5に準拠したマイクロパワー絶縁型コンバータ

図8.入力が18V~32Vで出力が3.3V/20mAのDEF-STAN61-5に準拠したマイクロパワー絶縁型コンバータ

図9.図8の3.3Vアプリケーションの無負荷時入力スタンバイ 電流

図9.図8の3.3Vアプリケーションの無負荷時入力スタンバイ電流

さまざまな入力参照電源

絶縁型電源の他に、LT8300はさまざまな非絶 縁型アプリケーションで使用できます。興味深い2つのアプリケーションは、特殊なゲート・ドライバによく使用される入力参照型の正電源および負電源です。入力がVINで出力が(VIN+10V)の簡単なマイクロパワー・コンバータを図10に、入力がVINで出力が(VIN – 10V)のマイクロパワー・コンバータを図11に示します。これらのコンバータでは、両方ともLT8300固有の帰還検出方式を使用して、VINに追従する出力電圧を簡単に発生させています。

図10.入力がVINで出力が(VIN + 10V)のマイクロパワー・ コンバータ

図10.入力がVINで出力が(VIN + 10V)のマイクロパワー・コンバータ

図11.入力がVINで出力が(VIN – 10V)のマイクロパワー・ コンバータ

図11.入力がVINで出力が(VIN – 10V)のマイクロパワー・コンバータ

まとめ

LT8300では、従来の方式と比較した場合、絶縁型フライバック・コンバータの設計が大幅に簡素化され、軽負荷時の効率が向上し、無負荷時の入力スタンバイ電流が減少しています。高水準の集積化と、バウンダリーモードおよび低リップルのバースト・モードの使用により、絶縁型電源ならびに各種の特殊な非絶縁型電源向けに、使い方が簡単で部品点数が少なく、高効率のソリューションが得られます。