概要

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設計/統合ファイル

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  • Assembly Drawing
CN0510 Design & Support Files

評価用ボード

型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。

  • EVAL-AD5941BATZ ($176.55) Electrochemical Impedance Spectroscopy Board
  • EVAL-ADICUP3029 ($52.97) Ultralow Power Arduino From Factor Development Board
在庫確認と購入

デバイス・ドライバ

コンポーネントのデジタル・インターフェースとを介して通信するために使用されるCコードやFPGAコードなどのソフトウェアです。

AD5940 GitHub no-OS Driver Source Code

AD594x Source Code

機能と利点

  • リチウムイオン・バッテリのテスト用に設計
  • ミリヘルツ~キロヘルツの周波数掃引
  • Arduino Shield互換

回路機能とその特長

図1に示す回路は、リチウムイオン(Li-Ion)やその他の種類のバッテリの特性を評価するための電気化学インピーダンス分光法(EIS)測定システムです。EISは、電気化学システム内で生じるプロセスを調べるために使用される安全な摂動手法です。このシステムは、ある周波数範囲でバッテリ・セルのインピーダンスを測定します。このデータにより、バッテリの健全性(SOH)および充電状態(SOC)を判別できます。このシステムは、超低消費電力のアナログ・フロント・エンド(AFE)を使用して、バッテリの電流、電圧、またはインピーダンス応答を励起および測定するように設計されています。

バッテリの経年劣化により、性能が低下し、化学的特性は不可逆的に変化します。インピーダンスは容量の低下に比例して増加します。EISを使用してバッテリのインピーダンスの増加をモニタすると、SOHやバッテリ交換の必要性を判断でき、システムのダウンタイムとメンテナンス・コストを共に削減できます。

バッテリには電圧ではなく電流の励起が必要で、インピーダンス値はミリオームの範囲内です。このシステムには、バッテリに電流を注入するのに必要な回路が搭載されており、バッテリにおける低インピーダンスのキャリブレーションと検出が可能です。

図1. 簡略化した回路ブロック図

回路説明

バッテリのEIS理論

バッテリは非線形システムです。したがって、システムが擬似線形に動作するよう、セルにおけるI-V曲線の小サンプルを検査します。擬似線形システムでは、サイン波入力は、周波数が正確に同じで位相と振幅がシフトしたサイン波出力を生成します。EISでは、AC励起信号をバッテリに印加してデータを取得します。

EISからの情報は、ナイキスト線図で表されることが多いのですが、ボード線図を使用して表示することもできます(この回路ノートでは、最も一般的な方法にのみ焦点を当てています)。ナイキスト線図では、インピーダンスの負の虚数成分(y軸)がインピーダンスの実数成分(x軸)に対してプロットされます。ナイキスト線図の異なる領域が、バッテリで発生する様々な化学的および物理的プロセスに対応しています(図2を参照)。

図2. 異なる領域が電気化学プロセスに対応していることを示すバッテリのナイキスト線図

 

これらのプロセスは、抵抗、コンデンサ、および文字W で表されるWarburg 抵抗と呼ばれるコンポーネントを使用してモデル化されます(詳細については、等価回路モデル(ECM)のセクションを参照)。Warburg 拡散抵抗を表す単純な電子部品はありません。


等価回路モデル(ECM)

等価回路モデル(ECM)は、単純な電子回路(抵抗とコンデンサ)を使用して電気化学プロセスを模倣します。このモデルでは、単純な回路を使用して複雑なプロセスを表し、分析を支援し、計算を簡素化します。これらのモデルは、テスト対象のバッテリから収集されたデータに基づくもので、バッテリのナイキスト線図の特性評価後にECMを作成できます。ほとんどの商用EIS ソフトウェアには、特定のバッテリによって生成されるナイキスト線図の形状をより厳密に近似するために、特定かつ一意の等価回路モデルを作成するオプションが含まれています。バッテリ・モデルの作成時にバッテリの化学的特性を表す一般的なパラメータは4 つあります。


電解(オーミック)抵抗—RS


RS の特性は以下のとおりです。

  • バッテリ内の電解質の抵抗に相当
  • テスト実施時に使用される電極とワイヤの長さの影響を受ける
  • バッテリが古くなると増加する
  • 周波数が1kHz を超えると支配的になる


二重層静電容量—CDL


CDLの特性は以下のとおりです。

  • 電極と電解質の間に生じる
  • 電極を囲む2 つの平行な層の対向電荷で構成される
  • 1Hz~1kHz の周波数範囲で支配的になる


電荷移動抵抗—RCT


  • 抵抗は、ある相から別の相、つまり固体(電極)から液体(電解質)に電子を移動する際に生じる
  • バッテリの温度と充電状態により変化する
  • 1Hz~1kHz の周波数範囲で支配的になる

Warburg(拡散)抵抗—W


  • 物質移動、つまり拡散制御に対する抵抗を表す
  • 通常、45° の位相シフトを示す
  • 周波数が1Hz を超えると支配的になる

表1 に、各ECMコンポーネントの記号と式を示します。

CN0510_Table1_1024
表1. ECM コンポーネント

 

バッテリECM の作成

等価回路モデル(ECM)の開発は経験的なプロセスであることが多く、測定したナイキスト線図とモデルが一致するまで、様々な等価回路モデルを使用した実験が必要です。

次のセクションでは、一般的なバッテリ・モデルの作成方法について説明します。


Randel 回路モデルのオーミックおよび電荷移動効果


Randel 回路は最も一般的なECMです。Randel 回路には、電解質抵抗(RS)、二重層キャパシタ(CDL)、および電荷移動抵抗(RCT)が含まれます。二重層静電容量は電荷移動抵抗と並列になり、半円形のシミュレーション形状を作成します。 

簡略化されたRandel 回路は、有用な基本モデルであることに加えて、他のより複雑なモデルの出発点となります。

図3. Randel 回路

 

図4. ナイキスト線図を生成する簡略化されたランデル回路図

 

簡略化されたRandel 回路のナイキスト線図は、常に半円です。電解質抵抗(RS)は、バッテリ特性評価の高周波インターセプト・ポイント、つまり、プロットの左側のx 軸と交差する高周波ゾーンでの実軸値を読み出すことで求められます。図4 では、電解質抵抗(RS)はナイキスト線図の原点付近のインターセプト・ポイントであり、30Ω です。もう1 つの(低周波の)インターセプト・ポイントでの実軸値は、電荷移動抵抗(RCT)と電解質抵抗の合計(この場合は270Ω)です。したがって、半円の直径は電荷移動抵抗(RCT)に等しくなります。


Warburg 回路モデル—拡散効果


Warburg 抵抗をモデル化する場合、コンポーネントW をRCT と直列に追加します(図5 を参照)。Warburg 抵抗を追加すると、プロットの低周波数領域に明確な45°の線が生成されます。

図5. Warburg 回路モデル—拡散効果

 

図6. 拡散効果を加えたECM

 

Randel とWarburg を組み合わせた回路モデル


バッテリの中には、2 つの半円を描くものがあります。最初の半円は、固体電解質界面(SEI)に対応します。SEI の増加は、電解質の不可逆的な電気化学的分解から生じます。リチウムイオン・バッテリの場合、SEI はバッテリが古くなるにつれて負極で形成されます。この分解生成物は、電極表面に固体層を形成します。

最初のSEI 層の形成後は、電解質分子がSEI を介してリチウムイオンや電子と反応可能な活性物質表面に移動できないため、SEI のそれ以上の増加が抑制されます。

2 つのRandel 回路を組み合わせて、この種のナイキスト線図をモデル化します。抵抗(RSEI)は、SEI の抵抗をモデル化したものです。

図7. 2 つのRandel 回路

 

図8. Randel 回路の修正モデル。SEI が認められるリチウムイオン・バッテリのナイキスト線図

 

AD5941を使用したバッテリ・インピーダンス・ ソリューション

AD5941のインピーダンスおよび電気化学フロント・エンドは、EIS測定システムの中核です。AD5941は、低帯域幅ループ、高帯域幅ループ、高精度A/Dコンバータ(ADC)、およびプログラマブルなスイッチ・マトリックスで構成されています。

低帯域幅ループは、VZEROとVBIASを生成する低消費電力でデュアル出力のD/Aコンバータ(DAC)、および入力電流を電圧に変換する低消費電力トランスインピーダンス・アンプ(TIA)で構成されています。

低帯域幅ループは、バッテリ・インピーダンス測定など、励起信号の周波数が200Hz未満の低帯域幅信号用です。

高帯域幅ループはEIS測定用です。高帯域幅ループは、インピーダンス測定時にAC励起信号を生成するように設計された高速DACで構成されています。高帯域幅ループには、最大200kHzの高帯域幅電流信号をADCの測定電圧に変換するように設計された高速TIAがあります。

スイッチ・マトリックスは、外部ピンを高速DAC励起アンプおよび高速TIA反転入力に接続可能な一連のプログラマブル・スイッチです。スイッチ・マトリックスは、外部キャリブレーション抵抗を測定システムに接続するためのインターフェースを提供します。スイッチ・マトリックスは、電極を接続するための柔軟性も備えています。

バッテリには通常、ミリオーム範囲のインピーダンスがあり、同様の値のキャリブレーション抵抗RCALが必要です。この回路の50mΩ RCALは、AD5941が直接測定するには小さすぎます。RCALが小さいため、AD8694を使用して受信信号を増幅する外部ゲイン段があります。AD8694は、EISアプリケーションにとって重要な超低ノイズ性能と低バイアスおよび低漏れ電流のパラメータを備えています。更に、同じアンプをRCALと実際のバッテリで共有すると、ケーブル、ACカップリング・コンデンサ、およびアンプで生じる誤差を補正できます。


励起信号

AD5941は、波形発生器、高速DAC(HSDAC)、および励起アンプを使用して、サイン波励起信号を生成します。周波数は0.015mHz~200kHzで設定できます。図9に示すように、信号はCE0ピンと外部ダーリントン・ペア・トランジスタ構成を介してバッテリに印加されます。励起バッファが供給できる最大電流は3mAであるため、電流アンプが必要です。 通常のバッテリには最大50mAが必要です。

図9. ダーリントン・トランジスタ・ペア

 

電圧測定

電圧測定には2つのステージがあります。まず、RCAL両端の電圧降下を測定します。次に、バッテリ両端の電圧降下を測定します。各コンポーネント両端の電圧降下は、非常に小さくマイクロボルト(µV)の範囲です。したがって、測定電圧は外部ゲイン段を介して送信されます。ゲイン・アンプAD8694の出力は、AD5941チップのAIN2ピンとAIN3ピンにあるADCに直接送信されます。離散フーリエ変換(DFT)ハードウェア・アクセラレータを使用して、ADCデータに対してDFTが実行され、RCAL電圧とバッテリ電圧の測定値両方の実数と虚数が計算され、データFIFOに保存されます。ADG636は、バッテリとRCALをAD8694ゲイン段にマルチプレクスします。

AD5941の入力ピンの寄生容量を打ち消すには、ADG636スイッチが備える超低チャージ・インジェクションと小さなリーク電流が必要です。AIN2ピンとAIN3ピンはRCALとバッテリの両方の測定に使用されるため、インピーダンス測定値の信号経路はレシオメトリックです。


未知のインピーダンス(ZUNKNOWN)の計算

EIS測定はレシオメトリックです。未知のインピーダンス(ZUNKNOWN)を測定するには、既知の抵抗RCALの両端にAC電流信号を印加し、応答電圧VRCALを測定します。次に、未知のインピーダンスZUNKNOWNに同じ信号を印加し、応答電圧VZUNKNOWNを測定します。応答電圧に対して離散フーリエ変換を実行し、各測定の実数値と虚数値を求めます。未知のインピーダンスは、次式で計算できます。

数式 1
図10. EIS測定図

 

回路の評価とテスト

以下のセクションでは、CN-0510回路設計のテスト手順と結果の収集について概説します。ハードウェアとソフトウェアのセットアップの詳細については、CN-0510ユーザ・ガイドを参照してください。


必要な装置

  • USBポート付きでWindows® 7以降を搭載のPC
  • EVAL-AD5941BATZ回路ボード
  • EVAL-ADICUP3029開発ボード
  • CN-0510リファレンス・ソフトウェア
  • USB Type A - micro USB変換ケーブル
  • BNC(Bayonet Neill–Concelman)コネクタ - グラバ/ワニ口クリップ
  • バッテリ(被テスト・デバイス、DUT)

図11. リファレンス設計ボード

 

設計の開始にあたって

1. Arduinoヘッダーを介して、EVAL-AD5941BATZをEVAL-ADICUP3029に接続します。
2. BNCをF+、F-、S+、S-のグラバ・ケーブルに差し込みます。
3. micro USBケーブルをEVAL-ADICUP3029のP10に接続してボードに電源を供給し、USBケーブルのもう一方の端をコンピュータに差し込みます。
a. 短絡を避けるため、バッテリを接続する前にボードの電源が入っていることを確認します。
4. GitHubからサンプル・ファームウェアをダウンロードします。ダウンロードの手順は、analog.comのwikiサイトで参照できます。
5. 組み込みソフトウェアで、アプリケーションに必要なパラメータを設定します。
a.AD5940BATStructInit(void)関数を使用します。(例を以下に示します。)

図12.ファームウェアの設定

 

b. 推奨のインタラクティブな開発環境(IDE)を使用して、コードをビルドし、EVAL-ADICUP3029のターゲット・ボードにダウンロードします。インストールの詳細については、AD5940ユーザ・ガイドを参照してください。

6. 図13に示すように、バッテリを接続します。F+およびS+のリード線をバッテリのプラス端子に接続し、S-およびF-をバッテリのマイナス端子に接続します。
7. EVAL-ADICUP3029の3029-RESETボタンを押します。

図13. 完成したEISバッテリ・システム

 

バッテリのテストと結果

1. RealTermなどのプログラムを使用してシリアル端末を開きます。
2. ボー・レートを230,400に設定します。
a. EVAL-ADICUP3029が接続されているCOMポートを選択します。
3. 測定結果はUARTを介してストリーミングされ、分析のためにファイルに保存できます。

注:プログラムの開始時に、キャリブレーション機能が一度実行されます。励起周波数が低い場合、波形の少なくとも4周期がキャプチャされるまでに時間がかかります。0.1Hzの測定では、完了するのに40秒以上かかります。

注:ハードウェアは1Hzを超える周波数に最適化されています。この値より低い測定値は、外部アンプの1/fノイズによりノイズが多くなります。

図14. 端末プログラムに表示された結果

図14. 端末プログラムに表示された結果

 

図15は、EVAL-AD5941BATZを使用して測定したリチウムイオン・バッテリの例で得られたナイキスト線図を示しています。

図15. ナイキスト線図(1.11Hz~50kHzを掃引)

 

ハードウェアとソフトウェアのセットアップの詳細については、CN-0510ユーザ・ガイドを参照してください。