概要

設計リソース

設計/統合ファイル

  • Schematic
  • Bill of Materials
  • Gerber Files
  • Allegro Files
  • Assembly Drawing
設計ファイルのダウンロード 974 kB

機能と利点

  • 400MHz ~ 6GHz IQ 変調器
  • 低 低歪みドライブ・アンプ

回路機能とその特長

IQ変調器をダイレクト・コンバージョン・アプリケーションに使用する場合も1次中間周波数(IF)へのアップコンバータとして使用する場合も、一般にIQ変調器の直後にある程度のゲインを追加します。IQ変調器の出力に最初のゲインを与えるための適切なドライバ・アンプを選択する方法について説明します。図 1に示すデバイスはADL5375IQ 変調器とADL5320ドライバ・アンプによる回路です。これらはシステム性能レベルが一致している、つまり性能レベルが同等なため、どちらのデバイスも全体の性能を低下させることはありません。これらのデバイスはダイナミック・レンジが一致しているので、デバイス間の減衰器が不要で、IQ変調器とRFドライバ・アンプをシンプルに直接接続することが推奨されます。

図1. 出力にパワー・ゲインを備えたIQ変調器の回路図

 

回路説明

ADL5375は高性能の汎用IQ変調器で、400MHz~6GHzの出力周波数範囲で動作します。ノイズが小さくベースバンド入力帯域幅が広いので、このデバイスは様々な変調や帯域幅の信号によって駆動することができます。これらの入力信号はDCまたは複素IFを中心とすることができます。

ADL5375のLO(ローカル発振器)インターフェースは1XLO(LOかける1倍)タイプ、つまり出力周波数とLO周波数が等しいタイプです(ベースバンド信号がDCを中心とする場合)。回路ノートCN-0134にADL5375をADF4350によって駆動させる方法が記述されています。


システム・レベルの計算とRFアンプの選択

ADL5375には、1GHz~2GHzの周波数範囲に約10dBmの出力圧縮ポイント(OP1dB)と約25dBmの3次圧縮ポイント(OIP3)があります。IQ変調器の後にゲインを与えるRFアンプを選択する際には、入力P1dBと入力IP3がこれらの値と等しいかやや大きいデバイスを選択することが重要です。小さい仕様のデバイスを選択するとカスケード接続での性能が低下しますが、逆に入力P1dBと入力IP3がADL5375の値よりはるかに大きいデバイスを選択してもその効果はほとんどなく、シグナル・チェーンの総合電源電流が不必要に増加する可能性があります。

は、400MHz~2700MHzの動作で仕様が規定されたドライバ・アンプ(外付け調整部品を必要とするRFアンプ)です。5V電源での動作時に104mAを消費します(3.3Vでの動作も可能。消費電力は減少するが性能が低下)。

ADL5375 IQ変調器の出力換算のIP3(OIP3)とP1dB(OP1dB)、ならびにADL5320ドライバ・アンプの入力換算のIP3(OIP3)とP1dB(OP1dB)の1900MHzにおける仕様を表1に示します。どちらの場合も、IQ変調器の出力換算の仕様とアンプの入力換算の仕様の間に約3dBの差があります。

表1. ADL5375 IQ変調器とADL5320ドライバ・アンプの1900MHzにおけるIP3とP1dBの仕様
Parameter  ADL5375 (出力換算)
ADL5320 (入力換算) 
 IP3 24.2 dBm 28.3 dBm
P1dB 10 dBm 13 dBm

IQ変調器とドライバ・アンプの2140MHzにおけるカスケード接続性能のシミュレーション結果を、図2に示します。このシミュレーションは、ADIsimRF設計ツールを使って行われました。変調器のOIP3(24.2dBm)と合成OIP3(36.5dBm)との差12.3dBがADL5320ドライバ・アンプのゲイン13.7dBよりわずかに小さいことに注目してください。これは、ドライバ・アンプが全体のOIP3に与える影響がごくわずかであることを示しています。

図2. ADL5375とADL5320のカスケード接続性能を示すADIsimR設計ツールの画面例

 

IQ変調器の出力と複合回路の出力での出力電力(POUT)の測定値に対するOIP3のプロットを図3に示します。2つのOIP3のグラフの形状はかなり似ており、出力電力とOIP3の位置がずれているだけです。これにより、信号がRFアンプを通過したときのIP3の劣化がほんのわずかであることが分かります。

図3. ADL5375 IQ変調器と複合回路(ADL5375およびADL5320ライバ・アンプ)の2100 MHzにおけるPOUT対OIP3

 


出力電力レベルの選択

この回路は最大15dBmの出力電力レベルに対して35dBm~40dBmの範囲のOIP3レベルを実現しますが、これらのレベルまでの動作は特にピーク値と平均値の比が比較的大きくなる傾向がある非コンスタント・エンベロープ変調方式では実用的ではありません。ります。この理由を理解するため、回路の電圧入力から電力出力への伝達関数を調べ、IQ変調器の入力に有効な標準的駆動レベルを検討します。

CWサイン波の駆動信号を使った出力電力(単位:dBm)と入力電圧(単位:V p-p)に関する回路の伝達関数を図4に示します。ADL5375などのIQ変調器は、一般にデュアル電流出力D/Aコンバータ(DAC)によって駆動されます。通常、DACの2つの電流出力(公称0mA~20mA)は2本の50Ω抵抗でグラウンドに終端され、I入力とQ入力のそれぞれの間に2本の100Ωシャント抵抗が接続されます(このインターフェースの詳細については回路ノートCN-0205を参照してください)。0dBFS(フルスケールのスイング)で動作するDACの場合、この値は1V p-p(50Ω ×20mA)つまり0.353V rms(DACとIQ変調器の間に一般に設置されるローパス・フィルタの挿入損失を無視した場合の値)のIQ変調器の駆動レベルに相当します。この結果、出力電力は約13dBmとなります。

図4. 出力電力(単位:dBm)と差動入力レベル(単位:V p-p)に関する回路の伝達関数

 

前述のようにIQ変調器のI入力とQ入力が100Ωで終端されると仮定した場合、アナログ・デバイセズの代表的なDACのdBFS駆動レベルと比較した出力電力をプロットすることができます(図5参照)。これにより、0dBFSの駆動レベルは1V p-pに相当し、前に説明した13dBmの出力電力と等しくなります。

図5. IQ変調器のI入力とQ入力が100Ωで終端された場合と終端されない場合の、出力電力とDAC駆動レベルに関する回路の伝達関数

 

図5は、I入力とQ入力が100Ω抵抗で終端されない場合の回路の伝達関数も示しています。ここで得られるDACの電圧駆動レベルは2倍(最大2V p-p)になるので、結果として出力電力は同じDACの駆動レベルに対して6dBだけ大きくなります。

IとQの終端抵抗がない回路の動作も可能ですが、DACとIQ変調器の間に通常設置されるフィルタに何らかの問題を生じます。このフィルタは一般に両端が終端されているので、IQ変調器のI入力とQ入力の間にいくらかの抵抗を接続する必要があります(これらの入力が終端されていない場合入力抵抗は約60kΩです)。100Ω~1000Ωの範囲の値を使って、得られるDAC電圧駆動レベルとこれに相当する出力電力を大きくすることができます。ただし、DACとIQ変調器の間のフィルタは、さまざまな信号源インピーダンスや負荷インピーダンスに対応できるように注意して設計する必要があります。

図4と図5で示したように、1V p-p(0dBFS)のサイン波は約13dBmの出力電力となることが分かります(I入力とQ入力を100Ωで終端)。実際には、歪みを低減するため、DACの駆動レベルは0dBFSからわずかに小さくする必要があります(通常、-1dB~-2dB)。これに加え、rms駆動レベルもキャリアの変調のピーク値と平均値の比に等しい値だけ小さくする必要があります。ピーク電力(PEP)とrms電力の比は通常、QPSKのような変調方式での5dB(変調が一定のエンベロープの特殊ケースでは0dB)から高次のQAMベースの変調での約10dBまでの範囲です。図6のグラフから、0dBm~10dBmの範囲の出力電力レベルを実現可能なことが分かります。

シングル・キャリアの広帯域符号分割多元接続(WCDMA)信号の隣接チャンネル電力比(ACPR)は、回路のシステム・レベルの歪みを査定するための一般的な測定基準になっています(これは、単にIP3やIMDのレベルに基づいた査定に代わるものです)。出力電力レベルに対する回路のACPRの測定値を図6に示します。WCDMA信号の場合、ACPRはキャリア(3.84MHzの帯域幅)の電力と隣接チャンネル(チャンネル間隔= 5MHz)の電力の比として定義され、3.84MHzの帯域幅で測定されます。このプロットでは代替チャンネル電力比も示しています。これは同じタイプの測定ですが、10MHzのキャリア・オフセットでの測定です。

図6. 出力電力対 OIP3およびWDCMAのACPRのプロット

 

この場合、信号のPEPとrmsの比は約10dBです(WCDMA信号のピーク値と平均値の比はキャリアの構成と負荷によって変わる可能性があります)。このプロットとACPRの必要なレベルに基づき、0dBm~10dBmの範囲の出力電力レベルを選択します。0dBm未満の電力レベルでは、ACPRは回路のSN比の低下によって決まるようになります。

バリエーション回路

ADL5320ドライバ・アンプは、400MHz~2.7GHzで動作する仕様になっています。このデバイスはADL5375 IQ変調器の規定周波数範囲の下限に適切に対応します。2.3GHz~4GHzの範囲の周波数での動作には、ADL5321 ドライバ・アンプを推奨します。ADL5320とADL5321 のどちらもデバイスが動作する周波数に外部部品で調整する必要があります。どちらのデバイスのデータシートにも、一般的な動作周波数に調整するための部品の推奨値を記載した表が含まれています。

また、ADL5601やADL5602などの内部マッチングされた広帯域ゲイン・ブロックを使って、IQ変調器の出力にゲインを与えることもできます。ただし、これらのデバイスはADL5320やADL5321よりもOIP3が小さいので、これらが支配的になり回路全体のIP3を低下させる傾向があります。

動作周波数範囲でより高い性能を実現するいくつかの狭帯域IQ変調器も利用可能です。例として、ADL5370/ADL5371/ADL5372/ADL5373/ADL5374などがあります。これらの狭帯域デバイスはADL5375に比べてより大きなゲインとOIP3を実現します。ADL5320とADL5321のドライバ・アンプを組み合わせた場合、最終的に合成OIP3が同等で総合出力電力が大きくなります。

狭帯域IQ変調器のADRF6701/ADRF6702/ADRF6703/ADRF6704ファミリーは、フェーズロック・ループ(PLL)と電圧制御発振器(VCO)を内蔵しています。これらのデバイスはADL5370/ADL5371/ADL5372/ ADL5373/ADL5374ファミリーと同じ性能を実現する一方で、集積レベルが高くなっています。

IQ変調器のI入力とQ入力を駆動するいくつかのオプションがあります。AD9125AD9122は16ビット・デュアルDACで、それぞれ1GSPSと1.2GSPSで動作します。これらのデバイスは、ベースバンド・スペクトル(0Hzが中心)または標準100MHz~200MHzの範囲の複素IFスペクトルの生成に使用することができます。

回路の評価とテスト

この回路は、ADL5320ドライバ・アンプを搭載したADL5375評価ボード(ADL5375-05-EVALZ)を使って実現しました。このボードは、IQ変調器の出力信号を供給するか、または変調器とアンプの合成信号を供給するように設定することができます。このボードのデフォルト設定は変調器とアンプの合成出力で、アンプは1800MHz~2200MHzの範囲で動作するように調整されます。すでに説明したように、ADL5320のデータシートには他の周波数に対応する調整用コンデンサの値と配置が記載されています。


必要な装置


以下の装置が必要です。

  • ADL5375評価ボード(ADL5375-05-EVALZ)
  • 2台のRF信号発生器:Agilent 8648Cまたは相当品(25MHzと26MHzで動作)
  • RF信号発生器:Agilent 8648Cまたは相当品(約2GHzで動作)
  • RFスペクトル・アナライザ:Rohde & Schwarz FSIQ、Rohde & Schwarz FSQ、Agilent PSAまたは相当品
  • ZFSC-2-2-Sと180°電力分配器/結合器のセット(Mini-Circuits社製)
  • ZMSCQ-2-50と90°電力分配器のセット(Mini-Circuits社製)
  • 2個のADT2-1T 1:2バラン(Mini-Circuits社製)
  • 4セットのZFBT-6GW-FTとバイアス・ティー(Mini-Circuits社製)


セットアップとテスト


IP3のテストと電力掃引テストに使用したテスト・セットアップを図7に示します。25MHzと26MHzで動作する2台のRF信号発生器からの信号は、入力間の絶縁が良好なパッシブの180°位相分配器/結合器を使って結合されます。次いで、2トーンの信号が25MHz~50MHzで動作する仕様の90°位相分配器に加えられます。この位相分配器の出力は次に2個の1:2トランスに加えられ、差動出力信号が生成されます(位相分配器の0°の出力はIQ変調器のIP入力とIN入力に加える必要があります)。これらの差動信号は信号を0.5Vにバイアスする4つのバイアス・ティーに加えられます。ボードの回路網は2本の100Ω抵抗によって終端します(これらの抵抗のパッドはADL5375評価ボードに備えられています)。

ADL5375用の局部発振器(LO)は0dBmを発生する3つ目の信号発生器が担当します。最終の出力周波数は入力RF信号周波数とLO周波数の差に等しい値です。したがって、2トーン信号が25MHzと26MHzでLOが2150MHzの場合、出力スペクトルは2124MHzと2125MHzに現れます。

この回路は、ADL5375 IQ変調器を搭載したAD9122デュアルDAC評価ボード(AD9122-M5375-EBZ)を使って実現することもできます。この場合、ADL5375 IQ変調器の出力をスタンドアロンのADL5320評価ボード(ADL5320-EVALZ)に接続します。この方法の利点は、バイアス・ティー、位相分配器、トランスを必要とすることなく、DACが適切にバイアスされた差動信号を生成することです。

 

図7. IP3のテストと電力掃引用の測定セットアップ