DN-520: 高電圧入力に対応し、8 つの 1A 出力~ 2 つの 4A 出力を得られる多用途な産業用電源
はじめに
今日の産業用の電子システムには、民生用の電子機器と同じ部品(マイクロコントローラ、FPGA、システムオンチップ(SoC)ASIC、およびその他の電子部品)が搭載されており、幅広く変化する負荷電流において、複数の低電圧レールが要求されています。産業用アプリケーションでは、さらに、プッシュボタン・インタフェースや、リアルタイム・クロック(RTC)用の常時オンの電源またはメモリ、高電圧電源から入力電源を得る機能などが必要になることがあります。この他に要求される機能としては、ウォッチドッグ・タイマ(WDT)、KILLまたはリセット・ボタン、ソフトウェアによる電圧調整機能、入出力電圧の低下とダイ温度の上昇のエラー報告機能などがあります。
LTC®3375 は、高度に設定可能な多出力の降圧電源コンバータであり、産業用電子機器に一般的に要求される機能を持ちながら、最大電流が 1A ~ 4A の範囲で出力をさまざまに設定可能な柔軟性を備えています。
最大出力電流を設定可能
表 1 の15種類の出力電流構成に示すように、LTC3375 は 8 つの 1A チャネルを使って、1A、2A、3A、4A の降圧レギュレータをさまざまな組み合わせで生成できます。
降圧レギュレータの数 | 出力構成 |
8 | 1A、1A、1A、1A、1A、1A、1A、1A |
7 | 1A、1A、1A、1A、1A、1A、2A |
6 | 1A、1A、1A、1A、1A、3A |
6 | 1A、1A、1A、1A、2A、2A |
5 | 1A、1A、1A、1A、4A |
5 | 1A、1A、1A、2A、3A |
5 | 1A、1A、2A、2A、2A |
4 | 1A、1A、2A、4A |
4 | 1A、1A、3A、3A |
4 | 1A、2A、2A、3A |
4 | 2A、2A、2A、2A |
3 | 1A、3A、4A |
3 | 2A、2A、4A |
3 | 2A、3A、3A |
2 | 4A、4A |
あるチャネルの帰還ピンをそのチャネルの VIN ピンに接続すると、そのチャネルは隣のチャネルに対するスレーブとして設定されます。その 2つのチャネルのスイッチ・ピンを相互接続することで、1 つのインダクタと出力コンデンサを共有します。マスター / スレーブ・チャネルは、マスターのイネーブル・ピンでイネーブルされ、マスターの帰還ネットワークにて安定化されます。
隣り合うチャネルをさらに接続していくことで、出力電流は 3Aまたは 4A に増やすことができます。図 1 に、1 つの 3A 出力、1 つの 1A 出力、2 つの 2A 出力、および常時オン LDO で構成した LTC3375 の回路を示します。また、この図は、LTC3375 の上流に外付けされている降圧コントローラの起動をオンチップ・プッシュボタン・インタフェースで制御し、LTC3375の降圧レギュレータに入力電源を供給する接続の方法も示しています。
外付け VCC LDOと外付け入力電源の起動制御
LTC3375 は、外付けの LDO パス・デバイスを制御し、そのVCC電源やその他の低電流電子部品(RTCなど)に電力を供給できます。VCC は、内部プッシュボタン回路、WDT、内部レジスタ、オープンドレイン・プルアップに電力を供給します。図 1 に示す外付けの LDO は、24V のレールから 3.3V 電源を生成します。
プッシュボタンが押されると、LTC3891 の ON ピンが開放され、RUN ピンが“H”に引き上げられます。これにより、LTC3375 の降圧レギュレータに入力電源が供給されます。LTC3891 が安定化状態に達すると PGOOD ピンが開放され、LTC3375 の EN1 がイネーブルされて 2Aレギュレータがターンオンします。残りのレギュレータは、高精度なしきい値を持つイネーブル・ピンか、ソフトウェア制御されたI2Cコマンドによってイネーブルできます。プッシュボタンをもう一度 10秒間以上押し続けるか、KILL を 50ミリ秒以上“L”に引き下げると、ON ピンが“L”に引き下げられ、すべての降圧レギュレータがディスエーブルされます。
独自の電源制御機能と特長
I2C インタフェースの採用により、レギュレータの動作を詳細に制御できます。レギュレータごとに、高効率な Burst Mode® 動作に設定して軽負荷時の電力を節減したり、強制連続モードに設定して出力リップル電圧を低下させたりできます。また、レギュレータごとにスイッチング・サイクルをリファレンス・クロックに対して 0°、90°、180°、または 270°位相シフトして、複数出力で大きな負荷に電力を供給しているときの入力リップル電流を低減できます。もう 1 つの特長は、帰還リファレンス電圧をデフォルト設定の 725mV から25mV 刻みで (425mV ~ 800mV の範囲で)調整することで、それぞれの出力電圧レベルを制御できることです。I2C インタフェースは、各レギュレータのエラー状態を通知するためにも使用されます。
LTC3375 は、リセット(RST)ピンと割り込み要求(IRQ)ピンを備えています。これらのピンは、いずれかのレギュレータの出力電圧がレギュレーション・ポイントの 92.5% より低くなったとき通知するようプログラムできます。また、IRQ ピンは、入力電圧が低電圧ロックアウト(UVLO)しきい値を下回るか、ダイ温度が設定された温度しきい値に達したときに通知するようにもプログラムできます。レギュレータの PGOODと UVLO の状態、ダイ温度の警告、ダイ温度の測定値は、I2C インタフェースを介してマイクロプロセッサで監視できます。
マイクロプロセッサの 1 つの問題は、ソフトウェアのバグによってプログラムがハングする可能性があることです。LTC3375 はウォッチドッグ・タイマ入力(WDI)ピンを備えており、SCL ピンまたはそれ以外のピンを監視して、ソフトウェアの実行が継続されているかどうかをチェックできます。ソフトウェアの実行が停止した場合、ウォッチドッグ・タイマ出力(WDO)ピンを使用して、マイクロプロセッサをリセットするか、高電圧降圧レギュレータかつ LTC3375 の降圧レギュレータをパワーオフできます。WDO ピンをマイクロプロセッサの RST ピンに接続することで、WDT が正常でない場合にマイクロプロセッサをリセットできます。WDO ピンを KILL ピンに接続すると、ON ピンが "L"に引き下げられ、高電圧降圧レギュレータとすべてのLTC3375 レギュレータがディスエーブルされます。KILL ピンは、プッシュボタンの「ペーパー・クリップ」スイッチによって "L" に引き下げることができ、すべてのレギュレータの電源をオフにする最終手段として使用できます。
まとめ
LTC3375 は、1A ~ 4A の複数の安定化された出力によって最大で 8A の出力を構成できるとともに、現在の産業用電子機器に必要とされる多くの機能を搭載しています。