DN-428: 700mVで起動する小型同期整流式昇圧コンバータ

はじめに

アルカリ・バッテリは入手しやすく便利であり、比較的安価なので戸外のレクリエーションで使用される携帯用機器に最適な電源です。また、保存寿命が長いので、使用されるのは稀であってもいざというときすぐ使用可能でなければならない緊急用装置にも最適です。携帯機器のDC/DCコンバータができるだけ広いバッテリ電圧範囲で動作することが、バッテリの動作時間を延長して、ユーザーが頻繁にバッテリを交換せずにすむようにするのに重要です。

1.6V~0.9Vの範囲のシングルセル・アルカリ・バッテリは電圧が低く、放電するにつれてそれらの内部抵抗が増加するので、DC/DCコンバータには特に難しい問題となります。したがって、低い入力電圧で起動し、効率よく動作可能なDC/DCコンバータはシングルセル・アルカリ製品に最適です。

LTC®3526Lは1MHz、550mA同期整流式昇圧(ブースト)コンバータで、入力範囲が0.7V~5Vと広く、出力電圧範囲は1.5V~5.25Vです。LTC3526Lは2mm×2mmのDFNパッケージで供給され、起動電圧は標準でわずか700mVで、起動した後は400mVまで下がっても動作します。LTC3526Lのソリューション・サイズは小さいのですが、出力切断、短絡保護、低ノイズの固定周波数動作、内部補償、ソフトスタート、サーマル・シャットダウン、軽負荷で高い効率が得られるBurst Mode®動作など多くの先進的機能を備えています。低ノイズのアプリケーションには、LTC®3526LBが全ての負荷電流で固定周波数動作を提供します。LTC3526LとLTC3526LBは出力電圧範囲が1.5Vまでカバーしているので、以前は昇圧コンバータの後に降圧コンバータを必要としたアプリケーションにさえ使うことができます。

標準的なシングルセル昇圧アプリケーションを図1に示します。この例では、Bluetoothラジオのアプリケーションで1.8Vを発生するのにLTC3526LBが使われています。LTC3526LBはサイズが小さく、外付け部品点数が最少で、全ての負荷電流で低ノイズの固定周波数動作を行うので選択されました。出力電流能力と入力電圧のグラフを図2に示します。コンバータは無負荷で700mVで起動し、動作状態になった後はわずか400mVの入力電圧でも25mAの出力電流を供給することができることに注意してください。スイッチング周波数が1MHzなので、このアプリケーションに示されているモノリシック・チップ・インダクタのような高さの低い小型インダクタを使用することができます。このため、ソリューション全体のフットプリントがわずか36mm2、高さが1mmです。

図1. Bluetoothラジオのアプリケーションのシングルセル1.8V昇圧コンバータは起動電圧が低く、モノリシック・チップ・インダクタを使っているので最大部品高さがわずか1mmである。

図1. Bluetoothラジオのアプリケーションのシングルセル1.8V昇圧コンバータは起動電圧が低く、モノリシック・チップ・インダクタを使っているので最大部品高さがわずか1mmである。

図2. 図1の回路の起動時および起動後の最大負荷能力

図2. 図1の回路の起動時および起動後の最大負荷能力

コンスーマ向けに多くの新しい種類のバッテリが提供されており、それらのうちのいくつかはハイパワーのハイテク・アプリケーション向けです。これらのうちの1つは使い捨てのリチウムAA/AAAバッテリで、従来のアルカリ・バッテリに比べて動作時間が大幅に改善されています。さらに、使用頻度が低いアプリケーションでは、リチウムイオン・バッテリは保存時間が長いので、ニッケルをベースにしたリチャージャブル・バッテリ(これらは短時間に自己放電する)より性能の面で有利です。

リチウムイオン・バッテリの1つの特徴は、標準的アルカリ・バッテリの1.6Vに比べて、バッテリが新しいとき1.8Vに達することがあることです。これは、従来の昇圧コンバータを使ってアルカリ・バッテリの最大3.2Vの入力から3.3Vの出力を供給する2セルのアルカリ・アプリケーションでは問題です。ほとんどの昇圧コンバータは、2個の新しいリチウムイオン・バッテリ(3.6V)の場合のように、入力が出力より高いときレギュレーションを維持することができません。

LTC3526Lは入力電圧が出力電圧を超えてもレギュレーションを維持することによってこの問題を解決します。LTC3526Lを使った2セルから3.3Vへの昇圧コンバータの例を図3に示します。小さなフィードフォワード・コンデンサが分圧器の上側の抵抗両端に追加されており、Burst Mode動作で出力リップルを減らします。効率と負荷電流の曲線を図4に示します。これらの曲線は軽負荷で高い効率を示していますが、これはBurst Mode動作の消費電流が9μAと低いので可能になります。図5の曲線は出力電圧より上および下の入力電圧での効率を示しています。

図3. 2個のAAリチウムセルから3.3Vへの負荷能力が250mAの昇圧コンバータは3桁にわたる負荷電流で高効率を維持し、VIN ≥ VOUTで動作する。

図3. 2個のAAリチウムセルから3.3Vへの負荷能力が250mAの昇圧コンバータは3桁にわたる負荷電流で高効率を維持し、VIN ≥ VOUTで動作する。

図4. 図3の回路の効率と負荷

図4. 図3の回路の効率と負荷

図5. 図3の回路の効率とVIN(100mAの負荷電流)

図5. 図3の回路の効率とVIN(100mAの負荷電流)

まとめ

LTC3526Lは高度に集積化された昇圧DC/DCコンバータで、2mm×2mmのパッケージで供給され、バッテリ駆動の多様なアプリケーションに簡単に使えるように設計されています。起動電圧と動作電圧が低いので、シングルセルのアプリケーションの動作時間を延長します。新しいバッテリの電圧(VIN)がVOUTを超える可能性のある降圧の場合でも安定化します。軽負荷での高い効率のため、または低ノイズ動作のため、Burst Mode動作または固定周波数動作を選択することができます。

著者

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David Salerno

David Salerno。20年近くにわたり、アナログ・デバイセズのLinearグループ(以前のLinear Technology)で設計セクションのリーダーを務める。昇圧アプリケーションでのDC/DCコンバータの設計に主に注力。 1978年にパデュー大学でBSEEの学位を取得。2019年5月に退職。