DN-257: LTC2402を使った微小温度差の検出

LTC®2402(2チャネル、24ビット、No Latency Delta-SigmaADC)は、複数の異なったセンサーを使った温度差検出に適しています。チャネル間のマッチングが非常に良いため、2点間の差分あるいは勾配を決めるために2つの絶対温度測定値を比較することができます。下に示されている回路で、一回だけの測定で得られる一対(つい)の測定値の場合は0.05°Cのピーク誤差が生じることがありますが、(多数回の測定を平均化することにより)LTC2402は数ミリ度の温度差まで分解することができます。フルスケール(FSSET)とゼロスケール(ZSSET)を互いに独立に調節できるので、プラチナRTDを使った3線あるいは4線測定を容易におこなうことができ、2チャネルの自動シーケンス制御により、分離バリヤを挟んだ測定が簡単になります。これらのADCは待ち時間がないという特長を備えているので、パルス励起に関連したジレンマも解決します。パルス励起を使うと、RTD測定を害うおそれのある寄生熱電効果を減らすか、あるいは除去することができます。さらに、パルス励起により、バッテリ駆動のアプリケーションでの待機電力消費あるいは平均電力消費を減らすことができます。

プラチナRTD

プラチナRTDは市販されている最も安定した精密温度センサーです。ただし、出力レベルが低く、自己発熱効果があるので、物理的配置と電気的設計の両面で細部に注意を払う必要があります。RTDは熱電対やサーミスタよりも直線性が高いとはいえ、いくらか非直線なので直線化が必要です。以前は、この直線化は増幅された出力電圧の一部を励起回路へフィードバックして乗算係数を与えることにより、1次近似として多くの場合おこなわれてきました。プロセッサ駆動のデザインでは、ハードウェアによる直線化は不要です。

自己発熱効果

励起電流から生じる自己発熱効果は、RTD素子からその周囲への熱抵抗に依存します。この熱抵抗が(センサーが固体へ接着されているとそうであるように)定数であれば、自己発熱効果はその温度でのRTDの抵抗に基づいて計算することができ、次にそれを測定値から差し引くことができます。この場合、対象となる温度範囲で周囲の媒体が相変化を生じないことが仮定されています。絶対温度の測定では自己発熱効果が問題になることがありますが、温度差が問題の場合は、高い励起電流を使うと有利な場合があります。2個のセンサーからそれらの局所的環境への熱抵抗がかなりの程度マッチングしていると、自己発熱効果は絶対測定値にだけ影響を与えます。絶対温度の測定は抵抗変化の勾配を決めるためにだけ必要なので、決定的に重要というわけではなく、おそらく精密な直線化は必要ありません。

1mAの高めの励起電流では、100ΩRTD(欧州曲線)は25°Cの近辺で385µV/°Cの出力信号を発生します(850°Cでは290µV/°C)。単一チャネルの測定値は約0.05°Cのピーク・ツー・ピーク・ノイズを示しますが、30回分の測定値の平均をとると、温度差を2ミリ度まで分解することができます。

RTDのブリッジ接続

本質的に同一の方法で2個のRTDを検出するために、LTC2402の2本のチャネルが使用されている様子を図1に示します。2個のセンサーが物理的に近接していれば、ZSSETへの接続によるコモン・リターンのリモート・センシングは戻り配線に沿った電圧降下の影響を除去します。センサーの上部端子に接続される配線は小さな利得誤差を生じさせるだけです。たとえば、20フィートの26ゲージ銅線は0.068%の利得誤差を生じるだけでしょう(これと対照的に、コモン・リターンのリモート・センシングが使われないとすると、個々のリターンに関連した誤差は約20°Cになるでしょう)。

図1.2チャネルADCによりブリッジ構成のRTDの温度差を測定し、ZSSET入力により接続線の電圧降下を除去する

図1.2チャネルADCによりブリッジ構成のRTDの温度差を測定し、ZSSET入力により接続線の電圧降下を除去する

2個の基準抵抗の許容差による利得誤差が、はるかに大きな誤差の原因になることがあります。1%抵抗は最大2%の利得誤差を生じ、その結果5°Cの誤差を生じるでしょう。ただし、ゼロ温度勾配を実現する条件を作り出すか、あるいはその条件が分れば、利得誤差を記録してソフトウェアで除去することができます。抵抗R1と抵抗R2は、マッチングのとれた分割器対(つい)あるいはVishay S102やZ201シリーズのような非常に低い温度係数のデバイスのいずれかを使うことを推奨します。一体化された対(つい)の温度トラッキングは0.1ppm/°Cまで厳密にすることができます。

RTDの直列接続

2つのチャネル間の利得偏差を減らすことができる手段を図2に示します。励起電流は1つしかないので、精密にマッチングした抵抗は不要です。基準抵抗(R4)の許容差は絶対測定に大きく影響するだけで、目的の量が温度差の場合は、絶対温度は公称精度まで分れば十分です。この場合、5%抵抗を使えば適当な結果が得られるでしょう。ノイズ以外の唯一の誤差メカニズムは、公称0mV~400mVの範囲および400mV~800mVの範囲の間でのADCの非直線性です。全入力範囲にわたって直線性が突然不連続性を示すことはないので、これは、さらに制限されたこの範囲においてはフルスケールの1ppmを超えることはありません。

図2.スタックト・ハーフ・ブリッジを使うと、図1の励起電流の半分とマッチング条件が除去される

図2.スタックト・ハーフ・ブリッジを使うと、図1の励起電流の半分とマッチング条件が除去される

パルス励起

パルス励起電流の利用法の一例を図3に示します。アナログ・スイッチ(SW1)がターンオフしているとき、全基準電圧は依然として基準端子に印加されていますが、明らかな励起はRTDへ加えられていません。この場合、入力で測定される電圧は、オフセットおよびRTDとADCの間のすべての接続部に現れる寄生熱電圧によって決まります。これらの測定値は、励起電流が流れている状態で測定される電圧から差し引くべきです。電圧差を増幅するために増幅がおこなわれる場合、励起を与える測定と、励起を与えない測定を交互におこなうと1/fノイズが抑えられます。破線内に示されている増幅器はLT®1167のような計装アンプです。増幅器を使う場合は、信号が増幅器の入力範囲から外れないように、SW3、R6、およびR7を使う必要があります。

図3.励起をスイッチングすると、待機電流が減り、オフセット、熱電圧、および周波数ノイズをキャンセルする

図3.励起をスイッチングすると、待機電流が減り、オフセット、熱電圧、および周波数ノイズをキャンセルする

LTC2402および上述の手法と組み合わせて銅あるいはタングステンのRTDを使うと、多様なインダストリアル用、コンスーマ用、あるいは自動車用のアプリケーションで微小温度勾配を測定することができるでしょう。

著者

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Derek Redmayne