プロセス制御用アナログ出力向けの、保護機能と堅牢性を備えた高精度ソリューション

工業プロセスにおいては、流量、温度、圧力などのプロセス・パラメータをつかさどるアクチュエータを、正確かつ確実に制御する必要があります。プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)あるいは分散型制御システム(DCS)と呼ばれる高精度アナログ出力モジュールは、これらのアクチュエータを制御するために使用する電圧出力や電流出力を生成します。これらのモジュールには、過酷な工業環境においても堅牢で信頼性の高い高精度の出力を提供することが求められます。

アナログ・デバイセズが提供するシングルチャンネル16ビットI/V出力DAC AD5423と、過電圧保護機能を備えたSPSTスイッチADG5401Fの組み合わせは、これらの制御用ニーズに適しており、アナログ出力モジュールの条件を満たします。

精度

精度はAD5423の大きな特徴です。電圧出力モードにおけるTUEは25ºCで±0.01%に過ぎず(全温度範囲で±0.05%)、出力ドリフトは代表値で0.35ppm FSR/ºCです。電流出力モードでのTUEも25ºCで±0.01%、出力ドリフトは代表値で2ppm FSR/ºCです。すべての出力モードにおける微分非直線性(DNL)は±1LSBで、単調増加性が確保されています。

ADG5401F高精度スイッチのオン抵抗(RON)の仕様値は6Ωで、チャンネルIOUT/VOUTをAD5423の+VSENSE入力に接続するために使用する、2次帰還チャンネルを内蔵しています。これは、ADG5401Fのオン抵抗変動に伴う誤差を除去します。全温度範囲を通じたADG5401Fの最大オン・リークは40nAです。このリークは16ビット4mA~20mA電流出力DACの1LSB未満であり、出力信号チェーンの精度を維持しながら、最大限のダイナミック・レンジを実現します。

堅牢性

過電圧保護機能を備えたSPSTスイッチADG5401Fは、電源オンおよび電源オフ両状態での過電圧状態に対する保護のために、AD5423 DACのアナログ出力に使用します。ADG5401Fは、ソース(S)ピンとソース帰還(SFB)ピンに最大±60Vの過電圧が加わっても耐えることができます。この機能は、システム電源の喪失、配線ミス、電源シーケンシングの問題などによる損傷に対して脆弱な高精度アナログ出力ノードを保護します。アナログ出力モジュール内でのAD5423とADG5401Fの接続方法の詳細を図1に示します。

図1. AD5423とADG5401Fの構成

図1. AD5423とADG5401Fの構成

ADG5401Fの電源は過電圧故障閾値を設定するので、ソース・ピン(SまたはSFB)の電圧がADG5401Fの電源電圧を超えると故障と見なされ、メインスイッチ・チャンネルと2次帰還チャンネルが自動的に開きます。

故障時にこれらのスイッチ・チャンネルが開くと、DAC出力とシステム電源に大きい故障電流が逆流するのを防止できます。過電圧発生時に大きい故障電流が流れないのであれば、システム消費電力が故障時の消費電力によって制限されることはなくなるので、システム電源の設計に要する労力が軽減されます。ADG5401Fを使用すれば、システムの出力信号パスに電流制限抵抗を置く必要はなくなります。これらの抵抗は、アプリケーションによってはヘッドルームに関する問題を引き起こすことがあります。

ADG5401Fはオープンループ防止スイッチを内蔵しています。VOUT/IOUTノードに最大±60Vの過電圧信号が加わると、ADG5401Fは過電圧保護モードになり、メイン・チャンネル・スイッチと2次帰還チャンネル・スイッチが開きます。同時に、内部オープンループ防止スイッチ(DとDFBの内部接続)が閉じます。このオープンループ防止スイッチはDAC出力帰還ループを保護し、DACが出力をレールまで駆動するのを防ぎます。

IEC 61000-4-2のESD、IEC 61000-4-4の電気的高速トランジェント(EFT)、IEC 61000-4-5のサージなどの高電圧トランジェントからの保護を実現するには、ディスクリート抵抗と電圧トランジェント圧縮(TVS)デバイスを使って図2に示すような回路を実装します。抵抗による新たな誤差がシステム出力に生じないように、抵抗はシステムの帰還ループ内側に配置します。

図2. ADG5401Fの回路図

図2. ADG5401Fの回路図

図3. AD5423の機能ブロック図

図3. AD5423の機能ブロック図

表1. 高電圧トランジェント保護
IEC 61000-4のトランジェント 保護レベル(kV)
ESD(接触) ±6
EFT ±4
サージ ±4

診断機能

AD5423は、電源、グラウンド、内部ダイ温度、リファレンスなどのユーザ選択可能入力に関する診断情報を提供する、12ビットの診断ADCを内蔵しています。

オンボード診断レジスタには、様々な故障状況を示すフラグと、あらゆる故障状態でトリガされるFAULTピンが含まれています。電圧出力モードでは短絡検出がモニタされ、電流出力モードではオープンサーキット検出がモニタされます。AD5423は巡回冗長検査(CRC)機能も備えており、受信データをチェックして、現在のデータ・パッケージが正しくないことが分かった場合はFAULTピンをトリガします。温度のモニタリングも可能で、ダイ温度が設定された限界値を超えた場合はレジスタに故障フラグをセットします。

まとめ

AD5423とADG5401Fを組み合わせれば、工業プロセス・アプリケーションに必要な高い精度と堅牢性を実現できます。AD5423の16ビットI/V出力は最新のアナログ出力モジュールに求められる高精度の制御信号を提供します。ADG5401Fはその精度を維持し、過酷な環境下で加わる外部ストレスに対する堅牢な保護機能を提供します。

著者

David Forde

David Forde

カーロウ工科大学で集積回路設計の学士号を取得。2006年にレイアウト・エンジニアとしてアナログ・デバイセズに入社。2011年にリメリック大学でVLSIシステムの修士号を取得。2015年から計測器および高精度技術グループにアプリケーション・エンジニアとして所属。アナログ・スイッチおよびマルチプレクサ製品ポートフォリオのサポートを担当。

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Claire Croke

1999年にアナログ・デバイセズ入社。現在はアイルランドの高精度スイッチおよびマルチプレクサ・グループのマーケティング・エンジニアとして勤務。過去にはアナログ・デバイセズの高精度コンバータ・アプリケーション・チームに所属。リメリック大学で電子工学の学士号を取得。

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Jean McAdam

アナログ・デバイセズのプロセス制御およびオートメーション担当ストラテジック・マーケティング・マネージャ。現職以前は、アナログ・デバイセズのプラットフォーム顧客向け評価ソリューションのマーケティング活動を指揮し、ソフトウェア・システム・エンジニアおよびソフトウェア開発者としても勤務。リメリック大学で電子工学とコンピュータ工学の学士号を取得。