DN-222: 1出力に2入力を使用する高効率PolyPhaseコンバータ
はじめに
1つのICに多くの機能が集積されると、1つのICが消費する電力が1つの入力電源の容量を容易に超えてしまう可能性があります。電源の能力を向上させるためにフロントエンド電源を再設計するのには時間と費用がかかります。別の解決策は、所要の出力電力を得るために複数の利用可能な電源を使用して、各電源から全電力を分割して取り出すことです。LTC®1929 PolyPhase™レギュレータは、この問題に対する簡単な解決策を提供します。
設計の詳細
LTC1929はPolyPhaseデュアル電流モード・コントローラです。出力スイッチングのリップル電流および電圧を低減するために、位相が180°異なる2つの同期降圧チャネルをドライブすることができます。一方の降圧段は12V入力から入力電力を受け取り、他方は5V入力から電力を受け取ります。この2フェーズ設計では、5V回路のインダクタ電流が増加すると12V回路のインダクタ電流が減少します。これによって、出力コンデンサに流入する正味リップル電流が少なくなります。リップル・キャンセレーションが行われる1つのスイッチング期間に2つのインターバルがあるため、2フェーズ設計の出力リップル電圧は1フェーズ設計の出力リップル電圧よりはるかに小さく、また使用する出力コンデンサも少なくてすみます。電流モード動作は、本来持ち合わせている機能によって電流分担を行います。
標準的応用例
PCIコネクタから得られる電流は、5V電源では2A、12V電源では1Aに制限されます。ここに示す例では、最大負荷は2.8Vで6A(つまり16.8W)です。5V電源でも12V電源でもこの電力を供給することはできません。したがって、両方の電源から電流を得ることができ、各電源からの最大入力電流がそれぞれの最大制限を超えない電源を設計することが望ましいといえます。この設計はLTC1929 PolyPhaseコントローラを使用して、これを簡単に達成する方法を示しています。1個のICと2個のSOパッケージ入りデュアルFET、および2個の小型インダクタだけで、高効率の低ノイズ電源を実現できます。
図1に電源全体の回路図を示します。各降圧回路は最大で約3.5Aを供給するだけなので、フェアチャイルド製のFDS6990AのようなデュアルMOSFETを使用できます。実効出力リップル周波数が600kHzの場合、スイッチング周波数は1チャネルあたり約300kHzです。両ステージのインダクタは7 µ H です。この設計では、スミダ電機製CEE125-7R0インダクタを使用していますが、同様なインダクタ値をもち電流定格が4A以上のものであればどのインダクタでもかまいません。電流センス抵抗は各チャネル0.007Ωです。
図1.2.8V高電流出力用5Vおよび12V入力電源の回路図
テスト結果
図2に、全体的な効率と負荷電流特性を示します。効率は負荷範囲の大部分において90%以上です。図3に負荷電流を変化させたときの2つの入力電流の分布を示します。最大入力電流は、5V電源では1.66A、12V電源では0.84Aであり、PCIコネクタの電流リミットよりも十分低い値です。図4にインダクタ・リップル電流および出力リップル電圧の波形を示します。リップル・キャンセレーション現象に注目してください。出力端子におけるピーク・ツー・ピーク・スイッチング・リップル電圧は、1個の1500µF/6.3Vアルミニウム電解コンデンサで、わずか50mVP-Pです。2つの降圧回路の位相が同期している場合、リップル電圧は70mVP-Pとなり、50%近く増加します。
図2. 効率の測定値
図3. 入力電流と負荷電流

図4. リップル電流および電圧の波形(上:12V降圧インダクタ電流 1A/DIV、中:5V降圧インダクタ電流 1A/DIV、下:出力リップル電圧 50mV/DIV)
まとめ
PolyPhase手法により、スイッチング周波数を高くすることなく出力リップル電圧を低減できます。低出力電圧アプリケーションにおいて高効率を達成可能です。LTC1929PolyPhaseコントローラは、多入力アプリケーションのための小型・低コスト・ソリューションを提供します。3つ以上の入力が必要な場合は、LTC1929ではなくLTC1629をご使用ください。複数のLTC1629で回路を構成すれば、3、4、6フェーズ動作はもとより、12フェーズ動作さえも可能です。