DN-535: 最高 60V の入力電圧で動作可能なモノリシック・リニア・バッテリ・チャージャ
はじめに
リニア・トポロジのバッテリ・チャージャは、比較的低容量のバッテリを充電したり、予備バッテリおよび常時給電・バッテリを維持充電したりする際、実装面積の小ささ、シンプルさ、手頃な価格から重宝されています。しかしながら、10V 以上の入力電圧に対応するリニア・チャージャは不足しているため、多くの産業用システムや自動車システムで使われていません。
スイッチ・モード・ソリューションの中には高い入力電圧に対応するものもあり、スイッチング・トポロジの電流および効率のメリットを得られますが、複雑性とソリューションの実装面積の点で大きな負担も伴います。結局のところ、スイッチ・モード・ソリューションは、常時給電・システムや予備バッテリ・チャージャの低電流の要件には、通常、オーバースペックになります。さらに、最高 60V の自動車および産業用アプリケーションに適した製品はほとんどありません。
LTC®4079は、入力範囲が広いスタンドアロンのチャージャで、2.7 ~最高 60V の任意の DC 電源で動作でき、12V および 24V の DC システム・レールから直接、定電流 / 定電圧(CC/CV)充電できるほか、48V の産業用電源からも充電できます。シンプルさと堅牢性を併せ持つため、常時給電・システムや、常時給電環境の予備バッテリ・ソリューションのニーズを容易に満たすことができます。シンプルなリチウムイオン・バッテリ・チャージャの例を図 1 に示します。

図 1.2 セル・リチウムイオン予備バッテリ用の広範囲リニア・スタンドアロン・チャージャ
堅牢性と柔軟性をコンパクトに融合
LTC4079 では、充電電圧を抵抗によってプログラム可能で、幅広い入力電圧範囲に合わせて、実用的な用途に対応できます。回路は、最小限の入力容量および出力容量で、入力電圧範囲全体で安定しています。
PROG ピンに接続した 1 つの抵抗を使用することで、最大 250mA の充電電流をプログラム可能で、PROG 電圧が比例関係にあることで、充電電流をモニターすることもできます。電流終了機能は一般的なタイマ式で、TIMER ピンの容量か、TIMER ピンをグランドに接続して C/10 電流を検出することによってプログラムできます。いずれの手法でも、CHRG のステータスが終了を知らせます。タイマ・コンデンサは、不良バッテリの検出にも使用されます。
温度制限付き充電は、NTCピンとNTCBIASピンを介したセンス回路だけで完全な回路として構成することができます。LTC4079 の熱特性が改善された 3mm×3mm DFN パッケージに、ピン配置を最適化し、コンパクトにすることで、様々な用途に、できます。実装面積の小ささが分かる回路全体図を図 2 に示します。

図 2.実寸大のデモ基板回路の実装面積
実用性と容易性を実現する画期的なレギュレーション
LTC4079 は、従来のチャージャに加えて、多くの拡張機能を備えており、いくつかの特徴的な充電電流レギュレーション手法が利用できます。1 つ目の方法として、広範囲であるが電流が制限されているか高インピーダンスである電源用に、入力電圧をバッテリ電圧より少なくとも 160mV 高い電圧(VIN(MIN) ≥ VBAT + 160mV)にレギュレーションできます。充電電流を低減することで、入力電圧がこの値を下回るのを防ぎ、充電電流を最大化します。この内部レギュレーション手法は、外部部品を要することなく使用できます。太陽光パネルから 12V の密閉型鉛蓄電池スタックを温度補償付きでフロート充電する例を図 3 に示します。任意の組み合わせの入力電圧およびバッテリ電圧が可能です。
LTC4079 の差動電圧レギュレーションは、環境発電機器や小型の太陽光パネルなど、非常に低電力の電源が最小 10mA の充電電流を連続的に供給できない場合に特に便利です。低電圧ロックアウト(UVLO)に反応して充電と停止を不安定に繰り返し動作にかわって、この機能を使用すると、可能な限り充電を継続できるため、有効な入力電力をより効果的に使用できます。
入力電圧レギュレーションを特定の電圧に設定するために、イネーブル入力ピン(EN) に抵抗分割回路を付けて、その設定値で、制御することができます。入力電圧がこの設定値に到達するにつれ、充電電流が減少し、電源負荷がそれ以上増加するのを防ぎます。この方法により、イネーブル入力を使用して、それぞれの電源に対する最低動作電圧を設定できます。
最後の電流レギュレーション手法である温度レギュレーションは、モノリシック・デバイス全般で重要ですが、リニア・レギュレータでは必須の機能です。周囲環境が過酷な場合と、VIN/VBAT 比率が高い(充電電圧が公称入力電圧を大きく下回る)場合に特に役立ちます。充電電流は、デバイスの接合部温度が 118°Cを下回るまで低減されます。低電力入力電源の過負荷を防ぐ入力電圧レギュレーションの回路例については、図 3を参照してください。

図 3.弱い電源の過負荷を防ぐ入力電圧レギュレーション
低い静止電流
充電動作中でも、LTC4079 は 4µAしか自己消費しないため、(無駄なく)、電源からバッテリへの充電エネルギー移送を最大にすることできます。これは、大容量のバッテリから小型の予備バッテリに電力を伝送する際に特に重要です。バッテリ・バックアップ・システムでは、(シャットダウン時には)電圧フィードバック用(抵抗)分割回路を切り離すことで、バッテリへの負荷をさらに低減し、シャットダウン電流を 10nA(typ)まで減らせるため、バッテリ・システム全体の長期間の待機または保管によって予想外に容量が低下することを防げます。そのため、LTC4079 は、充電機能を内蔵した、メンテナンスフリーかそれに近い「Set and Forget(一度設定しておけばあとは忘れて大丈夫な)」設計に特に適しています。
まとめ
LTC4079 のコンパクトさと応用範囲の広いデザインは、常時充電、常時給電のバッテリ充電ソリューションに理想的ですが、用途はそれだけにとどまりません。豊富な機能により、産業、自動車、太陽電池、医療、軍用 / 航空宇宙、家電分野での様々な充電用途に容易に適用できます。