48V/54V入力に対応するハイブリッド型降圧コンバータ、データ・センターやテレコム・システムの電源設計を簡素化
データ・センターやテレコム・システムで使われる電源の設計には、変化が生じています。従来は、48V/54Vの入力電圧からの降圧には、複雑かつ高価な絶縁型降圧コンバータが使われていました。最近では、主要なアプリケーション・メーカーが、それを効率と密度に優れる非絶縁型の降圧レギュレータに置き換えるようになっています(図1)。上流の48V/54Vの入力が、危険なAC電源から絶縁されていれば、降圧レギュレータ用のバス・コンバータでは絶縁は必要ありません。
入出力電圧が高いアプリケーション(典型的には48V入力、12V出力)に対しては、従来の降圧コンバータは理想的なソリューションではありませんでした。使用するコンポーネントのサイズが大きくなりがちだからです。入出力電圧が高いケースで高い効率を得るには、降圧コンバータを低いスイッチング周波数(例えば100kHz~200kHz)で動作させる必要があります。ただ、降圧コンバータの電力密度は、受動コンポーネント、特に大きなインダクタのサイズによって制限されます。スイッチング周波数を高めれば、インダクタのサイズを小さくできるのですが、それでは効率が低下してしまいます。スイッチングに伴う損失によって、大きな熱ストレスが生じてしまうからです。
スイッチド・キャパシタ・コンバータ(チャージ・ポンプ)を使用すれば、インダクタをベースとする従来の降圧コンバータと比べて、効率とソリューションのサイズが大幅に改善されます。チャージ・ポンプでは、インダクタの代わりにフライング・キャパシタを使用します。それにより、入力からのエネルギーを蓄積し、出力へと伝達します。コンデンサに蓄積されるエネルギー密度は、インダクタよりもはるかに高いため、降圧レギュレータの電力密度は10倍に向上します。但し、チャージ・ポンプは完全なコンバータではありません。出力電圧のレギュレーションは行えないからです。また、大電流を扱うアプリケーション向けにスケーリングすることはできません。
アナログ・デバイセズの「LTC7821」は、チャージ・ポンプを応用したハイブリッド型の降圧コントローラです。出力電圧のレギュレーションも可能であり、スケーラビリティも備えています。しかも、効率と電力密度が高く、従来の降圧コンバータとチャージ・ポンプの両方のメリットを併せ持ちます。ハイブリッド型コンバータでは、降圧コンバータと同じように、クローズドループ制御によって出力電圧のレギュレーションを行います。また、より高い電流レベルが必要な場合には、ピーク電流モード制御によって、簡単にスケーリングを実施することができます。例えば、48V入力、12V/25A出力のシングルフェーズの設計を48V入力、12V/100A出力の4フェーズの設計に変更するといった具合です。
定常状態では、ハイブリッド型コンバータで使用されるすべてのスイッチには、入力電圧の1/2の電圧が印加されます。そのため、定格電圧の低いMOSFETを使用して、良好な効率を得ることができます。ハイブリッド型コンバータでは、スイッチングに関連する損失が従来の降圧コンバータよりも少なくなるので、より高いスイッチング周波数を使用できます。
48V 入力、12V/25A出力の一般的なアプリケーションでは、LTC7821を500kHzのスイッチング周波数で動作させることにより、最大負荷に対して97%以上の効率を達成できます。従来の降圧コンバータで同等の効率を達成するには、その1/3の周波数で動作させなければなりません。そうすると、ソリューションのサイズがかなり大きくなってしまいます。スイッチング周波数を高くすれば、より小型のインダクタを使用できます。その結果、過渡応答は高速になり、ソリューションのサイズを小さくすることが可能になります(図2)。
LTC7821は、ピーク電流モードを備えたハイブリッド型コンバータ向けのコントローラです。データ・センターやテレコム・システムの中間バス・コンバータとして使用される高効率、高電力密度の非絶縁型降圧コンバータを構築するために必要な機能をすべて備えています。LTC7821の主要な仕様を以下に示します。
- 10V ~ 72V の広い入力電圧範囲(絶対最大定格は 80V)
- PLL により 200kHz ~ 1.5MHz の固定周波数にロックが可能
- 5V までの N チャンネル MOSFET に対応するドライバを4個集積
- RSENSE または DCR による電流検出
- プログラムが可能な CCM、DCM、Burst Mode® 動作
- マルチフェーズ動作用の CLKOUT ピン
- 短絡保護機能
- 効率を向上するための EXTVCC 入力
- 出力電圧の単調なスタートアップ
- 32 ピンの QFN パッケージ(5mm × 5mm)
48V入力/12V/25A出力のハイブリッド型コンバータ、電力密度は640W/インチ3
図3に示したのは、LTC7821を使用して構成したハイブリッド型コンバータです。400kHzのスイッチング周波数で動作します。入力電圧範囲は40V~60V、出力電圧は12V、最大負荷電流は25Aです(最大300W出力)。CFLY1とCMIDの各フライング・キャパシタとしては、10µF(1210サイズ)のセラミック・コンデンサを12個使用しています。また、スイッチング周波数が高いので、比較的サイズの小さい2µHのインダクタを使用できます(例えば、0.75インチ×0.73インチの「SER2011-202ML」)。加えて、スイッチング・ノード(ボルト秒が小さい)でインダクタにはVINの1/2の電圧しか印加されません。図4に示すように、ソリューションのサイズは約1.45インチ×0.77インチで、約640W/インチ3の電力密度が得られます。.
スイッチM2、M3、M4には、常に入力電圧の1/2の電圧が印加されます。そのため、定格電圧が40VのFETを使用しています。スイッチM1には、起動時(スイッチングはしません)にCFLY1とCMIDのプリチャージが始まった際、入力電圧がそのまま印加されます。そのため、定格電圧が80VのFETを使用しています。定常状態では、4つのスイッチにはすべて入力電圧の1/2の電圧が印加されます。そのため、ハイブリッド型コンバータのスイッチング損失は、すべてのスイッチに入力電圧が印加される降圧コンバータと比べてはるかに少なくなります。図5にこの回路の効率を示しました。ピーク効率は97.6%で、最大負荷における効率は97.2%です。このように効率に優れる(電力損失が少ない)ことから、非常に優れた熱性能が得られます(図6)。周囲温度が23°Cで、強制空冷を適用しない場合、ホット・スポットは92°Cとなります。
LTC7821は、起動時の突入電流を防ぐためにCFLY1とCMIDのバランスを事前に調整する独自のプリバランス手法を備えています。この手法では、最初に電源を投入した際、両フライング・キャパシタの電圧が測定されます。いずれかの電圧がVIN/2ではない場合には、TIMERピンに接続したコンデンサの充電が行われます。そのコンデンサの電圧が0.5Vに達すると、内部の電流源が起動してCFLY1の電圧がVIN/2に設定されます。CFLY1の電圧がVIN/2に達したら、CMIDがVIN/2まで充電されます。この間、TRACK/SSピンはローに引き下げられ、外付けのMOSFETはすべてオフになります。TIMERピンのコンデンサの電圧が1.2Vに達する前に、CFLY1とCMIDの電圧がVIN/2に達した場合、TRACK/SSピンが解放され、通常のソフト・スタートが開始します。図7は、このプリバランス期間の動作を示したものです。図8は、48V入力、12V/25A出力の条件で、VOUTがソフト・スタートする様子を表しています。
1.2kW出力に対応するマルチフェーズのハイブリッド型コンバータ
LTC7821はスケーリングが容易なので、データ・センターやテレコム・システムで見られるような大電流を要するアプリケーションに適しています。図9は、2つのLTC7821を使用して2フェーズのハイブリッド型コンバータを構成する場合に、主な信号をどのように接続すればよいのかを示したものです。1つのLTC7821のMODE/PLLINピンを別のLTC7821のCLKOUTピンに接続することにより、PWM信号の同期をとることができます。
2フェーズ以上の設計を行う場合、MODE/PLLINピンとCLKOUTピンをデイジー・チェーン接続します。CLKOUTピンのクロック出力は、LTC7821のメインのクロックに対して位相が180°ずれているので、偶数番号のフェーズは互いに同位相になります。一方、奇数番号のフェーズは、偶数番号のフェーズとは逆位相になります。
図10は、4フェーズのハイブリッド型コンバータの回路図です。これにより、1.2kWの出力を得ることができます。各フェーズに対応するパワー段は、図3のシングルフェーズの回路のパワー段と全く同じです。入力電圧範囲は40~60V、出力電圧は12V、最大負荷電流は100Aです。また、ピーク効率は97.5%、最大負荷における効率は97.1%となります(図11)。図12に熱画像を示しました。周囲温度が23°Cで200LFM(Linear Feet per Minute)の強制空冷を適用した場合、ホット・スポットは81°Cとなります。この回路では、DCR(インダクタの抵抗)による電流検出を使用しています。図13に示すように、4つのフェーズで均等に電流が分担されます。
まとめ
LTC7821は、ハイブリッド型コンバータ用のコントローラICです。ピーク電流モードを備えており、データ・センターやテレコム・システムの中間バス・コンバータに対して革新的で簡素化されたアプローチを提供します。ハイブリッド型コンバータのすべてのスイッチには、入力電圧の1/2の電圧が印加されます。そのため、入出力電圧が高いアプリケーションでも、スイッチングに伴う損失が大幅に低減されます。ハイブリッド型コンバータを降圧コンバータの2~3倍のスイッチング周波数で動作させても、効率が低下することはありません。ハイブリッド型コンバータは、大電流を要するアプリケーションに対応するために簡単にスケーリングすることが可能です。全体的なコストを抑えつつ、簡単にスケーリングできるという点で、従来の絶縁型バス・コンバータとは大きく異なります。.