DN-277: 動作時間を12%延長し、充電時間を半分に短縮するデュアル・バッテリ・パワー・マネージャ

はじめに

スペースを節約し、バッテリ動作時間を延長するために、多くの高性能ノートブック・コンピュータではデュアルの交換可能バッテリをサポートしており、各バッテリ・ベイには1個のバッテリまたはオプションの周辺装置を収納することができます。2個のバッテリは明らかに1個のバッテリよりも優れており、1個のバッテリに比べて動作時間が増加しますが、実際にはどのくらい有利なのでしょうか?2個のバッテリは1個のバッテリの性能の2倍を超す性能を発揮できるというのが答えです。その仕掛けは、従来の簡単な順次法に対して、2個のバッテリを同時に充電または放電するところにあります。

複数のバッテリを同時に充電または放電させるシステムは順次システムに比べて実装するのが困難なことがありますが、2個のバッテリを平行して充電または放電させると、大幅に充電時間が短くなり、動作時間が延びます。LTC®1960は設計の難しい充放電制御機能をすべて単一のパッケージに組み込んで、多くの設計上の困難を解決し、広範なアプリケーションに対して、デュアル・バッテリ管理システムの実装を可能にしました。バッテリの同時充放電の制御に加えて、このデバイスは2個のバッテリ、ACアダプタ、および装置のDC/DC コンバータの間のすべてのPowerPathスイッチングを制御し、さらに多くの回路保護機能も備えています。図1に、標準的アプリケーションのブロック図を示します。

図1.LTC1960のシステム・アーキテクチャ

図1.LTC1960のシステム・アーキテクチャ

LTC1960は2つのコントローラで構成されています。PowerPathコントローラは2個のバッテリとDC入力電源からの電力供給を管理し、充電コントローラはバッテリの充電を管理します。

PowerPathコントローラの心臓部は理想的なダイオード回路で、バッテリ間の電圧を精確に追跡することができます。理想的ダイオード回路には電源をオン・オフするのと同じMOSFETトランジスタが使われており、それらはダイオードのように動作しますが、電力損失がなく、電流の関数として電圧降下が変化することもありません。電圧低下とそれにともなう電力損失はショットキ・ダイオードに比べて標準で1/30に減少します。高速コンパレータが逆電流状態を監視しており、数マイクロ秒でMOSFETをシャットオフします。低電圧検出器が負荷電圧の急激な低下を監視しており、10マイクロ秒ですべての電源をターンオンするので、ホストのマイクロコントローラによる介入は不要です。CPUの過電圧状態や他のシステムレベルの緊急時には、ホストのマイクロコントローラが高速シャットダウン入力を使ってPowerPathをシャットダウンすることもできます。最後に、時間と電流の両方をベースにした短絡保護システムがあり、短絡発生時に電源経路のMOSFETを破壊から守ります。

チャージャ・コントローラは同期整流を使用し、0.5Vの低損失性能で、99%の最大デューティ・サイクルで動作します。システム精度が5%の10ビット電流DACとともに、システムレベルの精度が±0.8%の11ビット電圧DACが備わっています。ミリアンペア~アンペアまでプログラムできるので、低電流での電流精度を維持するのは困難な課題です。LTC1960チャージャは、低電流モードではオプションのパルス充電を行うことにより、この問題を解決します。特許を取得した入力電流制限により、ACアダプタに過負荷をかけることなく対象装置を動作させながら、充電速度を最大にします。このICの5%精度の電流制限により、ACアダプタの必要なサイズを正確に見定めてオーバースペックのものを避け、コスト高を防ぐことができます。過電圧コンパレータはバッテリの接続が突然切れたのを検知し、過電圧状態が解消するまで、チャージャをシャットオフします。

自動電流分担

LTC1960は、バッテリの充放電時に各バッテリに流れ込む電流や各バッテリから流れ出す電流は制御しません。理想的ダイオード機能は、バッテリ自体に電流分担を制御させることにより、バッテリの充電時間を最適化するのに役立ちます。これは、どのように電流を分担するかは各バッテリの容量つまりアンペア-アワー定格にしたがって決定されるからです。電流は単にバッテリの容量定格の比にしたがって分割されます。電流の自動振り分けにより、両方のバッテリは完全に充電された状態または完全に放電した状態に同時に到達します。

同時放電による動作時間の増加

高電流を流すアプリケーションでは、2個のバッテリを平行して放電すると、動作時間が1個のバッテリの動作時間の2倍以上になります(図2参照)。2個のバッテリが負荷電流を等分に分担すると、各バッテリでは電流が半分になり、バッテリの内部I2R電力損失は1/4に減少します。このようなバッテリの内部電力損失の減少により、動作時間が12%以上増加します。

図2.デュアル放電による動作時間の延長

図2.デュアル放電による動作時間の延長

2番目のバッテリによる充電時間の短縮

LTC1960を使うと、1個のバッテリを充電するのに要する時間で2個のバッテリを充電することができ、別の充電回路を用意する必要はありません。充電終了過程で定電圧(CV)モードを使うバッテリは、定電流(CC)モードを使うバッテリに比べて、容量一杯まで完全に充電するのに長い時間を要します。具体的には、リチウムイオン電池は充電時間の前の半分で容量の約85%まで充電し、後の半分を使って残りの15%を充電します。

2個のバッテリがCV段階で充電電流を同時に受け取ると、全充電時間が25%短縮されます。さらに25%以上の時間の節約がCC段階の充電で生じます。この場合、バッテリの自動電流分担により、1個のバッテリに比べて高い電流レートで充電することができます。まとめると、図3に示されているように、順次処理の方法に比べて充電時間を約50%短縮することができます。

図3.デュアル充電による充電時間の短縮

図3.デュアル充電による充電時間の短縮

緊急時の自動電源管理

PowerPathコントロールの重要な機能の1つは、負荷への電力供給の突然停止に対処する能力です。LTC1960は、ACアダプタ、バッテリ1、およびバッテリ2で構成される3つの電源の電力加算点の電圧を監視して、電力を管理します。負荷への電力供給が停止すると、プログラマブル電圧コンパレータがそれを検知し、負荷に障害が発生する前に、即座に3つの電源すべてを負荷に接続します。この状態は3ダイオード・モード(3DM)と呼ばれます。電圧が最も高い電源が負荷を担い、複数電源の電流分担が可能です。理想的ダイオード回路により、任意の電源から他の任意の電源へのエネルギー転送が防止されます。システムは3DMモードに常時留まることができるので、制御インタフェースやプログラミングに配慮する必要なしに、LTC1960を回路に差し込むことができます。つまり、差し込むだけですぐ動作します。

まとめ

LTC1960は完全なデュアル電池充放電システムを初めてチップに内蔵しました。これにより、実装コスト、開発時間、PCBのスペース、および部品点数が減少し、同時に、現在利用可能な他のどの手法に比べても、制御、安全性、および緊急時自動対応機能が優れています。ホストのマイクロコントローラと組み合わせると、ユーザー独自のアプリケーションおよびSmart Batteryベースのアプリケーションの両方で動作する柔軟性を備えています。LTC1960を使って達成できることの限界は、唯一このICを制御するソフトウェアに依存します。

著者

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Mark Gurries