DS33R11マルチチップモジュールのBSDL試験

要約

このアプリケーションノートはDS33R11T1/E1/J1トランシーバを含む設計のプリント配線板(PWB)のネットリストを作り変えて、JATAG (Joint Test Action Group)仕様に適合する方法を説明します。これらの変更はDS33R11が単一パッケージ内に複数のダイを持つマルチチップモジュールとして設計されているためにボードレベルのJTAG試験用のBSDL (Boundary-Scan Description Language)では定義することができないために必要です。このアプリケーションノートは外部端子マッピング表、内部ダイパッドボンド表、および接点情報を含み、設計者が簡単に正確なJTAGバウンダリスキャンによるボード試験を行うことができます。

はじめに

テレコミュニケーションシステム用のハードウェアを生産する場合、基本的な作業の一つはどのような製造欠陥に対してもシステムの試験をすることです。ハードウェアの試験には多くの方法がありますが、最も一般的な方法の1つはJTAG (Joint Test Action Group)のバウンダリスキャン法を使うことです。バウンダリスキャン法では、ハードウェアの検証を製造後に可能にするように、製造する前にハードウェアにいくつかの小さい変更が必要です。設計中、すべての集積回路(JTAGをサポートするICデバイス)はJTAG試験アクセスポートを通して直列のデイジーチェーンとなるように接続されます。検証は試験アクセスポートに接続する専用のJTAG試験システムによって行われます。JTAG試験システムは、その場合、プリント配線板(PWB)のネットリスト、BSDL (Boundary-Scan Description Language)ファイル、およびピン間接続を確認するPWB接続性テストベクトルを組み合わせて使用します。

BSDL試験は簡単です。しかし、T1/E1/J1トランシーバを内蔵する逆多重イーサネットマッパのDS33R11のようなマルチチップモジュールは、1個のパッケージ内に複数のダイがあるため、1個のBSDLファイルによって正しく記述することができません。これはPWBネットリストに簡単な変更を加え、1つだけのBSDLファイルの代わりに、2つのBSDLファイルを用いてデバイスパッケージを記述することにより解決できます。

プリント配線板のネットリストの変更

JTAGバウンダリ試験を実行する前に、DS33R11パッケージの外部接続を記述するPWBネットリストの部分は、内部のDS33Z11ダイとDS2155ダイの間のこれらの接続を分割するために変更しなければなりません。これを終えると、ネットリストは2つの独立したリファレンス識別子を持ったDS33R11パッケージが定義されます。これらのリファレンス識別子により、2つの異なったBSDLファイルを、DS33R11パッケージ内のDS33Z11とDS2155の接続を個別に記述することが可能になります。

表1、表2、表3および図1によってネットリストの変更が容易になります。表1はDS33Z11ダイにのみ接続されるDS33R11パッケージの外部端子のすべてをリスト化したものです。表2はDS2155ダイにのみ接続されるDS33R11パッケージの外部端子のすべてをリスト化したものです。表3はDS33Z11ダイとDS2155ダイの両方に接続されるDS33R11パッケージの外部端子のすべてをリスト化したものです。図1は同じ情報を見やすい形にしたものです。

このPWBネットリストの変更とJTAGバウンダリスキャン試験は、Cadence Conceptを使って設計されたDS33R11エンジニアリング評価ボードのConcise Net List フォーマットのネットリストを使用して実行されました。ネットリストのタイプと個人の技術レベルによりますが、設計者はこの操作をおよそ30〜60分で行うことができます。ネットリストファイルの編集の大部分は簡単なテキストエディタで可能です。しかし、ネットリストのタイプによっては、列データに基づいて行をソーティングすることができるMicrosoft® Excelのようなプログラムでネットリストを編集することが可能です。しかし編集ができたとしても、詳細にわたって注意を払うことが重要です。ヘッダやフッタ情報のような不規則ななデータを備えていなければならず、しかもネットリストは必ず元のフォーマットで保存しなければなりません。

次に示すリストはプロセスを完結するために必要とするステップです。

  1. テキストエディタのなかでネットリストファイルを開き、DS33R11のリファレンス識別子に接続されたすべてのネットリストをグループ化します。例を挙げると、DS33R11エンジニアリング評価ボードのDS33R11パッケージはU01のリファレンス識別子を備えています。
  2. ステップ1で分離したすべてのネットリストを、DS33Z11のダイに接続されたネット、DS2155のダイに接続されたネット、および両方のダイに接続されたネットに分離します。この作業を完了するためには、表1、2、3、および図1を用います。
  3. DS33Z11のネットのすべてのリファレンス識別子をU01からU01_D1に変更します(これはリファレンス識別子U01、デバイス1の短縮形です)。このステップはDS33R11のリファレンス識別子がU01であると仮定しています。リファレンス識別子がU01でない場合は、U01_D1を適切に変更してください。
  4. DS2155のネットのすべてのリファレンス識別子をU01からU01_D2に変更します(リファレンス識別子U01、デバイス2の短縮形)。これはDS33R11のリファレンス識別子がU01であると仮定しています。これがU01でない場合はU01_D2を適切に変更してください。
  5. 22個の共有ネットはそれぞれ2つになるように二重化します。それらを2つのグループに分割します。
  6. ステップ5で作ったネットの最初のグループのリファレンス識別子をU01からU01_D1に変更します。これはDS33R11のリファレンス識別子がU01であると仮定しています。これがU01でない場合はU01_D1を適切に変更してください。
  7. ステップ5で作ったネットの2番目のグループのリファレンス識別子をU01からU01_D2に変更します。これはDS33R11のリファレンス識別子がU01であると仮定しています。これがU01でない場合はU01_D2を適切に変更してください。
  8. 新しく生成したネットリストを保存します。

新しく作られたPCBネットリストは、実際にはDS33R11物理デバイス用の2つのインスタンスが含まれます。最初のインスタンスはDS33Z11の部分に関する端子接続を記述し、2番目のインスタンスはDS2155の部分に関する端子接続を記述しています。新しいネットリストは2つのDS33R11のBSDLファイルと関連する試験ベクトルとともにJTAG試験セットにロードすることができます。

ここで述べた方法は正しく働くことが試験され実証されていますが、他のネットリストフォーマットでは、幾つかの予測されない不都合が生じることがあります。JTAGバウンダリスキャン試験をしていて支援が必要な場合はさらに下記にお問い合わせください。

表1. DS33Z11のダイ専用のデバイス端子
Pin Description Pin Description Pin Description
A7 JTCLK1 L17 VDD3 V13 SDA[5]
A8 RST L18 RXD[0] V14 SDA[10]
A11 CS L19 RXD[1] V15 SMASK[3]
A15 VSS L20 RXD[2] V16 SMASK[2]
A19 REF_CLK M17 VDD3 V17 SDATA[29]
A20 REF_CLKO M18 RXD[3] V18 SDATA[18]
B7 JTD1 M19 RX_CRS/CRS_DV V19 SDATA[20]
B10 VDD1.8 M20 RX_CLK V20 VSS
B15 VDD1.8 N17 VDD3 W1 SDATA[15]
B20 MODEC[1] N18 COL_DET W2 SDATA[0]
C7 JTRST1 N19 VSS W3 SDATA[14]
C8 JTMS1 N20 VSS W4 SDATA[9]
C9 JTDI1 P2 RDEN/RBSYNC W5 SDATA[5]
C10 VSS P17 VDD3 W6 SDATA[7]
C12 VDD1.8 P18 VDD1.8 W7 SCAS
C15 A9 P19 VDD1.8 W8 VSS
C16 A8 P20 VSS W9 SRAS
C19 MDC R17 VDD3 W10 SWE
C20 MDIO R18 VDD3 W11 SDA[11]
D5 TDEN/TBSYNC R19 VDD1.8 W12 SDA[1]
D8 VSS R20 VDD1.8 W13 SDA[6]
D9 VSS T17 VDD3 W14 SDA[0]
D10 VSS T18 VDD3 W15 SDA[3]
D18 VSS T19 SDATA[25] W16 SDATA[31]
D19 VSS T20 SDATA[26] W17 SDATA[30]
D20 VDD3 U4 VSS W18 VSS
E2 TSERO U5 VSS W19 SDATA[28]
E18 VSS U6 VSS W20 SDATA[23]
E19 TXD[3] U7 VSS Y1 VSS
E20 TXD[2] U8 VSS Y2 SDATA[2]
F1 TCLKE U9 VSS Y3 SDATA[4]
F2 RCLKI U10 VSS Y4 SDATA[1]
F3 VDD1.8 U11 VSS Y5 SDATA[3]
F17 VDD3 U12 VSS Y6 SMASK[0]
F18 TXD[1] U13 VSS Y7 VSS
F19 TXD[0] U14 VSS Y8 SDCLKO
F20 TX_EN U15 VSS Y9 VDD1.8
G17 VDD3 U16 VSS Y10 SDA[9]
G18 VDD3 U17 VDD3 Y11 SBA[0]
G19 RMIIMIIS U18 VSS Y12 SDA[7]
G20 DCEDTES U19 SDATA[22] Y13 VDD1.8
H1 RSERI U20 SDATA[24] Y14 SDA[4]
H17 VDD3 V1 SDATA[13] Y15 SDA[2]
H18 QOVF V2 SDATA[11] Y16 SDATA[16]
H19 TX_CLK V3 SDATA[12] Y17 SDATA[17]
H20 VSS V4 SDATA[10] Y18 SDATA[27]
J17 VDD3 V5 SDATA[6] Y19 SDATA[19]
J18 VDD1.8 V6 SDATA[8] Y20 SDATA[21]
J19 VSS V7 SMASK[1]
J20 VDD1.8 V8 SYSCLKI
K17 VDD3 V9 VDD1.8
K18 RX_ERR V10 SDCS
K19 RX_DV V11 SBA[1]
K20 VSS V12 SDA[8]
表2. DS2155のダイ専用のデバイス端子
Pin Description Pin Description Pin Description
A1 RCHBLK D13 DVDD L2 RVSS
A2 TCHBLK D14 DVDD L3 RSIG
A3 RFSYNC D15 DVDD L4 RNEGI
A4 TDATA D16 DVDD M1 RRING
A5 TSSYNC D17 DVDD M2 RVSS
A6 JTCLK2 E1 TPOSO M3 RDCLKO
B1 BPCLK E3 TSERI M4 RDCLKI
B2 LIUC E4 TSYSCLK N1 RLOS/LTC
B3 TPOSI E17 DVDD N2 RNEGO
B4 TSIG F4 RSYSCLK N3 RPOSO
B5 RCL G1 TCHCLK N4 DVSS
B6 JTDI2 G2 RCHCLK P1 TVSS
B8 JTRST2 G3 RCLKO P3 RSIGF
B9 JTMS2 G4 RSYNC P4 DVSS
C1 TSYNC H2 RSERO R1 TTIP
C2 TDCLKO H3 RDATA R2 TTIP
C3 TNEGI H4 MCLK R3 TVSS
C4 TSTRST J1 RVSS R4 DVSS
C5 JTDO2 J2 RVSS T1 TRING
D1 TDCLKI J3 RPOSI T2 TRING
D2 TCLKT J4 XTALD T3 TVSS
D3 TNEGO K1 RTIP T4 DVSS
D4 TESO K2 RVSS U1 TVDD
D7 CST K3 RVDD U2 TVSS
D11 DVDD K4 8XCLK U3 RMSYNC
D12 DVDD L1 RVDD
表3. DS33Z11とDS2155ダイの共有デバイス端子
Pin Description
A10 INT
A12 D6
A13 D3
A14 D0
A16 A6
A17 A3
A18 A0
B11 RD/DS
B12 D7
B13 D4
B14 D1
B16 A7
B17 A4
B18 A1
B19 MODEC[0]
C11 WR/RW
C13 D5
C14 D2
C17 A5
C18 A2

図1. DS33R11の256ボールBGA、カラーコードによる端子割り当てとダイマップ。

図1. DS33R11の256ボールBGA、カラーコードによる端子割り当てとダイマップ。

参考資料

DS33R11 の JTAG テストに関してさらに質問がある場合は、テレコミュニケーション アプリケーション サポート チーム (英語のみ) に電子メールでお問い合わせください。

T1/E1/J1 トランシーバが統合された DS33R11 逆多重化イーサネット マッパーの詳細については、データ シートを参照してください。